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日常
第三百九十九話 豚骨ラーメン
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夏の課外中にあるのは何も授業だけに限らない。体育祭の練習もちらほらあるし、集会もある。
そんで今日は、草むしりの日だ。夏になり、ぼうぼうに生えた草をひたすらむしる日である。
「ふーっ」
じいちゃんからもらった麦わら帽子をかぶり、グラウンドの隅に生えまくった青々と元気な草をむしっていく。結構根がしっかりしているものもあって、体力を使うのだ。にしても、ずいぶんほったらかしにされてたんだなあ。自分の身長ぐらいまで伸びてるやつもあるぞ。
夏の暑さと日差しは、植物にとって最高なのだろう。特に今年は適度に雨も降ってたし、成長するにはうってつけだったんだろうなあ。
「草刈り機が欲しい……」
お盆に、じいちゃんたちとお墓参りに行ったときは、父さんが草刈り機で刈ってたなあ。
お墓も草がすごいんだ。グラウンドはまだ人の出入りがあるので、ぼうぼうに伸びているとはいえ、手こずるところは限られている。しかしお墓は、毎日人が来るわけでもないので、植物たちの楽園なわけだ。
植物がそれだけ茂っているということは、虫とのエンカウント率も上がるもので。
草むしりが苦手な理由って、そこにある。お墓掃除のときは、墓石を磨くことを中心に作業をしたものだ。
「春都~、そっちどんな感じ~?」
「咲良」
違う場所で作業をしていた咲良がやってくる。
「どうもこうも、結構手ごわいぞ」
「草枯らしとか撒けばいいのにな」
「ほんとに」
咲良も加わって、作業を再開する。
咲良はずいぶん手際よく草をむしり、手ごわい根っこは鎌で掘って、土を元に戻す。さっきも、大量に草をのせた一輪車を手慣れた様子で押していた。こいつ、妙なところで能力高いんだよな。
「慣れてんのか」
寄ってくる蚊を払いながら聞けば、咲良は笑って頷いた。
「じいちゃんたちがやってる畑が結構広くてさー、よく手伝ってたんだよ。今でも時間があればやってる」
「へえ、そうなのか」
「どーよ、見直した?」
と、得意げに笑う咲良。こいつはすぐ調子に乗る。
「うんうん、見直した」
「なんかテキトーじゃね?」
「そんなことないぞ」
人の誉め言葉を素直に受け取らん奴だな。
咲良は「まー、いいけど」と言って、気分良さげに鼻歌など歌いながら草をぶちぶち引きちぎる。
「おっ、セミの抜け殻~。と、死んだセミ」
咲良が視線を向ける先には、セミの抜け殻とひっくり返ったセミが並んで転がっていた。
「干からびたんかな」
「どうだろうな」
その周辺の草を咲良がむしろうとしたとき、死んだと思っていたセミが突然動き出した。
「うわっ!」
思わずそろって後ずさる。セミは勢いそのままに暴れまわり、ブゥンッ! と暴走するバイクのように、乱暴に飛び立っていった。こっちくんな。
「あ~、びっくりした」
ははは、と咲良はのんきに笑った。
「セミ爆弾だ」
「心臓に悪い……」
セミが嫌だ、というより、動くはずのないものが突然動き出したということにびっくりした感じだ。もうほんと、セミ爆弾は勘弁してほしいものである。
「あ、そうだ。明日どうすんの?」
平然と作業に戻った咲良が聞いてくる。普段は何かと些細なことで騒ぎ立てるこいつだが……ほんと、こいつの基準がよく分からない。
まあ、作業しないと先生に目をつけられるので、そろっと草むらに近寄った。
「明日って……ああ、花火大会か」
「そ。何時にどこ集合?」
「そういや決めてなかったな。あとで、観月とかにも聞かないと」
「それもそっか」
嬉々とした様子で咲良は続けた。
「浴衣着るんだろ? 帰ったら出しとかなきゃなあ。あ、ばあちゃんが準備してくれてるか」
「あー、着付けてもらわないと」
浴衣着て夏祭り、なんて、我ながら気合が入っているなあと思う。浴衣を着るのに抵抗がないどころか、むしろちょっと、というか、かなりワクワクしているあたり、なかなか俺も浮かれているらしい。飯食う時は、汚さないように気を付けないとなあ。
「あー……腹減った」
ぼんやりとつぶやけば「それな」と咲良が相槌を打った。
あとどれくらいむしれば帰れるだろうか。早く帰って、飯が食いたい。
「ご飯炊くの忘れたから、ラーメンでいい?」
家に帰り、食卓についたところで母さんが少し申し訳なさそうに聞いてきた。
「大丈夫」
「そう、よかった」
袋麺の豚骨は、なかなかにうまいのだ。それを二袋してくれるのだから、文句などないに決まっている。
そうだ。高菜残ってたよな、確か。入れよ。
「はい、お待たせ。具はネギだけだけど……ああ、高菜があったね」
「うん。いただきます」
まずはなにも入れないでひとすすり。
店で食うのよりも香りと臭みは控えめながら、うま味は勝るとも劣らない。癖がない分コク深さがよく分かり、麺ともよく合うのだ。
麺はノンフライであっさりしている。しっかりネギも絡め、スープも一緒にすすれば、文句なしにうまい豚骨ラーメンだ。シャキシャキとわずかにみずみずしいネギのさわやかさが、口の中をあっさりとさせる。
さて、それじゃあ、高菜を入れてみますか。
スープの濃さが増し、ピリッとした刺激が加わる。ごまの風味も相まって、より香ばしくなるのだ。
高菜は麺に絡みやすい。みずみずしさが割増しで、ささやかな辛味と高菜の風味が豚骨によく合う。麺の食べ応えも増すようだ。
うんうん、これはうまい。底にたまった短い麺と、高菜のかけらをしっかりさらう。
スープはなみなみで飲み干せないけど、できる限り、余すことなく味わいたいものだからな。
「ごちそうさまでした」
そんで今日は、草むしりの日だ。夏になり、ぼうぼうに生えた草をひたすらむしる日である。
「ふーっ」
じいちゃんからもらった麦わら帽子をかぶり、グラウンドの隅に生えまくった青々と元気な草をむしっていく。結構根がしっかりしているものもあって、体力を使うのだ。にしても、ずいぶんほったらかしにされてたんだなあ。自分の身長ぐらいまで伸びてるやつもあるぞ。
夏の暑さと日差しは、植物にとって最高なのだろう。特に今年は適度に雨も降ってたし、成長するにはうってつけだったんだろうなあ。
「草刈り機が欲しい……」
お盆に、じいちゃんたちとお墓参りに行ったときは、父さんが草刈り機で刈ってたなあ。
お墓も草がすごいんだ。グラウンドはまだ人の出入りがあるので、ぼうぼうに伸びているとはいえ、手こずるところは限られている。しかしお墓は、毎日人が来るわけでもないので、植物たちの楽園なわけだ。
植物がそれだけ茂っているということは、虫とのエンカウント率も上がるもので。
草むしりが苦手な理由って、そこにある。お墓掃除のときは、墓石を磨くことを中心に作業をしたものだ。
「春都~、そっちどんな感じ~?」
「咲良」
違う場所で作業をしていた咲良がやってくる。
「どうもこうも、結構手ごわいぞ」
「草枯らしとか撒けばいいのにな」
「ほんとに」
咲良も加わって、作業を再開する。
咲良はずいぶん手際よく草をむしり、手ごわい根っこは鎌で掘って、土を元に戻す。さっきも、大量に草をのせた一輪車を手慣れた様子で押していた。こいつ、妙なところで能力高いんだよな。
「慣れてんのか」
寄ってくる蚊を払いながら聞けば、咲良は笑って頷いた。
「じいちゃんたちがやってる畑が結構広くてさー、よく手伝ってたんだよ。今でも時間があればやってる」
