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日常
番外編 山下晃のつまみ食い②
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バイトの予定が飛んだ。
店長がシフトを間違えていたらしい。
「さーて、どうすっかな~……」
急いでやらなければならない課題もないし、人と会う予定もない。幸輔に連絡して遊ぶか? いや、でもあいつ今日バイトがあるっつってたな。
天気もいいし、家でじっとしているのもなんだかもったいないようだ。
しかし、こんなにいい天気を家の中でのんびり眺めるというのもまた、一つの贅沢というものである。
腰を据えてゲームでもしようか、それとも撮り溜めた録画でも見ようか、はたまた久しぶりに映画でも見るか。最近寝不足だったし、しこたま寝るのもありだな。
悩みに悩んでいたら、ぽこんっとスマホが軽快な音を立てた。
「ん?」
送り主は一番上の姉だ。姉は二人いるのだが、そのどちらも弟使いが荒い。
二人とも結婚して家を出ている。一番上の姉には二人子どもがいて、二番目はついこの間出産したばかりだ。
「えーっと……食器? はあ、なんで?」
なんでも、今日発売の限定品が欲しいらしい。姉の住むところの店ではすでに売り入れていて、姉曰く『そっちは田舎なんだから、あるでしょ』とのことらしい。いや知らねえよ。食器とか興味ねえし。
「はぁ~あ」
しかし姉に逆らってもろくなことはない。この食器が売ってる店、確かプレジャスにあったよなあ。大した手間でもない。行くとしよう。
素直に、分かった、というのも癪だけど、下手に意地張ると面倒だ。俺は、不必要な争いを好まない。
「了解……っと」
平和主義者は平和主義者らしく、穏便に事を済ませるとしよう。
「あれ、山下君。今日休みって連絡……」
プレジャスの中を行けば、必然的にバイト先の近くも通ることになる。レジで本のビニール掛けをしていた店長が俺を見るなり、きょとんとしたかと思えば、ハッと青ざめる。
「もしかして連絡してなかった!? それとも、ヘルプの連絡になってた?」
「いや、違います。普通に買い物に来ただけです」
「あ、そう? よかったあ」
店長、今までそういうミスしたことないのに、すぐ自分を疑うんだ。人がいいのか不器用なのか。
ほっと胸をなでおろした店長は作業を再開する。
「引き留めてごめんねぇ。買い物、行っておいで」
「はい、失礼します」
「気を付けてねえ」
目的の店は二階にある。店員にその限定品のことを聞いたら、商品が陳列されている棚まですんなり案内してくれた。
「なんだ、いっぱいあるじゃん」
なんともいえない柄だなあ。ペンキぶちまけたみたいな……赤いのなんてもう事件現場じゃん。あ、そういうモチーフとか? ……まあいいや。買って帰ろう。
俺的にはソファの方が気になる。ふわふわなものからしっかりした感じのものまで。見かけると片っ端から座ってしまう。
「あ、これいいわあ……」
肌に吸い付くようなひんやり素材、もちふわぁっとした座り心地、程よい背もたれの角度。
こんなソファ、うちに欲しいなあ……こんなん、寝る……
「むあ、いかん。寝たぁ……」
スマホを確認する。十分か。もっと寝てた気がするが、どんだけ熟睡してたんだ。
「あー、よく寝た……お?」
ソファの前でこちらをじっと見ていたのは見覚えのある少年……一条君だった。その視線は雄弁で、「何やってんだこいつ」という考えが滲み出している。
「やっほー一条君」
「……おはようございます?」
「いやー、こんなところで会うとは奇遇だねえ。どったの?」
「ワンプレートの皿を見に来ました」
おかずとか、ご飯とかいっぺんにのせられるあれか。
「山下さんは昼寝しに来たんですか」
「違うよ。姉さんたちのお使い」
一条君はそれを聞くと「あ、そうなんですね」と笑った。どことなく大人びて見えた少年も、こうして見ると年相応に幼い。
「ね、一条君的にさ」
持っていたプレートを一条君に見せる。
「これ、どう思う?」
「……このお皿ですか?」
一条君はまじまじと皿を見つめると、言葉を選び選び、言った。
「肉をのせたら、臨場感が、ありそうですね。こう、ステーキとか。焼き加減はレアで。あ、馬刺しとか?」
「事件現場みたいだよねえ」
「聞く人が聞いたら怒りますよ」
そう言って一条君は控えめに笑った。
せっかくプレジャスまで来たんだし、飯もここで済ませよう。
ゲーセン横のフードコートには、ハンバーガーのチェーン店とラーメン屋、入れ替わりの多い店舗の三つがある。今は中華料理の店が入っているようだ。
まあ、ハンバーガー食うけど。
こういうとこの呼び出し音って、ちょっと心臓に悪い。でもあの機械、ワクワクすんだよなあ。
周りに人がいない席を狙って座る。
「いただきます」
でかいチーズバーガーにポテトとチキンナゲット。ジンジャーエールがなかったので、メロンソーダにした。
あー、この濃い味。たまに摂取したくなるやつ。肉もスパイス効いてるし、チーズはこってり溶けるようだ。野菜が少なめってのもジャンクフードらしい。
期間限定の辛いソースにチキンナゲットをつけて食べる。あ、辛い。ハンバーガーにちょっとつけて食べる。うん、チーズでまろやかになって合うな。
ポテトの塩の濃さよ。ただでさえ濃いものを食っているというのに、そこに輪をかけて濃いポテト。しかし止まらない。サックサクなのははラードで揚げているからだろうか。メロンソーダの強い炭酸の刺激と甘みがよく合う。辛いソースは、ポテトにも合うのだ。
うーん、なんか物足りない。追加でアップルパイとバニラシェイクを頼もう。
サクサクでバターの風味豊かなパイ生地。中からとろりと甘いリンゴが出てくる。意外とごろっと形が残っていてフルーティだ。
そこにバニラシェイク。アップルパイにアイスを添えて食べている感覚である。熱々とひんやり、このバランスがいい。
さて……この後、炎天下の中を自転車で帰らないといけないわけだが……やだなあ。
せっかくの休みに頑張ったんだし、もう少しのんびりしても、バチ当たんないよなあ。
「ごちそうさまでした」
店長がシフトを間違えていたらしい。
「さーて、どうすっかな~……」
急いでやらなければならない課題もないし、人と会う予定もない。幸輔に連絡して遊ぶか? いや、でもあいつ今日バイトがあるっつってたな。
天気もいいし、家でじっとしているのもなんだかもったいないようだ。
しかし、こんなにいい天気を家の中でのんびり眺めるというのもまた、一つの贅沢というものである。
腰を据えてゲームでもしようか、それとも撮り溜めた録画でも見ようか、はたまた久しぶりに映画でも見るか。最近寝不足だったし、しこたま寝るのもありだな。
悩みに悩んでいたら、ぽこんっとスマホが軽快な音を立てた。
「ん?」
送り主は一番上の姉だ。姉は二人いるのだが、そのどちらも弟使いが荒い。
二人とも結婚して家を出ている。一番上の姉には二人子どもがいて、二番目はついこの間出産したばかりだ。
「えーっと……食器? はあ、なんで?」
なんでも、今日発売の限定品が欲しいらしい。姉の住むところの店ではすでに売り入れていて、姉曰く『そっちは田舎なんだから、あるでしょ』とのことらしい。いや知らねえよ。食器とか興味ねえし。
「はぁ~あ」
しかし姉に逆らってもろくなことはない。この食器が売ってる店、確かプレジャスにあったよなあ。大した手間でもない。行くとしよう。
素直に、分かった、というのも癪だけど、下手に意地張ると面倒だ。俺は、不必要な争いを好まない。
「了解……っと」
平和主義者は平和主義者らしく、穏便に事を済ませるとしよう。
「あれ、山下君。今日休みって連絡……」
プレジャスの中を行けば、必然的にバイト先の近くも通ることになる。レジで本のビニール掛けをしていた店長が俺を見るなり、きょとんとしたかと思えば、ハッと青ざめる。
「もしかして連絡してなかった!? それとも、ヘルプの連絡になってた?」
「いや、違います。普通に買い物に来ただけです」
