811 / 855
日常
第757話 アイス
しおりを挟む
後期課外が始まり、夏休みも終盤である。
「春都ー、部活行こうぜー」
「おー」
四時間目が終わり、咲良が教室まで迎えに来た。今日は部員全員が参加しなければならない日である。
放送部が本格的に参加する学校行事は二学期以降に増える。少なくとも、うちの学校はそうだ。だから、その確認とか、日程の説明とか、あるらしい。大会も控えているようなので、忙しくなりそうだ。
「とりあえず昼飯食って~……」
「おーい、お二人さーん」
陽気な呼びかけに振り返ると、早瀬と朝比奈がいた。声の主はもちろん、早瀬だ。早瀬は咲良の隣に並ぶ。
「なー、休みの間、なんかした~?」
「特に何も。あ、春都と遊び行ったか。なー」
「まあ」
「いつも通りだな~」
徐々に賑わってくる廊下と、日差しを増す太陽。でもどこか、夏の終わりが近づいてくるような気配。
ああ、二学期始まるんだなあ、と頭で思うより先に肌がそう感じた。
「せっかくだし、お菓子とか買ってこようか」
そう言ったのは、昼食中にひょっこりと顔を出した矢口先生だった。
「お菓子?」
「何もなしで話し合いするのも、味気ないじゃない?」
どうやら、軍資金は用意してあるらしい。封筒を部長に手渡す。
「じゃ、準備よろしくね~」
先生はそれだけ言うと、扉を閉めて早足で立ち去って行った。部員同士、しばし顔を見合わせた後、部長が口を開いた。
「……昼ご飯の後、じゃんけんしよっか!」
昼食を終えた部員たちはおもむろに円になり、準備運動のような動きをした。これだけの人数でじゃんけんして、勝負がつくのだろうか?
「じゃあ……最初はグー!」
「じゃんけん」
ポン。
「あ」
チョキとグーだけ。勝負着いた。
「うっそだろ」
そう言って大笑いするのは咲良だ。その視線は、俺に向いている。そうだ、俺の手もチョキの形になっているのだ。ちくしょう、俺、いつも最初にチョキ出す癖があるから。
「じゃ、よろしくね!」
部長から、軍資金が入った封筒を渡される。
「俺ら二人だけかあ」
咲良が封筒を透かすように見ながら言うと、早瀬が言った。
「じゃ、俺らもついてくるよ」
「……二人だと、大変だろうし」
朝比奈も頷いて言う。
かくして、買い出しは四人で行くことになったのだった
歩いて近くのスーパーに行くだけで、汗だくになってしまうほどの暑さである。
「あっち~。ねー、アイス買おうぜ~?」
と、咲良がポイポイとかごにお菓子を入れながら言う。
「おい、考えなしに入れるんじゃない」
「チョコレートすぐ溶けそうだな……」
「あ、かりんとう買っていいか? あと、饅頭と~」
二人とも部員たちから聞いたリクエストを書いた紙を見ながら、自分たちの好きなように買っていく。二人に任せていたらあっという間に買い出しが終わりそうだ。
朝比奈と一緒にスマホの電卓で計算をしながら予算とにらめっこする。
ジュースはスポドリを買った。これはなんとなく、自然と選んでしまった。暑いせいだろうか、とりあえず、リクエストにあった炭酸系も買っておく。
「あ、見ろよ。これ」
と、早瀬が何か見つけたようで、ポスターを指さした。よく見るような、キャンペーンのポスターだ。ジュースを何本買ったら何かがついてくる、この会社の物を買ったらプレゼントがある、とか。
「該当商品を二つ買ったら、アイスプレゼント、だって」
一斉にかごの中に視線をやる。
