74 / 96
第五章 アルヴィドの章(アルヴィドEDルート)
74.竜后宮の記録には
しおりを挟む
ヘルムダールへの挨拶は、型通り、見事なまでに完璧に滞りなく済ませた。
ヘルムダール現当主夫妻は終始にこやかな表情を崩さず、愛娘の夫となるアルヴィドを歓待してくれた。
「陛下、一晩だけでもご滞在いただけませんか。
次にお目にかかれるのは、当分先になりましょうから」
母アデラが願い出る隣りで、父テオドールもうんうんと頷いている。
パウラとしては、久々の実家でもあり、本音を言えばしばらくは滞在したいところだ。
けれどアルヴィドは、予想どおり首を振った。
ヴォーロフ随一と呼ばれた美貌に、極上の微笑をのせて。
「立后式を済ませねばなりません。
滞在はまた、別の機会に」
別れの挨拶もそこそこに、パウラはアルヴィドと共にヘルムダールを後にした。
共に……。まあ「共に」には間違いない。
しっかり右手を掴まれて、引きずられるように後にしただけで。
新都となった黄金竜の泉地は、急な式典のこととて、その支度に大わらわであった。
立后の儀など、一大イベントである。
それを今日の今日言われてすぐ挙行となれば、関係者がパニックになるのも無理はない。
「相変わらず、無茶なヤツだ」
銀狼族代表として特別に招待された王子ハティは、表向き落ち着きはらって見えるアルヴィドの正体を知る、数少ない人物の一人である。
竜は銀狼同様、伴侶と決めた唯一に、とてつもない執着をするらしいが、アルヴィドの執着は特にひどい。
自分以外の男が、パウラの姿を見ることは許さない。
声やその気配すら、できうる限り聞かせない、悟らせない。
立后式の主役は他ならぬ竜后であるというのに、その彼女の姿を可能な限り隠せと、そう関係者に命じたのだとか。
祭壇には、三重の紗の幕が垂らされる。
ツタ模様を金糸で織り込んだ最上級の紗の幕は、式典を準備する神官が出入りのヴェストリーの商人に半ば泣きついて用意したものだ。
言い値で支払った代金は、神官の年俸2年分に相当したが、背に腹は代えられないと彼はこぼしていた。
「バレたらパウラに怒られるぞ」
無駄遣いを、新竜后はことの他嫌う。
立后式にかかる費用が無駄かどうかは、諸説あるとして。
竜族の頂点に立つ長の妻を公式に発表する式典なのだからと、アルヴィドは金に糸目はつけない。
けれど后は違う。
費用をかけず、質素な披露で良しとするのだ。
いわく、
「式は大事ですわね。
形式として必要なことですわ。
けれど立派過ぎる必要はありませんわよ」
だそうで、譲る気もないようだ。
暮らしぶりはいたって質素で、前竜后と比べるのも愚かしいほど、とにかく贅沢とは無縁である。
今日の式に着る衣装についても、当然のように「前竜后のトーガ」を指定してきた。
パウラに良い感情をもっていない前竜后は、これを聞いてさすがに驚いたらしい。
「ケチくさいんですよぉ。
竜后がそんなにしみったれてたら、周りが迷惑するってわかんないんです」
最近黄金竜の郷付きの女官に就いたエリーヌが、ここぞとばかりにパウラをバカにするのを、前竜后は冷たい視線で黙殺したという。
「あの小娘を、わたくしは好かぬ。
好かぬが、それはあちらも同じであろうよ。
それでもわたくしのお古を着ると言うのじゃ。
見上げたものではないか」
パウラにしてみれば、褒められるようなことをした覚えはなかった。
「何度も着るものではありませんわ。
もったいないでしょう」
ごく当然のことだ。
パウラの生家ヘルムダール公家は、家格の高さから誤解されがちであるが、質素倹約を旨としている。
これといった産業も特産品もない土地柄、その懐具合はけして豊かではない。
着古した衣装を繕う。穴のあいた長靴を塞いで使う。食事は黒パンとチーズがメインで、運が良ければ卵とハムがつく。
そんな暮らしが普通であった高貴な公女にとって、お古のトーガを着ることなどなんということもない。
むしろどうしてそれが問題なのか、不思議に思っているようだった。
とにかく前竜后とは何もかも違う。
その彼女が、このバカバカしいほどの出費を黙っているはずもない。
アルヴィドはきっと血祭りだ。
いい気味だと、ハティは少しだけ思った。
「約束を憶えているな」
盛大な式の後、ようやく戻った夫婦の居間で、アルヴィドが口を開いた。
急ごしらえにしては盛大過ぎる式に、パウラは疲れ果てて長椅子にへたりこんでいる。
夫となったアルヴィドの声は聞こえていたが、意味を考えるだけの余力はない。
ただただ疲れていた。
甘いチョコレートでも欲しいところだ。
テーブルの砂糖菓子に目をとめると、行儀悪くぽいと口に放り込む。
小さな花びらの形をした菓子は、ほのかにスミレの香りがしてふわりと甘い。
思わず頬が緩んだ。
「幸せそうだな」
ふてくされた声がごく間近で。
「ようやく迎えたこの時に、夫たる俺よりそんな菓子の方が大事と見える」
ふてくされた声さえ、艶めいて深く沈んでよく響く。
ああ本当に良い声だ。
目を閉じて、夫の美声につい聴き惚れてしまう。
「怒っているのか」
不安げな声に驚いて目を開けば、間近に途方にくれた深緑の瞳があった。
「アルヴィド?」
「強引にことを運んだ。
…………。
自覚はある」
ヴォーロフからヘルムダールへの即日移動、その後の立后式。
