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日常
第五百八十五話 塩ラーメンの焼そば風
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映画が終わり、通路に出る。ゴミを回収しているところにポップコーンのケースを置き、ジュースは氷を捨ててゴミ箱に入れた。
壁にでかでかと張り出されたポスターの写真を撮って、ロビーに出る。ああ、面白かった。
「さて……」
とりあえずチュロスを買って、外に出よう。ココアとシナモンかあ……シナモンにしよう。出来立てのチュロスってうまいんだよなあ。
ほんのりと温かさを感じるチュロスをもって、外に出る。映画館の匂いは好きだが、外は外ですがすがしい。すうっと通り過ぎる風はひんやりとしていて、でも冬ほどの寒さはなく、日差しのある所は暖かい。ふわっとかすめるシナモンと甘い砂糖の香りがよく似合う天気だ。
「いただきます」
表面はカリッとしていて、中はもっちり。たっぷりとまとわりついたシナモンシュガーが口の中を占拠する。でも、これくらいの量がいい。生地も甘く、次から次へと食べてしまいたくなる感じだ。
短くなっていくのが惜しいが、食べるのを止められない。テーマパークなんかでも売ってるし、冷凍でも売っているチュロスだが、やはりそこそこで違うものだ。
このチュロスもなかなかにうまい。めちゃくちゃ長いチュロスが売ってるって聞いたことがあるけど、どこで買えるのかなあ。半分とか三分の一ごとに味が変わっても面白そうだ。何味がいいだろう。シナモン、ココア、抹茶にきな粉とか? 夢は膨らむなあ。
「ごちそうさまでした」
袋の底にたまっていたシナモンシュガーも余すことなく食べてしまった。さて、そろそろ帰るか。
帰りに回転焼きを買って帰ろう。昼飯の総菜もなんかあったら、買おうかな。
地元の駅に着き、そこから自転車で帰路に着く。車の通りの少ない道を選んで行き、店に寄った。
「ただいまー」
「おう、おかえり。もう帰ったのか」
修理をしていたじいちゃんが顔をあげて聞いてくる。
「早かったな」
「図書館休みで、映画だけ見て帰ってきた」
「そうだったのか。まあ、上がってゆっくりしていけ」
「うん。あ、回転焼き買ってきたよ」
言えばじいちゃんは嬉しそうに笑って頷いた。
「それはありがとうな」
「ん、いいときに食べて」
「そうする」
台所では、ばあちゃんがお昼ご飯の準備をしていた。
「おかえりなさい」
「ただいま。はい、これ。回転焼き」
「いつもありがとうねえ」
ばあちゃんは袋を受け取り、回転焼きが入った箱に触れると「まだ温かいね」と笑った。
「お昼は?」
「んー、まだ。総菜買って帰るつもりだったけど、特になくて」
「じゃあ食べていきなさい。時間はあるでしょ」
「ありがとう」
裏の部屋に行くと、うめずがいた。うめずはお気に入りのボールを鼻先でもてあそびながら、日向ぼっこをしていた。ボールが少し遠くに行くと、起き上がることなく片足で寄せ、また鼻先でつつき、噛み、転がす。
「はー、よっこいしょ」
うめずのそばであぐらをかいて座ると、うめずはボールで遊ぶのをやめて立ち上がった。そして、おもちゃを片付けているところまで行くと、あるものをくわえて戻ってきた。
「うぅ」
「またそれか」
猫じゃらしに似たおもちゃだ。うめず、小さいころからこれが好きなんだよなあ。釣り竿みたいなやつの先に長い紐がついていて、その先端には骨付き肉を模した小さなぬいぐるみがついている。噛みすぎてくたくたになってるけど、いまだに楽しいらしい。
「よーし、じゃあ、いくぞー」
竿を握り、左右に動かす。うめずは楽しそうに追いかけまわす。うめずに追いつかれないように動かし、自分も動き回る。うめずを満足させるのは、とても大変だ。
「わうっ、わーうっ。わふ」
「はぁー……そりゃっ!」
「わーふっ!」
「もう勘弁してくれ……」
うめずの注意が一瞬よそにずれたタイミングで、ボールを転がす。うめずは猫じゃらしからそのボールに興味がいったらしく、自分だけで遊び始めた。あ、この場合、猫じゃらしではなく犬じゃらしというべきか……
うめずに悟られないようにおもちゃを片付け、今度こそのんびりする。
春らしい暖かさの日差しにぼんやりとしていたら、いい音が聞こえてきた。
音の出どころである台所に向かう。ばあちゃんは手際よく片付けをしながらフライパンを振るっていた。
まずは豚肉を炒め、ある程度火が通ったらもやしにキャベツ、ニンジン、玉ねぎを投入。その隣では麺が茹でられている。茹でた麺……ラーメンかな、それを具材と一緒に炒めて、味付けは塩ラーメンのスープ。三人前だが、二袋しか入れないようだ。
「ラーメン? 焼きそば?」
「塩ラーメンの焼そば風、ってところかな」
ばあちゃんは笑って、三つの皿に分けて盛り付けた。ちょうどじいちゃんも上がってきたようだった。
塩焼そばみたいな見た目だな。
「いただきます」
麺が柔らかそうだ。お、塩こしょうだけのやつよりもうま味がある。塩ラーメンのスープって、程よくスパイシーな感じがしてうまいんだよな。野菜の甘味と豚肉のうま味も染み出してたまらない。
口いっぱいに、麺を含んでみる。この食べ方、うまいな。うま味がじんわりと広がって、いくらでも食べられそうだ。
豚肉は柔らかく、脂身はプルプルしていていい。キャベツも玉ねぎも甘いなあ。ニンジンもほろほろと崩れていく。もやしはみずみずしい。
ラーメンとして食うのもうまいけど、こういう食べ方もありだな。
スープがないから、食べやすい。塩加減も程よくてなあ。ごまを振りかけるとまた風味がいい。香ばしさが増す。
「これ、おいしい」
「よく食べるのよ。忙しいときにね」
「忙しくなくてもよく食べるけどな」
じいちゃんが言うと、ばあちゃんは「それもそうね」と笑った。
今度、自分でも作ってみようかな。
「ごちそうさまでした」
壁にでかでかと張り出されたポスターの写真を撮って、ロビーに出る。ああ、面白かった。
「さて……」
とりあえずチュロスを買って、外に出よう。ココアとシナモンかあ……シナモンにしよう。出来立てのチュロスってうまいんだよなあ。
ほんのりと温かさを感じるチュロスをもって、外に出る。映画館の匂いは好きだが、外は外ですがすがしい。すうっと通り過ぎる風はひんやりとしていて、でも冬ほどの寒さはなく、日差しのある所は暖かい。ふわっとかすめるシナモンと甘い砂糖の香りがよく似合う天気だ。
「いただきます」
表面はカリッとしていて、中はもっちり。たっぷりとまとわりついたシナモンシュガーが口の中を占拠する。でも、これくらいの量がいい。生地も甘く、次から次へと食べてしまいたくなる感じだ。
短くなっていくのが惜しいが、食べるのを止められない。テーマパークなんかでも売ってるし、冷凍でも売っているチュロスだが、やはりそこそこで違うものだ。
このチュロスもなかなかにうまい。めちゃくちゃ長いチュロスが売ってるって聞いたことがあるけど、どこで買えるのかなあ。半分とか三分の一ごとに味が変わっても面白そうだ。何味がいいだろう。シナモン、ココア、抹茶にきな粉とか? 夢は膨らむなあ。
「ごちそうさまでした」
袋の底にたまっていたシナモンシュガーも余すことなく食べてしまった。さて、そろそろ帰るか。
帰りに回転焼きを買って帰ろう。昼飯の総菜もなんかあったら、買おうかな。
地元の駅に着き、そこから自転車で帰路に着く。車の通りの少ない道を選んで行き、店に寄った。
「ただいまー」
「おう、おかえり。もう帰ったのか」
修理をしていたじいちゃんが顔をあげて聞いてくる。
「早かったな」
「図書館休みで、映画だけ見て帰ってきた」
「そうだったのか。まあ、上がってゆっくりしていけ」
「うん。あ、回転焼き買ってきたよ」
言えばじいちゃんは嬉しそうに笑って頷いた。
「それはありがとうな」
「ん、いいときに食べて」
「そうする」
台所では、ばあちゃんがお昼ご飯の準備をしていた。
「おかえりなさい」
「ただいま。はい、これ。回転焼き」
「いつもありがとうねえ」
ばあちゃんは袋を受け取り、回転焼きが入った箱に触れると「まだ温かいね」と笑った。
「お昼は?」
「んー、まだ。総菜買って帰るつもりだったけど、特になくて」
「じゃあ食べていきなさい。時間はあるでしょ」
「ありがとう」
裏の部屋に行くと、うめずがいた。うめずはお気に入りのボールを鼻先でもてあそびながら、日向ぼっこをしていた。ボールが少し遠くに行くと、起き上がることなく片足で寄せ、また鼻先でつつき、噛み、転がす。
「はー、よっこいしょ」
うめずのそばであぐらをかいて座ると、うめずはボールで遊ぶのをやめて立ち上がった。そして、おもちゃを片付けているところまで行くと、あるものをくわえて戻ってきた。
「うぅ」
「またそれか」
猫じゃらしに似たおもちゃだ。うめず、小さいころからこれが好きなんだよなあ。釣り竿みたいなやつの先に長い紐がついていて、その先端には骨付き肉を模した小さなぬいぐるみがついている。噛みすぎてくたくたになってるけど、いまだに楽しいらしい。
「よーし、じゃあ、いくぞー」
竿を握り、左右に動かす。うめずは楽しそうに追いかけまわす。うめずに追いつかれないように動かし、自分も動き回る。うめずを満足させるのは、とても大変だ。
「わうっ、わーうっ。わふ」
「はぁー……そりゃっ!」
「わーふっ!」
「もう勘弁してくれ……」
うめずの注意が一瞬よそにずれたタイミングで、ボールを転がす。うめずは猫じゃらしからそのボールに興味がいったらしく、自分だけで遊び始めた。あ、この場合、猫じゃらしではなく犬じゃらしというべきか……
うめずに悟られないようにおもちゃを片付け、今度こそのんびりする。
春らしい暖かさの日差しにぼんやりとしていたら、いい音が聞こえてきた。
音の出どころである台所に向かう。ばあちゃんは手際よく片付けをしながらフライパンを振るっていた。
まずは豚肉を炒め、ある程度火が通ったらもやしにキャベツ、ニンジン、玉ねぎを投入。その隣では麺が茹でられている。茹でた麺……ラーメンかな、それを具材と一緒に炒めて、味付けは塩ラーメンのスープ。三人前だが、二袋しか入れないようだ。
「ラーメン? 焼きそば?」
「塩ラーメンの焼そば風、ってところかな」
ばあちゃんは笑って、三つの皿に分けて盛り付けた。ちょうどじいちゃんも上がってきたようだった。
塩焼そばみたいな見た目だな。
「いただきます」
麺が柔らかそうだ。お、塩こしょうだけのやつよりもうま味がある。塩ラーメンのスープって、程よくスパイシーな感じがしてうまいんだよな。野菜の甘味と豚肉のうま味も染み出してたまらない。
口いっぱいに、麺を含んでみる。この食べ方、うまいな。うま味がじんわりと広がって、いくらでも食べられそうだ。
豚肉は柔らかく、脂身はプルプルしていていい。キャベツも玉ねぎも甘いなあ。ニンジンもほろほろと崩れていく。もやしはみずみずしい。
ラーメンとして食うのもうまいけど、こういう食べ方もありだな。
スープがないから、食べやすい。塩加減も程よくてなあ。ごまを振りかけるとまた風味がいい。香ばしさが増す。
「これ、おいしい」
「よく食べるのよ。忙しいときにね」
「忙しくなくてもよく食べるけどな」
じいちゃんが言うと、ばあちゃんは「それもそうね」と笑った。
今度、自分でも作ってみようかな。
「ごちそうさまでした」
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