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日常
第六百八十二話 BLTバーガー
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中間テストは三日間。初日は晴天だったが、最終日は朝から曇天で途中はしとしとと雨が降ったりやんだりしていた。
静かな教室に、筆記の音と雨の音、紙のこすれる音が聞こえる。
テスト中のこの空気って、割と嫌いじゃないんだよなあ。その空間にだけ広がる緊張感と静寂、テストとは関係のない時間を刻む外の空間、そういうのをひっくるめて、好きだな。
まあ、そんなこと言ったら、こいつ大丈夫かって目をされるわけだが。
体育祭好きなやつだっているんだから、テスト好きなやつがいたっていいよなあ、といつも思う。だって、運動音痴からしてみたら、あれだぜ。体育祭なんて、公開処刑みたいなもんだからな?
テストが終わった後の、緩んだ空気もいい。ああ、でも今日はまだ理系の教室の方は緊張しているな。
「春都はもう帰れるのかぁ~、いいなぁ~」
帰る準備をしていたら、咲良がやって来てそうぼやく。
「理系はあと一科目か」
「そー、おかげで昼休み挟むから、微妙な時間になんだよねぇ」
「それは大変だ」
「もー、俺も帰りたいー」
と、咲良は俺を小突いてくる。痛くもかゆくもないので放置していたら、咲良は途中で小突くのをやめて、腰に手を当ててため息をついた。
「俺も文系にしときゃよかった」
「お前テストの度に毎回言ってんな、それ」
「はあ~、帰りたい~」
咲良はそう言いながら、教室を出て行った。今から昼飯か。食堂も開いてないから、弁当を持ってきたって言ってたな。
さて、俺も、雨が本降りする前に帰ろう。
一階の一年生の教室があるところは、すっかり解放感に満ちている。一年生の頃は、科目も少ないからな。三時間ずつだったかな。
「おっ」
前を行く人波に、見慣れた姿が。橘と青井だ。
今日は各学年、終わる時間がバラバラだから部活は休みのところが多い。理系の終了を待つ部活もあるらしいが、放送部は全員そろっての収録が必要なので、休みである。
その代わり、自主練が命じられている。二人の様子を見るに、美術部と調理部も休みなのだろう。
昇降口を通り過ぎ、校門を出る。
「あー……降りそうだなあ」
さて、とっとと帰ろう。
目的のものを手に入れて。
いつもの帰り道でもなければ、多くの生徒がバス停に向かう際に使う道でもない。その間にある、細い裏道を抜けた先。
バスセンターには中にも当然色々な店があるのだが、外に面した場所にもいろいろとある。ジュース屋なんかは、外からでもテイクアウトができる。
そんな店の並びに、目的の店はある。アメリカンと聞いて想像がつくような色合いの店は、イートインスペースもあって結構繁盛している。メニュー看板が店先にあるから、じっくり吟味する。
色鮮やかなイラストで、どれもこれも食べたくなってしまう。うーむ、どうしてこう、パンと肉と、トマトとレタスの組み合わさったイラストって、魅力的なんだろう。ポテトもいいなあ。
そんで、ジュースの紙コップは赤と白のストライプ。いいねえ、ワクワクする。
肉の焼ける音と匂いを感じながら、カウンターに立つ。まだにぎわう時間帯ではないので、すぐに注文ができた。
「BLTバーガーのセットをお願いします」
「お飲み物はどうなさいますか?」
「えーっと、コーラで」
今日はなんとなく、甘い炭酸が飲みたい気分だ。
「店内でお召し上がりですか?」
「持って帰ります」
「かしこまりました」
番号札を持って、人のいない店内で待つ。ふふ、ただでさえ魅力的な組み合わせの中に、ベーコンを付け加えてしまった。ぜいたくすぎたかな? いや、テスト頑張ったし、いいだろう。
帰ったら、テストが終わったら読もうと思って買っていた漫画もあるんだ。
どうせまた忙しくなるんだし、今のうちにのんびりしておくとしよう。
「ただいま」
「わうっ」
うめずはご機嫌な様子で駆けよって来た。早く帰れる日はなかなかないから、俺も嬉しい。あ、もしかして匂いにつられてきたのか?
