648 / 846
日常
第六百八話 蒸し豚丼
しおりを挟む
日の出が早くなった。朝五時ごろにはすっかり空は明るくなっていて、寝過ごした気分になる。まあ、今日は休みだから、寝すぎたところで何も問題はないのだが。
おまけに今日は、これといった予定もない。さて、どう過ごそうか。
……などと思っていたら、あっという間に昼だ。時間って、過ぎるのが早い。
「わふっ」
「うめずー。どうしようなぁ」
「わう」
ソファに座っていたら、うめずがやって来て足元に座った。わさわさと撫でてやると、気持ちよさそうに目を細める。と、うめずははたと目を開き、ソファに置きっぱなしにしていたスマホに視線を向けた。
「わーうっ」
「スマホがどうかしたか?」
「わう、わふっ」
間もなくして、スマホが震えて軽快な音が鳴った。電話だ。
「よく分かったなあ」
「わふっ」
どことなく得意げな梅酢の相手をしながら電話に出る。相手は母さんだ。
「もしもしー」
『あっ、春都~。今大丈夫?』
「うん。どうした?」
『帰る目途が立ったから、連絡しておこうと思って』
「そっか。いつ頃?」
『何日かうちには帰ってこられると思うよ』
スマホにじゃれつくうめずをなだめる。うめずはどうしてか、俺が電話しているとスマホにじゃれついてくるんだよなあ。スマホだけじゃない。固定電話でもそうだ。
たまに鼻息が向こうに聞こえているらしいから、家族以外の人と話しているときにやられると大変だ。最近はうめずの存在を知っている人としか電話はしないからいいんだけど、電話しづらい。
「うめずも喜んでる」
『あはは、聞こえてるよ』
やっぱり聞こえてたか。
母さんは今から仕事があるみたいで、それから少しだけ話をして電話を切った。
二人とも帰って来るなら、なんかご飯作らないとなあ。何にしようか。酒の肴にも、飯のおかずにもなるようなもの……たいていの酒の肴は米に合うから、悩ましい。
せっかく今日は時間もあるし、手のかかる料理をしたいと思っていたんだよな。
「となると……あれかな」
蒸し豚。久々に作るから、今日、試しに作ってみよう。材料は買いに行かないと。
豚バラ肉のブロックが安くてよかった。ヒレ肉も食べたかったが、あんまり作っても一人じゃ食べきれない。父さんと母さんが帰ってきたときに作ろう。
それと長ネギ、しょうが。
長ネギは青い部分を使う。切り落としたら手で割いておく。しょうがはスライス。
豚肉はでかいから、半分に切ろう。そしたら塩を塗り込んで、皿にのせる。生の豚肉って独特な匂いがするんだよなあ。
そういう臭みを取るためのネギとしょうが、酒である。ネギとしょうがを豚肉にのせたり挟んだりして、最後にぱらっと酒をかける。
フライパンに濡らした布巾を敷いて、その上に豚肉をのせた皿をのせて、フライパンに水を注いだら蓋をして中火で蒸していく。三十分から四十分、水が蒸発しきるといけないから時々確認しないと。
さて、ソースはどうしようかな。せっかくねぎの白い部分があるんだし、それ使いたいなあ。
耐熱の皿に醤油と砂糖、酒とゴマ油、刻んだネギの白い部分を入れてよく混ぜて、レンチンする。
温まったら少し冷まして、ごまと一味とうがらしを入れる。これがうまいんだ。なんにでも合うたれで、炒飯に使ってもうまい。たぶん余るだろうから、晩飯はこのたれで炒飯を作ろう。豚肉の切れ端を入れて作るといいかな。
「っと、水……」
意外とあっという間に蒸発するんだよなあ。危ない危ない。
それにしても、今日はすっきり晴れた。ここ何日か雨が続いていてじめじめしていたから、たまにこういう晴れ間があると安心する。
でも、また雨降るって予報だ。早く梅雨が明けないかなあ。
「そろそろか」
うん、いい色だ。
切り分けてみよう。……よし、しっかり煮えている。脂の部分と肉の部分、ばらばらになりそうだ。
丼ご飯の上に盛り付けて、ネギとしょうがも添えよう。上からたれをかけて……よし、完成だ。
余った豚肉は、冷蔵庫に入れておく。
「さ、食べよう食べよう」
インスタントのあおさのみそ汁も一緒に。
「いただきます」
まずは肉だ、肉だ。
プルプルの脂身に、噛み応えのある肉。それに甘辛いたれが染みて、最高にうまい。脂身の甘さが口いっぱいに広がり、肉のうま味もたまらない。
たれは程よい醤油の香ばしさと砂糖の甘味、ごまの風味、一味とうがらしのピリッとした辛さが味を引き締める。ご飯に染みると、甘味が際立つようである。ゴマ油の風味は控えめだ。
肉と米を一緒に食べる。
「これこれ」
この味、この口当たりが味わいたかった。
ご飯の甘味と肉の味、しみこんだたれの味。いやあ、昼間っからこんなに豪華な飯が食えるとは、幸せだ。
あおさのみそ汁は磯の香りが最高だ。
ねぎもうまいんだよなあ、これが。肉のうま味を吸って、ねぎ本来の甘味と風味も相まってなあ。トロトロ、シャキッとした食感で、肉と一緒に食っても当然うまい。
しょうがはすっきりするな。
肉はどんなたれ、ソースにも合うが、俺はこのたれが一番好きかもしれないな。
晩飯の炒飯も、楽しみだなあ。ヒレ肉は、どうなるかな。早く父さんと母さん、帰ってこないかなあ。
甘辛い肉と米をかきこむ。ああ、満足だ。
「ごちそうさまでした」
おまけに今日は、これといった予定もない。さて、どう過ごそうか。
……などと思っていたら、あっという間に昼だ。時間って、過ぎるのが早い。
「わふっ」
「うめずー。どうしようなぁ」
「わう」
ソファに座っていたら、うめずがやって来て足元に座った。わさわさと撫でてやると、気持ちよさそうに目を細める。と、うめずははたと目を開き、ソファに置きっぱなしにしていたスマホに視線を向けた。
「わーうっ」
「スマホがどうかしたか?」
「わう、わふっ」
間もなくして、スマホが震えて軽快な音が鳴った。電話だ。
「よく分かったなあ」
「わふっ」
どことなく得意げな梅酢の相手をしながら電話に出る。相手は母さんだ。
「もしもしー」
『あっ、春都~。今大丈夫?』
「うん。どうした?」
『帰る目途が立ったから、連絡しておこうと思って』
「そっか。いつ頃?」
『何日かうちには帰ってこられると思うよ』
スマホにじゃれつくうめずをなだめる。うめずはどうしてか、俺が電話しているとスマホにじゃれついてくるんだよなあ。スマホだけじゃない。固定電話でもそうだ。
たまに鼻息が向こうに聞こえているらしいから、家族以外の人と話しているときにやられると大変だ。最近はうめずの存在を知っている人としか電話はしないからいいんだけど、電話しづらい。
「うめずも喜んでる」
『あはは、聞こえてるよ』
やっぱり聞こえてたか。
母さんは今から仕事があるみたいで、それから少しだけ話をして電話を切った。
二人とも帰って来るなら、なんかご飯作らないとなあ。何にしようか。酒の肴にも、飯のおかずにもなるようなもの……たいていの酒の肴は米に合うから、悩ましい。
せっかく今日は時間もあるし、手のかかる料理をしたいと思っていたんだよな。
「となると……あれかな」
蒸し豚。久々に作るから、今日、試しに作ってみよう。材料は買いに行かないと。
豚バラ肉のブロックが安くてよかった。ヒレ肉も食べたかったが、あんまり作っても一人じゃ食べきれない。父さんと母さんが帰ってきたときに作ろう。
それと長ネギ、しょうが。
長ネギは青い部分を使う。切り落としたら手で割いておく。しょうがはスライス。
豚肉はでかいから、半分に切ろう。そしたら塩を塗り込んで、皿にのせる。生の豚肉って独特な匂いがするんだよなあ。
