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日常
第六百十話 ばあちゃん飯
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今日は朝から日差しもあって、暑い。セミも絶好調に鳴いているし、まさに夏って感じだ。それに、今日は終業式で明日からは夏休みだ。課外があるとはいえ、長期休みが始まるのは嬉しい。
「いやあー、夏休みだなあ!」
昇降口の蒸し暑さと匂いに少しげんなりしていたら、セミの大合唱に負けず劣らずの元気な声でそう言いながら咲良がやってきた。
「おはよう!」
「おう、おはよう。朝から元気だな」
「だって夏休み始まるんだぜ~、もっと元気出していこうや」
軽い足取りで階段を上る咲良の一段後を行く。
「まだ終業式も終わってないってのに」
言えば咲良は「まあ、それは置いといて」と笑った。
「実質始まったようなもんだろ。まー、課外とか宿題とか、部活とか、部活はまあ俺らはあんまり出番ないかもしんないな、とにかく、いろいろ忙しいけど、休みは休みじゃん。楽しく過ごそうぜぇ」
そして咲良は前を行く人にちょっかいをかけた。
「なっ、元気出せって」
「うおっ……」
……ああ。
「なんだ、朝比奈か」
「びっくりした……井上、急になんだ」
「あはは、いい反応~。いや、何かテンション低いなーと思って」
「通常運転だ」
朝比奈はあきれたように言うが、咲良には一切響かない。悪びれもせず、いつにも増して上機嫌な様子で笑うばかりだ。
「……大丈夫か、こいつ」
さすがの朝比奈も少し心配そうに……というか、怪訝そうに俺に聞いてくる。
「夏休み始まるから元気なだけだ」
「ああ、そうか」
朝比奈が納得したところで百瀬が教室から出てきた。
「聞いたことのある声がしたと思えば。やっぱりお前らか」
「おう百瀬!」
「元気だなあ、井上」
さすがの夏休みとはいえ、ここまで楽しめるのはすごいな。
咲良は「あっ、そうだ」といいことを思いついたように言った。
「四人でさ、どっか遊びに行こうぜ。海でも、山でも、街でも。せっかく休みなんだし、遊び倒そうぜ!」
「遊び倒すって……」
まるで宿題のことも課外のこともすっかり頭から抜け落ちたように言うものだから、三人そろって苦笑してしまう。
夏休み明け、この表情が曇らないことを祈るばかりだ。
終業式も無事終わり、帰路につく。父さんと母さんはそろそろ帰ってきているはずだ。
「ただいまー」
「おかえり」
あー、家の中涼しいなあ。太陽に照らされた頭がひりひりする。
「二人もおかえり」
「ただいま」
父さんと母さんは片付けとかも一通り済んだみたいで、ちょうど一段落ついたところだったらしい。
うめずも久々に父さんと母さんに合えて嬉しそうだ。尻尾をパタパタと振り、心なしか笑っているようにも見える。
「あれ、なんか父さん焼けたね」
こんがり小麦色、というほどではないが、いつもと色が全然違う。父さんは腕をさすりながら笑った。
「外にいることが多かったからなあ」
「春都、見て見て」
と、母さんが楽しそうに言うので何事かと思えば、冷蔵庫にタッパーが増えている。
「どうしたの、これ」
「お店の方にお土産を持って行ったんだけど、帰りにもらったの」
かぼちゃの煮物に高菜炒め、たくあん炒めだ。これはうまそうだ。
「もらったの? とってきたんじゃなくて?」
「失敬な」
「あいてっ」
母さんは力が強いから、ちょっと小脇を突かれるだけでもだいぶダメージを受ける。
「はい、ほら、これ持っていって。お昼にしよう」
そう言って渡されたのは、おにぎりがのった皿だった。
「ソファの方に持っていってね。涼しいから、そっちで食べよう」
「はーい」
早速、もらってきたおかずを食べるらしい。テレビもつけて、セミの声を遠くに聞きながらの昼飯は、なんか夏休みって感じがして楽しい。
「いただきます」
とりあえずおにぎり食べよう。俵型のおにぎりにはのりが巻いてある。
この塩気がちょっと強めな感じ、失った塩分を取り戻す感じがしていいな。のりは磯の香りが強くて、おにぎりだけでも十分うまい。
しょっぱくなった口に、かぼちゃの煮物。
とろとろと甘くて、冷たいままでもおいしい。ほくほくした食感は食べ応えがある。一緒に炊いてある揚げはジュワジュワとジューシーで、かぼちゃの皮目もなんだか香ばしい感じがしてうまい。
高菜も相変わらずうまい。特に最近食ってなかったから余計にうまい。この香ばしさと塩気、高菜の香りにピリッとした唐辛子、ごまの風味……葉の部分はもふっと、じゃくっと、茎の部分はみずみずしい。
たくあんは食感がいいなあ。ポリッポリッと気持ちのいい歯触りで、ごまの風味も相まっていくらでも入っていく。
そんでまたこの漬物がご飯に合うことこの上ない。お茶漬けにしてもうまいんだよなあ。
テレビは地元のバラエティ番組が流れている。いつも見ないやつだからなんだか新鮮だ。夏におすすめのお出かけスポットとグルメかあ……こういうのを家でだらだら見るのが楽しいんだよなあ。そんで、一人じゃないのもなんかいい。