「さ、食べよう食べよう」
制服からジャージに着替えて、さっぱりしたらソファに座る。テーブルの上には茶色の紙袋。
「ふっふっふ」
思わず笑ってしまう。このジャンクな匂いと紙袋の匂いが混ざったの、たまらん。かさかさという音を立てて、中身を取り出すこの時間が楽しくももどかしい。
きれいに包まれたハンバーガー。幸せな丸さだ。
「いただきます」
ハンバーガーはボリュームたっぷりだ。
表面はカリッと香ばしく、水分は少なめの香ばしいパン。肉汁をよく吸う。肉汁をパンに座れてなお、パテはジューシーで、香辛料と肉の風味のバランスがいい。底に、ベーコンの塩気と脂身。特製ソースは醤油ベースのバーベキューソースみたいだ。
そんでこの、みずみずしいトマト。パテの温かさで、少しトロっとした感じのところもある。甘くて、少し酸味がある。
濃い味わいの中で、レタスは爽やかだ。
ポテトは太めで、サクッと、ほくっとしている。んー、甘い。塩も甘めなのかな? しょっぱい感じもするし……うま味があるのか。
そして、コーラ。陽気で愉快な入れ物に入っているのが、楽しい。
「はー……うっまい」
結構大きめだったけど、あっという間に食べてしまう。ありとあらゆる食べ物に対して、飲み物だという人がいるけど、今はその気持ちが分かる。
丸のみするわけではないけど、ほぼ飲み物なんだよな、なんか。
コーラはたっぷりあるし、焦って飲まず、漫画のお供にしよう。そのためにポテトチップスも買ってきている。うすしおかコンソメか……悩みどころだな。両方食べちゃうか。
さーて、つかの間の休息。楽しむぞ。
「ごちそうさまでした」
静かな教室に、筆記の音と雨の音、紙のこすれる音が聞こえる。
テスト中のこの空気って、割と嫌いじゃないんだよなあ。その空間にだけ広がる緊張感と静寂、テストとは関係のない時間を刻む外の空間、そういうのをひっくるめて、好きだな。
まあ、そんなこと言ったら、こいつ大丈夫かって目をされるわけだが。
体育祭好きなやつだっているんだから、テスト好きなやつがいたっていいよなあ、といつも思う。だって、運動音痴からしてみたら、あれだぜ。体育祭なんて、公開処刑みたいなもんだからな?
テストが終わった後の、緩んだ空気もいい。ああ、でも今日はまだ理系の教室の方は緊張しているな。
「春都はもう帰れるのかぁ~、いいなぁ~」
帰る準備をしていたら、咲良がやって来てそうぼやく。
「理系はあと一科目か」
「そー、おかげで昼休み挟むから、微妙な時間になんだよねぇ」
「それは大変だ」
「もー、俺も帰りたいー」
と、咲良は俺を小突いてくる。痛くもかゆくもないので放置していたら、咲良は途中で小突くのをやめて、腰に手を当ててため息をついた。
「俺も文系にしときゃよかった」
「お前テストの度に毎回言ってんな、それ」
「はあ~、帰りたい~」
咲良はそう言いながら、教室を出て行った。今から昼飯か。食堂も開いてないから、弁当を持ってきたって言ってたな。
さて、俺も、雨が本降りする前に帰ろう。
一階の一年生の教室があるところは、すっかり解放感に満ちている。一年生の頃は、科目も少ないからな。三時間ずつだったかな。
「おっ」
前を行く人波に、見慣れた姿が。橘と青井だ。
今日は各学年、終わる時間がバラバラだから部活は休みのところが多い。理系の終了を待つ部活もあるらしいが、放送部は全員そろっての収録が必要なので、休みである。
その代わり、自主練が命じられている。二人の様子を見るに、美術部と調理部も休みなのだろう。
昇降口を通り過ぎ、校門を出る。
「あー……降りそうだなあ」
さて、とっとと帰ろう。
目的のものを手に入れて。
いつもの帰り道でもなければ、多くの生徒がバス停に向かう際に使う道でもない。その間にある、細い裏道を抜けた先。
バスセンターには中にも当然色々な店があるのだが、外に面した場所にもいろいろとある。ジュース屋なんかは、外からでもテイクアウトができる。
そんな店の並びに、目的の店はある。アメリカンと聞いて想像がつくような色合いの店は、イートインスペースもあって結構繁盛している。メニュー看板が店先にあるから、じっくり吟味する。
色鮮やかなイラストで、どれもこれも食べたくなってしまう。うーむ、どうしてこう、パンと肉と、トマトとレタスの組み合わさったイラストって、魅力的なんだろう。ポテトもいいなあ。
そんで、ジュースの紙コップは赤と白のストライプ。いいねえ、ワクワクする。
肉の焼ける音と匂いを感じながら、カウンターに立つ。まだにぎわう時間帯ではないので、すぐに注文ができた。
「BLTバーガーのセットをお願いします」
「お飲み物はどうなさいますか?」
「えーっと、コーラで」
今日はなんとなく、甘い炭酸が飲みたい気分だ。
「店内でお召し上がりですか?」
「持って帰ります」
「かしこまりました」
番号札を持って、人のいない店内で待つ。ふふ、ただでさえ魅力的な組み合わせの中に、ベーコンを付け加えてしまった。ぜいたくすぎたかな? いや、テスト頑張ったし、いいだろう。
帰ったら、テストが終わったら読もうと思って買っていた漫画もあるんだ。
どうせまた忙しくなるんだし、今のうちにのんびりしておくとしよう。
「ただいま」
「わうっ」
うめずはご機嫌な様子で駆けよって来た。早く帰れる日はなかなかないから、俺も嬉しい。あ、もしかして匂いにつられてきたのか?
「さ、食べよう食べよう」
制服からジャージに着替えて、さっぱりしたらソファに座る。テーブルの上には茶色の紙袋。
「ふっふっふ」
思わず笑ってしまう。このジャンクな匂いと紙袋の匂いが混ざったの、たまらん。かさかさという音を立てて、中身を取り出すこの時間が楽しくももどかしい。
きれいに包まれたハンバーガー。幸せな丸さだ。
「いただきます」
ハンバーガーはボリュームたっぷりだ。
表面はカリッと香ばしく、水分は少なめの香ばしいパン。肉汁をよく吸う。肉汁をパンに座れてなお、パテはジューシーで、香辛料と肉の風味のバランスがいい。底に、ベーコンの塩気と脂身。特製ソースは醤油ベースのバーベキューソースみたいだ。
そんでこの、みずみずしいトマト。パテの温かさで、少しトロっとした感じのところもある。甘くて、少し酸味がある。
濃い味わいの中で、レタスは爽やかだ。
ポテトは太めで、サクッと、ほくっとしている。んー、甘い。塩も甘めなのかな? しょっぱい感じもするし……うま味があるのか。
そして、コーラ。陽気で愉快な入れ物に入っているのが、楽しい。
「はー……うっまい」
結構大きめだったけど、あっという間に食べてしまう。ありとあらゆる食べ物に対して、飲み物だという人がいるけど、今はその気持ちが分かる。
丸のみするわけではないけど、ほぼ飲み物なんだよな、なんか。
コーラはたっぷりあるし、焦って飲まず、漫画のお供にしよう。そのためにポテトチップスも買ってきている。うすしおかコンソメか……悩みどころだな。両方食べちゃうか。
さーて、つかの間の休息。楽しむぞ。
「ごちそうさまでした」
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