一条春都の料理帖

藤里 侑

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日常

第五百十六話 カレーライス

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 いざ休みとなると、何をすればいいのか分からなくなる。普段は何かしらやりたいことがあるはずなのに、時間ができると、なんだっけ? ってなるんだなあ。
 まあ、今日はやることがある。部屋の片付けだ。ちょくちょく片付けてはいるんだがなあ、どうにも散らかってしまう。
 見覚えがあるようなないようなプリントの山、読みっぱなしの漫画、充電器につないだまましばらく起動していないゲーム。日ごろ使っている教科書の棚や鞄置きもなかなかのものである。
「何で一年の頃の教科書がこんなところに……」
 全部段ボールにしまっておいたと思っていたが、まだあったか。ああ、確か二年になっても使うかもしれないと思って出していたのか。使う気配ないよなあ、今のところ。ま、出しておくか。
 こっちはプリントの山だ。捨てようか否か悩んで、結局いつかいるかもしれないと保留にしていたやつだな。今の今まで忘れていたんだから、もう必要ないな。捨てよう。
「お、落書き発見」
 いつ描いたんだ、これ。てか何を描いたんだ、俺。卵か? なんか変なもん生えてきてるし。暇なときとか、無意識の時とか、そういう時に描いた絵って、ちょっと不気味なんだよなあ。捨てよ。
 これはいるやつ、これはいらない。あーっと、これは何だ。大量のジャージが。
「しかも上着ばっかり……」
 一回着て、また着るだろうと思って放っておいて、それを忘れてまた新しいのを着て……その繰り返しの結果がこれだ。どうりで最近、上着が足りないと思っていたんだ。
「洗うか」
 それなら他にもいろいろあるな。布団の隅にかたまったブランケット、椅子に引っかけたままのネックウォーマー。
 あ、ティッシュとかプリントとか巻きこんでないか見とかないと。
「ねー、母さん。これ洗っていい?」
 洋服の山を抱え、居間に出る。
「うわ何その洋服の山」
 前が見えないが、母さんの驚いた声はよく聞こえた。そして「あはは、これはまた、ため込んだなあ」という父さんの笑い声も聞こえた。
「よくやるよ、父さんも」
「よくやる、じゃないのよ。もっとこまめに洗いなさい」
「すんません」
 思わず父さんと声が重なる。
「洗濯はしておくから、片付けに戻っていいよ。で、お父さんもあるのかな?」
 母さんの静かな言葉に父さんが立ち上がる。
「えっと確か部屋に……」
「とりあえず出しといて」
 冬場って特に汗かかないし、外出するにしてもさらに上着を着るし、正直、汚れてない気がして放っておいてしまうんだよなあ……今度から気を付けよう。
 部屋に戻り、全体を眺めてみる。
 うーん、物は減ったが、全体的にごちゃっとしてんな。こまごましたものはあとで片づけるとして、とりあえず、散乱したものをあるべき場所へ収納しよう。
 教科書を一回全部出して、いらないプリント捨てて、棚を掃除したら教科書をきれいに入れていく。余ったスペースにはファイルを立てておこう。
 机の上は……まず文房具を筆箱やペン立てに戻し、必要なプリントや課題をとりあえず山積みにして、机拭いて、っと。プリント類はしまう場所を決めておいた方がよさそうだ。そんなことを毎年思いながら、数日で断念している気がする。
 鞄を置いている二段ボックスの上にでも置いておくか。
「こんなもんか……」
 カーペットをきれいに揃えたら……おお、なかなかいいんじゃないか。俺の部屋って結構広かったんだなあ。心なしか明るくなったようにも思う。
 布団もきれいにしたら完璧だ。あ、ぬいぐるみ。洗っていいのかな、こいつら。
「ねー、これってどうすればいいと思う?」
 居間にぬいぐるみを抱えて持って行くと、うめずが即座に反応した。
「わうっ」
「おー、うめず落ち着け」
「うぅ」
 何とかなだめて、ぬいぐるみをテーブルに置く。母さんは台所に立っていて、父さんは窓ふきを中断してやってくる。
「ぬいぐるみかあ。へたに洗うと取り返しのつかないことになるからねえ」
 と。父さんが遠い目をする。そういう目に遭ったことがあるのだろうか。それとも、誰かのぬいぐるみをそういう目に遭わせたことがあるのだろうか。
 母さんは台所で野菜を切りながら言った。
「乾燥機で乾かせばいいでしょ。今の洗濯が終わったら洗っていいんじゃない? ちゃんと表示見といてね」
「うっす」
 うん、どいつも洗えるし、乾燥機に入れても大丈夫そうだ。
 洗濯が終わったのでそれを干しながら、ぬいぐるみたちを洗う。ヒーターがついていると、人も乾くが洗濯物もよく乾く。
「……なんかいいにおいする」
 洗濯物の淡い香りにまぎれて、実にいい香りが漂ってきた。これはあれだ、カレーの匂いだ。
「今日の昼、カレー?」
「そうよー。夜もカレー。余ったら明日の朝まで」
 おお、カレー三昧。そういうのも悪くないな。味変にためらいがなくなるというか、思いっきり色々楽しめる。
 ひとまず今日は、普通に食べよう。
「いただきます」
 お、今日はジャガイモじゃなくて里芋かあ。
 ジャガイモよりもねっとり、トロッとしていて、カレールーと混ざり合う。ほくほくというより、とろっとろだな。うまいな。ジャガイモも好きだけど、里芋のカレーもかなり好きだ。
 ニンジン。甘いながらもスパイスをまとって、いい塩梅だ。程よくニンジンそのものの風味もしていいな。
 今日のルーはちょっと辛いから、チーズとかをかけてもよさそうだな。カレードリアとかうまそう。でも、このままでも十分うまい。食べている最中から食欲が増進されるようだ。米の甘さも際立って、最高にうまい。あー、香辛料のおかげか、体が温まる。
 お、玉ねぎ発見。サクサクしているような、ほくほくしているような、不思議な食感だ。
 肉は……豚か。この脂身の甘味が、カレーになると輝くんだなあ。もちろん身もうまい。にじみ出すうま味がたまんねえんだな。
 里芋がとろけて、カレーのルーの粘度が高くなっている。おかげで食べ応えが増している。もっと煮込むとトロットロになりそうだなあ。
 醤油をかける。そうそう、ここまで味わってこそだよな。ほんのり和風のカレー。らっきょうを添えると、酸味とらっきょうの味わいでさっぱりだ。ほんの少しのらっきょうの刺激が、より、カレーの香りを引き立てる。
 さて、夜はどうやって食べようかな。楽しみだ。

「ごちそうさまでした」
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