漬物はお茶請けにしてもうまい。食べ過ぎにはくれぐれも気を付けないといけないが、ちまちまつまみながらお茶飲んで、だらだらテレビを見ようかな。
なんせ、夏休みだからな。
「ごちそうさまでした」
「いやあー、夏休みだなあ!」
昇降口の蒸し暑さと匂いに少しげんなりしていたら、セミの大合唱に負けず劣らずの元気な声でそう言いながら咲良がやってきた。
「おはよう!」
「おう、おはよう。朝から元気だな」
「だって夏休み始まるんだぜ~、もっと元気出していこうや」
軽い足取りで階段を上る咲良の一段後を行く。
「まだ終業式も終わってないってのに」
言えば咲良は「まあ、それは置いといて」と笑った。
「実質始まったようなもんだろ。まー、課外とか宿題とか、部活とか、部活はまあ俺らはあんまり出番ないかもしんないな、とにかく、いろいろ忙しいけど、休みは休みじゃん。楽しく過ごそうぜぇ」
そして咲良は前を行く人にちょっかいをかけた。
「なっ、元気出せって」
「うおっ……」
……ああ。
「なんだ、朝比奈か」
「びっくりした……井上、急になんだ」
「あはは、いい反応~。いや、何かテンション低いなーと思って」
「通常運転だ」
朝比奈はあきれたように言うが、咲良には一切響かない。悪びれもせず、いつにも増して上機嫌な様子で笑うばかりだ。
「……大丈夫か、こいつ」
さすがの朝比奈も少し心配そうに……というか、怪訝そうに俺に聞いてくる。
「夏休み始まるから元気なだけだ」
「ああ、そうか」
朝比奈が納得したところで百瀬が教室から出てきた。
「聞いたことのある声がしたと思えば。やっぱりお前らか」
「おう百瀬!」
「元気だなあ、井上」
さすがの夏休みとはいえ、ここまで楽しめるのはすごいな。
咲良は「あっ、そうだ」といいことを思いついたように言った。
「四人でさ、どっか遊びに行こうぜ。海でも、山でも、街でも。せっかく休みなんだし、遊び倒そうぜ!」
「遊び倒すって……」
まるで宿題のことも課外のこともすっかり頭から抜け落ちたように言うものだから、三人そろって苦笑してしまう。
夏休み明け、この表情が曇らないことを祈るばかりだ。
終業式も無事終わり、帰路につく。父さんと母さんはそろそろ帰ってきているはずだ。
「ただいまー」
「おかえり」
あー、家の中涼しいなあ。太陽に照らされた頭がひりひりする。
「二人もおかえり」
「ただいま」
父さんと母さんは片付けとかも一通り済んだみたいで、ちょうど一段落ついたところだったらしい。
うめずも久々に父さんと母さんに合えて嬉しそうだ。尻尾をパタパタと振り、心なしか笑っているようにも見える。
「あれ、なんか父さん焼けたね」
こんがり小麦色、というほどではないが、いつもと色が全然違う。父さんは腕をさすりながら笑った。
「外にいることが多かったからなあ」
「春都、見て見て」
と、母さんが楽しそうに言うので何事かと思えば、冷蔵庫にタッパーが増えている。
「どうしたの、これ」
「お店の方にお土産を持って行ったんだけど、帰りにもらったの」
かぼちゃの煮物に高菜炒め、たくあん炒めだ。これはうまそうだ。
「もらったの? とってきたんじゃなくて?」
「失敬な」
「あいてっ」
母さんは力が強いから、ちょっと小脇を突かれるだけでもだいぶダメージを受ける。
「はい、ほら、これ持っていって。お昼にしよう」
そう言って渡されたのは、おにぎりがのった皿だった。
「ソファの方に持っていってね。涼しいから、そっちで食べよう」
「はーい」
早速、もらってきたおかずを食べるらしい。テレビもつけて、セミの声を遠くに聞きながらの昼飯は、なんか夏休みって感じがして楽しい。
「いただきます」
とりあえずおにぎり食べよう。俵型のおにぎりにはのりが巻いてある。
この塩気がちょっと強めな感じ、失った塩分を取り戻す感じがしていいな。のりは磯の香りが強くて、おにぎりだけでも十分うまい。
しょっぱくなった口に、かぼちゃの煮物。
とろとろと甘くて、冷たいままでもおいしい。ほくほくした食感は食べ応えがある。一緒に炊いてある揚げはジュワジュワとジューシーで、かぼちゃの皮目もなんだか香ばしい感じがしてうまい。
高菜も相変わらずうまい。特に最近食ってなかったから余計にうまい。この香ばしさと塩気、高菜の香りにピリッとした唐辛子、ごまの風味……葉の部分はもふっと、じゃくっと、茎の部分はみずみずしい。
たくあんは食感がいいなあ。ポリッポリッと気持ちのいい歯触りで、ごまの風味も相まっていくらでも入っていく。
そんでまたこの漬物がご飯に合うことこの上ない。お茶漬けにしてもうまいんだよなあ。
テレビは地元のバラエティ番組が流れている。いつも見ないやつだからなんだか新鮮だ。夏におすすめのお出かけスポットとグルメかあ……こういうのを家でだらだら見るのが楽しいんだよなあ。そんで、一人じゃないのもなんかいい。
漬物はお茶請けにしてもうまい。食べ過ぎにはくれぐれも気を付けないといけないが、ちまちまつまみながらお茶飲んで、だらだらテレビを見ようかな。
なんせ、夏休みだからな。
「ごちそうさまでした」
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