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第一章 セルメシア編
第23話 その男、赤き龍
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リンメイの西側にある、ナギ国各地に点在する竹林の一つ、スー・ヤンの竹林。
無数の緑色の竹が地面から天に向かって伸び、差し込む太陽の光が風情を感じさせる。
時折吹く風が竹葉が優しく揺らしては、心地よい音を出して訪れる者の心を癒してくれるだろう。
ゲンブ宮で緊急事態の一報を聞いたロベルトたちは、馬を借りて20分ほどでようやくスー・ヤンの竹林へとたどり着いた。
ここに来た目的はローファンの総隊長、ロウ・セイランの救援。
現在このスー・ヤンの竹林には約300体近くの魔獣がうろついており、ロウは一人でその魔獣の相手をしている。
悠久の時が流れる穏やかな竹林が、突如魔獣という存在に平穏を脅かされることになった。
「皆さん。ここがスー・ヤンの竹林です」
「ここが……チョウさんでしたっけ? 一つ聞きたいことがあるのですが、よろしいですか?」
「なんでしょうか?」
ここまでロベルトたちを案内してくれたローファンの隊員であるチョウ・リキョウ。
ロベルトが聞きたいことは、先ほどゲンブ宮の謁見の間で発したある一言。
「先ほどチョウさんは高坂組って言いましたよね。それって何ですか?」
「はい。ローファンは現在一万人近くの隊員が在籍しており、その中でも精鋭を集めたエリート部隊! それが高坂組です! そして私は組長である親父に高坂組の「若頭」って職に任命されました!!」
「わっ、若頭!?」
「それに組長!?」
自慢気に言うチョウだが、転生者組3人は彼の言葉を聞いて驚愕する。
ロベルトとアイリはひそかにシャルロットに近づいて彼女と小声で話す。
「副団長。まさかとは思いますが、ロウさんって……」
「彼、確実に転生者よね。だとしたら……」
「あたしたちと同じようにラグナを宿している可能性があるよね」
高坂組に組長、若頭……このキーワードから考えられるのは前世の記憶を持つロベルトにとっては、あのヤのつく職業の人である。
彼らの中にロウ・セイランは自分たちと同じ転生者であり、さらにラグナを宿しているかもしれないという考えにたどり着く。
「皆さん、この先に親父がいるとは思います。多分親父の事だから大丈夫だろうと思いますが万が一のこともあります。急いで……」
「うおらああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
チョウが言葉を言い終える直前、竹林の奥から男の雄叫びが響き渡り、ロベルト達の耳を激しく刺激する。
雄叫びの直後、地震が起きたかのような激しい衝撃音が聞こえ、さらに暴風が吹き荒れ周辺に生えている無数の竹が激しく揺れては騒がしい音を出しながらしなる。
一体何事かと、アルメスタの騎士たちは言葉も出せずに絶句していた。
「い、今のって……」
「……親父だ」
「えっ!?」
「間違いありません! 今のは親父です! よかった! 生きてた!」
地面を揺らすほどの大きな一撃を出した男、ロウ・セイラン。
強力な魔法を使ったかのような衝撃音……もしかしたら彼のラグナは魔法か何かだろうか。
「皆さん! こっちです!」
チョウの案内でロベルトたちは竹林の奥へと向かって走り出す。
もうすぐでロウという人物に出会えると、ロベルトの中で期待と不安が両方入り混じっていた。
彼は転生者なのか、彼のラグナは何だろうか、足を必死に動かしながらそんなことを考えていた。
「ん? あれは……」
「どうかしました?」
シャルロットが何かを見つけたようで、彼らはその場で足を止める。
「えっ!? これって……」
「魔獣ですね。しかも既に息絶えています」
彼らが見つけたのは、地面に横たわっている魔獣の死体。
それも一体や二体だけではなく、無数になって倒れている。
ロベルトは倒れているうちの一体に近づいて、その魔獣を軽く調べる。
(外傷は特になし。刃物などで斬られた跡もなし。魔法にしては妙だな)
ロベルトの私見通り、倒れている魔獣は剣で斬られてもいなければ、魔法で攻撃されたような痕跡は見当たらない。
状況を考えて、この多くの魔獣はこの先で大暴れしているロウが一人で倒したのだろう。
「チョウさん、ロウさんって武器の類は持っていますか? それと彼は魔法って使えますか?」
「いえ、親父は基本的には素手による肉弾戦を好みますので武器は持っていませんね。それに親父はこの国出身ですので魔法は使えませんし、仮に魔法が使えても親父の性格を考えて魔法なんて使わないと思いますよ」
となれば、ロウはこの一帯に倒れている魔獣を素手で殴り倒したということになる。
ロベルトやアイリ、シャルロットのラグナが武器のため、彼はこの瞬間まではラグナは武器という考えを持っていた。
仮にロウがラグナを宿しているとすれば、彼のラグナは一体なんなのだろうかと、考えていると……
「ん? ……みんな! 構えて!」
何かの気配を感じ取ったシャルロットが突如アルテミスを展開し、弓を構える。
その先には風のように早く動き、鋭い牙で獲物を食らおうとする魔獣の群れ。
ルーヴと呼ばれる狼だ。
単体であれば大したことはないのだが、ルーヴは基本的に群れで襲い掛かってくるので集団で対処する必要があり、一人で群れに遭遇したら逃げろと騎士学校で教わる。
ロウが一人で倒したであろうルーヴの多くが地面に倒れており、奴らは人間へ報復と言わんばかりにロベルトたちにあっという間に距離を縮めていく。
「どうやらさっそくお出ましのようだな。リナリー! 準備はいいな!」
「はい! もちろんです!」
リナリーも先ほど列車で振るわなかった剣、ルヴィエを抜き取りその切っ先をこちらに向かってくるルーヴに突き付ける。
数は見たところ6体で、落ち着いて対処すれば問題はなかろう。
ロベルトも腰の白竜を引き抜き、左手で鞘を逆手で持ち、右手で柄をしっかりと握って目の前のルーヴを倒すことに集中する。
「さーて、いっちょ暴れるとしよう!」
これより狼の魔獣、ルーヴとの戦闘が始まった。
列車の中は狭くて刀を振り回すには向いてはいなかったが、この竹林ではそんなことを気にする必要はない。
ラマーとの模擬戦以来、白竜を振り回す時が来た。
手始めに一番先頭を走っていたルーヴがロベルトに向かってとびかかり、口に生えている牙で彼に襲い掛かるが……
「遅いっ!」
動きをよく見てたロベルトが体を左側に少しそらし、そのままルーヴの体を右手の白竜で斬りつける。
斬られたルーヴは切り傷から血を噴き出し、そのまま絶命するも別の個体が右側からロベルトに襲い掛かる。
「お兄様!」
「……ふんっ!!」
左手に持っていた鞘でルーヴを数度殴りつけ、再び白竜で一閃。
リナリーが兄を気に掛けるも、この程度の戦いは彼にとっては慣れたもの。
だが油断は命取りにつながるため、気持ちを引き締める。
決して慢心はしてはいけない。
そしてそのうちの一匹がリナリーに襲い掛かる。
「私はできます……学校で習った通りにすれば……えいっ!」
ルヴィエをしっかりと握りしめ、自分に接近する魔獣の動きをよく見てリナリーは自分にとびかかるルーヴの攻撃をよけて、その隙をついてルヴィエを振るう。
これまで学んだことを生かし、彼女は流れるような動きでルーヴを斬りつけた。
「あらよっと!」
「それそれ!」
アイリ、アルトも自慢の武器やラグナを振るい、自分に向かって襲い掛かるルーヴを倒していく。
「ん? おい、また来たぞ!」
アルトの慌てた声を聴いて彼らは左側を見ると、今度は西側から10体近くのルーヴが新たにこちらに向かって走ってくる。
もしまだほかにも控えているとすれば、このままではいたずらに体力だけを消耗するだけだ。
「仕方ないわね……突っ走るわよ!」
「はい!」
「うらああああああああああああああ!!」
このままでは埒があかないと判断したシャルロットは、ルーヴを倒しながらロウの下にたどり着くことを一同に指示した。
先ほどから騒がしく雄叫びを上げてながら騒音を出している、ロウらしき人物の下に向かうため彼らは手に武器を持ちながら、ロウの元へと走る。
道中ルーヴがロベルト達を追いかけるがシャルロットのアルテミスによる遠距離攻撃と、ロベルト達の連携のとれた動きで難なくルーヴの攻撃をあしらいつつ倒していく。
ロウに近づくたびに心臓の鼓動が少しずつ早くなる。
もしかした転生者なのかもしれない、どんなラグナを宿しているのかと。
彼らはその答えを、もうすぐ目の当たりにする。
そして……ルーヴを倒しながら必死に走っていくと、目の前に太陽の光が差し込んだ少しだけ開けた場所が見えてきた。
「あそこです!!」
チョウは見慣れた人物の後ろ姿を見て、安心したのか少しだけ表情に喜びが浮かぶ。
ついにロベルトたちは、その人物をその目で見ることになるのだが……
それと同時にとんでもないものまで目撃することになった。
「えっ……あれって……」
竹林の開けた場所……アルメスタの騎士たちはあるものを目にし、目を見開いて驚愕した。
本来いるはずがないものがここにいる。
それは……
「きょ、巨大魔獣!?」
シャルロットが思わず大声で驚く。
彼らの目の前にいるのは大型トラックに匹敵するほどの巨大魔獣。
ティグリスと呼ばれる前世でいう虎の姿をした魔獣だが、普通のティグリスはもっと小さい。
「な、何で巨大魔獣がセルメシアにいるの!?」
シャルロットの言う通り、現在巨大魔獣は隣の大陸であるグラハマーツ大陸のみ見られ、セルメシアでは目撃例は一度もない。
なぜその巨大魔獣がここにいるのかは不明ではあるが、その肝心の巨大魔獣は体の至るところから出血をしており、見たところ満身創痍の状態でへばっていた。
巨大魔獣がボロボロなのは、目の前にいた人物がその原因だ。
そしてその人物こそ、ロベルト達が会いたいと思っていた人物だ。
「もしかして、あれがロウさん?」
ロベルト達の目の前にいる上半身が裸の一人の男。
男性でありながら腰まで長く伸びた女性ですら羨ましがる、艶のあるさらさらとした赤い髪。
だがロベルトはあるものを見て、次に言うべき言葉を失った。
それはロウの右腕に彫られているある模様。
鍛えられた右腕全体に竜が炎の海を飛び舞う様を描いた刺青である。
「あっ! 翼! あれ!」
アイリが突如ロウの右手の甲を指摘する。
彼女の指さす場所には、ロベルト達と同じ指輪と三日月の百合のアリシアの紋章。
これがあるということは、アリシアのラグナ所有者であるという証だ。
彼こそが、このナギ国の首都警備治安部隊ローファンの総隊長、ロウ・セイラン。
「親父!!」
「ん? その声はチョウか!? テメェ! 逃げろっつったろーが!!」
「何言ってるんですか! 親父に言われた通り大王様に報告して援軍を連れてきましたよ!!」
「あぁ!? そういえばそんなこと言ったな……だが一足遅かったな! お前たち! どこの誰かは知らねぇが、怪我したくなかったそこを動くなよ!!」
ロウはロベルト達のほうを見ずに、巨大魔獣ティグリスのほうに顔を向けてそう言い放つ。
彼は左足を前に、右足を後ろに下げつつ腰をゆっくりと下ろす。
左腕も掌を開いて前に突き出し、右手は拳を作って腰に添える。
見たところ集中をしているようだ。
周りに聞こえる喧騒、風の息吹、その肌に感じるすべての感覚すらもなくなるほどに自らの意識を自分の世界に落とし、心を無にする。
そして……ロウが目が開くと彼らは再び驚くものを目にした。
「覚悟しろよ……デカブツ!! お前との喧嘩は楽しかったがこっちもこの後予定があるんでね! ひとまずこれで終いにしてやるよ!!」
その言葉と同時にロウの体から燃えるような赤いオーラが放出し、彼の体を包む。
とても荒々しくも、触れてしまえばこちらにも飛び火しかねないような熱きオーラは、彼の怒りがそのまま具現化したようにも感じ取れる。
直後……ロウがその場から一瞬にしてきた。
「あれ? どこに――」
どこに行ったとロベルトが言い終える直前、ロウはティグリスの目と鼻の先にいつの間にか移動しており、ある構えをしていた。
右手を腰の横に、左手を水平の高さにしつつ……
「これでフィニッシュじゃ!!」
ロウは右足を前へと踏み込みながら腰を回転させつつ自分の右手の拳をティグリスの顔面に向けて叩きこんだ。
彼の強烈な一撃をモロに受けたティグリスは後ろのいくつもある竹に向かって吹き飛び、竹が受け止めるも流石に巨体ゆえに完全には受け止めきれず、竹がしなっては最終的には折れた。
この光景をみたアルメスタの騎士たちは口を開けて呆けていた。
グラハマーツ大陸では冒険者数人がかりで倒すのがセオリーの巨大魔獣を、武器も使わずたった一人で倒したのだから。
(……あの構えって)
ロベルトはこの時、今ロウが繰り出した技の事について考えていた。
彼が今出した技……つい最近見たことあるものだと。
あれはそう、二日前のラマーの凱旋パーティーにて模擬戦をした後のラマーにオスカーが怒りの鉄拳を食らわせた技と同じであることを。
今のロウの動きはまさに二日前のオスカーと全く同じであった。
「ふぅー! ここまでやればもう起き上がらないだろうな。やれやれ、なかなか強い相手だったぜ」
ロウはそう言って首元をゴキゴキと鳴らす。
関節のあちこちを鳴らすとようやくロウはロベルト達のほうを振り向いて、その顔を始めて彼らに見せた。
上半身裸で前から見ると分かる鍛えぬかれた筋肉に嫌でも目に付く右腕の竜の刺青。
決してイケメンではないものの、前世の不良映画とかに出てきそうなどこか兄貴分的なフインキを纏っていた。
「チョウ、悪かったな。心配をかけさせた」
「いえいえ。親父もご無事でよかったです。まさか巨大魔獣相手に生きているとは思いませんでした」
「なんだその言い方? 俺があんなデカブツに負けるとでも思っていたのか!?」
「め、滅相もありません! ただ相手が巨大魔獣だったので流石に心配はしましたが!」
鋭い目つきをしてロウはチョウを睨むも、今度はその視線をロベルト達アルメスタの騎士たちに向ける。
幾多の修羅場を潜り抜けてきた貫録のある表情は、見るモノを恐怖に陥れる一方で人によっては彼の赤い瞳にどこか惹かれるものがある。
「で、あんたらその制服……アルメスタの騎士たちか? こんな辺鄙なところまでよく気なすったな」
「いえいえ。貴方がロウさんですね。私は……」
「あー別に名乗らなくていいぞ。あんた、アルメスタ王国騎士団のシャルロット副団長だろ?」
「あら、私の事ご存じだったんですね」
「盗賊団の奴らがあんたの事を純白の射手って呼んでいるからな。うちの国でも結構有名なんだよ」
ロウの語ったことを聞いた瞬間、シャルロットの顔が一気に真っ赤になって彼女が恥ずかしがって目を背ける。
「あの……できることならその通り名で呼ばないでくれると助かります」
「なんですか? 純白の射手って?」
「お姉ちゃんの通り名。なんか盗賊団の奴らが勝手にそうつけたんだって」
ロベルトからしたらいかにも中二病くさい通り名であり、聞いているこっちが思わず恥ずかしがるほどだ。
自分もいつかそんな通り名がつけられるのだろうか、と将来が不安になるロベルトであった。
なにはともあれ、ロウは巨大魔獣との戦いで少しは疲弊しているようだが見たところぴんぴんであり無事である。
あとはこのままリンメイへと帰ることになるのだが……
それを許さないものがおり、彼らはそれに気づいていない。
「……ん? あっ! お、親父!!」
最初に気づいたのはチョウだ。
先ほどロウが倒したはず巨大魔獣ティグリスがいつの間にか起き上がり、ロウに向かって咆哮を上げながら猪突猛進の如く突っ込んできた。
『ウガアアアアアア!!』
「あ? ちょ、うおおおおおおおおおおお!!」
「親父いいいいいいいい!!」
どうやらあれだけボロボロになりながらもティグリスは未だ生きておったようで、先ほどの仕返しと言わんばかりにロウに体当たり。
突然の事で反応が一足遅く、彼は雄叫びをあげながら遠くに吹き飛ばされていった。
そしてロウという強力な男がいなくなり、ティグリスはロベルト達アルメスタの騎士たちにその牙を向ける。
「翼……これってヤバくない?」
「ヤバいに決まってるだろ!!」
「みんな散らばって! 一か所に集まっては――」
シャルロットが指示を出そうとするがティグリスのほうが動くのが早く、大きな前足でロベルトたちめがけて攻撃する。
「うおっ!」
「きゃあ!」
「やばっ! リナリー! 華蓮!」
なんとかよけたものの、攻撃の際に発生した風圧がロベルトたちに襲い掛かり、風が彼らを吹き飛ばす。
だがリナリーとアイリが離れた場所まで吹き飛ばされてしまい、二手に分断されてしまった。
しかも彼らに襲い掛かる不幸はそれだけではなかった。
「シャルロット副団長! ルーヴがこちらに向かってきます!」
「嘘っ!?」
巨大魔獣に加え、先ほどまで相手していた無数のルーヴがロベルト達を敵とみなし一気に距離を縮めて襲いかかってくる。
本来小さな魔獣は巨大魔獣を見ると恐怖心のあまり逃げ出す傾向にあるが、ルーヴは現在興奮状態にあるせいか巨大魔獣を見ても逃げようとはせずに、目の前にいる獲物に向かってとびかかる。
「翼くん! 魔獣は私たちが引き受けるから、貴方は華蓮とリナリーちゃんのところへ!」
「はい!!」
こんな状況に陥っても的確な指示を出すシャルロット。
流石は副団長といったところか。
彼女の言葉通り、ルーヴはアルトやシャルロット、チョウに任せるとしてロベルトは一人アイリとリナリーの元へと駆け込む。
「おい! 大丈夫か!?」
「あたしは大丈夫! だけどリナリーちゃんが……」
どうやらリナリーに何か起こったらしく、彼女のほうを見ると少しだけ苦悶の表情を浮かべている。
「リナリーがどうした!?」
「お、お兄様……足が……」
リナリーの右足を見ると、黒タイツが裂けて足から出血をしていた。
近くには地面から生えている竹が折れており、その竹の先には血か少しだけ付着している。
どうやら先ほどの攻撃をよけた瞬間に彼女は折れた竹に足を引っかけてしまい怪我をしてしまったようだ。
見たところ怪我の程度は深くないものの、こんな状況では命取りとなる怪我だ。
『グルルルルゥゥゥ……』
ロベルトの目の前には目を真っ赤に充血させ、口から鋭利な牙を覗かせている巨大魔獣ティグリス。
ロウに散々痛めつけられたせいで現在ティグリスは興奮状態にあり、すぐにでも生えているその巨大な牙で目の前にいるロベルトという獲物に食らいつく準備ができてきた。
「くそっ……こうなったら……」
ロベルトは白竜を両手でしっかりと握り、切っ先をティグリスに向ける。
大きく見開いた瞳にはロベルトがしっかりと映り、すぐにでもかぶりつくことができる。
一方のロベルトは初めて対面する巨大魔獣に武器を向けているものの、内心恐怖で満たされていた。
どくん、どくんと早くなる心臓の鼓動に額から流れる汗がそれを物語っている。
もし転生特典があればこんな奴、すぐにでも倒せるだろう。
しかしロベルトはラグナに覚醒したばかりで、そのラグナもお世辞にもチートとは言えない。
油断すれば、あっという間に喉元を食いちぎられすぐにでも殺されてしまうだろう。
勝てるのだろうか、守れるのだろうか、あの時家族の前で交わした約束を果たせないのだろうか、と。
すぐにでも逃げ出したい、というのが彼の本心であった。
だが……後ろのちらりを振り返る。
「翼……」
「お兄様……」
彼のすぐ後ろにはリナリーが怪我をして座り込んでしまい、アイリが彼女を強く抱き寄せて守っている。
確かにロベルトだけ逃げれば、一人だけ助かるかもしれない。
だがそんなことをすれば騎士としても人間としても一生の恥。
この先知り合いから、仲間を見殺しにした卑怯者と後ろ指をさされ、家族からも軽蔑されるだろう。
自分の事を心配してくれる二人を見て、ロベルトも改めて覚悟を決めた。
「………………」
『グルルルルゥゥゥ……』
白竜を構えるロベルトと、対峙するは獰猛な牙を見せつけるティグリス。
両者、互いに一歩も先に動かずただ相手の目を見て様子をうかがう。
この行動は勇気か無謀かと言われたら、間違いなく後者だ。
しかし自分は逃げるわけにはいかないとロベルトは、自分に何度も言い聞かせる。
人間と魔獣でありながら、その様はさながら決闘のようにも見える。
竹を揺らす風にシャルロットやアルトたちの繰り出す音など、すべてが雑音と化し何も聞こえなくなる。
少しの間、ロベルトとティグリスは互いの瞳を見つめ……
両者、同時に動いた。
「うおおおおおおおおおおお!!」
『ウガアアアアアア!!』
地面を強く蹴り彼らは目の前の相手に向かって、考えもなく突っ込んでいく。
正直勝てるかどうかなんて考えていない。
ただ後ろにいる二人を守るという考えしかなかった。
ロベルトは握った白竜の切っ先を天に向けて力強く下ろそうとし、ティグリスも巨大な爪でロベルトを攻撃しようとしたのだが……
戦いは突如終わりを迎える。
『グギャア!?』
ティグリスが苦悶の表情を浮かべながら変な鳴き声をした。
「へっ!?」
いきなりの事で訳が分からず、白竜を上に向けたままその場で固まってしまうロベルト。
一体何が起こったのかと思ったが、よく見ると自分に向かって襲い掛かるはずだったティグリスの横腹に巨大な竹が突き刺さっていた。
そしてそれを投げ飛ばした人物はもちろん……
「おいトラ公」
地の底から響くようなドスの聞いた声。
ロベルトは声のしたほうを振り向くとそこには長い髪が乱れているロウの姿があった。
だが今の彼は……相当機嫌が悪い。
「テメェ、不意打ちとはいい度胸してるじゃねぇか。でもな……」
前髪を右手で後ろに纏め、その目が光りに晒される。
ラマーと同じ赤い瞳ではあるが奴のように野心で満たされた瞳ではなく、燃える炎のように触れてしまうだけで火傷してしまいそうなルビーの瞳。
そんなロウの瞳は……怒りで満ちていた。
「テメェの相手は俺だろうがぁぁぁ!! 何よそ見してんじゃゴラアアァァァァァ!!」
ロウの魂に怒りの炎が灯り、再び体に赤いオーラを纏い、彼の怒号が竹林全体に響く。
そのおかげでシャルロットたちが相手をしていた数体のルーヴがビビり、その場から逃走。
彼の背後には巨大な竜の幻影が浮かび上がり、目の前にいるティグリスを食らわんと鋭い眼光で睨む。
そしてロウは先ほどと同じように瞬間移動の如く、ティグリスの目と鼻の先に一瞬で移動し怒涛の連続攻撃を繰り出す。
殴っては蹴っては、膝や肘で嵐のような攻撃がティグリスに襲い掛かり、苦しそうな表情を浮かべる。
右腕全体に彫っている竜が唸り、暴れ狂うようにも見える。
「これで終いじゃあ!!」
倒れたティグリスにとどめを刺すためにロウは、口が開いている隙を見計らい牙を掴んで力を入れ、それを一気に引き抜く。
「えええぇぇ!?」
それを見たアルメスタの騎士たちは当然の如く驚くが、チョウはまったく動じていない。
牙を抜かれたせいでロウは頭から大量の血を浴びることになるが、彼にとってはどうでもいい。
今はただこの巨大魔獣を倒す、ということだけだ。
「オラアアアアアアアアアアァァァァ!!」
雄叫びを上げながら引き抜いたばかりの牙をティグリスの額に向けて、一気に突き刺した
『グガアアアアアアアア!!』
牙を額に突きさされたティグリスは最後に断末魔を竹林に響かせながら、その命を散らした。
「「「………………」」」
一方、ロウの戦いぶりを見ていたロベルト達アルメスタの騎士たちは茫然としていた。
危険ともいわれる巨大魔獣を今度こそ、たった一人で倒したのだから。
「完全勝利!ヴィクトリー!!」
ロウは自分の勝利を宣言し、光さす竹林の中で左手を腰に当てて竜が彫られた右腕を天に突きさす。
ロベルトの中でとんでもない人と出会ってしまったという心境で満たされいた。
だが彼のおかげでこの窮地を抜け出せたのも事実である。
そしてロウがロベルトとアイリ、リナリーのほうを振り向く。
「あんたら大丈夫か?」
「え? あ、はい。なんとか……」
「ん? そこの嬢ちゃん怪我しているが……あぁ俺のせいか。悪かったな。俺が不意打ちされていなかったらケガすることもなかったのに」
「いえ、私は大丈夫です」
リナリーはそう言って怪我をしているのにも関わらず、自力で立ち上がろうとするが……
「あっ、いてて……」
「ほれみろいわんこっちゃねぇ。この近くに知り合いの薬師のジジイが住んでいるから、そこに連れていってやるよ」
「あ、ありがとうございます」
「元は俺のせいでもあるからな。それとチョウ、お前は先に帰っておやっさんに報告をしてこい」
「わかりました!!」
ロウに命令されたチョウは右手で拳を作り、左手で右手の拳を包んでロウに頭を下げ、その場を離れていく。
おやっさんとロウは言ったが、おそらくは大王であるバンの事だろう。
「ロウさん、すみません。手間をおかけしました」
「気にするな。さっきも言ったが俺の油断のせいだしな。あんたらも怪我とかねぇか?」
「はい、大丈夫です」
シャルロットが一言謝るも、彼は自分に非があるのを自覚したうえで彼女の謝罪を断る。
だがこうして巨大魔獣と対峙しておきながら、全員が生きていたのは幸運であっただろう。
もしロウがいなければ、一人や二人、最悪全員が死んでいたのかもしれないのだから。
「じゃあそろそろジジイのところに行くとしよう」
「リナリー。肩を貸そう」
「ありがとうございます。お兄様」
「お兄様? ……お前男か!?」
やはり案の定、ロベルトを初めて見たロウも彼を女性と見間違えた。
だがもうロベルトは気にしていない。
「すみませんねこんな見た目で。れっきとした男ですよ」
「へぇー。世の中いろんな奴がいるもんだな。あ、そういえば俺の服どこ行った?」
「服? あ、あれですか?」
ロベルトの指さす場所には彼の服が落ちていた。
ローファンの制服である武術服ではあるが、ロウの専用服なのか彼の服には芸術家も称賛するほどの竜の刺繍が施されている。
彼はそれを拾い上げると、着ることはなくそれを手に持つ。
今のロウは巨大魔獣の血を頭から大量にかぶったため、今着ると服も汚れるからだ。
「それじゃ行こうか」
と、脅威が去った竹林を歩きながら彼らはリナリーの怪我を直すため、ロウの言う薬師の老人のところへと歩いていった。
無数の緑色の竹が地面から天に向かって伸び、差し込む太陽の光が風情を感じさせる。
時折吹く風が竹葉が優しく揺らしては、心地よい音を出して訪れる者の心を癒してくれるだろう。
ゲンブ宮で緊急事態の一報を聞いたロベルトたちは、馬を借りて20分ほどでようやくスー・ヤンの竹林へとたどり着いた。
ここに来た目的はローファンの総隊長、ロウ・セイランの救援。
現在このスー・ヤンの竹林には約300体近くの魔獣がうろついており、ロウは一人でその魔獣の相手をしている。
悠久の時が流れる穏やかな竹林が、突如魔獣という存在に平穏を脅かされることになった。
「皆さん。ここがスー・ヤンの竹林です」
「ここが……チョウさんでしたっけ? 一つ聞きたいことがあるのですが、よろしいですか?」
「なんでしょうか?」
ここまでロベルトたちを案内してくれたローファンの隊員であるチョウ・リキョウ。
ロベルトが聞きたいことは、先ほどゲンブ宮の謁見の間で発したある一言。
「先ほどチョウさんは高坂組って言いましたよね。それって何ですか?」
「はい。ローファンは現在一万人近くの隊員が在籍しており、その中でも精鋭を集めたエリート部隊! それが高坂組です! そして私は組長である親父に高坂組の「若頭」って職に任命されました!!」
「わっ、若頭!?」
「それに組長!?」
自慢気に言うチョウだが、転生者組3人は彼の言葉を聞いて驚愕する。
ロベルトとアイリはひそかにシャルロットに近づいて彼女と小声で話す。
「副団長。まさかとは思いますが、ロウさんって……」
「彼、確実に転生者よね。だとしたら……」
「あたしたちと同じようにラグナを宿している可能性があるよね」
高坂組に組長、若頭……このキーワードから考えられるのは前世の記憶を持つロベルトにとっては、あのヤのつく職業の人である。
彼らの中にロウ・セイランは自分たちと同じ転生者であり、さらにラグナを宿しているかもしれないという考えにたどり着く。
「皆さん、この先に親父がいるとは思います。多分親父の事だから大丈夫だろうと思いますが万が一のこともあります。急いで……」
「うおらああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
チョウが言葉を言い終える直前、竹林の奥から男の雄叫びが響き渡り、ロベルト達の耳を激しく刺激する。
雄叫びの直後、地震が起きたかのような激しい衝撃音が聞こえ、さらに暴風が吹き荒れ周辺に生えている無数の竹が激しく揺れては騒がしい音を出しながらしなる。
一体何事かと、アルメスタの騎士たちは言葉も出せずに絶句していた。
「い、今のって……」
「……親父だ」
「えっ!?」
「間違いありません! 今のは親父です! よかった! 生きてた!」
地面を揺らすほどの大きな一撃を出した男、ロウ・セイラン。
強力な魔法を使ったかのような衝撃音……もしかしたら彼のラグナは魔法か何かだろうか。
「皆さん! こっちです!」
チョウの案内でロベルトたちは竹林の奥へと向かって走り出す。
もうすぐでロウという人物に出会えると、ロベルトの中で期待と不安が両方入り混じっていた。
彼は転生者なのか、彼のラグナは何だろうか、足を必死に動かしながらそんなことを考えていた。
「ん? あれは……」
「どうかしました?」
シャルロットが何かを見つけたようで、彼らはその場で足を止める。
「えっ!? これって……」
「魔獣ですね。しかも既に息絶えています」
彼らが見つけたのは、地面に横たわっている魔獣の死体。
それも一体や二体だけではなく、無数になって倒れている。
ロベルトは倒れているうちの一体に近づいて、その魔獣を軽く調べる。
(外傷は特になし。刃物などで斬られた跡もなし。魔法にしては妙だな)
ロベルトの私見通り、倒れている魔獣は剣で斬られてもいなければ、魔法で攻撃されたような痕跡は見当たらない。
状況を考えて、この多くの魔獣はこの先で大暴れしているロウが一人で倒したのだろう。
「チョウさん、ロウさんって武器の類は持っていますか? それと彼は魔法って使えますか?」
「いえ、親父は基本的には素手による肉弾戦を好みますので武器は持っていませんね。それに親父はこの国出身ですので魔法は使えませんし、仮に魔法が使えても親父の性格を考えて魔法なんて使わないと思いますよ」
となれば、ロウはこの一帯に倒れている魔獣を素手で殴り倒したということになる。
ロベルトやアイリ、シャルロットのラグナが武器のため、彼はこの瞬間まではラグナは武器という考えを持っていた。
仮にロウがラグナを宿しているとすれば、彼のラグナは一体なんなのだろうかと、考えていると……
「ん? ……みんな! 構えて!」
何かの気配を感じ取ったシャルロットが突如アルテミスを展開し、弓を構える。
その先には風のように早く動き、鋭い牙で獲物を食らおうとする魔獣の群れ。
ルーヴと呼ばれる狼だ。
単体であれば大したことはないのだが、ルーヴは基本的に群れで襲い掛かってくるので集団で対処する必要があり、一人で群れに遭遇したら逃げろと騎士学校で教わる。
ロウが一人で倒したであろうルーヴの多くが地面に倒れており、奴らは人間へ報復と言わんばかりにロベルトたちにあっという間に距離を縮めていく。
「どうやらさっそくお出ましのようだな。リナリー! 準備はいいな!」
「はい! もちろんです!」
リナリーも先ほど列車で振るわなかった剣、ルヴィエを抜き取りその切っ先をこちらに向かってくるルーヴに突き付ける。
数は見たところ6体で、落ち着いて対処すれば問題はなかろう。
ロベルトも腰の白竜を引き抜き、左手で鞘を逆手で持ち、右手で柄をしっかりと握って目の前のルーヴを倒すことに集中する。
「さーて、いっちょ暴れるとしよう!」
これより狼の魔獣、ルーヴとの戦闘が始まった。
列車の中は狭くて刀を振り回すには向いてはいなかったが、この竹林ではそんなことを気にする必要はない。
ラマーとの模擬戦以来、白竜を振り回す時が来た。
手始めに一番先頭を走っていたルーヴがロベルトに向かってとびかかり、口に生えている牙で彼に襲い掛かるが……
「遅いっ!」
動きをよく見てたロベルトが体を左側に少しそらし、そのままルーヴの体を右手の白竜で斬りつける。
斬られたルーヴは切り傷から血を噴き出し、そのまま絶命するも別の個体が右側からロベルトに襲い掛かる。
「お兄様!」
「……ふんっ!!」
左手に持っていた鞘でルーヴを数度殴りつけ、再び白竜で一閃。
リナリーが兄を気に掛けるも、この程度の戦いは彼にとっては慣れたもの。
だが油断は命取りにつながるため、気持ちを引き締める。
決して慢心はしてはいけない。
そしてそのうちの一匹がリナリーに襲い掛かる。
「私はできます……学校で習った通りにすれば……えいっ!」
ルヴィエをしっかりと握りしめ、自分に接近する魔獣の動きをよく見てリナリーは自分にとびかかるルーヴの攻撃をよけて、その隙をついてルヴィエを振るう。
これまで学んだことを生かし、彼女は流れるような動きでルーヴを斬りつけた。
「あらよっと!」
「それそれ!」
アイリ、アルトも自慢の武器やラグナを振るい、自分に向かって襲い掛かるルーヴを倒していく。
「ん? おい、また来たぞ!」
アルトの慌てた声を聴いて彼らは左側を見ると、今度は西側から10体近くのルーヴが新たにこちらに向かって走ってくる。
もしまだほかにも控えているとすれば、このままではいたずらに体力だけを消耗するだけだ。
「仕方ないわね……突っ走るわよ!」
「はい!」
「うらああああああああああああああ!!」
このままでは埒があかないと判断したシャルロットは、ルーヴを倒しながらロウの下にたどり着くことを一同に指示した。
先ほどから騒がしく雄叫びを上げてながら騒音を出している、ロウらしき人物の下に向かうため彼らは手に武器を持ちながら、ロウの元へと走る。
道中ルーヴがロベルト達を追いかけるがシャルロットのアルテミスによる遠距離攻撃と、ロベルト達の連携のとれた動きで難なくルーヴの攻撃をあしらいつつ倒していく。
ロウに近づくたびに心臓の鼓動が少しずつ早くなる。
もしかした転生者なのかもしれない、どんなラグナを宿しているのかと。
彼らはその答えを、もうすぐ目の当たりにする。
そして……ルーヴを倒しながら必死に走っていくと、目の前に太陽の光が差し込んだ少しだけ開けた場所が見えてきた。
「あそこです!!」
チョウは見慣れた人物の後ろ姿を見て、安心したのか少しだけ表情に喜びが浮かぶ。
ついにロベルトたちは、その人物をその目で見ることになるのだが……
それと同時にとんでもないものまで目撃することになった。
「えっ……あれって……」
竹林の開けた場所……アルメスタの騎士たちはあるものを目にし、目を見開いて驚愕した。
本来いるはずがないものがここにいる。
それは……
「きょ、巨大魔獣!?」
シャルロットが思わず大声で驚く。
彼らの目の前にいるのは大型トラックに匹敵するほどの巨大魔獣。
ティグリスと呼ばれる前世でいう虎の姿をした魔獣だが、普通のティグリスはもっと小さい。
「な、何で巨大魔獣がセルメシアにいるの!?」
シャルロットの言う通り、現在巨大魔獣は隣の大陸であるグラハマーツ大陸のみ見られ、セルメシアでは目撃例は一度もない。
なぜその巨大魔獣がここにいるのかは不明ではあるが、その肝心の巨大魔獣は体の至るところから出血をしており、見たところ満身創痍の状態でへばっていた。
巨大魔獣がボロボロなのは、目の前にいた人物がその原因だ。
そしてその人物こそ、ロベルト達が会いたいと思っていた人物だ。
「もしかして、あれがロウさん?」
ロベルト達の目の前にいる上半身が裸の一人の男。
男性でありながら腰まで長く伸びた女性ですら羨ましがる、艶のあるさらさらとした赤い髪。
だがロベルトはあるものを見て、次に言うべき言葉を失った。
それはロウの右腕に彫られているある模様。
鍛えられた右腕全体に竜が炎の海を飛び舞う様を描いた刺青である。
「あっ! 翼! あれ!」
アイリが突如ロウの右手の甲を指摘する。
彼女の指さす場所には、ロベルト達と同じ指輪と三日月の百合のアリシアの紋章。
これがあるということは、アリシアのラグナ所有者であるという証だ。
彼こそが、このナギ国の首都警備治安部隊ローファンの総隊長、ロウ・セイラン。
「親父!!」
「ん? その声はチョウか!? テメェ! 逃げろっつったろーが!!」
「何言ってるんですか! 親父に言われた通り大王様に報告して援軍を連れてきましたよ!!」
「あぁ!? そういえばそんなこと言ったな……だが一足遅かったな! お前たち! どこの誰かは知らねぇが、怪我したくなかったそこを動くなよ!!」
ロウはロベルト達のほうを見ずに、巨大魔獣ティグリスのほうに顔を向けてそう言い放つ。
彼は左足を前に、右足を後ろに下げつつ腰をゆっくりと下ろす。
左腕も掌を開いて前に突き出し、右手は拳を作って腰に添える。
見たところ集中をしているようだ。
周りに聞こえる喧騒、風の息吹、その肌に感じるすべての感覚すらもなくなるほどに自らの意識を自分の世界に落とし、心を無にする。
そして……ロウが目が開くと彼らは再び驚くものを目にした。
「覚悟しろよ……デカブツ!! お前との喧嘩は楽しかったがこっちもこの後予定があるんでね! ひとまずこれで終いにしてやるよ!!」
その言葉と同時にロウの体から燃えるような赤いオーラが放出し、彼の体を包む。
とても荒々しくも、触れてしまえばこちらにも飛び火しかねないような熱きオーラは、彼の怒りがそのまま具現化したようにも感じ取れる。
直後……ロウがその場から一瞬にしてきた。
「あれ? どこに――」
どこに行ったとロベルトが言い終える直前、ロウはティグリスの目と鼻の先にいつの間にか移動しており、ある構えをしていた。
右手を腰の横に、左手を水平の高さにしつつ……
「これでフィニッシュじゃ!!」
ロウは右足を前へと踏み込みながら腰を回転させつつ自分の右手の拳をティグリスの顔面に向けて叩きこんだ。
彼の強烈な一撃をモロに受けたティグリスは後ろのいくつもある竹に向かって吹き飛び、竹が受け止めるも流石に巨体ゆえに完全には受け止めきれず、竹がしなっては最終的には折れた。
この光景をみたアルメスタの騎士たちは口を開けて呆けていた。
グラハマーツ大陸では冒険者数人がかりで倒すのがセオリーの巨大魔獣を、武器も使わずたった一人で倒したのだから。
(……あの構えって)
ロベルトはこの時、今ロウが繰り出した技の事について考えていた。
彼が今出した技……つい最近見たことあるものだと。
あれはそう、二日前のラマーの凱旋パーティーにて模擬戦をした後のラマーにオスカーが怒りの鉄拳を食らわせた技と同じであることを。
今のロウの動きはまさに二日前のオスカーと全く同じであった。
「ふぅー! ここまでやればもう起き上がらないだろうな。やれやれ、なかなか強い相手だったぜ」
ロウはそう言って首元をゴキゴキと鳴らす。
関節のあちこちを鳴らすとようやくロウはロベルト達のほうを振り向いて、その顔を始めて彼らに見せた。
上半身裸で前から見ると分かる鍛えぬかれた筋肉に嫌でも目に付く右腕の竜の刺青。
決してイケメンではないものの、前世の不良映画とかに出てきそうなどこか兄貴分的なフインキを纏っていた。
「チョウ、悪かったな。心配をかけさせた」
「いえいえ。親父もご無事でよかったです。まさか巨大魔獣相手に生きているとは思いませんでした」
「なんだその言い方? 俺があんなデカブツに負けるとでも思っていたのか!?」
「め、滅相もありません! ただ相手が巨大魔獣だったので流石に心配はしましたが!」
鋭い目つきをしてロウはチョウを睨むも、今度はその視線をロベルト達アルメスタの騎士たちに向ける。
幾多の修羅場を潜り抜けてきた貫録のある表情は、見るモノを恐怖に陥れる一方で人によっては彼の赤い瞳にどこか惹かれるものがある。
「で、あんたらその制服……アルメスタの騎士たちか? こんな辺鄙なところまでよく気なすったな」
「いえいえ。貴方がロウさんですね。私は……」
「あー別に名乗らなくていいぞ。あんた、アルメスタ王国騎士団のシャルロット副団長だろ?」
「あら、私の事ご存じだったんですね」
「盗賊団の奴らがあんたの事を純白の射手って呼んでいるからな。うちの国でも結構有名なんだよ」
ロウの語ったことを聞いた瞬間、シャルロットの顔が一気に真っ赤になって彼女が恥ずかしがって目を背ける。
「あの……できることならその通り名で呼ばないでくれると助かります」
「なんですか? 純白の射手って?」
「お姉ちゃんの通り名。なんか盗賊団の奴らが勝手にそうつけたんだって」
ロベルトからしたらいかにも中二病くさい通り名であり、聞いているこっちが思わず恥ずかしがるほどだ。
自分もいつかそんな通り名がつけられるのだろうか、と将来が不安になるロベルトであった。
なにはともあれ、ロウは巨大魔獣との戦いで少しは疲弊しているようだが見たところぴんぴんであり無事である。
あとはこのままリンメイへと帰ることになるのだが……
それを許さないものがおり、彼らはそれに気づいていない。
「……ん? あっ! お、親父!!」
最初に気づいたのはチョウだ。
先ほどロウが倒したはず巨大魔獣ティグリスがいつの間にか起き上がり、ロウに向かって咆哮を上げながら猪突猛進の如く突っ込んできた。
『ウガアアアアアア!!』
「あ? ちょ、うおおおおおおおおおおお!!」
「親父いいいいいいいい!!」
どうやらあれだけボロボロになりながらもティグリスは未だ生きておったようで、先ほどの仕返しと言わんばかりにロウに体当たり。
突然の事で反応が一足遅く、彼は雄叫びをあげながら遠くに吹き飛ばされていった。
そしてロウという強力な男がいなくなり、ティグリスはロベルト達アルメスタの騎士たちにその牙を向ける。
「翼……これってヤバくない?」
「ヤバいに決まってるだろ!!」
「みんな散らばって! 一か所に集まっては――」
シャルロットが指示を出そうとするがティグリスのほうが動くのが早く、大きな前足でロベルトたちめがけて攻撃する。
「うおっ!」
「きゃあ!」
「やばっ! リナリー! 華蓮!」
なんとかよけたものの、攻撃の際に発生した風圧がロベルトたちに襲い掛かり、風が彼らを吹き飛ばす。
だがリナリーとアイリが離れた場所まで吹き飛ばされてしまい、二手に分断されてしまった。
しかも彼らに襲い掛かる不幸はそれだけではなかった。
「シャルロット副団長! ルーヴがこちらに向かってきます!」
「嘘っ!?」
巨大魔獣に加え、先ほどまで相手していた無数のルーヴがロベルト達を敵とみなし一気に距離を縮めて襲いかかってくる。
本来小さな魔獣は巨大魔獣を見ると恐怖心のあまり逃げ出す傾向にあるが、ルーヴは現在興奮状態にあるせいか巨大魔獣を見ても逃げようとはせずに、目の前にいる獲物に向かってとびかかる。
「翼くん! 魔獣は私たちが引き受けるから、貴方は華蓮とリナリーちゃんのところへ!」
「はい!!」
こんな状況に陥っても的確な指示を出すシャルロット。
流石は副団長といったところか。
彼女の言葉通り、ルーヴはアルトやシャルロット、チョウに任せるとしてロベルトは一人アイリとリナリーの元へと駆け込む。
「おい! 大丈夫か!?」
「あたしは大丈夫! だけどリナリーちゃんが……」
どうやらリナリーに何か起こったらしく、彼女のほうを見ると少しだけ苦悶の表情を浮かべている。
「リナリーがどうした!?」
「お、お兄様……足が……」
リナリーの右足を見ると、黒タイツが裂けて足から出血をしていた。
近くには地面から生えている竹が折れており、その竹の先には血か少しだけ付着している。
どうやら先ほどの攻撃をよけた瞬間に彼女は折れた竹に足を引っかけてしまい怪我をしてしまったようだ。
見たところ怪我の程度は深くないものの、こんな状況では命取りとなる怪我だ。
『グルルルルゥゥゥ……』
ロベルトの目の前には目を真っ赤に充血させ、口から鋭利な牙を覗かせている巨大魔獣ティグリス。
ロウに散々痛めつけられたせいで現在ティグリスは興奮状態にあり、すぐにでも生えているその巨大な牙で目の前にいるロベルトという獲物に食らいつく準備ができてきた。
「くそっ……こうなったら……」
ロベルトは白竜を両手でしっかりと握り、切っ先をティグリスに向ける。
大きく見開いた瞳にはロベルトがしっかりと映り、すぐにでもかぶりつくことができる。
一方のロベルトは初めて対面する巨大魔獣に武器を向けているものの、内心恐怖で満たされていた。
どくん、どくんと早くなる心臓の鼓動に額から流れる汗がそれを物語っている。
もし転生特典があればこんな奴、すぐにでも倒せるだろう。
しかしロベルトはラグナに覚醒したばかりで、そのラグナもお世辞にもチートとは言えない。
油断すれば、あっという間に喉元を食いちぎられすぐにでも殺されてしまうだろう。
勝てるのだろうか、守れるのだろうか、あの時家族の前で交わした約束を果たせないのだろうか、と。
すぐにでも逃げ出したい、というのが彼の本心であった。
だが……後ろのちらりを振り返る。
「翼……」
「お兄様……」
彼のすぐ後ろにはリナリーが怪我をして座り込んでしまい、アイリが彼女を強く抱き寄せて守っている。
確かにロベルトだけ逃げれば、一人だけ助かるかもしれない。
だがそんなことをすれば騎士としても人間としても一生の恥。
この先知り合いから、仲間を見殺しにした卑怯者と後ろ指をさされ、家族からも軽蔑されるだろう。
