一条春都の料理帖

藤里 侑

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日常

第四百七十二話 炊き込みご飯

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 晩飯を食って、明日の準備も終わらせて、一段落。もう寝てしまいたいが、今日はもう一つやることがある。
「さて、やるかあ」
 それは明日の飯の準備。炊き込みご飯を作っておけば、色々楽なんだよな。
 えーっと、えのきにまいたけ、ニンジン、鶏肉。これだけの具材があれば十分だろう。いやあ、久々に作るなあ。
 まずは具材を細かくしていく。えのきは小さく、それでいて細かすぎないくらいの大きさに。まいたけは手で割いた方がいいな。ニンジンは細切りにする。鶏肉はすでに細切れになっているからそのままで良し。
 鶏肉には、醤油と酒でちょっとだけ下味をつけておく。
 研いだ米に、醤油、みりん、酒といった調味料を入れ、目盛りまで水を入れたら、最後に具を入れる。
 あとは炊飯器で炊けば、ばっちりだ。明日の朝、炊きあがるようにしておこう。
「ふぁ……眠いな……」
 連日部活に顔出して、帰りが遅いからなあ。まあ、大会までの辛抱だ。
 もう一度炊飯器のタイマー表示を見、ちゃんとセットされていることを確認してから部屋に向かう。セットしてなくて、明日の朝、生米でしたーなんてことになったら大変だからなあ。
 さ、寝よう寝よう。寝不足は、健康の大敵だ。

 朝起きて居間に出ると、ものすごくいいにおいがする。おお、うまく炊けたようだ。
 身支度をさっと済ませ、まずは昼飯の用意から。といっても、炊けた飯を握るだけだ。
「お、いい感じだな」
 具材が全体に行き渡るように、炊飯ジャーから零れ落ちないように、さっくり、しっかりと混ぜる。おおー、おこげもほんのりできてる。こりゃあうまそうだ。
 ラップにのせ、ぎゅっと握る。熱々で握りづらいな。
 あまり力を入れすぎると餅みたいになるが、炊き込みご飯の場合は、具がこぼれないようにある程度しっかり握っておきたいものである。鶏肉とかがこぼれて落ちると、結構ショックなんだなあ、これが。
 四つぐらい作れば足りるか。おかずは小さい弁当箱にいくつか詰める。冷凍のつくねにえびシュウマイ、それと卵焼き、プチトマト。
 よーし、昼飯はこんなもんか。
 朝飯はどんぶりによそう。余った卵焼きをおかずにしようかな。
「いただきます」
 さあ、味はどうかな。
 うんうん、なかなかいける。醤油の香ばしさにほんのり甘い香りが加わって、食べているうちから食欲をそそる。ニンジンは程よくホロホロで、よく味が染みているなあ。えのきの食感もいい。まいたけは相変わらず、いいうま味を出してんなあ。
 おっ、鶏肉、下味付けたのが功を奏したようだ。ホロっとほどけるような食感にしっかりと醤油の味がして香ばしく、立ち上る香りもうまい。おこげもうまいもんだ。
 さて、おかわりはお茶漬けで。これが楽しみで炊き込みご飯食ってるところある。
 さらさらっと口当たりがよく、お茶にも塩気が染み出してうま味が増すようだ。ほんのり冷めるのもいいんだなあ。
 箸休めに卵焼きがよく合うことだ。ん、今日の卵焼き、いい感じだな。砂糖の量がちょうどよかったのか、卵臭さもなく、うまい。なるほど、卵三つに砂糖大さじ三と三分の二か。今度からちょっと意識してみるかな。
「ごちそうさまでした」

 学校って、一つのテストが終わるとすぐまた別のテストが始まるよなあ。
「……はい、以上でこの単元は終わりです。期末の範囲になるから、復習はしっかりね」
 つい最近中間テストが終わった気がするのだが、もう期末の話か。国語の分厚い教科書に付箋を貼りながら思う。頬杖を突き、ぺらぺらと次の単元のページを開く。ここも範囲になるのかなあ。
「次の単元に進むには……時間が足りないか」
 ふと腕時計を見る。授業終了まであと五分ちょっと、ってところか。
「よし、それじゃあ各自、自習の時間にします。分からないところあったら聞きに来てね」
 自習、という単語が出たとたん、教室の空気が緩む。特に昼休み前だから、余計に気だるい空気だ。腹減ってるし、疲れてるし、眠いし。授業は時間が進むにつれ、中だるみしたような空気になりやすい。
 特にやることもないし、別の教科の勉強をするわけにもいかないので、次の範囲を読んでおくことにする。次は評論かあ……小説の方がなんか好きなんだよなあ。
 それにしても、楽しいことやってるときとかスマホ見てるときの五分はあっという間なのに、こういう、授業で余った時間とか、苦手な科目の授業とかの五分ってどうしてこう、長いんだろう。
 うーん、持て余す。
「あ、そうだ。こないだの中間は漢字がすっごく悪かったから、今度、抜き打ちで漢字テストやるからね」
 授業終了間際になってとんでもない爆弾を落とすなあ、先生。期末までの授業のうち、どっかの一時間が漢字テストになるらしい。そんながっつりした漢字のテストって小学校ぶりじゃないか。
 ざわめく教室に無情にもチャイムが響き、先生はさっさと片付けて「はい号令ー」と何事もなかったかのように言う。
 挨拶を終え、再び椅子に座る。まあ、いつも通りやっとけば何とかなるか。
 さー、そんなことより飯だ、飯。いつあるか分かんねえ漢字テストより、大事なのは、今腹が減っているという事実である。
「いただきます」
 ラップに包まれたおにぎりを取り出すとき、とてもワクワクする。少しの水滴を払い、口に運ぶまでの動作がなんだか楽しいんだ。
 んー、朝食った熱々の炊き込みご飯と比べて、香ばしさが増した気がする。やっぱり、温度でも味わいって変わるんだなあ。あんまり冷め過ぎた炊き込みご飯はもそもそしていて微妙な味になるけど、これはいい冷め方だ。もっちりとしていながらほろっともしていて、炊き込みご飯のおいしさがよく分かる。
 鶏肉、冷めると特に、下味の大事さが分かるな。皮も程よくプリッとしていて、モチモチだ。ニンジンの甘さもよく分かる。
 えのきもうまいなあ。ジャキジャキした食感に、染み出すうま味。癖になるようだ。まいたけの食感もまた違っていい。香りとうま味が抜群だ。
 さて、おかずも食べよう。
 えびシュウマイは皮もぷりっぷりなんだよなあ。もちもちのえびすり身に、ささやかにのせられたプリプリのえび。しっかりえびの味がしながらも、癖はなく、醤油が合う。揚げてもうまいんだよなあ、これ。
 つくねは肉の食べ応えとたれの甘辛さがたまらない。カリッとした部分があるんだよなあ。二つくっついたつくねの狭間。その部分がカリカリのもちもちでうまいんだ。
 ん、卵焼き、やっぱこれがベストなバランスのようだ。冷めてもうまい。
 そしてまたおにぎりに戻る。んー、うまい。具だくさんで食べ応えあって、飽きない。茶碗蒸しも一緒にあると、よりうれしいんだよなあ。
 今度は休みの日に作るかなあ。茶碗蒸しも一緒に。

「ごちそうさまでした」
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