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日常
第四百九十八話 オムライス弁当
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あー、さっむい。ほんと寒い。十二月になって本当に冷え込みが増してきた。何だよ、十一月と十二月の狭間で何があったっていうんだ。季節に文句をいったってどうしようもないが、こんな中を登校するんだ。ちょっとくらいいわせてくれ。
「あ~、春都~、寒い~、おはよう~」
校門をくぐったタイミングで、後ろから突撃してきたのは咲良だ。
「ああ、おはよ……ぐえ」
勢い余って激突する。いってえな。じろっと見れば、咲良はもこもこのマフラーに顔をうずめ、にこにこ笑っていた。
「あはは、ごめんごめん」
「もうちょい加減というものを知れ、咲良……」
「俺はノリと勢いで生きてるからさ」
「前向きと無謀は別物だ」
お、駐輪場から見知ったやつが来てる。完全防備だな。冬の自転車、バイクはちゃんと防寒しないととんでもないことになるからなあ。
「あっ、百瀬じゃん。もーもせー!」
咲良が呼びかけると、百瀬はぶんぶんと手を振り、こちらにやってきた。
「おはよぉー、寒いねえー」
「おはよう。こんな日も自転車なんだな」
聞けば百瀬は「まあねぇ」と言いながら手袋を外す。
「こんだけ防寒してても寒いよ~。そりゃっ」
そしてその手を咲良の頬に近づける。咲良のほうが背が高いので、百瀬はつま先立ちになっていた。
「うわぁ、やめろやめろ! 冷たい!」
「はっはは」
「笑い事じゃないぞ、春都」
「どんどんやれ、百瀬」
「よし来た!」
二人の攻防は昇降口についても続く。それを見ていたら、ぬっと大きな人影が隣にやってきた。
「うわ、びっくりした」
「……おはよう」
「その声は朝比奈だな?」
そう確認したのは、声を発したその人物の顔が見えなかったからである。ネックウォーマーに長い前髪、もこもこに着こんだ上着からは、元の体形は推し量ることができない。どんだけ着こんでんだこいつは。
玉ねぎの皮をはがすように……いや、これは玉ねぎというよりたけのこの皮かな。剥くように上着を脱ぎ、ネックウォーマーを外す。ああ、やっぱり朝比奈だ。
「おはよう。相変わらずだな」
「寒い……何で昇降口で脱がなきゃいけないんだ」
「ほんとそれな」
咲良と百瀬はやっと満足がいったのか、実にすっきりした表情でこちらにやってきた。にこにこホカホカしている様子の二人を見て、朝比奈は信じられないというような表情で言った。
「お前ら、なんでそんなに元気なんだ?」
「動けば温かいよ~」
百瀬が指をウゴウゴさせながら朝比奈に近寄る。朝比奈は光の速さで飛びのいた。それを見て百瀬が笑う。
「ビビり過ぎ~」
「だってお前、手、冷たいじゃん……」
「心が温かいんだよ」
「あー、それよく聞くよなあ」
そう言いながら、咲良が俺の隣に来て聞いてくる。
「俺は温かいから、心が冷たいのかね?」
「ただの子ども体温だろ」
「あー、なるほど。ま、俺は心が温かいことで有名だからな」
「初耳だ」
四人そろって階段を行く。
「ううう……寒い……」
「そんなにか。大丈夫か、お前」
パーカーも着て、学ランの下にはきっとカーディガンも着ているのだろう。冬毛になった猫や寒雀のようにもこもこしている朝比奈である。
「これからもっと寒くなるのに」
百瀬はポカポカと頬を紅潮させ、むしろ暑いといわんばかりに腕をまくって言う。
「大丈夫だ。まだカイロは使ってない」
やたらかっこつけて朝比奈は言うが、それは威張ることなのだろうか。
「俺、今日は昼飯温かいんだよね」
咲良はただただ、楽しそうに言った。
「保温弁当にしてもらった」
「そうか、よかったな」
廊下の窓はきっちり閉ざされていたが、理系の方から順に、先生が開けていっているのが見えた。空気の入れ替えか。
朝比奈はそれを実に恨めしそうに見ていた。
咲良の弁当箱は俺のとよく似ていたが、色が違う。俺のはシルバーだが、咲良のは黒い。
「いただきます」
さて、俺の今日の弁当は……
「おっ、オムライスか」
「いいねえ。俺はいつも通り」
いつも通りの温かいやつ、ってのもいいが、いつもとちょっと違う内容の弁当もいいもんだ。
黄色い薄焼き卵の上にはケチャップがちゃんとかかっている。小さなスプーンですくって食べるのもまた、弁当の醍醐味だよなあ。
塩こしょうの風味が少しする卵、甘めの味付けのチキンライス、ほのかな酸味のケチャップ。うまい。かた焼き卵ってのがまたいい。鶏肉はささみか。ぱさっと淡白な食感が、たっぷりのケチャップと相性がいい。ピーマンのほろ苦さと、細かい玉ねぎの甘味もまた、オムライスのうまさを際立てる。
おかずはブロッコリーの塩ゆでにマヨネーズがかかったものとプチトマト、豚肉を塩こしょうで炒めたものだ。ブロッコリーはほぐしながら少しずつ味わうのも好きだが、がぶっと一口でいくのも好きだ。ほのかに塩気が残ってるのがいい。ジュワッと味が染み出してきて、マヨネーズとの相性が抜群なんだ。
プチトマトは少し焼いてあってちょっと甘い。
豚肉のシンプルな塩コショウ味と、甘い脂身、肉のうま味が、柔らかな味の合間にちょうどいい刺激となる。
より一層、オムライスをうまく食えるわけだ。
スープは……コンソメだ。じんわりと広がる、日本の出汁とはまた違ったうま味が体を芯から温める。薄切りの玉ねぎがまたいい。シャキシャキで、ほろほろと甘い。
洋風の弁当ってのも、いいもんだな。
これから先、どんな弁当が食えるだろうか。この冬も楽しみだなあ。
「ごちそうさまでした」
「あ~、春都~、寒い~、おはよう~」
校門をくぐったタイミングで、後ろから突撃してきたのは咲良だ。
「ああ、おはよ……ぐえ」
勢い余って激突する。いってえな。じろっと見れば、咲良はもこもこのマフラーに顔をうずめ、にこにこ笑っていた。
「あはは、ごめんごめん」
「もうちょい加減というものを知れ、咲良……」
「俺はノリと勢いで生きてるからさ」
「前向きと無謀は別物だ」
お、駐輪場から見知ったやつが来てる。完全防備だな。冬の自転車、バイクはちゃんと防寒しないととんでもないことになるからなあ。
「あっ、百瀬じゃん。もーもせー!」
咲良が呼びかけると、百瀬はぶんぶんと手を振り、こちらにやってきた。
「おはよぉー、寒いねえー」
「おはよう。こんな日も自転車なんだな」
聞けば百瀬は「まあねぇ」と言いながら手袋を外す。
「こんだけ防寒してても寒いよ~。そりゃっ」
そしてその手を咲良の頬に近づける。咲良のほうが背が高いので、百瀬はつま先立ちになっていた。
「うわぁ、やめろやめろ! 冷たい!」
「はっはは」
「笑い事じゃないぞ、春都」
「どんどんやれ、百瀬」
「よし来た!」
二人の攻防は昇降口についても続く。それを見ていたら、ぬっと大きな人影が隣にやってきた。
「うわ、びっくりした」
「……おはよう」
「その声は朝比奈だな?」
そう確認したのは、声を発したその人物の顔が見えなかったからである。ネックウォーマーに長い前髪、もこもこに着こんだ上着からは、元の体形は推し量ることができない。どんだけ着こんでんだこいつは。
玉ねぎの皮をはがすように……いや、これは玉ねぎというよりたけのこの皮かな。剥くように上着を脱ぎ、ネックウォーマーを外す。ああ、やっぱり朝比奈だ。
「おはよう。相変わらずだな」
「寒い……何で昇降口で脱がなきゃいけないんだ」
「ほんとそれな」
咲良と百瀬はやっと満足がいったのか、実にすっきりした表情でこちらにやってきた。にこにこホカホカしている様子の二人を見て、朝比奈は信じられないというような表情で言った。
「お前ら、なんでそんなに元気なんだ?」
「動けば温かいよ~」
百瀬が指をウゴウゴさせながら朝比奈に近寄る。朝比奈は光の速さで飛びのいた。それを見て百瀬が笑う。
「ビビり過ぎ~」
「だってお前、手、冷たいじゃん……」
「心が温かいんだよ」
「あー、それよく聞くよなあ」
そう言いながら、咲良が俺の隣に来て聞いてくる。
「俺は温かいから、心が冷たいのかね?」
「ただの子ども体温だろ」
「あー、なるほど。ま、俺は心が温かいことで有名だからな」
「初耳だ」
四人そろって階段を行く。
「ううう……寒い……」
「そんなにか。大丈夫か、お前」
パーカーも着て、学ランの下にはきっとカーディガンも着ているのだろう。冬毛になった猫や寒雀のようにもこもこしている朝比奈である。
「これからもっと寒くなるのに」
百瀬はポカポカと頬を紅潮させ、むしろ暑いといわんばかりに腕をまくって言う。
「大丈夫だ。まだカイロは使ってない」
やたらかっこつけて朝比奈は言うが、それは威張ることなのだろうか。
「俺、今日は昼飯温かいんだよね」
咲良はただただ、楽しそうに言った。
「保温弁当にしてもらった」
「そうか、よかったな」
廊下の窓はきっちり閉ざされていたが、理系の方から順に、先生が開けていっているのが見えた。空気の入れ替えか。
朝比奈はそれを実に恨めしそうに見ていた。
咲良の弁当箱は俺のとよく似ていたが、色が違う。俺のはシルバーだが、咲良のは黒い。
「いただきます」
さて、俺の今日の弁当は……
「おっ、オムライスか」
「いいねえ。俺はいつも通り」
いつも通りの温かいやつ、ってのもいいが、いつもとちょっと違う内容の弁当もいいもんだ。
黄色い薄焼き卵の上にはケチャップがちゃんとかかっている。小さなスプーンですくって食べるのもまた、弁当の醍醐味だよなあ。
塩こしょうの風味が少しする卵、甘めの味付けのチキンライス、ほのかな酸味のケチャップ。うまい。かた焼き卵ってのがまたいい。鶏肉はささみか。ぱさっと淡白な食感が、たっぷりのケチャップと相性がいい。ピーマンのほろ苦さと、細かい玉ねぎの甘味もまた、オムライスのうまさを際立てる。
おかずはブロッコリーの塩ゆでにマヨネーズがかかったものとプチトマト、豚肉を塩こしょうで炒めたものだ。ブロッコリーはほぐしながら少しずつ味わうのも好きだが、がぶっと一口でいくのも好きだ。ほのかに塩気が残ってるのがいい。ジュワッと味が染み出してきて、マヨネーズとの相性が抜群なんだ。
プチトマトは少し焼いてあってちょっと甘い。
豚肉のシンプルな塩コショウ味と、甘い脂身、肉のうま味が、柔らかな味の合間にちょうどいい刺激となる。
より一層、オムライスをうまく食えるわけだ。
スープは……コンソメだ。じんわりと広がる、日本の出汁とはまた違ったうま味が体を芯から温める。薄切りの玉ねぎがまたいい。シャキシャキで、ほろほろと甘い。
洋風の弁当ってのも、いいもんだな。
これから先、どんな弁当が食えるだろうか。この冬も楽しみだなあ。
「ごちそうさまでした」
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