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日常
第六百九十八話 オムライス
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学校って、どうしてこんなに腹が減るんだろう。
休みの日に家で過ごしているときにはそう感じないけど、学校に行くといつも、腹の虫が鳴らないか気になっているような気がする。まあ、途中でいろいろ食ってるけど。最近は、母さんがおにぎりを持たせてくれているから、とても助かっている。
朝課外終了後、無性に腹が減ったのでおにぎりを食っていたら、咲良がやって来た。廊下に面する窓を開け、咲良は枠にもたれかかる。
「おっ、春都。いいもん食ってんな~。中身何?」
「ウインナー」
「うまそーだな」
白米の中には、細かく切ったウインナーを焼き肉のたれで炒めたものが入っている。これ、大好きなんだ。
甘辛いたれとウインナーの味がよく合うし、少し焦げたところは香ばしく、たれがご飯になじんだところも、ウインナーとたれの味が残る口に白米をほおばるのも、全部がうまい。のりはあってもいいし、なくてもいい。
今日は、のり付きとのり無しが一個ずつある。今は、のり付きを食べている。のり無しは後にとっておく。
「おにぎりといえばさー」
咲良は窓枠越しに、机の上に置いていた筆箱をいじりながら言う。
「こないだコンビニに行ったら、オムライスのおにぎりがあってさあ。いつも売り切れなのに、珍しくて」
「買ったのか」
「買ってはない」
「なんだそれ」
思わず突っ込むと、咲良は「へへ」と笑った。
「いや、別に食いたいわけでもなかったし。でさ、思ったんだけど」
「うん」
「オムライスって色々あるじゃん?」
ああ、確かにあるなあ。
お店のやつは、半熟が多いかなあ。半熟にもいろいろ種類があるし。スクランブルエッグみたいなのがあふれ出してくるのとか、ドレスみたいな盛り付けのやつとか。まず、家で再現するには難しい代物だ。
よく焼いたやつもあるな。お店でそういうのが出てくるってなったら、ご飯を包むようにしてあるやつが多いだろうか。ふわっとかぶせるのもあるか。
中のご飯にしても、チキンライス、ケチャップライス、バターライス……いろいろだな。ソースも多彩だ。
咲良は通りすがりの朝比奈を視線はこっちに向けたまま流れるように捕まえる。朝比奈、もはやあきらめたような表情をしている。慣れてきたな、咲良のペースに。
咲良は何事もなかったかのように続けた。
「春都はさ、どういうのが好み?」
「好みかあ……」
正直俺は、何でもおいしくいただいてしまうからなあ。参考にならないと思うのだが。ああ、でも……
「卵は、かために焼いたのが好きかなあ」
「おっマジ? 俺ね、結構半熟好き~。デミグラスが合うよな」
「それは分かる」
「ご飯は……あれ、何だろう。バターかな? ケチャップじゃないんだ」
「へえ、俺はチキンライスが好きだ」
ほんと、食の好みって不思議だ。オムライスひとつとっても、こうも違う。それがたまに争いの火種になることもあるのだが……できれば、お互いに好きなものを好きと言えればいいなあ。
「朝比奈はどんなのが好き?」
咲良が聞くと、朝比奈は少し考えこんでから言った。
「海鮮の……イカとか、えびとか入ったご飯のやつ。半熟で、デミグラス」
「海鮮かあ」
「新たな選択肢だな」
感心したように咲良は頷いた。海鮮オムライス、うまそうだ。
「ねーねー、何の話してんの~」
俺も混ぜて、と咲良と朝比奈の間からひょっこりと顔を出したのは百瀬だ。
朝比奈が先ほどまでの話をすると、百瀬は「なるほどねー」と笑った。
「貴志のとこのオムライス、豪華でうまいもん」
「優太は何がいいんだ?」
「んー……そうだなあ」
ひとしきり悩んだ後、百瀬は言った。