「あるな、ちょうど四つ」
朝比奈のつぶやきのあと、誰からともなくアイスコーナーに向かったのは、いうまでもないのである。
店先の日陰、人が寄り付かない場所でしばし休憩である。
「じゃ、春都はこれね」
「ん」
二つしかアイスをもらえないので、二人ずつで分けられるタイプのアイスを買った。棒が二本刺さった、真ん中で割るタイプのやつだ。咲良から、片割れをもらう。
「割るのうまいな」
「妹と分けるとき、うまく分けらんねえと無駄な争いが起きるからな」
「なるほど……」
淡い水色の、ソーダ味のアイス。夏にぴったりのさわやかな気配だ。
「いただきまーす」
ん~、ひんやり、冷たい。もうそれだけですがすがしい気分だ。
そこに、甘いソーダ味がにじんでくると、もっといい。あまり食べない味だが、おいしいなあ、これ。ソーダ味のアイスって、なかなかうまい。
少し溶けた表面はジャリッとしていて、中心の方はサクッとした感じだ。かき氷とはまた違う氷の感じ、いいなあ。涼しい。ラムネとかが入っているわけでもない、シンプルな水色だけのアイスだが、それがいい。
この駄菓子っぽさがたまらないんだよなあ。じゅーっと吸って、味だけ吸い出すとかしてみちゃってさ。少し透明になった氷が面白い。
暑さがすごくて、早々に溶けてしまう。もったいない、もったいない。一気に食べるとキーンってするけど、溶けてほしくもないし。忙しい。でも、楽しい忙しさは歓迎だ。
「さて、そろそろ帰るか~」
と、早瀬がけだるげに言う。
サンサンと日が降り注ぎ、セミの鳴き声が聞こえる。夏真っ盛りという風景なのに、なんとなく終わりの気配がするのは、何だろう。
そんなことを思いながら、今日の空の青さに似た、半分溶けた甘いアイスを口に放り込み、飲み込んだ。
ほんの少しぬるくはなっていたが、確かにそれは冷たかった。
「ごちそうさまでした」
「春都ー、部活行こうぜー」
「おー」
四時間目が終わり、咲良が教室まで迎えに来た。今日は部員全員が参加しなければならない日である。
放送部が本格的に参加する学校行事は二学期以降に増える。少なくとも、うちの学校はそうだ。だから、その確認とか、日程の説明とか、あるらしい。大会も控えているようなので、忙しくなりそうだ。
「とりあえず昼飯食って~……」
「おーい、お二人さーん」
陽気な呼びかけに振り返ると、早瀬と朝比奈がいた。声の主はもちろん、早瀬だ。早瀬は咲良の隣に並ぶ。
「なー、休みの間、なんかした~?」
「特に何も。あ、春都と遊び行ったか。なー」
「まあ」
「いつも通りだな~」
徐々に賑わってくる廊下と、日差しを増す太陽。でもどこか、夏の終わりが近づいてくるような気配。
ああ、二学期始まるんだなあ、と頭で思うより先に肌がそう感じた。
「せっかくだし、お菓子とか買ってこようか」
そう言ったのは、昼食中にひょっこりと顔を出した矢口先生だった。
「お菓子?」
「何もなしで話し合いするのも、味気ないじゃない?」
どうやら、軍資金は用意してあるらしい。封筒を部長に手渡す。
「じゃ、準備よろしくね~」
先生はそれだけ言うと、扉を閉めて早足で立ち去って行った。部員同士、しばし顔を見合わせた後、部長が口を開いた。
「……昼ご飯の後、じゃんけんしよっか!」
昼食を終えた部員たちはおもむろに円になり、準備運動のような動きをした。これだけの人数でじゃんけんして、勝負がつくのだろうか?
