一条春都の料理帖

藤里 侑

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日常

第六百八十八話 コンソメポテチ

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 さて、文化祭も終わり、待ち遠しくてしょうがなかった平日の二連休も儚く過ぎ、日常が戻って来た。しかし、そうこうしているうちに体育祭の準備も始まる。学校生活って、イベントの連続だなあ。
 そして、その間には、当然、イベントの残響というものがあるもので。図書館に山積みになった、返却処理済みの本。まさしくそれが、祭りの終わりを象徴している。
「文化祭が終わった途端、これだよ」
 放課後の図書館。まるで、こうなることを予想していたかのような口ぶりで漆原先生は言うと、いまだ返却ポストに残る本を担ぎ出した。
「こんなに出払っていたんだなあ。どおりで、本棚が寂しいはずだ。ほれ、一条君。カウンターに持って行って」
「はい」
 カウンターでは、咲良と朝比奈が返却処理をしていた。咲良がバーコードを読み取り、朝比奈は何かしらの不備や忘れ物がないかをチェックする。最初の方は、ゆっくり話しながらやっていたものだが、だんだんと口数が少なくなり、今じゃ職人のような手さばきである。
 文化祭の出し物のためにいろいろ借りられていた本だろう。クラス別発表や、昼休み中の催し物で見た覚えがあるものが多い。
 合間に全く関係のない本があると、おおー、って思うほどには、そればっかりだ。
「うわ、これ貸出期限めっちゃ過ぎてるし」
 一冊の本のバーコードを読み取った咲良が声を上げると、朝比奈が隣から画面をのぞき込んだ。
「本当だ。二週間くらいオーバーしてる?」
「先生~、これ返却するように、催促しなかったんすか~?」
 咲良が聞くと、最後の本を取り出した先生は、それを俺に渡しながら渋い顔をして答える。
「まあ……文化祭で使うものだからなあ。他のやつらも借りたいだろうから一応は言ったんだが」
「……あ、ほんとだ」
 パラパラとページをめくっていた朝比奈がつぶやく。
「督促の手紙、いっぱい挟まってる」
「まじ? ……うわ、ほんとだ」
「これ、しおり代わりにされてますね」
「やっぱりなあ」
 先生は呆れたように笑った。
「はじめは、返却を催促する、お願い程度の手紙を出していたんだが。一向に返してくれないから、督促状を出したんだが」
「効果なし、ですか」
 言えば先生は力なく頷いたが、開き直ったように言った。
「ま、いいさ。大きな破損もなく、無事に返って来ただけでも」
 いいのか、それで。まあ、文化祭も終わった今、どうこういっても変わらないからな。それでいいんだろう。
 さて、返却処理が済んだ本を片付けていこう。
 しかし、見事にジャンルが偏ってんなあ。おかげで、返却する棚が一緒だから、人が集まってなかなか作業が進まない。それに、棚一つ分借りられているところもあるから、順番もよく分からん。
 よし、それ以外のやつから戻していこう。えーっと、小説を先に戻そうかな。原作として参考にしたのだろうな。文化祭で見た演目にあった。
「これはここで、これは……あっちか」
 うーん、見事にばらばら。でも、片付けはしやすいな。周りに本が残っているから、順番がよく分かる。
 でも、やっぱり、圧倒的に冊数が少ない。大して片付いた気がしないな。
「ねー、春都。これ半分持って~」
 演出関連の本を大量に抱えた咲良がやって来て言った。上半分をもらうと、咲良はふうっと息をついた。
「作業終わったのか」
「うん、読み取るだけだし。まー、延滞多くて処理大変だったけど」
「準備期間、長かったしな」
 大々的なイベントがあると、片付けも大がかりである。体育館の片付けも結構時間食ってたもんな。普段出さない装飾とか出してたから、どこにどんな風に片づけたか、ほとんどのやつが忘れてたし。
 正直、片付けまでは気を張っていられない。特殊な数週間から、日常に体を戻すのにも結構気力を使うからな。
「なあ、漆原先生どっか行ったんだけど」
 と、朝比奈が同じように本を抱えてやってくる。
「休憩かな?」
「そーじゃね? 先生、体力なさそーだし」
「そうかあ?」
 黙々と片付けを進めていくうちに、終わりが見えてきた。そういえば、今日は利用者が少なかったなあ。文化祭が終わるとこうも違うものか。
 なんか、日常に戻った実感がわいてくる。
「おー、お疲れさん。だいぶ終わったなあ」
 先生は両手に袋を抱えて戻って来た。そして、それを掲げると、にっこり笑って言った。
「帰りに一つずつ、持って帰るんだぞ」

 そうしてもらったのは、小袋のお菓子だ。なるほど、これを買いに出ていたのだな。色々な種類があったが、ポテトチップスにした。こないだ買ったやつの、コンソメ味だ。
 袋の中に詰まった、多種多様な袋菓子。色合いもカラフルだし、こんなに大量のお菓子をいっぺんに見るなんてことはないから、なんだかワクワクした。咲良はかなり、迷っていたようだけど。
 晩飯を済ませ、ちょっとしたおやつタイムだ。
「いただきます」
 コンソメ味のポテトは、時々、無性に食べたくなる。
 うん、うすしおよりも濃い塩気。しょっぱいんだよなあ、コンソメって。このしょっぱさが妙に欲しくなるんだよ。
 でも、食べ進めていくうちに、ふわっと甘みを感じる瞬間がある。これは野菜だろうか。コンソメだもんな。そりゃ、野菜の甘味を感じるわけだ。スープの味わいとは違うが、確かにこれは野菜である。
 ポテチに合わせた味付けになっているんだろうな。癖になる味だ。家だから、指についた粉もペロッと舐めてみる。
 そうそう、これをパンにはさんでもうまいんだ。確か、小さなロールパンがあったはず。
 ロールパンを真ん中で割いて、ポテチを埋め込んで、食べる。
 ふわ、もちっとした食感のパンにパリパリ、ザクザクとした食感のポテチ。この食感の違い、いつ食っても不思議だ。この食べ方でしか出会えない食感といえよう。
 パンの、小麦の香りと甘み、それにコンソメのしょっぱさ。うまいんだなあ、これが。
 口をケガしないようにしないと。
 ああ、小袋だから、すぐに食べ終わってしまう。パンとポテチ、久々に組み合わせたけど、やっぱりうまかったな。
 今度は大袋を買ってきて、食パンとかと合わせてみよう。
 うまいものを思い出せてよかった。頑張ったかいがあるというものである。

「ごちそうさまでした」
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