「ふわふわ卵で、ご飯はチャーハンとか白ご飯とか……ソースはとろみのある鶏ガラ風味!」
それを聞いて、今度は百瀬以外が考えこむ。
「……それは、天津飯じゃないか?」
朝比奈が言うと、百瀬はあっけらかんと言った。
「卵とご飯じゃん。オムライスだよ」
あれ、オムライスって、何だっけ。
咲良は俺と同じように首を傾げ、朝比奈は呆れたように笑って百瀬を見、百瀬はにこにこと笑っていたのだった。
俺の好きなオムライスは、小さいころから母さんが作ってくれるやつだ。
「いただきます」
しっかり焼いてある卵、かけるソースはケチャップ。これにスプーンを入れるとき、いつもワクワクする。まるでプレゼントの包みを開けるようである。
あらわになる、チキンライス。このオレンジがかった赤色が好きだ。
卵は塩こしょうが少々。酸味がしっかりとんで甘いチキンライスとの相性がいい。細切れの鶏肉がまぎれ、少し混ざっている皮がいい。そうそう、これだよ、俺にとってのオムライスってのは。
ケチャップも一緒に食べると、酸味が加わってまた違う味わいに。
チキンライスにまぎれた玉ねぎのみじん切り。薄透明で赤色の玉ねぎはシャキッと甘く、歯ごたえの違いがいい。
合間に、大きなベーコンが入ったポトフ。
コンソメのうま味が、ケチャップ味の口の中に染みわたる。いろんなうま味が広がって、顔が緩んでしまう。ベーコンもスープを吸ったようにジューシーでうまい。
うっすらと、オレンジ色の油がポトフに浮く。
そしてこのオムライス、少し冷めてもうまいんだ。おにぎりにしても、弁当にしてもうまい。温かなポトフと一緒に食べると、とても、うまい。
「今度弁当、オムライスにしてほしい」
そう言うと母さんは「いいよ~」と笑った。
オムライス弁当、好きなんだ。弁当として食べるとまた違ってなあ……
そして、ボリューム満点のオムライスだが、不思議とパクパク食べてしまうのだ。いなり寿司とかに通ずるものがあると思う。
今日も、きれいに食べきった。ふう、お腹一杯。うまかった。
「ごちそうさまでした」
休みの日に家で過ごしているときにはそう感じないけど、学校に行くといつも、腹の虫が鳴らないか気になっているような気がする。まあ、途中でいろいろ食ってるけど。最近は、母さんがおにぎりを持たせてくれているから、とても助かっている。
朝課外終了後、無性に腹が減ったのでおにぎりを食っていたら、咲良がやって来た。廊下に面する窓を開け、咲良は枠にもたれかかる。
「おっ、春都。いいもん食ってんな~。中身何?」
「ウインナー」
「うまそーだな」
白米の中には、細かく切ったウインナーを焼き肉のたれで炒めたものが入っている。これ、大好きなんだ。
甘辛いたれとウインナーの味がよく合うし、少し焦げたところは香ばしく、たれがご飯になじんだところも、ウインナーとたれの味が残る口に白米をほおばるのも、全部がうまい。のりはあってもいいし、なくてもいい。
今日は、のり付きとのり無しが一個ずつある。今は、のり付きを食べている。のり無しは後にとっておく。
「おにぎりといえばさー」
咲良は窓枠越しに、机の上に置いていた筆箱をいじりながら言う。
「こないだコンビニに行ったら、オムライスのおにぎりがあってさあ。いつも売り切れなのに、珍しくて」
「買ったのか」
「買ってはない」
「なんだそれ」
思わず突っ込むと、咲良は「へへ」と笑った。
「いや、別に食いたいわけでもなかったし。でさ、思ったんだけど」
「うん」
「オムライスって色々あるじゃん?」
ああ、確かにあるなあ。
お店のやつは、半熟が多いかなあ。半熟にもいろいろ種類があるし。スクランブルエッグみたいなのがあふれ出してくるのとか、ドレスみたいな盛り付けのやつとか。まず、家で再現するには難しい代物だ。
よく焼いたやつもあるな。お店でそういうのが出てくるってなったら、ご飯を包むようにしてあるやつが多いだろうか。ふわっとかぶせるのもあるか。
中のご飯にしても、チキンライス、ケチャップライス、バターライス……いろいろだな。ソースも多彩だ。
咲良は通りすがりの朝比奈を視線はこっちに向けたまま流れるように捕まえる。朝比奈、もはやあきらめたような表情をしている。慣れてきたな、咲良のペースに。
咲良は何事もなかったかのように続けた。
「春都はさ、どういうのが好み?」
「好みかあ……」
正直俺は、何でもおいしくいただいてしまうからなあ。参考にならないと思うのだが。ああ、でも……
「卵は、かために焼いたのが好きかなあ」
「おっマジ? 俺ね、結構半熟好き~。デミグラスが合うよな」
「それは分かる」
「ご飯は……あれ、何だろう。バターかな? ケチャップじゃないんだ」
「へえ、俺はチキンライスが好きだ」
ほんと、食の好みって不思議だ。オムライスひとつとっても、こうも違う。それがたまに争いの火種になることもあるのだが……できれば、お互いに好きなものを好きと言えればいいなあ。
「朝比奈はどんなのが好き?」
咲良が聞くと、朝比奈は少し考えこんでから言った。
「海鮮の……イカとか、えびとか入ったご飯のやつ。半熟で、デミグラス」
「海鮮かあ」
「新たな選択肢だな」
感心したように咲良は頷いた。海鮮オムライス、うまそうだ。
「ねーねー、何の話してんの~」
俺も混ぜて、と咲良と朝比奈の間からひょっこりと顔を出したのは百瀬だ。
朝比奈が先ほどまでの話をすると、百瀬は「なるほどねー」と笑った。
「貴志のとこのオムライス、豪華でうまいもん」
「優太は何がいいんだ?」
「んー……そうだなあ」
ひとしきり悩んだ後、百瀬は言った。
「ふわふわ卵で、ご飯はチャーハンとか白ご飯とか……ソースはとろみのある鶏ガラ風味!」
それを聞いて、今度は百瀬以外が考えこむ。
「……それは、天津飯じゃないか?」
朝比奈が言うと、百瀬はあっけらかんと言った。
「卵とご飯じゃん。オムライスだよ」
あれ、オムライスって、何だっけ。
咲良は俺と同じように首を傾げ、朝比奈は呆れたように笑って百瀬を見、百瀬はにこにこと笑っていたのだった。
俺の好きなオムライスは、小さいころから母さんが作ってくれるやつだ。
「いただきます」
しっかり焼いてある卵、かけるソースはケチャップ。これにスプーンを入れるとき、いつもワクワクする。まるでプレゼントの包みを開けるようである。
あらわになる、チキンライス。このオレンジがかった赤色が好きだ。
卵は塩こしょうが少々。酸味がしっかりとんで甘いチキンライスとの相性がいい。細切れの鶏肉がまぎれ、少し混ざっている皮がいい。そうそう、これだよ、俺にとってのオムライスってのは。
ケチャップも一緒に食べると、酸味が加わってまた違う味わいに。
チキンライスにまぎれた玉ねぎのみじん切り。薄透明で赤色の玉ねぎはシャキッと甘く、歯ごたえの違いがいい。
合間に、大きなベーコンが入ったポトフ。
コンソメのうま味が、ケチャップ味の口の中に染みわたる。いろんなうま味が広がって、顔が緩んでしまう。ベーコンもスープを吸ったようにジューシーでうまい。
うっすらと、オレンジ色の油がポトフに浮く。
そしてこのオムライス、少し冷めてもうまいんだ。おにぎりにしても、弁当にしてもうまい。温かなポトフと一緒に食べると、とても、うまい。
「今度弁当、オムライスにしてほしい」
そう言うと母さんは「いいよ~」と笑った。
オムライス弁当、好きなんだ。弁当として食べるとまた違ってなあ……
そして、ボリューム満点のオムライスだが、不思議とパクパク食べてしまうのだ。いなり寿司とかに通ずるものがあると思う。
今日も、きれいに食べきった。ふう、お腹一杯。うまかった。
「ごちそうさまでした」
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