「あ、そう? よかったあ」
店長、今までそういうミスしたことないのに、すぐ自分を疑うんだ。人がいいのか不器用なのか。
ほっと胸をなでおろした店長は作業を再開する。
「引き留めてごめんねぇ。買い物、行っておいで」
「はい、失礼します」
「気を付けてねえ」
目的の店は二階にある。店員にその限定品のことを聞いたら、商品が陳列されている棚まですんなり案内してくれた。
「なんだ、いっぱいあるじゃん」
なんともいえない柄だなあ。ペンキぶちまけたみたいな……赤いのなんてもう事件現場じゃん。あ、そういうモチーフとか? ……まあいいや。買って帰ろう。
俺的にはソファの方が気になる。ふわふわなものからしっかりした感じのものまで。見かけると片っ端から座ってしまう。
「あ、これいいわあ……」
肌に吸い付くようなひんやり素材、もちふわぁっとした座り心地、程よい背もたれの角度。
こんなソファ、うちに欲しいなあ……こんなん、寝る……
「むあ、いかん。寝たぁ……」
スマホを確認する。十分か。もっと寝てた気がするが、どんだけ熟睡してたんだ。
「あー、よく寝た……お?」
ソファの前でこちらをじっと見ていたのは見覚えのある少年……一条君だった。その視線は雄弁で、「何やってんだこいつ」という考えが滲み出している。
「やっほー一条君」
「……おはようございます?」
「いやー、こんなところで会うとは奇遇だねえ。どったの?」
「ワンプレートの皿を見に来ました」
おかずとか、ご飯とかいっぺんにのせられるあれか。
「山下さんは昼寝しに来たんですか」
「違うよ。姉さんたちのお使い」
一条君はそれを聞くと「あ、そうなんですね」と笑った。どことなく大人びて見えた少年も、こうして見ると年相応に幼い。
「ね、一条君的にさ」
持っていたプレートを一条君に見せる。
「これ、どう思う?」
「……このお皿ですか?」
一条君はまじまじと皿を見つめると、言葉を選び選び、言った。
「肉をのせたら、臨場感が、ありそうですね。こう、ステーキとか。焼き加減はレアで。あ、馬刺しとか?」
「事件現場みたいだよねえ」
「聞く人が聞いたら怒りますよ」
そう言って一条君は控えめに笑った。
せっかくプレジャスまで来たんだし、飯もここで済ませよう。
ゲーセン横のフードコートには、ハンバーガーのチェーン店とラーメン屋、入れ替わりの多い店舗の三つがある。今は中華料理の店が入っているようだ。
まあ、ハンバーガー食うけど。
こういうとこの呼び出し音って、ちょっと心臓に悪い。でもあの機械、ワクワクすんだよなあ。
周りに人がいない席を狙って座る。
「いただきます」
でかいチーズバーガーにポテトとチキンナゲット。ジンジャーエールがなかったので、メロンソーダにした。
あー、この濃い味。たまに摂取したくなるやつ。肉もスパイス効いてるし、チーズはこってり溶けるようだ。野菜が少なめってのもジャンクフードらしい。
期間限定の辛いソースにチキンナゲットをつけて食べる。あ、辛い。ハンバーガーにちょっとつけて食べる。うん、チーズでまろやかになって合うな。
ポテトの塩の濃さよ。ただでさえ濃いものを食っているというのに、そこに輪をかけて濃いポテト。しかし止まらない。サックサクなのははラードで揚げているからだろうか。メロンソーダの強い炭酸の刺激と甘みがよく合う。辛いソースは、ポテトにも合うのだ。
うーん、なんか物足りない。追加でアップルパイとバニラシェイクを頼もう。
サクサクでバターの風味豊かなパイ生地。中からとろりと甘いリンゴが出てくる。意外とごろっと形が残っていてフルーティだ。
そこにバニラシェイク。アップルパイにアイスを添えて食べている感覚である。熱々とひんやり、このバランスがいい。
さて……この後、炎天下の中を自転車で帰らないといけないわけだが……やだなあ。
せっかくの休みに頑張ったんだし、もう少しのんびりしても、バチ当たんないよなあ。
「ごちそうさまでした」
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