そういう臭みを取るためのネギとしょうが、酒である。ネギとしょうがを豚肉にのせたり挟んだりして、最後にぱらっと酒をかける。
フライパンに濡らした布巾を敷いて、その上に豚肉をのせた皿をのせて、フライパンに水を注いだら蓋をして中火で蒸していく。三十分から四十分、水が蒸発しきるといけないから時々確認しないと。
さて、ソースはどうしようかな。せっかくねぎの白い部分があるんだし、それ使いたいなあ。
耐熱の皿に醤油と砂糖、酒とゴマ油、刻んだネギの白い部分を入れてよく混ぜて、レンチンする。
温まったら少し冷まして、ごまと一味とうがらしを入れる。これがうまいんだ。なんにでも合うたれで、炒飯に使ってもうまい。たぶん余るだろうから、晩飯はこのたれで炒飯を作ろう。豚肉の切れ端を入れて作るといいかな。
「っと、水……」
意外とあっという間に蒸発するんだよなあ。危ない危ない。
それにしても、今日はすっきり晴れた。ここ何日か雨が続いていてじめじめしていたから、たまにこういう晴れ間があると安心する。
でも、また雨降るって予報だ。早く梅雨が明けないかなあ。
「そろそろか」
うん、いい色だ。
切り分けてみよう。……よし、しっかり煮えている。脂の部分と肉の部分、ばらばらになりそうだ。
丼ご飯の上に盛り付けて、ネギとしょうがも添えよう。上からたれをかけて……よし、完成だ。
余った豚肉は、冷蔵庫に入れておく。
「さ、食べよう食べよう」
インスタントのあおさのみそ汁も一緒に。
「いただきます」
まずは肉だ、肉だ。
プルプルの脂身に、噛み応えのある肉。それに甘辛いたれが染みて、最高にうまい。脂身の甘さが口いっぱいに広がり、肉のうま味もたまらない。
たれは程よい醤油の香ばしさと砂糖の甘味、ごまの風味、一味とうがらしのピリッとした辛さが味を引き締める。ご飯に染みると、甘味が際立つようである。ゴマ油の風味は控えめだ。
肉と米を一緒に食べる。
「これこれ」
この味、この口当たりが味わいたかった。
ご飯の甘味と肉の味、しみこんだたれの味。いやあ、昼間っからこんなに豪華な飯が食えるとは、幸せだ。
あおさのみそ汁は磯の香りが最高だ。
ねぎもうまいんだよなあ、これが。肉のうま味を吸って、ねぎ本来の甘味と風味も相まってなあ。トロトロ、シャキッとした食感で、肉と一緒に食っても当然うまい。
しょうがはすっきりするな。
肉はどんなたれ、ソースにも合うが、俺はこのたれが一番好きかもしれないな。
晩飯の炒飯も、楽しみだなあ。ヒレ肉は、どうなるかな。早く父さんと母さん、帰ってこないかなあ。
甘辛い肉と米をかきこむ。ああ、満足だ。
「ごちそうさまでした」
22
お気に入りに追加
252
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
蛍地獄奇譚
玉楼二千佳
ライト文芸
地獄の門番が何者かに襲われ、妖怪達が人間界に解き放たれた。閻魔大王は、我が次男蛍を人間界に下界させ、蛍は三吉をお供に調査を開始する。蛍は絢詩野学園の生徒として、潜伏する。そこで、人間の少女なずなと出逢う。
蛍となずな。決して出逢うことのなかった二人が出逢った時、運命の歯車は動き始める…。
*表紙のイラストは鯛飯好様から頂きました。
著作権は鯛飯好様にあります。無断転載厳禁
お父様、ざまあの時間です
佐崎咲
恋愛
義母と義姉に虐げられてきた私、ユミリア=ミストーク。
父は義母と義姉の所業を知っていながら放置。
ねえ。どう考えても不貞を働いたお父様が一番悪くない?
義母と義姉は置いといて、とにかくお父様、おまえだ!
私が幼い頃からあたためてきた『ざまあ』、今こそ発動してやんよ!
※無断転載・複写はお断りいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる