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日常
番外編 本多勇樹のつまみ食い③
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「お前さ、なんか雰囲気変わったよな」
友人のその言葉に、勇樹は目をぱちくりとさせた。
食堂で向かい合って座る友人は、コップになみなみと注いだお茶をすすって続けた。
「なんか毒気が抜かれたっていうか、とにかくなんか変わった」
「そうかなあ」
「そうだよ」
同じバレー部に所属する友人の言葉について、勇樹はカレーの最後の一口を飲み込みながら考えた。
そして、なんとなく思い当たる節はあるものの、友人に話す気にはなれず、勇樹は思っていることとは別のことを口にした。
「もともと俺のことはどう思ってたわけ?」
一緒に片付けに向かいながら、友人は少し悩んでから言った。
「なんか胡散臭いというか、嘘っぽいというか」
「嘘っぽい……」
「悪いやつじゃないんだろうけどさあ、目が笑ってないっつーか、うっすら怖いっていうか、何というか」
「俺のこと、そんなふうに思ってたのか……」
「やだなーとは思ったことはねぇけどな。ただ、とっつきにくいなとは思ってた。優等生っつーの? そんな感じ」
茶碗を返却し、二人は連れ立って食堂を出る。一年の廊下の方から帰ろうとしたが、人でごった返していたので、少々寒いが外廊下を行くことにしたようだった。コンクリート製の外階段を上る間、二人は少しばかり沈黙した。階段は細く、並んで上るには狭い。前後に並んで行くと、声が聞こえづらいのだ。
先を行く勇樹はポケットに手を突っ込み、一つ息をつく。
「あ」
階段を上りきったところで、友人は声をあげた。
「どした?」
「いや、いつからお前が変わったかなーと思ってたんだけど、あいつか? 一条」
勇樹はそれを聞いて、こっそりと天を仰いだ。話す気がなくても、気づかれれば仕方がない。
友人は面白そうに笑った。
「なにがあったんだよ。ん?」
「別にこれといってなんもねーよ」
「嘘だぁ」
二年の廊下に戻ったところで、友人は再び「あっ」と声をあげた。視線の先には春都がいた。
「ご本人発見!」
「春都は関係ねぇよ」
「えー? ほんと? なぁー、一条~」
「あっ、おい」
勇樹の制止は一歩遅かった。友人は春都の元へ向かう。一方の春都は見覚えもなければ交流のない人物に声をかけられ、戸惑っているようだった。ぱっと見の表情は平静を装っているが、目が泳いでいるのが隠せていない。
「えっと……?」
「なー、お前さ。なんで勇樹と仲良くなったの?」
「は?」
春都は勇樹に目を向ける。勇樹は「ごめん」というように片手をあげ、本当に申し訳なさそうな顔をした。春都は目の前の見知らぬ人物――もとい、勇樹の友人に気づかれないように息をついて口を開いた。
「……日直の時に、話が合って」
「それだけ?」
「それだけ」
なるべく話を早く切り上げたい春都は、力強く頷いた。勇樹の友人は「ふーん、そっか。そういうこともあるよな」と納得したようだった。
「なんか勇樹がさぁ、遠慮なくなったのって、お前が関係してんのかな、と」
それこそ、思い当たる節もかけらもなく、春都は今度こそ分かりやすく表情を変えた。勇気は笑いをこらえながら友人に言った。
「満足したろ? そういうことだ。……そういやお前、先生に呼ばれてなかったか?」
「あ、やっべ、そうだった。急に悪かったな、一条」
「お、おお」
友人が職員室に向かい始めてから、勇樹は春都に話しかけた。
「すまん、春都」
「何で笑ってる」
「いや、お前の顔が分かりやすく変わったなと……すげー不思議そうになったな……」
「いや、もうほんと、分かんねぇよ」
何もかも、と春都がつぶやいて、勇樹はうんうんと頷いた。
「春都ってほんとに、あれだな。自分に素直だな」
「……お前のこともよく分からん」
「あはは」
「笑ってんなよ」
友人は渡り廊下から、そんな二人の様子をちらっと見る。呆れたように笑う春都と、心の底から笑う勇樹。
「やっぱ関係あるじゃん」
そうつぶやいて、友人は弾むような足取りで職員室へ向かった。
部活の後、勇樹はコンビニに向かう。一日何食食べているか分からないが、部活の後は必ず腹が減る。その腹を家に帰るまでの間だけでも満たしておけるように、親からその分だけの小遣いはもらっていた。
「えーっと、ビッグアメリカンドッグとオールドファッションのチョコを一つ」
「はい」
ホットスナックのケースから出てきたアメリカンドッグとドーナツは、ほんのりと温かかった。
バス停のベンチに座り、勇樹はまず、アメリカンドッグを取り出した。
「いただきます」
ケチャップとマスタードが入ったケースをパキリと折ってアメリカンドッグに絞ると、勇樹はアメリカンドッグにかぶりついた。気持ちの良い食べっぷりだ。
サクサクと香ばしい表面、ふわふわとした甘味ある生地、塩気のあるソーセージ。ケチャップの酸味にマスタードのほのかな辛さがよく合う。もちろん、串の下の方についているカリカリも余すことなく食べる。
あっという間に食べ終わり、ドーナツを取り出す。チョコレートがかかったシンプルなドーナツは、勇樹にとっては小さいかもしれない。
ほろ苦く、コクもあるチョコレート、密度の高い生地、サクサクとしたところもあり、小さいが食べ応えがある。
飯を食うのが好きなやつと一緒にいると、自分も食欲が刺激されるのだろうか、と勇樹は思った。
明日は、何を食べようか。すっかり日の落ちた空には、ちらほらと星が見えていた。
「ごちそうさまでした」
友人のその言葉に、勇樹は目をぱちくりとさせた。
食堂で向かい合って座る友人は、コップになみなみと注いだお茶をすすって続けた。
「なんか毒気が抜かれたっていうか、とにかくなんか変わった」
「そうかなあ」
「そうだよ」
同じバレー部に所属する友人の言葉について、勇樹はカレーの最後の一口を飲み込みながら考えた。
そして、なんとなく思い当たる節はあるものの、友人に話す気にはなれず、勇樹は思っていることとは別のことを口にした。
「もともと俺のことはどう思ってたわけ?」
一緒に片付けに向かいながら、友人は少し悩んでから言った。
「なんか胡散臭いというか、嘘っぽいというか」
「嘘っぽい……」
「悪いやつじゃないんだろうけどさあ、目が笑ってないっつーか、うっすら怖いっていうか、何というか」
「俺のこと、そんなふうに思ってたのか……」
「やだなーとは思ったことはねぇけどな。ただ、とっつきにくいなとは思ってた。優等生っつーの? そんな感じ」
茶碗を返却し、二人は連れ立って食堂を出る。一年の廊下の方から帰ろうとしたが、人でごった返していたので、少々寒いが外廊下を行くことにしたようだった。コンクリート製の外階段を上る間、二人は少しばかり沈黙した。階段は細く、並んで上るには狭い。前後に並んで行くと、声が聞こえづらいのだ。
先を行く勇樹はポケットに手を突っ込み、一つ息をつく。
「あ」
階段を上りきったところで、友人は声をあげた。
「どした?」
「いや、いつからお前が変わったかなーと思ってたんだけど、あいつか? 一条」
勇樹はそれを聞いて、こっそりと天を仰いだ。話す気がなくても、気づかれれば仕方がない。
友人は面白そうに笑った。
「なにがあったんだよ。ん?」
「別にこれといってなんもねーよ」
「嘘だぁ」
二年の廊下に戻ったところで、友人は再び「あっ」と声をあげた。視線の先には春都がいた。
「ご本人発見!」
「春都は関係ねぇよ」
「えー? ほんと? なぁー、一条~」
「あっ、おい」
勇樹の制止は一歩遅かった。友人は春都の元へ向かう。一方の春都は見覚えもなければ交流のない人物に声をかけられ、戸惑っているようだった。ぱっと見の表情は平静を装っているが、目が泳いでいるのが隠せていない。
「えっと……?」
「なー、お前さ。なんで勇樹と仲良くなったの?」
「は?」
春都は勇樹に目を向ける。勇樹は「ごめん」というように片手をあげ、本当に申し訳なさそうな顔をした。春都は目の前の見知らぬ人物――もとい、勇樹の友人に気づかれないように息をついて口を開いた。
「……日直の時に、話が合って」
「それだけ?」
「それだけ」
なるべく話を早く切り上げたい春都は、力強く頷いた。勇樹の友人は「ふーん、そっか。そういうこともあるよな」と納得したようだった。
「なんか勇樹がさぁ、遠慮なくなったのって、お前が関係してんのかな、と」
それこそ、思い当たる節もかけらもなく、春都は今度こそ分かりやすく表情を変えた。勇気は笑いをこらえながら友人に言った。
「満足したろ? そういうことだ。……そういやお前、先生に呼ばれてなかったか?」
「あ、やっべ、そうだった。急に悪かったな、一条」
「お、おお」
友人が職員室に向かい始めてから、勇樹は春都に話しかけた。
「すまん、春都」
「何で笑ってる」
「いや、お前の顔が分かりやすく変わったなと……すげー不思議そうになったな……」
「いや、もうほんと、分かんねぇよ」
何もかも、と春都がつぶやいて、勇樹はうんうんと頷いた。
「春都ってほんとに、あれだな。自分に素直だな」
「……お前のこともよく分からん」
「あはは」
「笑ってんなよ」
友人は渡り廊下から、そんな二人の様子をちらっと見る。呆れたように笑う春都と、心の底から笑う勇樹。
「やっぱ関係あるじゃん」
そうつぶやいて、友人は弾むような足取りで職員室へ向かった。
部活の後、勇樹はコンビニに向かう。一日何食食べているか分からないが、部活の後は必ず腹が減る。その腹を家に帰るまでの間だけでも満たしておけるように、親からその分だけの小遣いはもらっていた。
「えーっと、ビッグアメリカンドッグとオールドファッションのチョコを一つ」
「はい」
ホットスナックのケースから出てきたアメリカンドッグとドーナツは、ほんのりと温かかった。
バス停のベンチに座り、勇樹はまず、アメリカンドッグを取り出した。
「いただきます」
ケチャップとマスタードが入ったケースをパキリと折ってアメリカンドッグに絞ると、勇樹はアメリカンドッグにかぶりついた。気持ちの良い食べっぷりだ。
サクサクと香ばしい表面、ふわふわとした甘味ある生地、塩気のあるソーセージ。ケチャップの酸味にマスタードのほのかな辛さがよく合う。もちろん、串の下の方についているカリカリも余すことなく食べる。
あっという間に食べ終わり、ドーナツを取り出す。チョコレートがかかったシンプルなドーナツは、勇樹にとっては小さいかもしれない。
ほろ苦く、コクもあるチョコレート、密度の高い生地、サクサクとしたところもあり、小さいが食べ応えがある。
飯を食うのが好きなやつと一緒にいると、自分も食欲が刺激されるのだろうか、と勇樹は思った。
明日は、何を食べようか。すっかり日の落ちた空には、ちらほらと星が見えていた。
「ごちそうさまでした」
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