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第一章 セルメシア編

第3話 女神アリシア

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 食堂で豪華な食事を食べて腹を満たしたロベルトは自室に戻り、先ほどリナリーから貰った誕生日プレゼントのレコードを蓄音機にセットして音楽を聴いていた。
 生前はロックやアニソンなど、色んな曲を聴いていたロベルトだったが、クラシックはあまり聞いたことがなかった。
 だがこうして聞いてみると、とてもよい曲だと感心する。
 蓄音機から流れるトランペット、ホルンにトロンボーンといった金楽器に加え、そこに綺麗な旋律を奏でるピアノの演奏。
 蓄音機が奏者、この部屋の主であるロベルトは観客……すなわちオーディエンスならば、まるでこの部屋全体がコンサートホールのような気分なのだろう。
 リナリーから貰ったクラシックを聴きながら、ロベルトはアイリから誕生日プレゼントにもらった本……ルカ先生の小説を読んでいた。
 先ほど食事の時に、父シリウスが指定した時間までは少しあったので、彼はその時間まで本を読んで時間をつぶしていた。

 やがて、指定の時間が近づいてきた。
 ロベルトは読んでいた本を閉じて椅子から立ち上がり、蓄音機から流れる音楽を止めるとそのまま部屋を出た。
 向かう先はシリウスの書斎……静かな夜故、廊下に響くのはロベルトの足音のみ。
 息子の部屋と父の書斎の距離は歩くと5分ほどかかる。
 ……あまり家が広すぎるのもどうかと思うがな、とロベルトは内心呆れるようにぼやく。
 5分後、ロベルトはシリウスの書斎の前に到着し、扉をノックして父が部屋の中にいるのを確認する。

「親父、いるか?」

「ロベルトか? あぁ、いるよ。入りなさい」

 声がしたということはこの部屋の主、シリウスがいるという証拠。
 そのシリウスから許可をもらったので、ロベルトはドアノブを回して扉を開け、書斎の中へと入った。
 部屋の中はシリウスの性格を非常に反映しており、壁際に置かれている大きな本棚には本がこれでもかというほどぎっしり詰まっている。
 部屋の隅には数本のワインとグラスが逆さに置かれており、ワインが好きということもわかる。

「どうだい? ゆっくり休めているかい?」

「おかげさまで。長い任務で帰る家があるというのがありがたいと実感したよ」

「それはよかった。さてロベルト……本題に入ろうか。まずプレゼントを渡す前に一つ……私の話を聞いてくれないか?」

「えっ? どうしたんだ?」

 穏やかなフインキを出していたシリウスだったが、ロベルトに話をきりだすと、険しい顔つきになる。

「お前は……知っているかな? 女神アリシアの事を」

 女神アリシア……この異世界、ルナティールで信仰されている女神。
 異世界ではよく神と名乗る者によって転生させられるのがお約束だが、実のところロベルトは彼女のことをあまりよく知らない。
 否、調べはしたのだが、アリシアに関する文献がほとんどなかったのだ。
 唯一知っているのはこのアルメスタ王国から遠く離れた大陸にある、とある国にアリシアを崇める宗教の総本山があるということだけ。

「一応知っている。この世界で信仰されている神様だろ? あまり詳しいことは知らないが」

「そうか……ロベルト、今から言うことを真剣に聞いてほしい」

「なんだよ?」

「信じられないかもしれないが……もう十数年前になるか。お前が生まれて何日かした後に、女神アリシアが私の前に姿を現した」

「……は? 女神アリシアが?」

 シリウスのあまりの唐突な発言に、ロベルトは思わず鳩が豆鉄砲を食ったような表情をしてしまう。
 普通であれば神様が現れたなんてこと言っても、誰も信じないだろう。
 しかしロベルトは転生者として普通じゃない人生を送ってきているため、完全に否定はできなかった。

「性格に言うと、夢の中でシルエットで現れたから、私もあれが女神アリシアと断言するには難しい」

「じゃあなんでアリシアだって言えるんだよ?」

「彼女自身が自分は女神アリシアと名乗ったからね。とにかく、彼女は私の夢の中に現れて、ある物を私に渡してある言葉を告げたんだ」

「あるもの?」

 シリウスは机の引き出しから、何かを取り出して机の上に置いた。
 見た目は何やら小箱のようだが、豪華な装飾がなされている。

「お前が18歳を迎えた誕生日の日、これを息子に渡してくれと言われたんだ。そして目が覚めると枕元にこれがおいてあった」

「誕生日に? 今日が派遣任務の帰還日でよかったな」

「本当だよ。もし派遣任務が続くようであれば、直接お前のもとに届けるつもりだった」

 ロベルトの派遣先にまで届けるという発言からして、このプレゼントの中には相当重要なものが入っているのだろう。
 本人かどうかは疑わしいが、女神アリシアからのプレゼント……一体どんなものなのだろうか。

「……親父?」

 と、ここでロベルトはシリウスの様子がおかしいことに気づく。
 先ほどから険しい顔をしていたが、その顔つきが次第に硬くなっていく。

「……本音を言うとだな。これはお前に渡したくないのだ」

「……え。何で?」
「ロベルト、お前は私たちの自慢の息子だ。私とエミリー、そしてエルヴェシウス家の宝だ。もちろん、リナリーだってそうだ。だが……これをお前に渡してしまったら……何かが変わってしまうのかもしれない。いや、私たちの宝が傍からいなくなってしまう……もしかしたらこの先の任務で死んでしまうのかも、と。そんな気がしてならないのだ」

「……親父」

 ここまで息子を心配するシリウスを見て、ロベルトは自分が何かをしたわけでもないのに心の底に罪悪感を募らせてしまった。
 机の上に置かれているたった一つのプレゼントで、こんなに部屋の空気が重くなるとは思わなかっただろう。
 しかし、ロベルトは意を決して口を開く。

「親父……大丈夫だ。俺は決していなくなったりしない。確かに騎士団に所属している以上、危険な任務だってあるわけだし。いつ命を落としてもおかしくはない。でも、俺は自分の意志で騎士団に入った。それを後押ししてくれたのも親父だ」

 ロベルトは頭の中に思いつく限りの文字を並び替えて、それを言の葉という形にして口に出す。

「それに……死なない限り、俺の帰りを待っていてくれる人たちがいる。その人たちを悲しませないようにも、その人の笑顔を見たいがために俺は……この先、絶対にいなくならない」

 家族……このエルヴェシウス家の人間である父シリウスと母エミリー……そして妹のリナリー。
 無論、この屋敷に努めているメイドや執事のこともロベルトは家族と思っている。
 ロベルトの言葉に、張り詰めた表情をしていたシリウスの顔つきも少しずつ穏やかになり……

「……そうだな。そう言ってもらえると、こちらも覚悟ができた。よし、ではこの箱はお前にあげよう」

 やがて、迷いを振り払ったかのように、決意を固めた顔をした。
 シリウスは小箱を手に取って、ロベルトに渡す。

「ありがとう」

「さぁ、もう夜も遅い。明日は休みだが、夜更かしはしないようにな」

「分かった。じゃあ親父、お休み」

 ロベルトはそう言って部屋を出るためにドアノブを握ろうとした瞬間……

「ロベルト」

 背後からシリウスが再び声をかけてきた。
 そして……

「遅れたが……誕生日、おめでとう」

「……ありがとな」

 ロベルトにとって、その一言はとても嬉しかった。
 不器用ながらも息子と接して、父親として振る舞うシリウスの感謝の気持ちは、心に伝わってくる。
 ロベルトはこの時、一瞬前世の事を思い出した。
 彼は決して前世での家族が嫌いだったわけではなかったが……一家団欒、仲良しというわけでもなく、歳を重ねるにつれて交わす言葉も少なくなり、高校生くらいになると、家族で祝ってくれることもなくなった。
 だが転生し、第二の人生を歩んでいく中で家族総出で祝ってくれることに、ロベルトは改めて家族というのはいい物だと感じた。
 様々な思いを心に秘めつつ、ロベルトはシリウスの書斎を後にした。

 シリウスからプレゼントを受け取り、自分の部屋に帰ってきたロベルトは、先ほどまで読んでいた本を再び手に取って本の世界に没頭していた。
 本を見ているロベルトの瞳は現在、本の文字の羅列のみ映し出されている。
 さらに部屋に流れているクラシックの音楽が、彼を物語の世界により深く潜り込ませる。

「凄いな……おや?」

 本を見ていたロベルトは、とある一文を見つけた。
 それは……

『サラ、いいものを見つけたね。流石は私の助手だ。これは今世間を騒がせている盗賊団の腕章だ』

 主人公である探偵が助手である女性に向けた一言だ。

「盗賊団ねぇ……アムレアン盗賊団の奴ら、余計な仕事を増やしやがって……」

 ロベルトは軽い憎しみを表に出しながら、恨み節のようにぼやいた。
 アムレアン盗賊団、現在ここアルメスタ王国各地、および隣国で跳梁跋扈ちょうりょうばっこしている盗賊団だ。
 数年ほど前に急に大陸全土に名を轟かせた盗賊団で、アルメスタの騎士たちが総出で奴らの捕縛や討伐を現在進行型で行っている。
 当然、騎士団の一員であるロベルトやアイリ、シャルロットも盗賊団の捕縛、討伐のために派遣されている。
 盗賊団というのは村人や一般人といった力のない人たちを狙うのが常套手段のため、騎士団は盗賊団に狙われやすい区域……主に辺境の村などに派遣されることが多い。
 ここ、メランシェルや他の大きな都市であれば盗賊団も狙うことはないが、騎士もいない村は奴らにとっては格好の的になる。
 男は殺され、女は慰み者にされ、子供は誘拐されて行方知らず。
 ロベルトは一ヶ月間、とある辺境の村に滞在し、村を護衛する任務を受けてようやく任務を終えたのだ。

「あそこの村の人たちには世話になったなぁ……今度暇があったら何か持って行ってもいいかもしれないな」

 ロベルトは一ヶ月間、村にいる間にお世話になった人たちの事を思い出す。
 満面の笑みを浮かべてくる村の女の子、泥だらけの元気な男の子、母親思いの青年に新婚したばかりの夫婦。
 あの村の住民はとても今を生きるのに生き生きとしていたのを覚えている。
 もし暇さえあれば、また顔を見せてもいいだろうと、心に思った。

「あれ、もう0時か」

 壁に掛けられた時計に目を配ると、長針と短針がちょうど上向き……12時をさし、その瞬間に日付が変わる。

「仕方ない……そろそろ寝るとしようか……ん?」

 本に栞を挟んで机の置いたとき、ロベルトはシリウスから受け取った例のプレゼントから淡い光が漏れていることに気づいた。
 まるでその光が箱を開けてくれと言わんばかりに主張しているかのように……

「……ふむ」

 ロベルトは突如光りだした小箱を手に取るも、すぐには開けずに掌の上にのせたまま、その箱を怪しむように睨む。
 女神アリシアから受け取った曰く付きの小箱、シリウスはそれを渡すのに抵抗があった。
 それを開けてもよいのだろうか?
 だが、父は覚悟を決めて息子にこの箱を渡してくれた。
 ならば、ロベルトも父の覚悟に答えようと心に決めた。
 貴重品を扱うように、恐る恐る小箱をそっと開ける。
 そこに入っていたのは……

「……えっ? 指輪?」

 小箱の中にはちょうど中指に入るサイズの指輪が収まっていた。
 純度100%で傷一つないプラチナの指輪。
 もしこれを売れば数百……いや、この世界では数千万の価値がある代物だろう。
 なぜ女神アリシアはこんなものを?と頭の中に疑問符を浮かべながら悩むロベルトであったのだが……

「はめてみれば何かわかるか?」

 ロベルトは箱から指輪を取り出して、それを自身の右手の中指にはめたが……
 その瞬間、ロベルトの意識は急激に遠のき、彼は自分の部屋の床に倒れて意識を失った。

「……う」

 頭の中が混濁し、未だに朦朧としている意識の中、ロベルトはなんとか目を開けながら、倒れた自分の体を起き上がらせる。

「あれ? ここは?」

 彼は先ほどまでいた自分の部屋とは違った場所にいることにすぐ気づいた。
 右を見ても左を見ても白一面の空間、人も建物も何一つ存在せず、この空間にはロベルトという人間ただ一人だけがいた。
 誰もいない、とロベルトが口に出そうとした時だった。
 背筋を凍らせるような気配が背後から感じ、ロベルトはゆっくりと振り向く。
 そこにいたのは……髪の長い女性の姿を象ったシルエット。

「……誰だ?」

 さっきまでいなかった正体不明の存在に、ロベルトの中での警戒レベルがあがる。
 普段であれば剣を取り出して警戒するところであるが、生憎と今は私服で剣を持っていない。

「私は……アリ……シア」

「アリ……シア? まさか!? 女神アリシアか!?」

 アリシアと呼ばれるものはこのルナティールではたった一つしかない。
 女神アリシア、この世界の女神である。
 しかし今のアリシアは女神と呼ぶには程遠い、シルエットだけの存在。
 とてもではないが、神の威厳なんてものは微塵も感じられない。

「あなたに……お願い……あります……」

「お願いだと?」

 彼女の言葉にはノイズでもかかっているのか、所々聞き取れない部分がある。
 それでもロベルトは彼女の言葉に耳を傾けて、なんとかその意味をくみ取ろうとした。

「私は……とある……邪悪なる……者に……力……奪われ……しまい……ました」

 壊れたテレビのように余計な音が混じるような、彼女の言葉をなんとか聞き取ったロベルトは、そういう風に理解した。
 アリシアのシルエットはそのまま会話を続ける。

「このままでは……あなたの……■■■……■■■に……厄災……おとずれ……しまいます」

「え……何だって?」

 だがとある一文だけがやけにノイズが強くなり、今一つ聞き取れなかった。
 上手く聞き取れなかったロベルトは、アリシアにもう一度言ってくれと頼むが、彼女はさらに言葉を紡ぐ。

転生者リインカーネイションよ……最後に……私に……残された神の力……『ラグナ』を……授け……ます。そして……邪悪なる者から……私……力を……取り戻して……くださ……い」

 リインカーネイション、それは輪廻転生を意味する言葉である。
 そして神の力と呼ばれるラグナ。
 アリシアは自身の右手を自分の胸の前まで上げて掌を開くと、そこから太陽のように眩しく輝く眩しい光の玉を出す。
 その光の玉は勝手にふわふわと宙に浮き、ロベルトの体に向かって飛んで行っては、そのまま彼の体の中にへと吸収されながら消えていった。

「うっ!?」

 だがその瞬間、ロベルトの体がドクンと脈打ち、心臓が圧迫されたような感覚に襲われる。
 次第に呼吸も荒くなり、額には汗も流れて動悸も激しくなり、その場に膝をつくも最終的にはその場で倒れてしまった。

「な……何を……した……」

 ロベルトは息も絶え絶えで、苦しくなりながらもアリシアに質問するが……

「お願い……します」

 彼女はかすれた声でそれだけ言うと、そのまま消えてしまった。
 やがて、ロベルトも体に激痛が襲い掛かり、そのまま意識を手放した。

 心地の良い小鳥の鳴く声が、ロベルトの耳に届く。
 その鳴き声で意識を取り戻した彼は薄っすらと目を開けると、最初に視界に入ったのは自室に敷かれている赤い絨毯。

「ここは……俺の部屋?」

 次第に目が覚めたロベルトは起き上がって、部屋の状況を確認する。
 大きなベッドに暖炉、蓄音機に高価なソファー、大事な本が詰め込まれた本棚、そしてガラス窓の傍には企業の社長などが使っていそうな机なども置かれている。
 昨日、急に倒れたロベルトだが、特にこれといって変わったところはない。
 ただ一つ、ガラス窓の向こうから見える光景が夜から朝に変わったという点だけを除いて、だが。

「はぁ……あれは何だったんだ?」

 昨晩、ロベルトの身に起こった不可思議な出来事。
 父シリウスから貰った指輪をはめたら意識を失い、一面白だらけの世界でアリシアを名乗る者との出会い。
 彼女曰く、邪悪なる者に力を奪われ、このまま奴を放っておいたら何かしらの厄災が起こること。
 そして極めつけは……

「神の力、ラグナ……ね。やれやれ、まさか今になってこんな力をもらうとはな」

 アリシアから貰った力、ラグナ。
 ロベルトは今になって、なぜ自分が死んだ直後に神様が現れなかったのかようやく理解した。
 前世で読んでいた異世界転生作品の主人公は死んだ直後に神様が現れて、そこで特典と称して能力などをくれることが多いが、彼女の場合はその邪悪なるものとやらに力を奪われてしまい、死にかけの状態に陥ったことだ。
 とてもじゃないが、転生者に特典をあげるどころではない。
 問題なのは、その邪悪なるものは何者かということだ。
 そしてロベルトに与えられた神の力、ラグナ。
 これはいったい、何の力なのだろうか?
 ロベルトは自身の力について悩んでいると、部屋の扉からノックの音が二回聞こえた。

「ロベルト様、おはようございます。起きていますか?」

「あぁおはよう。起きてるよ」

「朝食のご用意ができました」

「分かった。少ししたらすぐに行く」

 ロベルトのその言葉に、扉の向こう側にいたメイドも自分の持ち場に戻っていく。
 その証拠に部屋から聞こえる足音が、少しずつ小さくなっていくのが分かった。

「それにしても久しぶりに家に帰ってきたのに、まさか絨毯の上で寝るとはな……はぁ」

 一か月ぶりの自宅での夜、ふかふかのベッドで寝る予定がまさかの絨毯の上で寝てしまうという事態に。
 頭をかいてため息をつき、たった一晩で起きた出来事のせいで疲れを癒すどころか余計に疲れてしまった。
 体についている倦怠感を抱えながらも、ロベルトはそのまま自室を出て、重い足取りで食堂へと歩き出す。

 食堂の扉を開けて中に入ると、既に家族は席についており、メイドたちもせっせと忙しそうに働いている。

「おはようロベルト。昨日はよく眠れたかな?」

「あぁ、おかげでぐっすり眠れたよ」

 本当はあの晩、指輪をはめた後にアリシアと出会い、ラグナと呼ばれる神の力を授けられ、さらには邪悪なる者とやらの事も聞かされてベッドではなく絨毯の上で寝てしまい、ぐっすりどころではなかった。
 だがロベルトは両親を心配はかけさせたくないのか、父の言葉に嘘をついてしまう。

「そうか。では朝食もできているから、早く座りなさい」

 シリウスの言葉に従い、ロベルトも自分の席に座る。
 彼の目の前には焼けたばかりのパンが香ばしい匂いを漂わせながら、皿の上にいくつも置かれている。
 他にもサラダや目玉焼きなど、前世でもありふれた朝食が今日一日の朝を豪華に飾る。
 こんな料理、前世では平民でも食べてるだろうが、異世界では貴族でなければ堪能できないだろう。
 ロベルトは自分がこういう身分に生まれたことを感謝しつつ、傍に置かれたパンに取る。

「お兄様、おはようございます!」

「あぁ、おはようリナリー」

「そういえば、昨日私がプレゼントしたレコード、聞いてくれましたか?」

「もちろん聞かせてもらったよ。とてもいい音楽だったよ。流石俺の妹だな」

「ほんとですか!? 嬉しいです!」

 ロベルトの横に座っていたリナリーも、彼に朝の挨拶をしつつ、昨日上げたプレゼントの感想を聞いてとても嬉しそうだった。

(さて……これからどうしたものか)

 ロベルトはパンを口に頬張りながら、今後の事を考える。
 アリシア、神の力であるラグナ、邪悪なる者。
 調べたい事はたくさんあるものの、今は食事に専念することにした。
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