強行日程どころではない。
確かに疲れた。けれど怒っているかと聞かれると、どうしてそうなるのかと戸惑う。
お金をかけ過ぎた式や披露については、後でしっかりお小言を言わせていただくつもりであるが。
「不安だった」
ぼそりと小さく口にして、アルヴィドは目を逸らした。
「俺が思うほどには、君は俺を思っていない。
君なら……。
パウラ、君ならいつだって、俺から離れることができる。
だから、そうできないようにしてしまいたいと焦った」
立后してしまえば、そうは簡単に逃げられない。
黄金竜の后、唯一の印が、彼女の身体に刻まれるから。
ヘルムダールの聖紋は消え、それに代わって竜后の聖紋がパウラの肩にある。
「俺をおいてゆくな」
小さな声は、低く沈んで、すがるようで。
深緑の切れ長の瞳は、心細げに揺れている。
(うわぁ……)
パウラの心臓が、きゅうっと搾り上げられる。
冷たい美貌のアルヴィドに、こんな捨てられた子犬のような目をされたら。
平気な女がいたら、今すぐここに連れてこいと、そう言ってやりたい。
「おいていくわけ、ありませんでしょう」
自分でも驚くほど、甘くかわいらしい声だった。
こんな声も出せるのかと驚くほど。
途端にぱぁっと色めき立ったアルヴィドが、すいとパウラに近づいて瞬時に抱き上げる。
膝裏と背中を抱えて、蕩けるような笑みを浮かべて。
「では約束を果たしてもらおう」
式の後でアルヴィドがしたかったこと。
式の後は、もうやめてやれないこと。
思いついて、ボンっっと脳内回路の温度が上がる。
「まだ気絶してもらっては困る。
もう待たないと言った。
忘れたとは言わせない」
しっとりとした声は、いつもより艶やかに色っぽくて。
抱きかかえられて運ばれる先は、続きの寝室、そこにある大きな寝台。
アルヴィドの美しい唇が、小さく詠唱を唱えて灯りはすべて消える。
後は漆黒の闇が、優しく辺りを覆った。
新黄金竜と竜后は、その後ひと月ほど、閉じこもったまま姿を現さなかった。
竜の蜜月は長いもの。
この世の誰もが知る常識であったが、この二人の蜜月は特に長かった。
ひと月ほどしてちらと姿を見せた後、
「誰も邪魔をしてはならぬ」
黄金竜の厳命が下り、さらにその後半年ほど蜜月は続いた。
竜后の無事を、黄金竜の泉地中が祈っていたと竜后宮の記録に残っている。
ヘルムダール現当主夫妻は終始にこやかな表情を崩さず、愛娘の夫となるアルヴィドを歓待してくれた。
「陛下、一晩だけでもご滞在いただけませんか。
次にお目にかかれるのは、当分先になりましょうから」
母アデラが願い出る隣りで、父テオドールもうんうんと頷いている。
パウラとしては、久々の実家でもあり、本音を言えばしばらくは滞在したいところだ。
けれどアルヴィドは、予想どおり首を振った。
ヴォーロフ随一と呼ばれた美貌に、極上の微笑をのせて。
「立后式を済ませねばなりません。
滞在はまた、別の機会に」
別れの挨拶もそこそこに、パウラはアルヴィドと共にヘルムダールを後にした。
共に……。まあ「共に」には間違いない。
しっかり右手を掴まれて、引きずられるように後にしただけで。
新都となった黄金竜の泉地は、急な式典のこととて、その支度に大わらわであった。
立后の儀など、一大イベントである。
それを今日の今日言われてすぐ挙行となれば、関係者がパニックになるのも無理はない。
「相変わらず、無茶なヤツだ」
銀狼族代表として特別に招待された王子ハティは、表向き落ち着きはらって見えるアルヴィドの正体を知る、数少ない人物の一人である。
竜は銀狼同様、伴侶と決めた唯一に、とてつもない執着をするらしいが、アルヴィドの執着は特にひどい。
自分以外の男が、パウラの姿を見ることは許さない。
声やその気配すら、できうる限り聞かせない、悟らせない。
立后式の主役は他ならぬ竜后であるというのに、その彼女の姿を可能な限り隠せと、そう関係者に命じたのだとか。
祭壇には、三重の紗の幕が垂らされる。
ツタ模様を金糸で織り込んだ最上級の紗の幕は、式典を準備する神官が出入りのヴェストリーの商人に半ば泣きついて用意したものだ。
言い値で支払った代金は、神官の年俸2年分に相当したが、背に腹は代えられないと彼はこぼしていた。
「バレたらパウラに怒られるぞ」
無駄遣いを、新竜后はことの他嫌う。
立后式にかかる費用が無駄かどうかは、諸説あるとして。
竜族の頂点に立つ長の妻を公式に発表する式典なのだからと、アルヴィドは金に糸目はつけない。
けれど后は違う。
費用をかけず、質素な披露で良しとするのだ。
いわく、
「式は大事ですわね。
形式として必要なことですわ。
けれど立派過ぎる必要はありませんわよ」
だそうで、譲る気もないようだ。
暮らしぶりはいたって質素で、前竜后と比べるのも愚かしいほど、とにかく贅沢とは無縁である。
今日の式に着る衣装についても、当然のように「前竜后のトーガ」を指定してきた。
パウラに良い感情をもっていない前竜后は、これを聞いてさすがに驚いたらしい。
「ケチくさいんですよぉ。
竜后がそんなにしみったれてたら、周りが迷惑するってわかんないんです」
最近黄金竜の郷付きの女官に就いたエリーヌが、ここぞとばかりにパウラをバカにするのを、前竜后は冷たい視線で黙殺したという。
