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日常
第五百六話 すき焼き
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今日は図書館が閉まっているので、昼休みの時間を持て余す。
「図書館開いてないと暇だなあ」
咲良がパイプ椅子の背もたれを前にし、それにもたれかかりながら言った。
「そうだな」
「学食でも行く? ケーキあるかも」
「寒いぞ」
「だよなぁ」
そうやってぼんやりと時間を過ごしていたら、山崎が乱入してきた。今は教室にいない中村の席に座ると、楽しそうに話し始めた。
「ね、ね、昨日結局なんかやった? なんか取れた?」
「あー、それがな……」
「え、昨日? 昨日って何? お前ら、昨日遊んだの?」
と、咲良が次々と疑問をぶつけてくる。それに答えたのは山崎だ。
「違うよー。昨日さぁ、雪ちゃんと遊んでたら、偶然ショッピングモールで会って。ゲーセンでちょこっと話しただけだよ」
「あ、そうなんだ」
「大丈夫、大事な友達を無断で取るようなことしないよ」
何でもないように山崎は言うと、話を元に戻した。
「で、昨日は結局、なんかやったの?」
「やった。入り口のところにあったでけぇぬいぐるみのやつ」
「あれかあ! あれ、かわいかったよねえ。何人かやってて、取れてなかったけど」
「一発で取れた」
「マジか!」
山崎はびっくりしたように大笑いして、咲良は身を乗り出して聞いてくる。
「なに、何取ったの」
「あれだよ、あれ」
例のゲームのキャラクターの名前を言うと、咲良は目を輝かせた。
「えっ、それのでかいやつ取ったんだ!」
「うん」
「すっげえー、俺、それ見てみたい!」
「今度な」
するとそこに中村が戻ってきた。
「おい、お前何で俺の席に座ってやがる」
「おかえりぃ、雪ちゃん」
山崎はどこうとする様子もなく、優雅に手を振っている。中村は早々に諦めて、立ったままでいることにしたらしい。それを見た咲良が、パイプ椅子から立ち上がる。
「こっちいいぞ。おれ、春都のところに座るから」
「なんだそれは」
「春都、ちょっと詰めて」
「ったく……」
椅子の半分を咲良に明渡し、中村は「なんか悪いな」と言いながらパイプ椅子の背もたれを後ろに向けて座った。なんだか奇妙な絵面だ。中村の席には山崎が座り、その中村はパイプ椅子に座っている。で、咲良は俺の椅子の半分を占領している。
「ねー、聞いてよ雪ちゃん。一条さぁ、昨日……」
山崎が先ほどまでの話を中村に話すと、中村は「マジかぁ」と笑った。
「じゃあ今、一条の家にはやつが居座ってるわけだ」
「そうそう。うめずがビビッてた」
「うめず?」
中村と山崎の声が見事に重なる。ああ、話してなかったっけ、そういや。うめずの説明をしようとしたところで、咲良が先に声を発した。
「春都んち、犬飼ってんだよ。でっけえゴールデンレトリバー」
「へぇ」
「そうなんだぁ」
「で、うちで飼ってるのはシェパードのアンデス!」
お前、それが言いたかっただけだろ。めっちゃ得意げに言うじゃん。
「え、じゃあどこに置いてるんだ、ぬいぐるみ」
中村が話を戻す。
「居間。部屋はまだ置き場がねぇ」
「うめずがいるのは?」
「居間」
「かわいそうじゃないか、それ」
いやいや、うちのうめずを侮らないでいただきたい。
「すぐ慣れて、もうなんか、ずっと昔からうちにあったものみたいな扱いになってる」
「すげえな、うめず」
咲良が驚いたような、面白そうな声で言い、笑った。
と、ここでチャイムが鳴った。なんだ、あっという間だったな。だらだら話してただけだけど、ま、たまにはこういう昼休みもいいもんだなあ。
風呂に入り、ホカホカしたままぬいぐるみにダイブする。うーん、いい弾力。サイズ感もちょうどいいし、こりゃ、ゲームするときにもってこいだなあ。ほのかに温まってるってのがいい。
「ご飯できたよ~」
「うーい」
さっきから甘い匂いがしているが……この匂い、たぶん今日は、すき焼きだな。
……正解!
「いただきます」
鶏肉に……あ、豚肉も入ってる。豆腐と白菜と……あとはこんにゃく、糸こんよりも太めのやつだ。それとえのきにぶなしめじ。いいねえ、うまそうだ。
まずは鶏肉から。生卵はつけない。つけてもうまいけど、今日はつけない気分だ。
甘辛い味が染みた鶏肉は、なんとなくもちもちしているような感じがする。ジュワッと鶏のうま味が染み出してきてうまい。皮もついてる。プルンプルンだなあ。豚の脂とはまた違う風味がうまい。
豚肉はひらひらしている。味を吸ってしっかり火が通って、ちょっと食感はかためだが、これがうまい。白米に合うなあ。脂身は程よくぷりっぷりだ。甘みがあっていい。
豆腐は、表面は茶色く染まり、割ると白い……おや、今日はずいぶん染みているなあ。これもまたよし。木綿だから絹ごしよりも歯ごたえがあるような気がする。いや、歯ごたえというより口当たりの違いかな。豆腐の味がしっかり分かる。
えのきはのどに詰まらないようにしないと。ぶなしめじもだけど、きのこってホント、うま味たっぷりだよなあ。食感もいい。
白菜はトロットロだなあ。葉も、白いところも、トロットロで甘い。飲めそうなくらいだ。
こんにゃくのこの独特の食感、めっちゃ好きだ。麺みたいにして食べてもいい……あ、すっごい味染みてる。特に豚肉、豚肉の風味が移っててうまい。
ご飯にのせてすき焼き丼。つゆだくのご飯をさらさらとかきこむのがうまいんだなあ。
甘くて温かい鍋、冬にぴったりだなあ。
「ごちそうさまでした」
「図書館開いてないと暇だなあ」
咲良がパイプ椅子の背もたれを前にし、それにもたれかかりながら言った。
「そうだな」
「学食でも行く? ケーキあるかも」
「寒いぞ」
「だよなぁ」
そうやってぼんやりと時間を過ごしていたら、山崎が乱入してきた。今は教室にいない中村の席に座ると、楽しそうに話し始めた。
「ね、ね、昨日結局なんかやった? なんか取れた?」
「あー、それがな……」
「え、昨日? 昨日って何? お前ら、昨日遊んだの?」
と、咲良が次々と疑問をぶつけてくる。それに答えたのは山崎だ。
「違うよー。昨日さぁ、雪ちゃんと遊んでたら、偶然ショッピングモールで会って。ゲーセンでちょこっと話しただけだよ」
「あ、そうなんだ」
「大丈夫、大事な友達を無断で取るようなことしないよ」
何でもないように山崎は言うと、話を元に戻した。
「で、昨日は結局、なんかやったの?」
「やった。入り口のところにあったでけぇぬいぐるみのやつ」
「あれかあ! あれ、かわいかったよねえ。何人かやってて、取れてなかったけど」
「一発で取れた」
「マジか!」
山崎はびっくりしたように大笑いして、咲良は身を乗り出して聞いてくる。
「なに、何取ったの」
「あれだよ、あれ」
例のゲームのキャラクターの名前を言うと、咲良は目を輝かせた。
「えっ、それのでかいやつ取ったんだ!」
「うん」
「すっげえー、俺、それ見てみたい!」
「今度な」
するとそこに中村が戻ってきた。
「おい、お前何で俺の席に座ってやがる」
「おかえりぃ、雪ちゃん」
山崎はどこうとする様子もなく、優雅に手を振っている。中村は早々に諦めて、立ったままでいることにしたらしい。それを見た咲良が、パイプ椅子から立ち上がる。
「こっちいいぞ。おれ、春都のところに座るから」
「なんだそれは」
「春都、ちょっと詰めて」
「ったく……」
椅子の半分を咲良に明渡し、中村は「なんか悪いな」と言いながらパイプ椅子の背もたれを後ろに向けて座った。なんだか奇妙な絵面だ。中村の席には山崎が座り、その中村はパイプ椅子に座っている。で、咲良は俺の椅子の半分を占領している。
「ねー、聞いてよ雪ちゃん。一条さぁ、昨日……」
山崎が先ほどまでの話を中村に話すと、中村は「マジかぁ」と笑った。
「じゃあ今、一条の家にはやつが居座ってるわけだ」
「そうそう。うめずがビビッてた」
「うめず?」
中村と山崎の声が見事に重なる。ああ、話してなかったっけ、そういや。うめずの説明をしようとしたところで、咲良が先に声を発した。
「春都んち、犬飼ってんだよ。でっけえゴールデンレトリバー」
「へぇ」
「そうなんだぁ」
「で、うちで飼ってるのはシェパードのアンデス!」
お前、それが言いたかっただけだろ。めっちゃ得意げに言うじゃん。
「え、じゃあどこに置いてるんだ、ぬいぐるみ」
中村が話を戻す。
「居間。部屋はまだ置き場がねぇ」
「うめずがいるのは?」
「居間」
「かわいそうじゃないか、それ」
いやいや、うちのうめずを侮らないでいただきたい。
「すぐ慣れて、もうなんか、ずっと昔からうちにあったものみたいな扱いになってる」
「すげえな、うめず」
咲良が驚いたような、面白そうな声で言い、笑った。
と、ここでチャイムが鳴った。なんだ、あっという間だったな。だらだら話してただけだけど、ま、たまにはこういう昼休みもいいもんだなあ。
風呂に入り、ホカホカしたままぬいぐるみにダイブする。うーん、いい弾力。サイズ感もちょうどいいし、こりゃ、ゲームするときにもってこいだなあ。ほのかに温まってるってのがいい。
「ご飯できたよ~」
「うーい」
さっきから甘い匂いがしているが……この匂い、たぶん今日は、すき焼きだな。
……正解!
「いただきます」
鶏肉に……あ、豚肉も入ってる。豆腐と白菜と……あとはこんにゃく、糸こんよりも太めのやつだ。それとえのきにぶなしめじ。いいねえ、うまそうだ。
まずは鶏肉から。生卵はつけない。つけてもうまいけど、今日はつけない気分だ。
甘辛い味が染みた鶏肉は、なんとなくもちもちしているような感じがする。ジュワッと鶏のうま味が染み出してきてうまい。皮もついてる。プルンプルンだなあ。豚の脂とはまた違う風味がうまい。
豚肉はひらひらしている。味を吸ってしっかり火が通って、ちょっと食感はかためだが、これがうまい。白米に合うなあ。脂身は程よくぷりっぷりだ。甘みがあっていい。
豆腐は、表面は茶色く染まり、割ると白い……おや、今日はずいぶん染みているなあ。これもまたよし。木綿だから絹ごしよりも歯ごたえがあるような気がする。いや、歯ごたえというより口当たりの違いかな。豆腐の味がしっかり分かる。
えのきはのどに詰まらないようにしないと。ぶなしめじもだけど、きのこってホント、うま味たっぷりだよなあ。食感もいい。
白菜はトロットロだなあ。葉も、白いところも、トロットロで甘い。飲めそうなくらいだ。
こんにゃくのこの独特の食感、めっちゃ好きだ。麺みたいにして食べてもいい……あ、すっごい味染みてる。特に豚肉、豚肉の風味が移っててうまい。
ご飯にのせてすき焼き丼。つゆだくのご飯をさらさらとかきこむのがうまいんだなあ。
甘くて温かい鍋、冬にぴったりだなあ。
「ごちそうさまでした」
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