829 / 843
日常
第773話 アメリカンドッグ
しおりを挟む
朝、目が覚めた時からなんだか体が重たい。なんて、栄養剤のCMみたいなことを思ってしまった。
「んん~?」
季節の変わり目、もしや風邪のひきはじめか? この時期はいつも何かと体調崩すからなあ。気を付けないと。
「いてて」
あー、なんか体がこわばってる。なんかしたかなあ?
「今日はちょっと涼しいな~」
咲良が窓枠にもたれかかりながら言う。今日は冷房もついておらず、窓が開け放たれていた。時折そよぐ風が心地よい。
「おかげで授業中、寝ちゃうんだよねえ」
と、山崎が大きなあくびをして言った。
「分かるわ、それ」
そう相槌を打つのは勇樹だ。
「ん~……」
「なんだ、春都。調子悪いのか?」
机に突っ伏して会話を聞いていたら、咲良がそう聞いてきた。
「なーんか、最近、体が重くて……」
「風邪?」
「いや……熱もないし、ただ体が重いだけっていうか……寝不足?」
よく夢見るしなあ、なんて思っていたら、少しの間を置いて勇樹と山崎がそろって口を開いた。
「それ、運動不足じゃん?」
「へ」
寝不足じゃなくて? と言おうとしたら、勇樹が先に話し始めた。
「だってさー、春都。食ってる割に動いてないじゃん?」
「体育」
「それ以外で」
「……うめずの散歩」
「毎日?」
「いや」
普段は基本ばあちゃんが面倒見てくれてるから、休みの日にたまに……って感じだなあ。あれ、俺あんま動いてない?
「じゃあ~、なんか習い事してるとか?」
そう言うのは山崎だ。
「部活は放送部だし~、委員会は図書じゃん?」
「いや……習い事は、まったく」
「じゃーもう、運動不足でしょ。よく食べてよく寝てるって感じ?」
あれ、そうなのかな。思えば確かに体育以外で運動してるかと言われれば……
「でも、その理屈なら咲良も」
「いやこいつはめっちゃ動いてるだろ」
そう言って勇樹が笑った。
「無駄な動き多そう」
「無駄とは何だ、無駄とは」
咲良はそう突っ込みながら笑う。
「でも実際さ、井上は家遠いじゃん、学校まで。一条、近いでしょ?」
「ぐぅ……」
確かに、山崎の言う通りだ。山崎はにこにこと笑いながら言った。
「テニスやってみる?」
「いやいや、バレーもいいもんだぞ?」
と、勇樹も誘ってくる。
「どっちも初心者には厳しいぞ……」
えー……何すればいいんだろう……分かんねぇ。
「なんとなくそうかなーとは思ってたけど」
帰り道、隣を歩く咲良が言った。何のことだと視線を上げると、咲良はニッと笑った。
「運動不足」
「何で言わなかった」
「だって、言ったら春都へこみそうだったからさ~。意外とそういうとこ繊細じゃん?」
俺なりの気遣いだよ、と咲良は言った。
まあ……確かに、はっきり言いきられると、そっかあ……ってちょっと落ち込むには落ち込むなあ。運動不足……
「とりあえず走ってみるとか?」
と、咲良は言った。
「気候も良くなってきたし、いいんじゃない?」
「確かになあ……どんだけ走れるかは分からんが」
「なんなら、一緒に走ってもいいぞ」
咲良は腕を振り、にこにこ笑って言った。その様子に、思わず笑ってしまう。
「置いて行かれそうだな」
「ちゃんと一緒に走るって」
夕暮れが早くなった帰り道。さあっと吹いた風に、金木犀の甘い香りが淡くも確かに乗っていた。
「ま、とりあえず今日はなんか買い食いして帰ろう」
「お前な、今運動しようと話してたのに……」
「いーのいーの、しっかり食ってしっかり動く! そうしないと春都はもたないと思うぞ」
ほらほら、と連れていかれたのはコンビニだ。
……まあ、確かに。今までが全然動いてないから、動く量を増やせばいいか。うん、そうだな。
「じゃ、アメリカンドッグ食う」
「おっ、いいねえ。俺も!」
あ、ホットスナックの横におでんが。もうそんな季節かあ。品数がまだ少ない。これから増えるのだろうか。それも楽しみだなあ。
コンビニを出て、隣の公園のベンチに座る。
「いただきます」
ケチャップとマスタードが入った容器をパキッと割って、アメリカンドッグに絞る。ケチャップの方が先に出てきて、マスタードはゆっくり出てくるんだよな。バランスを取るのが難しい。
まずは一口。アメリカンドッグの一口目って、いつも生地だけだ。でもこれもうまいんだよなあ。サクッと香ばしくてほのかに甘くて、ケチャップとマスタードの酸味がよく合う。
食べ進めていくと、ソーセージにたどり着く。魚肉ソーセージにも似た食感だ。
でも香りは確かに肉だ。わずかに香る香草のような風味と脂身、ソーセージのうま味を吸った生地。ケチャップの濃い味わいとマスタードのピリッとした刺激が際立つ。久々に食ったが、アメリカンドッグってうまいよなあ。
小さくなっていくアメリカンドッグは少々さみしいが、おいしいから食べ進めてしまう。カリカリのところが待ち遠しい気もするし、惜しい気もするし。
まあ、食べてしまうんだけど。
さて……運動、頑張ってみるかあ。どこ走るかな~。
「ごちそうさまでした」
「んん~?」
季節の変わり目、もしや風邪のひきはじめか? この時期はいつも何かと体調崩すからなあ。気を付けないと。
「いてて」
あー、なんか体がこわばってる。なんかしたかなあ?