「あの小娘を、わたくしは好かぬ。
好かぬが、それはあちらも同じであろうよ。
それでもわたくしのお古を着ると言うのじゃ。
見上げたものではないか」
パウラにしてみれば、褒められるようなことをした覚えはなかった。
「何度も着るものではありませんわ。
もったいないでしょう」
ごく当然のことだ。
パウラの生家ヘルムダール公家は、家格の高さから誤解されがちであるが、質素倹約を旨としている。
これといった産業も特産品もない土地柄、その懐具合はけして豊かではない。
着古した衣装を繕う。穴のあいた長靴を塞いで使う。食事は黒パンとチーズがメインで、運が良ければ卵とハムがつく。
そんな暮らしが普通であった高貴な公女にとって、お古のトーガを着ることなどなんということもない。
むしろどうしてそれが問題なのか、不思議に思っているようだった。
とにかく前竜后とは何もかも違う。
その彼女が、このバカバカしいほどの出費を黙っているはずもない。
アルヴィドはきっと血祭りだ。
いい気味だと、ハティは少しだけ思った。
「約束を憶えているな」
盛大な式の後、ようやく戻った夫婦の居間で、アルヴィドが口を開いた。
急ごしらえにしては盛大過ぎる式に、パウラは疲れ果てて長椅子にへたりこんでいる。
夫となったアルヴィドの声は聞こえていたが、意味を考えるだけの余力はない。
ただただ疲れていた。
甘いチョコレートでも欲しいところだ。
テーブルの砂糖菓子に目をとめると、行儀悪くぽいと口に放り込む。
小さな花びらの形をした菓子は、ほのかにスミレの香りがしてふわりと甘い。
思わず頬が緩んだ。
「幸せそうだな」
ふてくされた声がごく間近で。
「ようやく迎えたこの時に、夫たる俺よりそんな菓子の方が大事と見える」
ふてくされた声さえ、艶めいて深く沈んでよく響く。
ああ本当に良い声だ。
目を閉じて、夫の美声につい聴き惚れてしまう。
「怒っているのか」
不安げな声に驚いて目を開けば、間近に途方にくれた深緑の瞳があった。
「アルヴィド?」
「強引にことを運んだ。
…………。
自覚はある」
ヴォーロフからヘルムダールへの即日移動、その後の立后式。
強行日程どころではない。
確かに疲れた。けれど怒っているかと聞かれると、どうしてそうなるのかと戸惑う。
お金をかけ過ぎた式や披露については、後でしっかりお小言を言わせていただくつもりであるが。
「不安だった」
ぼそりと小さく口にして、アルヴィドは目を逸らした。
「俺が思うほどには、君は俺を思っていない。
君なら……。
パウラ、君ならいつだって、俺から離れることができる。
だから、そうできないようにしてしまいたいと焦った」
立后してしまえば、そうは簡単に逃げられない。
黄金竜の后、唯一の印が、彼女の身体に刻まれるから。
ヘルムダールの聖紋は消え、それに代わって竜后の聖紋がパウラの肩にある。
「俺をおいてゆくな」
小さな声は、低く沈んで、すがるようで。
深緑の切れ長の瞳は、心細げに揺れている。
(うわぁ……)
パウラの心臓が、きゅうっと搾り上げられる。
冷たい美貌のアルヴィドに、こんな捨てられた子犬のような目をされたら。
平気な女がいたら、今すぐここに連れてこいと、そう言ってやりたい。
「おいていくわけ、ありませんでしょう」
自分でも驚くほど、甘くかわいらしい声だった。
こんな声も出せるのかと驚くほど。
途端にぱぁっと色めき立ったアルヴィドが、すいとパウラに近づいて瞬時に抱き上げる。
膝裏と背中を抱えて、蕩けるような笑みを浮かべて。
「では約束を果たしてもらおう」
式の後でアルヴィドがしたかったこと。
式の後は、もうやめてやれないこと。
思いついて、ボンっっと脳内回路の温度が上がる。
「まだ気絶してもらっては困る。
もう待たないと言った。
忘れたとは言わせない」
しっとりとした声は、いつもより艶やかに色っぽくて。
抱きかかえられて運ばれる先は、続きの寝室、そこにある大きな寝台。
アルヴィドの美しい唇が、小さく詠唱を唱えて灯りはすべて消える。
後は漆黒の闇が、優しく辺りを覆った。
新黄金竜と竜后は、その後ひと月ほど、閉じこもったまま姿を現さなかった。
竜の蜜月は長いもの。
この世の誰もが知る常識であったが、この二人の蜜月は特に長かった。
ひと月ほどしてちらと姿を見せた後、
「誰も邪魔をしてはならぬ」
黄金竜の厳命が下り、さらにその後半年ほど蜜月は続いた。
竜后の無事を、黄金竜の泉地中が祈っていたと竜后宮の記録に残っている。
0
お気に入りに追加
186
あなたにおすすめの小説
【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました
かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中!
そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……?
可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです!
そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!?
イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!!
毎日17時と19時に更新します。
全12話完結+番外編
「小説家になろう」でも掲載しています。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
光の王太子殿下は愛したい
葵川真衣
恋愛
王太子アドレーには、婚約者がいる。公爵令嬢のクリスティンだ。
わがままな婚約者に、アドレーは元々関心をもっていなかった。
だが、彼女はあるときを境に変わる。
アドレーはそんなクリスティンに惹かれていくのだった。しかし彼女は変わりはじめたときから、よそよそしい。
どうやら、他の少女にアドレーが惹かれると思い込んでいるようである。
目移りなどしないのに。
果たしてアドレーは、乙女ゲームの悪役令嬢に転生している婚約者を、振り向かせることができるのか……!?
ラブラブを望む王太子と、未来を恐れる悪役令嬢の攻防のラブ(?)コメディ。
☆完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。
闇黒の悪役令嬢は溺愛される
葵川真衣
恋愛
公爵令嬢リアは十歳のときに、転生していることを知る。
今は二度目の人生だ。
十六歳の舞踏会、皇太子ジークハルトから、婚約破棄を突き付けられる。
記憶を得たリアは前世同様、世界を旅する決意をする。
前世の仲間と、冒険の日々を送ろう!
婚約破棄された後、すぐ帝都を出られるように、リアは旅の支度をし、舞踏会に向かった。
だが、その夜、前世と異なる出来事が起きて──!?
悪役令嬢、溺愛物語。
☆本編完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。
ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。
光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。
昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。
逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。
でも、私は不幸じゃなかった。
私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。
彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。
私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー
例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。
「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」
「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」
夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。
カインも結局、私を裏切るのね。
エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。
それなら、もういいわ。全部、要らない。
絶対に許さないわ。
私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー!
覚悟していてね?
私は、絶対に貴方達を許さないから。
「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。
私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。
ざまぁみろ」
不定期更新。
この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
いつかの空を見る日まで
たつみ
恋愛
皇命により皇太子の婚約者となったカサンドラ。皇太子は彼女に無関心だったが、彼女も皇太子には無関心。婚姻する気なんてさらさらなく、逃げることだけ考えている。忠実な従僕と逃げる準備を進めていたのだが、不用意にも、皇太子の彼女に対する好感度を上げてしまい、執着されるはめに。複雑な事情がある彼女に、逃亡中止は有り得ない。生きるも死ぬもどうでもいいが、皇宮にだけはいたくないと、従僕と2人、ついに逃亡を決行するのだが。
------------
復讐、逆転ものではありませんので、それをご期待のかたはご注意ください。
悲しい内容が苦手というかたは、特にご注意ください。
中世・近世の欧風な雰囲気ですが、それっぽいだけです。
どんな展開でも、どんと来いなかた向けかもしれません。
(うわあ…ぇう~…がはっ…ぇえぇ~…となるところもあります)
他サイトでも掲載しています。
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる