一条春都の料理帖

藤里 侑

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日常

第785話 カレーうどん

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「春都、お昼は大丈夫そう?」
 朝食を食べていたら、仕事の準備をしながら母さんが言った。
 家にいるといっても仕事は舞い込んでくる。家にいながらできることもあれば、ちょっと外に出なければいけないことも。まあ、何だ、この状況には慣れている。
「お弁当、作れなかったから」
「大丈夫」
 炊き立てのご飯にベーコンエッグ、みそ汁。豆腐と揚げのみそ汁はほっとする味だ。ベーコンエッグの卵の具合もちょうどよく、カリカリに焼けたベーコンが香ばしい。
「久しぶりに学食に行く?」
 と、母さんが言った。あ、確かに。そういえば最近、学食のご飯食べてないなあ。咲良について行くことはあれど、自分が学食のご飯を食うことはない。
「うん、そうする」
「それじゃあ、お金置いとくね。忘れずに持っていってね」
「ありがとう」
 学食、何にしよう。最近新商品が増えたとも聞いてるし……ちょっと楽しみだな。

 すっきりと晴れた冬の日は、一段と寒い。曇り空の日も寒いものだが、晴れの日はまた違った寒さがあるように思う。
「こういうの放射冷却っていうんでしょ」
 体育の授業のために校庭に向かう途中、山崎が得意げに言っているのが聞こえた。声のする方を見れば、中村もいた。
「晴れの日の方が寒いのは、それのせい」
「そうだな」
「テレビで言ってた」
「寒いなあ」
 噛みあってるんだかいないんだか、よく分からない会話だ。
 それにしても、冬の寒さはジャージだけだとなかなかきついものがある。風通しがいいのも考えものだ。うう、風吹くと寒い。
「みんな暑くないのかなー? 上下ジャージってさあ」
 そう言いながら寄ってきたのは勇樹だ。勇樹は、上に一応ジャージを着ているが腕まくりをしているし、下は半ズボンだ。
「お前マジか」
「え、何が?」
「いや、何でもない……」
 そういや、まだ夏服のやつもいたっけ。寒さに強いのって、うらやましいやら恐ろしいやら。朝比奈が見たら衝撃を受けてかたまってしまいそうだ。
 校庭に向かう途中には、学食がある。調理の音と、いい匂い。お昼時の学食付近は空腹に響く。いろんな匂いが混ざっているのが、学食らしい。
「あ、そういえばさあ、学食の新メニューって知ってる?」
「あー、なんか出たって言ってたなあ」
「軽食が増えたんだってさ。あと、おやつ」
「軽食とおやつかあ……」
 じゃあ、昼飯には向かないだろうか。がっつり食わないならいいのかもしれないけど、俺はすこぶる腹減ってるし、軽食だけじゃ物足りないな。
 勇樹は続けた。
「たこ焼きとか焼そばとか、フライドポテトとか」
「屋台かよ」
「それな、俺も思った」
 そんなふうに話をして笑っていたら、少し体が温まってきた。とはいえ、寒い方が勝つ。ちょっとマシになったかな、という程度である。
 こういう時は、温かいものを食べて体の中からほかほかになるに限る。
 早く昼休みにならないかなあ。

「へー、春都が学食? 珍しいね」
 昼休み、咲良と連れ立って学食に向かう。寒くなると学食に向かい人の数が減っているような気がする……気のせいか?
「何食うの?」
「まだ何も決めてない」
「まあ、普段学食で食わないもんな。俺はかつ丼ばっかりだけど」
「知ってる」
 何か温かいものが食べたい。そうなるとうどんかなあ……かけうどん、肉うどん、カレーうどん。
 あ、カレーうどんいいな。温まりそう。
「よし、決めた」
「おっなんだ?」
「カレーうどん」
「あ、いいな」
 ふむ、と咲良は頷くと言った。
「じゃ、俺も」
 大盛りで、というつぶやきがきれいに重なって、思わず笑ってしまったのだった。
 やっぱり、いつもより学食内の人は少ない。おかげで席を選ぶのに焦らなくて済む。普段は早い者勝ちの椅子取りゲームだからなあ。
 ガラス窓に結露ができていて、外がよく見えない。よっぽど温度差があるのだろう。
 うちの学食のカレーうどんは、かけうどんにカレーをかけたものだ。描けうどんよりも少し出汁が少ないかな。それにねぎを少々。カレーうどんは、学食でも一、二の人気を誇るメニューである。
「いただきます」
 大盛りは麺二玉。器も大きいので、なんだかうれしい。
 しっかり混ぜて、出汁とカレーをなじませる。具材はとろとろに溶けてほぼ形が見えないところもある。
 つるっとした口当たりの麺はもちもちで、程よく柔らかい。カレーはちょっとスパイシーで、香辛料の主張はそこまでないが、ひりひりする。でも、辛いだけじゃなくて、ちゃんとうま味があるからおいしく食べられるのだ。
 出汁で少しさらっとしたカレーは跳ねるので気を付けないと。
 出汁もうまいんだよなあ。カレーそのものにもうま味はあるが、出汁のうま味も相まってより一層おいしくなっている。
 溶けた野菜の甘味が感じられるとホッとする。じゃがいもにニンジン、玉ねぎと言ったところかな。この辺、オレンジ色だ。わずかばかりのねぎの緑がまぶしい。
 食べていたら体がホカホカしてきた。やっぱり、体の中から温めるのはいいなあ。
「はー、うまいな。あったまる!」
 と、咲良が笑った。
「だなあ」
 でも、きっと外は寒いからすぐに冷えるのかなあ。
 もうしばらく、ホカホカしていたいなあ。あ、そういや軽食がいろいろ出たって言ってたな。お菓子も。なんかあったかいものないかな。甘いものが少し食べたい。
 あとで見に行ってみよう。
 ……駄菓子屋さんのぜんざい、食べたいなあ。

「ごちそうさまでした」
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感想 16

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みんなの感想(16件)

水母
2024.08.14 水母

春都くんが女の子に料理を作って、恋愛の方向にいって欲しいです。願望です

藤里 侑
2024.08.15 藤里 侑

コメントありがとうございます!
これからの春都を温かく見守っていただけたら嬉しいです。

解除
なつめ
2024.05.31 なつめ

700話おめでとうございます!すごいですね!これからもずっと応援しています♪

藤里 侑
2024.05.31 藤里 侑

コメントありがとうございます!
いつも読んでいただけて嬉しいです♪これからもよろしくお願いします!

解除
青緑
2024.05.26 青緑

初めまして。読んで楽しかったので、お気に入りに登録しました。
生活と料理の描写が想像しやすく、今後も読みます(^^)

藤里 侑
2024.05.26 藤里 侑

はじめまして!コメントありがとうございます♪
お気に入り登録、嬉しいです。ありがとうございます♪
楽しく読んでいただけるように、頑張って書かせていただきます!
これからもよろしくお願いします^ - ^

解除

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