「今日はちょっと涼しいな~」
咲良が窓枠にもたれかかりながら言う。今日は冷房もついておらず、窓が開け放たれていた。時折そよぐ風が心地よい。
「おかげで授業中、寝ちゃうんだよねえ」
と、山崎が大きなあくびをして言った。
「分かるわ、それ」
そう相槌を打つのは勇樹だ。
「ん~……」
「なんだ、春都。調子悪いのか?」
机に突っ伏して会話を聞いていたら、咲良がそう聞いてきた。
「なーんか、最近、体が重くて……」
「風邪?」
「いや……熱もないし、ただ体が重いだけっていうか……寝不足?」
よく夢見るしなあ、なんて思っていたら、少しの間を置いて勇樹と山崎がそろって口を開いた。
「それ、運動不足じゃん?」
「へ」
寝不足じゃなくて? と言おうとしたら、勇樹が先に話し始めた。
「だってさー、春都。食ってる割に動いてないじゃん?」
「体育」
「それ以外で」
「……うめずの散歩」
「毎日?」
「いや」
普段は基本ばあちゃんが面倒見てくれてるから、休みの日にたまに……って感じだなあ。あれ、俺あんま動いてない?
「じゃあ~、なんか習い事してるとか?」
そう言うのは山崎だ。
「部活は放送部だし~、委員会は図書じゃん?」
「いや……習い事は、まったく」
「じゃーもう、運動不足でしょ。よく食べてよく寝てるって感じ?」
あれ、そうなのかな。思えば確かに体育以外で運動してるかと言われれば……
「でも、その理屈なら咲良も」
「いやこいつはめっちゃ動いてるだろ」
そう言って勇樹が笑った。
「無駄な動き多そう」
「無駄とは何だ、無駄とは」
咲良はそう突っ込みながら笑う。
「でも実際さ、井上は家遠いじゃん、学校まで。一条、近いでしょ?」
「ぐぅ……」
確かに、山崎の言う通りだ。山崎はにこにこと笑いながら言った。
「テニスやってみる?」
「いやいや、バレーもいいもんだぞ?」
と、勇樹も誘ってくる。
「どっちも初心者には厳しいぞ……」
えー……何すればいいんだろう……分かんねぇ。
「なんとなくそうかなーとは思ってたけど」
帰り道、隣を歩く咲良が言った。何のことだと視線を上げると、咲良はニッと笑った。
「運動不足」
「何で言わなかった」
「だって、言ったら春都へこみそうだったからさ~。意外とそういうとこ繊細じゃん?」
俺なりの気遣いだよ、と咲良は言った。
まあ……確かに、はっきり言いきられると、そっかあ……ってちょっと落ち込むには落ち込むなあ。運動不足……
「とりあえず走ってみるとか?」
と、咲良は言った。
「気候も良くなってきたし、いいんじゃない?」
「確かになあ……どんだけ走れるかは分からんが」
「なんなら、一緒に走ってもいいぞ」
咲良は腕を振り、にこにこ笑って言った。その様子に、思わず笑ってしまう。
「置いて行かれそうだな」
「ちゃんと一緒に走るって」
夕暮れが早くなった帰り道。さあっと吹いた風に、金木犀の甘い香りが淡くも確かに乗っていた。
「ま、とりあえず今日はなんか買い食いして帰ろう」
「お前な、今運動しようと話してたのに……」
「いーのいーの、しっかり食ってしっかり動く! そうしないと春都はもたないと思うぞ」
ほらほら、と連れていかれたのはコンビニだ。
……まあ、確かに。今までが全然動いてないから、動く量を増やせばいいか。うん、そうだな。
「じゃ、アメリカンドッグ食う」
「おっ、いいねえ。俺も!」
あ、ホットスナックの横におでんが。もうそんな季節かあ。品数がまだ少ない。これから増えるのだろうか。それも楽しみだなあ。
コンビニを出て、隣の公園のベンチに座る。
「いただきます」
ケチャップとマスタードが入った容器をパキッと割って、アメリカンドッグに絞る。ケチャップの方が先に出てきて、マスタードはゆっくり出てくるんだよな。バランスを取るのが難しい。
まずは一口。アメリカンドッグの一口目って、いつも生地だけだ。でもこれもうまいんだよなあ。サクッと香ばしくてほのかに甘くて、ケチャップとマスタードの酸味がよく合う。