自分の事を心配してくれる二人を見て、ロベルトも改めて覚悟を決めた。
「………………」
『グルルルルゥゥゥ……』
白竜を構えるロベルトと、対峙するは獰猛な牙を見せつけるティグリス。
両者、互いに一歩も先に動かずただ相手の目を見て様子をうかがう。
この行動は勇気か無謀かと言われたら、間違いなく後者だ。
しかし自分は逃げるわけにはいかないとロベルトは、自分に何度も言い聞かせる。
人間と魔獣でありながら、その様はさながら決闘のようにも見える。
竹を揺らす風にシャルロットやアルトたちの繰り出す音など、すべてが雑音と化し何も聞こえなくなる。
少しの間、ロベルトとティグリスは互いの瞳を見つめ……
両者、同時に動いた。
「うおおおおおおおおおおお!!」
『ウガアアアアアア!!』
地面を強く蹴り彼らは目の前の相手に向かって、考えもなく突っ込んでいく。
正直勝てるかどうかなんて考えていない。
ただ後ろにいる二人を守るという考えしかなかった。
ロベルトは握った白竜の切っ先を天に向けて力強く下ろそうとし、ティグリスも巨大な爪でロベルトを攻撃しようとしたのだが……
戦いは突如終わりを迎える。
『グギャア!?』
ティグリスが苦悶の表情を浮かべながら変な鳴き声をした。
「へっ!?」
いきなりの事で訳が分からず、白竜を上に向けたままその場で固まってしまうロベルト。
一体何が起こったのかと思ったが、よく見ると自分に向かって襲い掛かるはずだったティグリスの横腹に巨大な竹が突き刺さっていた。
そしてそれを投げ飛ばした人物はもちろん……
「おいトラ公」
地の底から響くようなドスの聞いた声。
ロベルトは声のしたほうを振り向くとそこには長い髪が乱れているロウの姿があった。
だが今の彼は……相当機嫌が悪い。
「テメェ、不意打ちとはいい度胸してるじゃねぇか。でもな……」
前髪を右手で後ろに纏め、その目が光りに晒される。
ラマーと同じ赤い瞳ではあるが奴のように野心で満たされた瞳ではなく、燃える炎のように触れてしまうだけで火傷してしまいそうなルビーの瞳。
そんなロウの瞳は……怒りで満ちていた。
「テメェの相手は俺だろうがぁぁぁ!! 何よそ見してんじゃゴラアアァァァァァ!!」
ロウの魂に怒りの炎が灯り、再び体に赤いオーラを纏い、彼の怒号が竹林全体に響く。
そのおかげでシャルロットたちが相手をしていた数体のルーヴがビビり、その場から逃走。
彼の背後には巨大な竜の幻影が浮かび上がり、目の前にいるティグリスを食らわんと鋭い眼光で睨む。
そしてロウは先ほどと同じように瞬間移動の如く、ティグリスの目と鼻の先に一瞬で移動し怒涛の連続攻撃を繰り出す。
殴っては蹴っては、膝や肘で嵐のような攻撃がティグリスに襲い掛かり、苦しそうな表情を浮かべる。
右腕全体に彫っている竜が唸り、暴れ狂うようにも見える。
「これで終いじゃあ!!」
倒れたティグリスにとどめを刺すためにロウは、口が開いている隙を見計らい牙を掴んで力を入れ、それを一気に引き抜く。
「えええぇぇ!?」
それを見たアルメスタの騎士たちは当然の如く驚くが、チョウはまったく動じていない。
牙を抜かれたせいでロウは頭から大量の血を浴びることになるが、彼にとってはどうでもいい。
今はただこの巨大魔獣を倒す、ということだけだ。
「オラアアアアアアアアアアァァァァ!!」
雄叫びを上げながら引き抜いたばかりの牙をティグリスの額に向けて、一気に突き刺した
『グガアアアアアアアア!!』
牙を額に突きさされたティグリスは最後に断末魔を竹林に響かせながら、その命を散らした。
「「「………………」」」
一方、ロウの戦いぶりを見ていたロベルト達アルメスタの騎士たちは茫然としていた。
危険ともいわれる巨大魔獣を今度こそ、たった一人で倒したのだから。
「完全勝利!ヴィクトリー!!」
ロウは自分の勝利を宣言し、光さす竹林の中で左手を腰に当てて竜が彫られた右腕を天に突きさす。
ロベルトの中でとんでもない人と出会ってしまったという心境で満たされいた。
だが彼のおかげでこの窮地を抜け出せたのも事実である。
そしてロウがロベルトとアイリ、リナリーのほうを振り向く。
「あんたら大丈夫か?」
「え? あ、はい。なんとか……」
「ん? そこの嬢ちゃん怪我しているが……あぁ俺のせいか。悪かったな。俺が不意打ちされていなかったらケガすることもなかったのに」
「いえ、私は大丈夫です」
リナリーはそう言って怪我をしているのにも関わらず、自力で立ち上がろうとするが……
「あっ、いてて……」
「ほれみろいわんこっちゃねぇ。この近くに知り合いの薬師のジジイが住んでいるから、そこに連れていってやるよ」
「あ、ありがとうございます」
「元は俺のせいでもあるからな。それとチョウ、お前は先に帰っておやっさんに報告をしてこい」
「わかりました!!」
ロウに命令されたチョウは右手で拳を作り、左手で右手の拳を包んでロウに頭を下げ、その場を離れていく。
おやっさんとロウは言ったが、おそらくは大王であるバンの事だろう。
「ロウさん、すみません。手間をおかけしました」
「気にするな。さっきも言ったが俺の油断のせいだしな。あんたらも怪我とかねぇか?」
「はい、大丈夫です」
シャルロットが一言謝るも、彼は自分に非があるのを自覚したうえで彼女の謝罪を断る。
だがこうして巨大魔獣と対峙しておきながら、全員が生きていたのは幸運であっただろう。
もしロウがいなければ、一人や二人、最悪全員が死んでいたのかもしれないのだから。
「じゃあそろそろジジイのところに行くとしよう」
「リナリー。肩を貸そう」
「ありがとうございます。お兄様」
「お兄様? ……お前男か!?」
やはり案の定、ロベルトを初めて見たロウも彼を女性と見間違えた。
だがもうロベルトは気にしていない。
「すみませんねこんな見た目で。れっきとした男ですよ」
「へぇー。世の中いろんな奴がいるもんだな。あ、そういえば俺の服どこ行った?」
「服? あ、あれですか?」
ロベルトの指さす場所には彼の服が落ちていた。
ローファンの制服である武術服ではあるが、ロウの専用服なのか彼の服には芸術家も称賛するほどの竜の刺繍が施されている。
彼はそれを拾い上げると、着ることはなくそれを手に持つ。
今のロウは巨大魔獣の血を頭から大量にかぶったため、今着ると服も汚れるからだ。
「それじゃ行こうか」
と、脅威が去った竹林を歩きながら彼らはリナリーの怪我を直すため、ロウの言う薬師の老人のところへと歩いていった。
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