一条春都の料理帖

藤里 侑

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日常

第四百六十八話 パンとスープ

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 休みの日の朝、ちょっと早めに、しかも気持ちよく目覚めることができると、なんか得した気分になる。さあ、今週はゆっくり休もう。大会が来週でよかった。
 部屋のカーテンを開く。まだ薄暗い空、目を凝らせば星が見える。六時近くになってもこの暗さだ。空気はひんやりとしていて、これはもう、冬だなって感じだ。でも寝るときはまだちょっと暑いときもあるし、何ともいえない。寝てる間に毛布蹴飛ばしてるときあるんだよなあ。
 温度調節をしやすい服に着替え、部屋を出る。と、うめずと鉢合わせた。
「おぉ、おはよう、うめず」
「わうっ」
 うめずは、洗面所へと向かう俺に、パタパタとしっぽを振りながらついてくる。体調崩すと、その後の一週間はこの調子だ。普段からも気まぐれについてくるが、風邪ひいた後はどこに行くでもついてくる。
「ふー……さて、朝飯だなあ」
「わふ」
「からあげの残りとあとは……何にしようかなー」
 うーん、あ、キャベツがあったな。卵とじにしよう。
 ザクザク切ったキャベツを炒め、醤油とうま味調味料を入れて、最後に卵を落としてかき混ぜる。あんまり火を通すとパッサパサになるから気を付けないといけない。
 こんな感じかな。皿に移してっと。
「うめずはこっちな」
 風邪をひいている間、何かと心配をかけただろうから、今日のうめずのご飯はちょっといいやつにする。何かが違うんだろうなあ、うめずは、飯を凝視し尻尾をこれ以上なく嬉しそうに揺らしている。今にもよだれが垂れてきそうだ。
「それじゃあ、いただきます」
「あうっ」
 おーおー、すげえ勢い。
 さあ、こっちも食うか。まずはキャベツから。このしっとりとした感じがなんかうまいんだよなあ。キャベツの匂いが控えめなのがうれしい。卵はほわっほわで、程よくジャキジャキとみずみずしい食感のキャベツが甘くておいしい。
 レンジでチンして、昨日よりも少し縮んだからあげは、噛み応え十分だ。ジュワッと染み出すうま味はそのままに、香ばしさが増したようにも思う。皮のモチモチした食感も楽しい。
 一日経ったからあげは、七味マヨが合うと思う。柚子胡椒とはまた違った辛さと風味が、香ばしくて歯ごたえのある、ジャーキーにも似たからあげによく合うのだ。もちろん、そのままでも十分うまい。
 白米が進む朝飯だ。
「ごちそうさまでした」
 洗い物を済ませたら、さて、後はどうしようか。
 体を休めるなら寝る方がいいのか。はたまた動くべきか。うーん、悩ましい。普段は自由を望んでいるというのに、いざ、自由な時間がやってくると、どう過ごすべきか分からなくなる。
 本でも読もうかな。買ってきておいて、読んでない本が何冊かあるんだった。そういえば新刊出るのいつだっけ。あとで調べよう。
「と、なると……」
 何か読書のお供が欲しいな。
 手が汚れないやつで、本を読む間に食べるのにちょうどいいお菓子。ふっふっふ、今日は良いのがあるんだなあ。
 ばあちゃんが、お客さんから大量にもらったからと置いて行ってくれた、黒糖の一口饅頭。個包装だし、程よい大きさだし、最高のお供だ。それに合わせる飲み物は、やっぱり、緑茶だろう。
 お菓子と飲み物を準備して、本も持ってきて、こたつにもぐりこむ。はあ、出たくないねえ、いいねえ。
「さて」
 とりあえず、饅頭を一つ食べてみる。
 おー、少しもちもちとした生地は黒糖の香り豊かだ。黒のこしあんがよく合う。黒糖にはやっぱりこのあんこがいいんだよなあ。なめらかで、黒糖の甘さを邪魔しない、むしろ引きたてつつも、豆のほろっとした甘みも感じられる。
 緑茶が合うなあ。緑茶って、洋菓子にも合うけど、やっぱ和菓子との相性は最高だ。和菓子の素朴な甘さが、緑茶のほのかな苦みでほろほろとほどけていく。
 まずはどれから読もうかなー。漫画にしようかな。新刊から読みたいのは山々だが、前の巻から読む。どんな話だったか、ちょっと忘れてしまっている部分がある。刊行ペースがのんびりな本は、そうなりがちだ。
 まあでも、のんびりなおかげで、じっくり楽しめるってところはあるな。
 細かいところまで描きこまれているし、言葉の選び方やテンポも秀逸で、じっくり味わいながら読みたくなる本だ。そして気が付くと、新刊を読むつもりが全巻遡って読んでるんだなあ。
「はぁー……」
 ああ、饅頭も進むしページも進む。幸せな時間だ。ふと見れば、うめずは日向ぼっこをしている。穏やかな時間だ。
 そういやそろそろ、予約していたイラスト集が来るな。描きおろしもあるんだっけ。奮発して特装版予約したからなあ、楽しみだ。
 そんなこんなでだらだらと過ごしていたら、正午のサイレンが鳴った。もうそんな時間か。どんだけ本を読んでいたのだろう。
「その割には腹減ってねえなあ……」
 饅頭食い過ぎたか。しかし、なんか食いたい気もする。そういえば、インスタントのスープがあったなあ、コーンスープ。食パンもあるし、それでいいか。
「よいしょ」
 はあ、こたつの外も大して寒くないのに、こたつから出るのが億劫なのはなぜだろう。布団って、恐ろしい。
 食パンを焼いて、コーンスープは口が広めのマグカップに作る。クルトンが何気に嬉しい。
「いただきます」
 食べる間はテレビでも見よう。なんか録画してたはずだ。
 食パンは十枚切りを二枚。分厚いパンも好きだけど、うっすい食パンが食いたい時ってあるんだよなあ。
 食べやすい大きさにちぎって、スープに浸す。程よくさくさくが残った状態で口に含めば、パンの香ばしさとコーンの甘味を両方楽しめていい。うはー、熱々。耳のとことか噛み応えあっていいなあ。
 じっくり浸すとぷわぷわのとろとろになる。これはこれでうまいのだ。スプーンですくって、やけどしないようにそっと食べる。ジュワーッとあふれ出すコーンスープ、もちもちで甘味が増したように思えるパン、耳の部分の香ばしさ。これがたまんねえんだ。
「はー……うま」
 もちろん、コーンスープ単体でもうまい。まろやかで、優しい甘みと温かさが染みるようだ。パンを浸したのでちょっと香ばしくもある。
 クルトンのサクサクもうまいよな。浸した食パンとはまた違った感じの香ばしさがある。時間がたってふにゃふにゃしたクルトンも食感が面白い。
 あんまり入らないかと思ったが、思ったより食えるな。結局、四枚食べてしまった。ま、薄いし、そんなもんだろ。
 さあ、片づけたら、本の続きを読もう。ちょっと昼寝するのもいいかもな。

「ごちそうさまでした」
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