793 / 846
日常
番外編 山崎護のつまみ食い①
しおりを挟む
今日も朝から家は静かだ。
「ふぁ~あ……」
クーラーが効いた居間は居心地がよくて、ソファに横になるとまた寝てしまいそうになる。これで何度遅刻したことか。
ま、今日は課外があるだけだし、遅刻してもいっか。
どうにも朝って苦手だ。ぼーっとするし、元気出ないし、眠いし。そんなことなら夜、早く寝りゃいいんだけどさ。スマホ見てたらつい。
それに、急かしてくる人もいないと、どうしてもねえ。
「……お腹空いたなあ」
どんなに面倒だろうと、腹は減るもんだ。重い体を引きずって、冷蔵庫を見る。
朝飯は……あー、おにぎりがある。うちの朝飯は決まってそうだ。朝一番に起きた人がおにぎりを釜にある米の分、あるだけ握って置いておく。それを各々食べていく。おかずは作り置きの分を好きなだけ食べていい。
たまにおにぎりがパンになったり、おいなりさんになったりする。食パンがどんと置かれてることもあるなあ。
「今日は何だろ……」
梅干しとおかか。うん、いつも通りだ。
えーっと、麦茶とぉ、おかずは……うーん、からあげと……あ、冷食のソースカツでもチンしよ。ん、あれ、なんかメモが書いてある。
「護へ ちゃんと野菜も食べなさい 母」
あ、先回りされた。
スルーしてもいいんだけど、なぜかバレるんだよなあ。怖いくらい。作り置きのマリネがあるから、それを食おう。トマトと玉ねぎか……うん、ドレッシング味なら、まあ。
「いただきます」
テレビ、何やってんだろ。
「んん~、すっぱ」
梅干し、酸っぱいなあ。あ、プールだ。いいなあ、行きたいなあ。今日みたいに暑い日はプールに行きたくなる。でも、今日は塾あるし、休みの日はテニスがある。お盆くらいにはいけるかなあ。
おかかは醤油をかけてある。この独特の風味、割と最近まで苦手だったけど、慣れちゃった。
からあげもソースカツも、肉って感じ。いつも通りの味だ。
そんでもって野菜。トマトの青臭さと玉ねぎの風味。野菜って、なんとなく苦手なんだよなあ。まあ、食えないこともないけど。
んー、ますます面倒になって来ちゃった。本格的に行きたくないと考え出す前に、体を動かしてしまおう。
「ごちそうさまでしたぁ」
さーて、準備準備。続きに塾行くなら、リュックも持ってかないと。あ、昼飯どうしよう。
「あ~、めんどくさ~い」
どうにもならないけど、そう言わずにはいられなかった。
前の席に座るやつは、時々遠い目をしている。
何考えてんだろ。
「おっ、この教室涼しいな」
なんかこのクラスじゃない顔がやって来た。えーっと……そうそう、井上だ。前の席の……一条の友達。
「なー、春都」
「あ、何だ?」
「この教室涼しいなって」
「どこも一緒じゃないか?」
心底不思議そうに聞き返す一条に、井上は気を悪くする様子もなく「そうかなあ?」と言って、話題を変えた。
「何考えてたんだ? なんか、遠い目してたぞ」
「んー……」
「分かった、当ててやる。今日の昼飯のことだろ」
井上の得意げな言葉に、一条はふっと笑った。
「残念、晩飯だ」
「あーっ、そっちかあ! で、昼飯は何なんだ?」
「なんか……肉と野菜炒めたやつ。焼きそばになるかもかもしれない」
「はは、うちも多分そんな感じだ」
昼飯かあ……そういや俺も、何か考えないと。
コンビニかファミレスか……どうせ自習室じゃ食えないし、涼しいとこで食うならハンバーガーかなあ。
でも、昼時のあの人混みに一人で行くの、なんか苦手なんだよなあ……
「今日は塾か、護」
「んー? あ、雪ちゃん」
真夏だけど寒そうな名前の幼馴染が来た。
「そだよー。だから昼飯に悩んでたとこ。あ、一緒に食べ行こーよ。ハンバーガー」
「まあ、別にいいけど」
「やったー」
じゃあ、何食べようかなあ。あとでメニュー見てみようっと。
昼時って、やっぱり混むなあ。駅の近くのファストフード店は、この時間、いつも大盛況だ。
「ネットオーダーしといてよかったな~」
運よく空いた席に座る。事前に頼んどいたから、思ったよりも待たなくて済んだ。ネットオーダーって便利だなあ。
「そうだな」
「んじゃ、いただきまーす」
ベーコンレタスバーガーにコーラとポテト。うん、いい組み合わせだなあ。こういうのに入ってる野菜は、なんか好きなんだよねえ。
フワフワのパンと、香辛料が効いた肉。濃いソースが空きっ腹に刺激的だ。うまいなあ、やっぱハンバーガーってうまい。
揚げたてのポテトもいいな。この塩気がたまらない。
ジャンクな昼ご飯には、氷たっぷりの甘いコーラが最適だ。
「はー、なんかやっと目が覚めた感じ~」
言えば向かいに座る雪が、「今まで寝てたのかよ」と笑った。
「いやー、起きてはいたけどさー。なーんか本調子じゃないっていうか?」
がぶりとハンバーガーにかぶりつく。脂身が甘い、ちょっと厚めのベーコン。塩気とうま味が最高だ。
濃い味の中だと、レタスもいい感じにおいしく食べられる。
ポテトもまあ、じゃがいもで野菜っちゃ野菜だけど、こっちはいくらでも食える。
「塾行きたくなーい」
「はは、でもさぼったら怒られるんだろ」
「それも面倒くさーい」
「難儀なやつだ」
でも、なんか朝よりは動けそうだ。昼になったからか、それとも、雪ちゃんと笑いながらご飯食べられたからか。
んー、まあ、どっちでもいいけど、後の方の考えを採用しよう。
そっちの方が、なんとなく元気が長続きしそうな気がするから。
「ごちそうさまでした」
「ふぁ~あ……」
クーラーが効いた居間は居心地がよくて、ソファに横になるとまた寝てしまいそうになる。これで何度遅刻したことか。
ま、今日は課外があるだけだし、遅刻してもいっか。
どうにも朝って苦手だ。ぼーっとするし、元気出ないし、眠いし。そんなことなら夜、早く寝りゃいいんだけどさ。スマホ見てたらつい。
それに、急かしてくる人もいないと、どうしてもねえ。
「……お腹空いたなあ」
どんなに面倒だろうと、腹は減るもんだ。重い体を引きずって、冷蔵庫を見る。
朝飯は……あー、おにぎりがある。うちの朝飯は決まってそうだ。朝一番に起きた人がおにぎりを釜にある米の分、あるだけ握って置いておく。それを各々食べていく。おかずは作り置きの分を好きなだけ食べていい。
たまにおにぎりがパンになったり、おいなりさんになったりする。食パンがどんと置かれてることもあるなあ。
「今日は何だろ……」
梅干しとおかか。うん、いつも通りだ。
えーっと、麦茶とぉ、おかずは……うーん、からあげと……あ、冷食のソースカツでもチンしよ。ん、あれ、なんかメモが書いてある。
「護へ ちゃんと野菜も食べなさい 母」
あ、先回りされた。
スルーしてもいいんだけど、なぜかバレるんだよなあ。怖いくらい。作り置きのマリネがあるから、それを食おう。トマトと玉ねぎか……うん、ドレッシング味なら、まあ。
「いただきます」
テレビ、何やってんだろ。
「んん~、すっぱ」
梅干し、酸っぱいなあ。あ、プールだ。いいなあ、行きたいなあ。今日みたいに暑い日はプールに行きたくなる。でも、今日は塾あるし、休みの日はテニスがある。お盆くらいにはいけるかなあ。
おかかは醤油をかけてある。この独特の風味、割と最近まで苦手だったけど、慣れちゃった。
からあげもソースカツも、肉って感じ。いつも通りの味だ。
そんでもって野菜。トマトの青臭さと玉ねぎの風味。野菜って、なんとなく苦手なんだよなあ。まあ、食えないこともないけど。
んー、ますます面倒になって来ちゃった。本格的に行きたくないと考え出す前に、体を動かしてしまおう。
「ごちそうさまでしたぁ」
さーて、準備準備。続きに塾行くなら、リュックも持ってかないと。あ、昼飯どうしよう。
「あ~、めんどくさ~い」
どうにもならないけど、そう言わずにはいられなかった。
前の席に座るやつは、時々遠い目をしている。
何考えてんだろ。
「おっ、この教室涼しいな」
なんかこのクラスじゃない顔がやって来た。えーっと……そうそう、井上だ。前の席の……一条の友達。
「なー、春都」
「あ、何だ?」
「この教室涼しいなって」
「どこも一緒じゃないか?」
心底不思議そうに聞き返す一条に、井上は気を悪くする様子もなく「そうかなあ?」と言って、話題を変えた。
「何考えてたんだ? なんか、遠い目してたぞ」
「んー……」
「分かった、当ててやる。今日の昼飯のことだろ」
井上の得意げな言葉に、一条はふっと笑った。
「残念、晩飯だ」
「あーっ、そっちかあ! で、昼飯は何なんだ?」
「なんか……肉と野菜炒めたやつ。焼きそばになるかもかもしれない」
「はは、うちも多分そんな感じだ」
昼飯かあ……そういや俺も、何か考えないと。
コンビニかファミレスか……どうせ自習室じゃ食えないし、涼しいとこで食うならハンバーガーかなあ。
でも、昼時のあの人混みに一人で行くの、なんか苦手なんだよなあ……
「今日は塾か、護」
「んー? あ、雪ちゃん」
真夏だけど寒そうな名前の幼馴染が来た。
「そだよー。だから昼飯に悩んでたとこ。あ、一緒に食べ行こーよ。ハンバーガー」
「まあ、別にいいけど」
「やったー」
じゃあ、何食べようかなあ。あとでメニュー見てみようっと。
昼時って、やっぱり混むなあ。駅の近くのファストフード店は、この時間、いつも大盛況だ。
「ネットオーダーしといてよかったな~」
運よく空いた席に座る。事前に頼んどいたから、思ったよりも待たなくて済んだ。ネットオーダーって便利だなあ。
「そうだな」
「んじゃ、いただきまーす」
ベーコンレタスバーガーにコーラとポテト。うん、いい組み合わせだなあ。こういうのに入ってる野菜は、なんか好きなんだよねえ。
フワフワのパンと、香辛料が効いた肉。濃いソースが空きっ腹に刺激的だ。うまいなあ、やっぱハンバーガーってうまい。
揚げたてのポテトもいいな。この塩気がたまらない。
ジャンクな昼ご飯には、氷たっぷりの甘いコーラが最適だ。
「はー、なんかやっと目が覚めた感じ~」
言えば向かいに座る雪が、「今まで寝てたのかよ」と笑った。
「いやー、起きてはいたけどさー。なーんか本調子じゃないっていうか?」
がぶりとハンバーガーにかぶりつく。脂身が甘い、ちょっと厚めのベーコン。塩気とうま味が最高だ。
濃い味の中だと、レタスもいい感じにおいしく食べられる。
ポテトもまあ、じゃがいもで野菜っちゃ野菜だけど、こっちはいくらでも食える。
「塾行きたくなーい」
「はは、でもさぼったら怒られるんだろ」
「それも面倒くさーい」
「難儀なやつだ」
でも、なんか朝よりは動けそうだ。昼になったからか、それとも、雪ちゃんと笑いながらご飯食べられたからか。
んー、まあ、どっちでもいいけど、後の方の考えを採用しよう。
そっちの方が、なんとなく元気が長続きしそうな気がするから。
「ごちそうさまでした」
24
お気に入りに追加
252
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
お父様、ざまあの時間です
佐崎咲
恋愛
義母と義姉に虐げられてきた私、ユミリア=ミストーク。
父は義母と義姉の所業を知っていながら放置。
ねえ。どう考えても不貞を働いたお父様が一番悪くない?
義母と義姉は置いといて、とにかくお父様、おまえだ!
私が幼い頃からあたためてきた『ざまあ』、今こそ発動してやんよ!
※無断転載・複写はお断りいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる