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日常
第四百六十九話 ハンバーガー
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すっかり元気になると、やはり、時間を持て余す。
のんびり、まったり過ごすのも悪くないのだがなあ。飽きるってわけじゃないけど、思考回路が鈍るようだ。ぼんやりする。
「なーにしよっかなあー」
居間でゴロンゴロンと寝返りを打っても退屈は紛れない。窓際の定位置に座っていたうめずが立ち上がり、こちらにやってくる気配を感じた。
「わーうっ」
「ぐえ、うめず、重いー」
「わふっ」
寝返りを打っているのを遊んでいるのだと勘違いしたのか、うめずは腹の上にのしかかろうとしてくる。子犬の感覚で来るんじゃないよ。お前、もう結構な大きさなんだぞ。苦しいんだって。
何とかうめずを引きずりおろして、代わりに俺がうめずに軽く頭をのせる。うめずはびくともせず、顔をすり寄せてきた。
「温かいなあ、お前」
こたつやストーブとはまた違う、脈打つような温かさになんとなくほっとする。
「あー……やっぱこのまんまゆっくりしてるかぁ」
「わふっ」
「なー」
うん、時間を持て余すのも悪くない気がしてきたぞ。ゆっくりのんびり、訪れる眠気のままに温かい部屋で昼寝をするのも……
「んぁ、あれなんだ」
視界の端に映る、積み上げられた本。見覚えがないというか、あるにはあるけど、うちにミスマッチな感じの雰囲気の本だ。うむ、あれは、図書館の本だな。市立図書館の方。
「……いつ借りたんだっけ」
這うようにして本に近づく。えーっと、貸出レシートは……あったあった。うげ、一週間も延滞してる。こりゃさすがに返しに行かないとなあ。
「はー……うめず」
うめずを振り返る。うめずは、きょとんとこちらを見つめ返した。
「散歩行くか?」
「わうっ!」
食い気味に返事をするうめずである。よーし、こうなったら腹ぁくくるしかねえ。
はーあ、さっきまで暇だ何だと思ってたけど、いざ出かけると思うと億劫になるなあ。この現象、何だろう。出かけてしまえば何とかなるんだが、出かけるまでがなあ。
「わーう、わうっ」
「はいはい。今行きますよ」
荷物を準備し、うめずに急かされるように玄関へ向かう。
きっと外は、寒いんだろうなあ。
思ったよりも寒くなくてほっとしたのもつかの間、日陰で吹く風があまりにも冷たくて身をすくめる。うめずはといえば、尻尾を揺らしながら、嬉々として歩みを進めている。
「お前元気だなー」
「わうっ」
図書館までは、最初は遠いなあと思っていたけど、最近ではそうでもなくなった。ひとけのない道を選んでいくと少々遠回りにはなるが、うめずと一緒に歩くにはちょうどいい距離になる。
ちゃっちゃっとうめずの軽快な足音が、静かな住宅街に響く。空が高い。もうすっかり、冬っぽくなっちゃったなあ。
「ちょっとだけ外で待っといてくれるか」
「わう」
うめずは基本、好奇心旺盛で、気になったものや楽しそうなものには突進していくが、こういう静かに待っていてほしいときは大人しく待っていてくれるのでありがたい。うめずは、穏やかな性格でもある。
「お、あったかい」
図書館内は過ごしやすい程度の暖かさだ。しかしこの温度差、気を付けないとまた風邪をひくぞ。
「返却お願いします」
「はい」
新しく借りるのは……やめておこう。返しに行く暇がないかもしれないからなあ。でも本棚は眺めたい。うめずを待たせているからゆっくりはできないけど、少しだけ見ていこう。
おお、新刊も入ってる。あ、料理の本もあるなあ。
こういう料理の本に載ってるのって、普段使わないような材料とかもあるから、何ともいえないんだよなあ。うまそうだけど。うーん、なんか家で作れそうなの、ないかなあ。
……ないなあ。ま、いいや。今日明日急いで作らないといけないものがあるわけでもないし。また今度ゆっくり見よう。しっかり材料をそろえて料理をするのも、たまには悪くない。ただ、その材料を調達する場所を探しとかないといけないなあ。
「お待たせ、うめず」
「わう」
さて、今日の昼飯はどうしようか。帰りになんか買っていくか、それとも、家で作るか。うーん、悩みどころだ。なんかがっつりしたものを食べたいんだが。
「そうだ」
ハンバーガー、買っていこう。クーポンがあるから安くなるはずだ。
それに、最近入れたキャッシュレス決済のアプリ、使ってみたかったんだよなあ。今はポイント返ってくるらしいし、使っちゃえ。
「よーし、うめず、行くぞ」
「わうっ」
ふふ、実質三割引きで買えてしまった。いやあ、お得っていいな。
「いただきます」
大きなハンバーガーは箱に入っている。ふわふわのバンズはほんのり温かく、肉は二枚、野菜もたっぷりだ。
うん、うん、この重量感のある口当たりに濃い味付け。うまいなあ。今、体が欲していたもののように思える。タルタルソースに似て非なる玉ねぎとマヨネーズのソースはまろやかで、野菜にも肉にも合う。おっと、中身がこぼれそうだ。
そんで、このジャンクな味には炭酸がよく合う。透き通った甘い炭酸は、ほんのりライムの香りがしていてすっきりする。
うめずも今、絶賛水分補給中だ。いつもと同じ水でも、ずいぶんおいしそうに飲んでいる。
さて、次はポテトを食べよう。揚げたてでカリッカリのほくほくだ。今日はちょっと塩が濃い目に感じる。ハンバーガーのソースをポテトにつけるのもうまい。
ハンバーガーは、半ばに差し掛かるとしっとり感が増すように思う。ピクルスのほのかな酸味とチーズのまろやかさが出始める頃だ。うん、うまいなあ。たまに食うと余計にうまい。
キャッシュレス決済、思ったより簡単だったな。手軽だったし、なんか面白かった。今までなんで敬遠してたんだろう。音もなんか軽快で楽しかった。あと、できる人って感じするし、ポイントがたまってうれしい。
ポイントがたまるうちに、いろんな店行ってみようかなあ。ハンバーガーも、また食べよう。
「ごちそうさまでした」
のんびり、まったり過ごすのも悪くないのだがなあ。飽きるってわけじゃないけど、思考回路が鈍るようだ。ぼんやりする。
「なーにしよっかなあー」
居間でゴロンゴロンと寝返りを打っても退屈は紛れない。窓際の定位置に座っていたうめずが立ち上がり、こちらにやってくる気配を感じた。
「わーうっ」
「ぐえ、うめず、重いー」
「わふっ」
寝返りを打っているのを遊んでいるのだと勘違いしたのか、うめずは腹の上にのしかかろうとしてくる。子犬の感覚で来るんじゃないよ。お前、もう結構な大きさなんだぞ。苦しいんだって。
何とかうめずを引きずりおろして、代わりに俺がうめずに軽く頭をのせる。うめずはびくともせず、顔をすり寄せてきた。
「温かいなあ、お前」
こたつやストーブとはまた違う、脈打つような温かさになんとなくほっとする。
「あー……やっぱこのまんまゆっくりしてるかぁ」
「わふっ」
「なー」
うん、時間を持て余すのも悪くない気がしてきたぞ。ゆっくりのんびり、訪れる眠気のままに温かい部屋で昼寝をするのも……
「んぁ、あれなんだ」
視界の端に映る、積み上げられた本。見覚えがないというか、あるにはあるけど、うちにミスマッチな感じの雰囲気の本だ。うむ、あれは、図書館の本だな。市立図書館の方。
「……いつ借りたんだっけ」
這うようにして本に近づく。えーっと、貸出レシートは……あったあった。うげ、一週間も延滞してる。こりゃさすがに返しに行かないとなあ。
「はー……うめず」
うめずを振り返る。うめずは、きょとんとこちらを見つめ返した。
「散歩行くか?」
「わうっ!」
食い気味に返事をするうめずである。よーし、こうなったら腹ぁくくるしかねえ。
はーあ、さっきまで暇だ何だと思ってたけど、いざ出かけると思うと億劫になるなあ。この現象、何だろう。出かけてしまえば何とかなるんだが、出かけるまでがなあ。
「わーう、わうっ」
「はいはい。今行きますよ」
荷物を準備し、うめずに急かされるように玄関へ向かう。
きっと外は、寒いんだろうなあ。
思ったよりも寒くなくてほっとしたのもつかの間、日陰で吹く風があまりにも冷たくて身をすくめる。うめずはといえば、尻尾を揺らしながら、嬉々として歩みを進めている。
「お前元気だなー」
「わうっ」
図書館までは、最初は遠いなあと思っていたけど、最近ではそうでもなくなった。ひとけのない道を選んでいくと少々遠回りにはなるが、うめずと一緒に歩くにはちょうどいい距離になる。
ちゃっちゃっとうめずの軽快な足音が、静かな住宅街に響く。空が高い。もうすっかり、冬っぽくなっちゃったなあ。
「ちょっとだけ外で待っといてくれるか」
「わう」
うめずは基本、好奇心旺盛で、気になったものや楽しそうなものには突進していくが、こういう静かに待っていてほしいときは大人しく待っていてくれるのでありがたい。うめずは、穏やかな性格でもある。
「お、あったかい」
図書館内は過ごしやすい程度の暖かさだ。しかしこの温度差、気を付けないとまた風邪をひくぞ。
「返却お願いします」
「はい」
新しく借りるのは……やめておこう。返しに行く暇がないかもしれないからなあ。でも本棚は眺めたい。うめずを待たせているからゆっくりはできないけど、少しだけ見ていこう。
おお、新刊も入ってる。あ、料理の本もあるなあ。
こういう料理の本に載ってるのって、普段使わないような材料とかもあるから、何ともいえないんだよなあ。うまそうだけど。うーん、なんか家で作れそうなの、ないかなあ。
……ないなあ。ま、いいや。今日明日急いで作らないといけないものがあるわけでもないし。また今度ゆっくり見よう。しっかり材料をそろえて料理をするのも、たまには悪くない。ただ、その材料を調達する場所を探しとかないといけないなあ。
「お待たせ、うめず」
「わう」
さて、今日の昼飯はどうしようか。帰りになんか買っていくか、それとも、家で作るか。うーん、悩みどころだ。なんかがっつりしたものを食べたいんだが。
「そうだ」
ハンバーガー、買っていこう。クーポンがあるから安くなるはずだ。
それに、最近入れたキャッシュレス決済のアプリ、使ってみたかったんだよなあ。今はポイント返ってくるらしいし、使っちゃえ。
「よーし、うめず、行くぞ」
「わうっ」
ふふ、実質三割引きで買えてしまった。いやあ、お得っていいな。
「いただきます」
大きなハンバーガーは箱に入っている。ふわふわのバンズはほんのり温かく、肉は二枚、野菜もたっぷりだ。
うん、うん、この重量感のある口当たりに濃い味付け。うまいなあ。今、体が欲していたもののように思える。タルタルソースに似て非なる玉ねぎとマヨネーズのソースはまろやかで、野菜にも肉にも合う。おっと、中身がこぼれそうだ。
そんで、このジャンクな味には炭酸がよく合う。透き通った甘い炭酸は、ほんのりライムの香りがしていてすっきりする。
うめずも今、絶賛水分補給中だ。いつもと同じ水でも、ずいぶんおいしそうに飲んでいる。
さて、次はポテトを食べよう。揚げたてでカリッカリのほくほくだ。今日はちょっと塩が濃い目に感じる。ハンバーガーのソースをポテトにつけるのもうまい。
ハンバーガーは、半ばに差し掛かるとしっとり感が増すように思う。ピクルスのほのかな酸味とチーズのまろやかさが出始める頃だ。うん、うまいなあ。たまに食うと余計にうまい。
キャッシュレス決済、思ったより簡単だったな。手軽だったし、なんか面白かった。今までなんで敬遠してたんだろう。音もなんか軽快で楽しかった。あと、できる人って感じするし、ポイントがたまってうれしい。
ポイントがたまるうちに、いろんな店行ってみようかなあ。ハンバーガーも、また食べよう。
「ごちそうさまでした」
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