「じゃあ……最初はグー!」
「じゃんけん」
ポン。
「あ」
チョキとグーだけ。勝負着いた。
「うっそだろ」
そう言って大笑いするのは咲良だ。その視線は、俺に向いている。そうだ、俺の手もチョキの形になっているのだ。ちくしょう、俺、いつも最初にチョキ出す癖があるから。
「じゃ、よろしくね!」
部長から、軍資金が入った封筒を渡される。
「俺ら二人だけかあ」
咲良が封筒を透かすように見ながら言うと、早瀬が言った。
「じゃ、俺らもついてくるよ」
「……二人だと、大変だろうし」
朝比奈も頷いて言う。
かくして、買い出しは四人で行くことになったのだった
歩いて近くのスーパーに行くだけで、汗だくになってしまうほどの暑さである。
「あっち~。ねー、アイス買おうぜ~?」
と、咲良がポイポイとかごにお菓子を入れながら言う。
「おい、考えなしに入れるんじゃない」
「チョコレートすぐ溶けそうだな……」
「あ、かりんとう買っていいか? あと、饅頭と~」
二人とも部員たちから聞いたリクエストを書いた紙を見ながら、自分たちの好きなように買っていく。二人に任せていたらあっという間に買い出しが終わりそうだ。
朝比奈と一緒にスマホの電卓で計算をしながら予算とにらめっこする。
ジュースはスポドリを買った。これはなんとなく、自然と選んでしまった。暑いせいだろうか、とりあえず、リクエストにあった炭酸系も買っておく。
「あ、見ろよ。これ」
と、早瀬が何か見つけたようで、ポスターを指さした。よく見るような、キャンペーンのポスターだ。ジュースを何本買ったら何かがついてくる、この会社の物を買ったらプレゼントがある、とか。
「該当商品を二つ買ったら、アイスプレゼント、だって」
一斉にかごの中に視線をやる。
「あるな、ちょうど四つ」
朝比奈のつぶやきのあと、誰からともなくアイスコーナーに向かったのは、いうまでもないのである。
店先の日陰、人が寄り付かない場所でしばし休憩である。
「じゃ、春都はこれね」
「ん」
二つしかアイスをもらえないので、二人ずつで分けられるタイプのアイスを買った。棒が二本刺さった、真ん中で割るタイプのやつだ。咲良から、片割れをもらう。
「割るのうまいな」
「妹と分けるとき、うまく分けらんねえと無駄な争いが起きるからな」
「なるほど……」
淡い水色の、ソーダ味のアイス。夏にぴったりのさわやかな気配だ。
「いただきまーす」
ん~、ひんやり、冷たい。もうそれだけですがすがしい気分だ。
そこに、甘いソーダ味がにじんでくると、もっといい。あまり食べない味だが、おいしいなあ、これ。ソーダ味のアイスって、なかなかうまい。
少し溶けた表面はジャリッとしていて、中心の方はサクッとした感じだ。かき氷とはまた違う氷の感じ、いいなあ。涼しい。ラムネとかが入っているわけでもない、シンプルな水色だけのアイスだが、それがいい。
この駄菓子っぽさがたまらないんだよなあ。じゅーっと吸って、味だけ吸い出すとかしてみちゃってさ。少し透明になった氷が面白い。
暑さがすごくて、早々に溶けてしまう。もったいない、もったいない。一気に食べるとキーンってするけど、溶けてほしくもないし。忙しい。でも、楽しい忙しさは歓迎だ。
「さて、そろそろ帰るか~」
と、早瀬がけだるげに言う。
サンサンと日が降り注ぎ、セミの鳴き声が聞こえる。夏真っ盛りという風景なのに、なんとなく終わりの気配がするのは、何だろう。
そんなことを思いながら、今日の空の青さに似た、半分溶けた甘いアイスを口に放り込み、飲み込んだ。
ほんの少しぬるくはなっていたが、確かにそれは冷たかった。
「ごちそうさまでした」
24
お気に入りに追加
253
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜
野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」
「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」
この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。
半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。
別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。
そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。
学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー
⭐︎毎日朝7時に最新話を投稿します。
⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。
※表紙絵、挿絵はAI作成です。
※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。


だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。

私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる