一条春都の料理帖

藤里 侑

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日常

第五百八十一話 蒸し豚

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 この日曜日はゆっくりしよう、と思っていたが、布団を洗濯しなければならない。そろそろ暖かくなってきたことだし、こたつ布団も片づけよう。家の洗濯機で洗えない分もあるから、コインランドリーに行かないと。
 でもこの量、持って行くにはちょっとなあ……まあいいか。急にどうこうなるものでもなし、父さんと母さんが帰ってきたときに連れて行ってもらおう。
 こないだ買ったせんべいと、緑茶の準備をしてソファに座る。
 ゲーム機でも動画が見られるようだと知って早幾月、最近また新たな発見をした。このゲーム機、テレビに接続できるやつだから、テレビで見たい動画を見られるということだ。いや、これは画期的だ。
「おおー、すげえすげえ」
 いつも小さな画面で見ていたものが大画面に出てくると、感動するな。何見よう。気になっているアニメが、今なら期間限定で配信されてるんだよな。いや、でも音楽も聞きたいな。うーん、とりあえず、今までスマホとかで見てきたアニメを見よう。
 大画面で見たかったけど、DVDのレンタルが無くて諦めてたんだ。いい時代になったなあ。それに、コントローラーで操作できるってのもいい。
「とりあえずこれだな」
 まずは広告が流れる。スマホで動画見てるときに広告出てくるとなんとなくイラッとするが、こうしてテレビで見るとあれだな。CMと同じようなものだ。
「おおーっ」
 何度も見たことのある動画なのに、なんかワクワクする。画面が広いって、いいな。料理の動画もテレビで見たらもっと楽しいかもしれない。
 さて、せんべいを食べよう。今日は……塩だ。
「いただきます」
 スーパーとかに売ってるせんべいもうまいが、専門店のやつは一味違う。バキッと歯切れよく、塩加減が程よい。うま味のある塩はせんべいそのものの味わいを引き立て、いくらでも食べられそうだ。
 塩だけひたすら舐めてもいいくらいにはうまいな。もち米のほのかな甘みもまたいい。緑茶の苦みによく合う。
 平たい部分はゴリッとした感じだ。いい歯ごたえで癖になる。膨らんだところはパリッと香ばしく、こういう食感の違いが楽しい。
 あんまり食べ過ぎると、腹が膨れるからな。ほどほどにしておくか。
「ごちそうさまでした」
 今日はたらふく食べたいものがあるからな。自分で作んなきゃいけないけど、それもまた楽しみだ。自分のために時間をかけられるって、幸せだ。
 あっ、また広告。やっぱ多いなあ。

「あー、めっちゃ見た」
 好きなものばっかり見ていたから、いつも以上に画面を凝視した。おかげで目がしぱしぱする。そろそろやめとくか。途中休憩をはさんだとはいえ、テレビをずっと見るって慣れないから疲れるなあ。
 ……今のうちに作るか。
 冷蔵庫から出して常温に戻しておいた豚バラ肉のブロック、それと鍋で使った残りであるねぎの青い部分、しょうが、塩。チラシの裏にメモっておいたレシピを参考に作るのは、蒸し豚だ。料理系の動画見て、うまそうだと思ったんだ。
 えーっと、まずはアルミホイルを広げよう。その上に豚肉をのせて……手袋はめておこう。結構でかいから、半分に切った方がよさそうだ。じゃあ、その前にショウガとかの準備しよう。
 しょうがはしっかり洗って程よい厚さに切り分ける。ねぎの青い部分は叩いて、ちぎる。そして豚肉を切る。肉を切るって、はさみにしても包丁にしても大変だ。手まで切ってしまいそうになるから、気を付けないと。
 そしたら塩を塗り込む。うーん、生々しい手触りと温度。
 皿にクッキングシートを敷いて、豚肉をのせる。隙間にしょうがをねじ込み、ねぎをねじ込み、入らない分はのせる。それと酒を振りかけて、と。
 フライパンには布巾を置き、水をひたひたにする。その上に豚肉をのせた皿をのせて、蓋をして火にかける。これで三十分から四十分待つ。途中で水を足す必要があるらしいし、台所で待っとくか。
「えーっと、キムチ……」
 豚肉と食うとうまいだろう、と買ってきておいたキムチ。こないだ出した分は食べきってしまったから、新しいのを出しておこう。
 豚肉はまだだろうか……お、意外と火が通ってる。でも芯はまだだろうな。焦らない、焦らない。俺は基本のんびりしているが、妙なところで焦って、ろくなことにならない。待つべき時は待つ。これって、結構難しい。
 急がないといけないときはのんびりしたくなって、のんびりしていていいときは気が急く。不思議だよなあ。
 調理器具を洗い、乾燥機にかけ、うめずの相手をし、水を足し、乾燥し終わったものを片付けていたら四十分が過ぎた。いったん出して切ってみよう。
「おお、いい感じ」
 ちゃんと火が通っている。程よい厚さに切って……いっぱいできた。こりゃ夜まで世話なしだな。そういやレタスもあったはずだ。一緒に食ったらうまいよなあ、準備しとこう。
 醤油とわさびもいるよなあ。
 おお、昼から豪華な食卓だ。せっかく手をかけたんだし、写真撮っておこう。山盛りのご飯が目立つなあ。
「いただきます」
 まずはわさび醤油で食べてみる。
 うん、あっさり。舌になじむ味わいだ。蒸しているから余分な脂が出て、豚バラ肉ではあるが、さっぱりと食べられる。でも脂身の甘味とか食べ応えは健在で、うま味も逃げておらず、最高だ。
 豚肉にわさび醤油、やっぱり合う。焼いた豚肉にも合うが、蒸した豚肉にも合うもんだな。ご飯を追いかけるようにしてかきこむのが楽しい。
 次はキムチで。
 思った通り、合うなあ。程よい辛さとみずみずしさのあるキムチが、豚バラ肉の脂身と噛み応えのある肉になじんで、ご飯が恋しくなる味になった。韓国料理でよく見る組み合わせだが、やはりうまいのだなあ。
 レタスでくるんで、キムチも一緒に食べてみる。ああ、間違いない。青い香りとキムチとはまた違うみずみずしさが加わって、口いっぱいに豚肉のうま味が広がる。
 ご飯も一緒にくるむと……もう最高だな。焼肉でこうやって食うのも好きだが、蒸し豚だと際限なく食えそうだ。今度はいろいろなたれを作ったり、買ったりしておこう。淡白な味わいだから、いろんな味を着こなせるんだなあ。
 また作ろう。父さんと母さんが帰ってきたときの飯にいい感じだ。炙っても、揚げてもいいかもなあ。
 残りは晩飯に。あ、夜はチャーハンにしてみようかな。

「ごちそうさまでした」
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