「へえ、そうなのか」
「どーよ、見直した?」
と、得意げに笑う咲良。こいつはすぐ調子に乗る。
「うんうん、見直した」
「なんかテキトーじゃね?」
「そんなことないぞ」
人の誉め言葉を素直に受け取らん奴だな。
咲良は「まー、いいけど」と言って、気分良さげに鼻歌など歌いながら草をぶちぶち引きちぎる。
「おっ、セミの抜け殻~。と、死んだセミ」
咲良が視線を向ける先には、セミの抜け殻とひっくり返ったセミが並んで転がっていた。
「干からびたんかな」
「どうだろうな」
その周辺の草を咲良がむしろうとしたとき、死んだと思っていたセミが突然動き出した。
「うわっ!」
思わずそろって後ずさる。セミは勢いそのままに暴れまわり、ブゥンッ! と暴走するバイクのように、乱暴に飛び立っていった。こっちくんな。
「あ~、びっくりした」
ははは、と咲良はのんきに笑った。
「セミ爆弾だ」
「心臓に悪い……」
セミが嫌だ、というより、動くはずのないものが突然動き出したということにびっくりした感じだ。もうほんと、セミ爆弾は勘弁してほしいものである。
「あ、そうだ。明日どうすんの?」
平然と作業に戻った咲良が聞いてくる。普段は何かと些細なことで騒ぎ立てるこいつだが……ほんと、こいつの基準がよく分からない。
まあ、作業しないと先生に目をつけられるので、そろっと草むらに近寄った。
「明日って……ああ、花火大会か」
「そ。何時にどこ集合?」
「そういや決めてなかったな。あとで、観月とかにも聞かないと」
「それもそっか」
嬉々とした様子で咲良は続けた。
「浴衣着るんだろ? 帰ったら出しとかなきゃなあ。あ、ばあちゃんが準備してくれてるか」
「あー、着付けてもらわないと」
浴衣着て夏祭り、なんて、我ながら気合が入っているなあと思う。浴衣を着るのに抵抗がないどころか、むしろちょっと、というか、かなりワクワクしているあたり、なかなか俺も浮かれているらしい。飯食う時は、汚さないように気を付けないとなあ。
「あー……腹減った」
ぼんやりとつぶやけば「それな」と咲良が相槌を打った。
あとどれくらいむしれば帰れるだろうか。早く帰って、飯が食いたい。
「ご飯炊くの忘れたから、ラーメンでいい?」
家に帰り、食卓についたところで母さんが少し申し訳なさそうに聞いてきた。
「大丈夫」
「そう、よかった」
袋麺の豚骨は、なかなかにうまいのだ。それを二袋してくれるのだから、文句などないに決まっている。
そうだ。高菜残ってたよな、確か。入れよ。
「はい、お待たせ。具はネギだけだけど……ああ、高菜があったね」
「うん。いただきます」
まずはなにも入れないでひとすすり。
店で食うのよりも香りと臭みは控えめながら、うま味は勝るとも劣らない。癖がない分コク深さがよく分かり、麺ともよく合うのだ。
麺はノンフライであっさりしている。しっかりネギも絡め、スープも一緒にすすれば、文句なしにうまい豚骨ラーメンだ。シャキシャキとわずかにみずみずしいネギのさわやかさが、口の中をあっさりとさせる。
さて、それじゃあ、高菜を入れてみますか。
スープの濃さが増し、ピリッとした刺激が加わる。ごまの風味も相まって、より香ばしくなるのだ。
高菜は麺に絡みやすい。みずみずしさが割増しで、ささやかな辛味と高菜の風味が豚骨によく合う。麺の食べ応えも増すようだ。
うんうん、これはうまい。底にたまった短い麺と、高菜のかけらをしっかりさらう。
スープはなみなみで飲み干せないけど、できる限り、余すことなく味わいたいものだからな。
「ごちそうさまでした」
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