食べ進めていくと、ソーセージにたどり着く。魚肉ソーセージにも似た食感だ。
でも香りは確かに肉だ。わずかに香る香草のような風味と脂身、ソーセージのうま味を吸った生地。ケチャップの濃い味わいとマスタードのピリッとした刺激が際立つ。久々に食ったが、アメリカンドッグってうまいよなあ。
小さくなっていくアメリカンドッグは少々さみしいが、おいしいから食べ進めてしまう。カリカリのところが待ち遠しい気もするし、惜しい気もするし。
まあ、食べてしまうんだけど。
さて……運動、頑張ってみるかあ。どこ走るかな~。
「ごちそうさまでした」
23
お気に入りに追加
252
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
Husband's secret (夫の秘密)
設樂理沙
ライト文芸
果たして・・
秘密などあったのだろうか!
夫のカノジョ / 垣谷 美雨 さま(著) を読んで
Another Storyを考えてみました。
むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ
10秒~30秒?
何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。
❦ イラストはAI生成画像 自作
【本編完結】繚乱ロンド
由宇ノ木
ライト文芸
番外編更新日 12/25日
*『とわずがたり~思い出を辿れば~1 』
本編は完結。番外編を不定期で更新。
11/11,11/15,11/19
*『夫の疑問、妻の確信1~3』
10/12
*『いつもあなたの幸せを。』
9/14
*『伝統行事』
8/24
*『ひとりがたり~人生を振り返る~』
お盆期間限定番外編 8月11日~8月16日まで
*『日常のひとこま』は公開終了しました。
7月31日
*『恋心』・・・本編の171、180、188話にチラッと出てきた京司朗の自室に礼夏が現れたときの話です。
6/18
*『ある時代の出来事』
6/8
*女の子は『かわいい』を見せびらかしたい。全1頁。
*光と影 全1頁。
-本編大まかなあらすじ-
*青木みふゆは23歳。両親も妹も失ってしまったみふゆは一人暮らしで、花屋の堀内花壇の支店と本店に勤めている。花の仕事は好きで楽しいが、本店勤務時は事務を任されている二つ年上の林香苗に妬まれ嫌がらせを受けている。嫌がらせは徐々に増え、辟易しているみふゆは転職も思案中。
林香苗は堀内花壇社長の愛人でありながら、店のお得意様の、裏社会組織も持つといわれる惣領家の当主・惣領貴之がみふゆを気に入ってかわいがっているのを妬んでいるのだ。
そして、惣領貴之の懐刀とされる若頭・仙道京司朗も海外から帰国。みふゆが貴之に取り入ろうとしているのではないかと、京司朗から疑いをかけられる。
みふゆは自分の微妙な立場に悩みつつも、惣領貴之との親交を深め養女となるが、ある日予知をきっかけに高熱を出し年齢を退行させてゆくことになる。みふゆの心は子供に戻っていってしまう。
令和5年11/11更新内容(最終回)
*199. (2)
*200. ロンド~踊る命~ -17- (1)~(6)
*エピローグ ロンド~廻る命~
本編最終回です。200話の一部を199.(2)にしたため、199.(2)から最終話シリーズになりました。
※この物語はフィクションです。実在する団体・企業・人物とはなんら関係ありません。架空の町が舞台です。
現在の関連作品
『邪眼の娘』更新 令和6年1/7
『月光に咲く花』(ショートショート)
以上2作品はみふゆの母親・水無瀬礼夏(青木礼夏)の物語。
『恋人はメリーさん』(主人公は京司朗の後輩・東雲結)
『繚乱ロンド』の元になった2作品
『花物語』に入っている『カサブランカ・ダディ(全五話)』『花冠はタンポポで(ショートショート)』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる