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日常
第五百四十三話 ラーメンと餃子
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思いのほか、映画館は混んでいなかった。
「席どこがいい?」
タッチパネルを操作しながら、咲良が聞いてくる。慣れてんなあ、こいつ。
「どこが空いてるんだ」
「大体空いてるな。端っこか、真ん中か……」
「俺はできれば端がいいけど……咲良は?」
「俺どこでも楽しめるタイプ~」
じゃ、端にしよう、と咲良は言って、席を二つ選んだ。
「ここでいい?」
「おお、いいな」
「じゃ、発券!」
券を取ったら、ポップコーンを買いに行く。
「あ、なんだ。味二つも選べるのか」
ラッキー、と咲良は笑った。
「何味がいい?」
「えー……キャラメル?」
「やっぱりそうだよな~、俺もそう思った」
映画館で使う、ポップコーンやジュースを入れておくケースって、なんかワクワクするなあ。咲良がそれを受け取り、連れ立ってかたいソファに座った。
入場まではまだ時間があるので、アナウンスを待ちながら、少しポップコーンを食べる。
「映画ってさー、予告編も楽しいよな。いろいろ言う人いるけど」
「ああ、分かる」
これから始まるぞーって気にさせてくれるんだよな。薄暗い空間で、音量マックスの音楽とセリフ。CMとは少し違う構成。絶対見ることはないだろうという映画の予告でも、なんか楽しいんだよな。
ただ、たまにホラーが突然やってくるのはいただけないが。
しかし、ポップコーンというものはいつでも食べられるものだが、映画館で食うとまた一味違う。ただの塩味だが、うま味があって、サクサクでほんのり温かい。次々と食べてしまいそうになる。いかんいかん、今日は咲良と分けるんだから、ちょっと制限しないとな。
口の中の塩分を流すように、オレンジジュースをすする。甘い柑橘の味が、しょっぱい口にちょうどいい。
キャラメルポップコーンはカリカリと香ばしく、ねっとりと甘い。
「なんかこの調子だと、映画始まる前に食い終わりそう」
咲良はそう言いながら、ポップコーンを食べる手を止めない。
「まあ、見ながら食うってできねぇだろ」
「それもそっか。じゃ、いっそのこと食っちまうか」
「ていうか、そろそろ入場の時間だぞ」
そう言い終わるか終わらないか、入場のアナウンスが入った。これぞ映画館って感じである。
「行こうぜ」
「そうだな」
映画館を出て、店内をぶらつく。
「なんか、もっかい見たくなるなあ。あの映画」
フワフワとした足取りで歩く咲良が、楽しそうに言った。
「ああ、面白かったな」
「周り子どもばっかりで、賑やかだったな」
「それはまあ……」
原作は長く続いているシリーズのゲームで、毎年映画が作られている。そのゲームは老若男女を問わず人気なもので、俺もやっている。子どもにも当然人気で、休日の映画館ともなれば親子連れも多い。
「今度見るときはDVDでもいいかもな」
咲良のつぶやきに、思わず頷いた。
それから、ゲームセンターやら雑貨屋やらに寄ったが、特にこれといってなかったので、帰路につく。
「なんか、歩き回って腹減ったなあ」
座席にもたれかかりながら、咲良が言った。
「行きたい店があっちこっち離れてるからさあ」
「端から端まで歩いたな」
「なあ、せっかくだしさ、どっかで食べて行かないか?」
昼飯も外で食ってないことだしさ、と咲良は言った。
「ああ、いいぞ。どこで食うんだ」
「うーん……いろいろ選びたいからなあ……」
次のバス停を確認して、咲良は「そうだ」と楽し気に笑った。そして、アナウンスがかかったところで、停車ボタンを押した。
「ここで降りるのか?」
「色々あるかなって」
そこは、さっきのショッピングモールとはまた違う、別のショッピングモールだ。こっちの方がちょっと落ち着いた雰囲気がするんだよな。というか、こっちのショッピングモールの方が俺は慣れている。小さいころから、家族でよく行ってるんだ。
「やっぱさあ、フードコートにある店も違うじゃん?」
「まあ、そうだな。雰囲気は違うな」
「あと広さがちょうどいい」
それは分かる。
さっきのショッピングモールよりもフードコートは狭く、店の数もそれほどなかったが、いい感じのラーメン屋があったので、それにした。学生はラーメンの値段だけで餃子セットにできるらしい。
「はい、学生ラーメンセット、お待たせね」
時間がちょうどよかったのか、席は選び放題だった。壁際で、通路からも見えない席に座り、食べることにした。飲み物はセルフの水だ。
「いただきます」
まずは豚骨スープを一口。あっさり系だな、これは。これくらいの豚骨も好きだなあ。フードコートで食うにはちょうどいいくらいのラーメンだ。麺はもちろん、バリカタで。極細麺がつるっといい口当たりで、噛み心地も抜群だ。
「お、チャーシュー三枚もあるじゃん。豪華~」
向かいに座る咲良が嬉しそうに言った。
チャーシューは少し脂身の割合が多いだろうか。でも、淡白な味わいでうまい。甘みがあるのもいいなあ。スープがあっさりしているから、チャーシューの食べ応えが嬉しい。
ねぎも新鮮で、爽やかだ。
そうだ。ごまをかけてみよう。専用の入れ物で、がりがりと削りながらかけるのが楽しい。ごまの風味が加わると、また違った味わいでうまい。さっぱりしたままで、食べ応えとコクが生まれるのだ。そうそう、忘れてた。豚骨にごま、合うんだ。
餃子は一口サイズで、焼きたての熱々だ。特製のたれで食べる。おっ、肉汁たっぷり。香味野菜の風味は控え目で、肉の味がよく分かる。これはサクサク食べられるな。白米にも合いそうだ。
そしてまた、ラーメンをすする。うん、うまい。
紅しょうがのトッピングですっきりする。ラーメンって、食べ進めていくほどにおいしさが複雑になっていくよなあ。
今日は店に泊まりだったなあ、そういえば。晩飯入るかな。まあ、控えめにして、明日の朝飯を楽しみにできるな。
スープは飲み干せないが、具材はしっかり食べきりたい。
おいしかった。外で食うラーメン、久しぶりだったなあ。
「ごちそうさまでした」
「席どこがいい?」
タッチパネルを操作しながら、咲良が聞いてくる。慣れてんなあ、こいつ。
「どこが空いてるんだ」
「大体空いてるな。端っこか、真ん中か……」
「俺はできれば端がいいけど……咲良は?」
「俺どこでも楽しめるタイプ~」
じゃ、端にしよう、と咲良は言って、席を二つ選んだ。
「ここでいい?」
「おお、いいな」
「じゃ、発券!」
券を取ったら、ポップコーンを買いに行く。
「あ、なんだ。味二つも選べるのか」
ラッキー、と咲良は笑った。
「何味がいい?」
「えー……キャラメル?」
「やっぱりそうだよな~、俺もそう思った」
映画館で使う、ポップコーンやジュースを入れておくケースって、なんかワクワクするなあ。咲良がそれを受け取り、連れ立ってかたいソファに座った。
入場まではまだ時間があるので、アナウンスを待ちながら、少しポップコーンを食べる。
「映画ってさー、予告編も楽しいよな。いろいろ言う人いるけど」
「ああ、分かる」
これから始まるぞーって気にさせてくれるんだよな。薄暗い空間で、音量マックスの音楽とセリフ。CMとは少し違う構成。絶対見ることはないだろうという映画の予告でも、なんか楽しいんだよな。
ただ、たまにホラーが突然やってくるのはいただけないが。
しかし、ポップコーンというものはいつでも食べられるものだが、映画館で食うとまた一味違う。ただの塩味だが、うま味があって、サクサクでほんのり温かい。次々と食べてしまいそうになる。いかんいかん、今日は咲良と分けるんだから、ちょっと制限しないとな。
口の中の塩分を流すように、オレンジジュースをすする。甘い柑橘の味が、しょっぱい口にちょうどいい。
キャラメルポップコーンはカリカリと香ばしく、ねっとりと甘い。
「なんかこの調子だと、映画始まる前に食い終わりそう」
咲良はそう言いながら、ポップコーンを食べる手を止めない。
「まあ、見ながら食うってできねぇだろ」
「それもそっか。じゃ、いっそのこと食っちまうか」
「ていうか、そろそろ入場の時間だぞ」
そう言い終わるか終わらないか、入場のアナウンスが入った。これぞ映画館って感じである。
「行こうぜ」
「そうだな」
映画館を出て、店内をぶらつく。
「なんか、もっかい見たくなるなあ。あの映画」
フワフワとした足取りで歩く咲良が、楽しそうに言った。
「ああ、面白かったな」
「周り子どもばっかりで、賑やかだったな」
「それはまあ……」
原作は長く続いているシリーズのゲームで、毎年映画が作られている。そのゲームは老若男女を問わず人気なもので、俺もやっている。子どもにも当然人気で、休日の映画館ともなれば親子連れも多い。
「今度見るときはDVDでもいいかもな」
咲良のつぶやきに、思わず頷いた。
それから、ゲームセンターやら雑貨屋やらに寄ったが、特にこれといってなかったので、帰路につく。
「なんか、歩き回って腹減ったなあ」
座席にもたれかかりながら、咲良が言った。
「行きたい店があっちこっち離れてるからさあ」
「端から端まで歩いたな」
「なあ、せっかくだしさ、どっかで食べて行かないか?」
昼飯も外で食ってないことだしさ、と咲良は言った。
「ああ、いいぞ。どこで食うんだ」
「うーん……いろいろ選びたいからなあ……」
次のバス停を確認して、咲良は「そうだ」と楽し気に笑った。そして、アナウンスがかかったところで、停車ボタンを押した。
「ここで降りるのか?」
「色々あるかなって」
そこは、さっきのショッピングモールとはまた違う、別のショッピングモールだ。こっちの方がちょっと落ち着いた雰囲気がするんだよな。というか、こっちのショッピングモールの方が俺は慣れている。小さいころから、家族でよく行ってるんだ。
「やっぱさあ、フードコートにある店も違うじゃん?」
「まあ、そうだな。雰囲気は違うな」
「あと広さがちょうどいい」
それは分かる。
さっきのショッピングモールよりもフードコートは狭く、店の数もそれほどなかったが、いい感じのラーメン屋があったので、それにした。学生はラーメンの値段だけで餃子セットにできるらしい。
「はい、学生ラーメンセット、お待たせね」
時間がちょうどよかったのか、席は選び放題だった。壁際で、通路からも見えない席に座り、食べることにした。飲み物はセルフの水だ。
「いただきます」
まずは豚骨スープを一口。あっさり系だな、これは。これくらいの豚骨も好きだなあ。フードコートで食うにはちょうどいいくらいのラーメンだ。麺はもちろん、バリカタで。極細麺がつるっといい口当たりで、噛み心地も抜群だ。
「お、チャーシュー三枚もあるじゃん。豪華~」
向かいに座る咲良が嬉しそうに言った。
チャーシューは少し脂身の割合が多いだろうか。でも、淡白な味わいでうまい。甘みがあるのもいいなあ。スープがあっさりしているから、チャーシューの食べ応えが嬉しい。
ねぎも新鮮で、爽やかだ。
そうだ。ごまをかけてみよう。専用の入れ物で、がりがりと削りながらかけるのが楽しい。ごまの風味が加わると、また違った味わいでうまい。さっぱりしたままで、食べ応えとコクが生まれるのだ。そうそう、忘れてた。豚骨にごま、合うんだ。
餃子は一口サイズで、焼きたての熱々だ。特製のたれで食べる。おっ、肉汁たっぷり。香味野菜の風味は控え目で、肉の味がよく分かる。これはサクサク食べられるな。白米にも合いそうだ。
そしてまた、ラーメンをすする。うん、うまい。
紅しょうがのトッピングですっきりする。ラーメンって、食べ進めていくほどにおいしさが複雑になっていくよなあ。
今日は店に泊まりだったなあ、そういえば。晩飯入るかな。まあ、控えめにして、明日の朝飯を楽しみにできるな。
スープは飲み干せないが、具材はしっかり食べきりたい。
おいしかった。外で食うラーメン、久しぶりだったなあ。
「ごちそうさまでした」
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