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日常
第三百八十二話 ハンバーガー
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絵具を塗りたくったような青空だ。雲もくっきりとしていて、太陽が隠れる気配もない。いかにも夏、というような空だった。
「ん?」
課外も終わり、スマホの電源を入れる。通知が一件来ていたので誰だろうと思えば、母さんだ。何でも、じいちゃんとばあちゃんの手伝いがあるらしくて、家にいないのだとか。えっ、店にもいないんだ。
あー……昼飯、自分でどうにかしないといけないのかこれ。そういう連絡か。
「どーすっかなあ」
「あっついなあ、春都。どした? そんなところに突っ立って」
「咲良か」
シャツをパタパタとさせながら、咲良がやってきた。
あまりの暑さと日差しに顔をしかめ、額には汗が浮かんでいる。
「いや、昼飯がなあ」
「昼飯?」
事情を説明すると、咲良は「そっかあ……」とつぶやき、自分もスマホを取り出した。
「あ、それならさ、今からモール行かね? フードコートでなんか食おうよ」
「プレジャスじゃなくて?」
「せっかく時間あるしさ、行こうぜ」
咲良に急かされるようにバス停へ向かう。アスファルトの照り返しがまぶしく、太陽を直接見ていないというのに目がくらみそうだった。
ま、たまにはこういうのもありか。
思いのほか、ショッピングモールは空いていた。夏休みとはいえ平日の昼間だもんなあ。
しかしフードコートはかなり混んでいて、座る場所がなかった。
「どっか店見て回ろうぜ」
「そうだな」
まずはフードコート近くにあるアニメショップへ。新刊がずらりと並び、特装版とか、ショップ限定の特典付きとか、心惹かれるポップが掲げられている。
「グッズとか買わねーの?」
咲良は自分が好きなアニメのキーホルダーを手に取りながら言った。アクリルキーホルダーで、アニメに出てくるロゴが描かれている。
「結局使わねーもん。缶バッジとかどこにつけようって悩んで、結局、しまい込むし」
「でもさ、買うってだけでワクワクするじゃん? そんなもんだよ、娯楽を買いに来てるって感じ」
「そういう考え方もあるか……」
結局何も買わずに店を出て、外に並ぶガチャポンを見ることにした。
ここに並ぶのは、百円でできるようなものではない。最低二百円は必要だ。両替機があるのは親切だよな。
「あっ、これこれ! 探してたんだよね~」
咲良が見つけたのは、アニメキャラのラバーストラップのガチャポンだった。迷うことなく三百円を投入し、回す。
「推し出るといいな~。オレンジ出てきたら高確率で推しなんだが……」
「オレンジなあ」
ちらっと中身を見るが、オレンジ率は少ない。出てくるだろうか。
「おっ、出てきた」
「オレンジじゃん」
「お、お、これは……」
力任せにカプセルを開け、咲良は中身を取り出した。と、咲良の表情がみるみる明るくなっていく。
「出た!」
「よかったなあ」
なんかこうやって盛り上がってるやつ見ると、自分もやりたくなってくる。うーん、でもどれしようかなあ。特に好きなアニメやゲームのやつはないし……お、これ、いいな。ミニチュアフードのキーホルダーが景品のガチャポン。
一回三百円か……一回だけ、やってみよう。夏にぴったりな食べ物、飲み物のミニチュアが出て来るらしい。
「なんかこれ、回すの楽しくてやってるところあるよな」
「分かる~」
咲良は相槌を打ちながら、さっそくキーホルダーを鞄につけていた。
出てきた出てきた。これは……メロンソーダか。へえー、氷とかもきれいだ。何より、透き通った緑色がいい。水とかジュースとか、液体を固体で表した感じ、好きなんだよなあ。クリームソーダではなく、メロンソーダってのがいい。
これはいいものが当たったな。
メロンソーダをアップルちゃんの隣につけ、いくつか店を見て回ってからフードコートに戻った。その頃にはもう人は少なくなっていて、席は選び放題だった。
「食うもん決めた?」
「おう」
ハンバーガー店一つとっても、うちの町にはない店もある。それにしよう。
野菜たっぷりのハンバーガーに、ポテトとオニオンリングのセット。飲み物はいつもであればオレンジだが……今日はメロンソーダにしよう。
「咲良、お前は決めたのか」
「たこ焼き、期間限定のやつあったからそれにした~」
窓際の、二人掛けの席を陣取る。
「いただきます」
この店のハンバーガー、久しぶりだなあ。ふわふわのバンズはほんのり甘めで、レタスにトマト、玉ねぎと野菜がたっぷりだ。ソースはタルタルっぽいけど、酸味は少なく、野菜のみずみずしさにぴったりな味である。
肉も結構厚くてジューシーで、食べ応えがある。スパイスは控えめ、肉のうま味を味わえながら、たっぷり野菜とソースで食べやすい。
「あっつい、このたこ焼き。中身が」
「あー、それ、揚げたこみたいだもんな」
「でもさー、この店のたこ焼き、紅しょうがの味がしっかりしててうまいんだぜ」
それは分かる。紅しょうがの味がしっかりしたたこ焼きは、うまい。しかしそれ、明太マヨだろう。結構たっぷりかかってるけど、紅しょうがの味、分かるのだろうか。かき消されていないのか気になるところだ。
さて、次はこれ。ポテト。サクッと揚がっているが、ふわふわ、ほくほくっとした食感も楽しめる。イモのねっちりした舌触りもうまい。塩は控えめで、イモの味がよく分かる。
オニオンリングは食べるのにコツがいる。油断すると中身だけ出ていってしまうんだ。でも、それはそれでうまい。衣だけでも十分うま味があるんだ。でもやっぱ一緒に食うのがいい。シャキトロッとした玉ねぎと香ばしい衣のバランスが最高だ。
メロンソーダ。強めの炭酸が、ハンバーガーによく合う。
「この後どうする~?」
咲良がハフハフ言いながらたこ焼きをほおばり、聞く。
「俺、行きたい店あるんだけど」
「行っていいぞ」
「おう。そこさ、珍しいお菓子とか売ってるらしいぜ」
「行こう」
食後のおやつにいいかもな。
「ごちそうさまでした」
「ん?」
課外も終わり、スマホの電源を入れる。通知が一件来ていたので誰だろうと思えば、母さんだ。何でも、じいちゃんとばあちゃんの手伝いがあるらしくて、家にいないのだとか。えっ、店にもいないんだ。
あー……昼飯、自分でどうにかしないといけないのかこれ。そういう連絡か。
「どーすっかなあ」
「あっついなあ、春都。どした? そんなところに突っ立って」
「咲良か」
シャツをパタパタとさせながら、咲良がやってきた。
あまりの暑さと日差しに顔をしかめ、額には汗が浮かんでいる。
「いや、昼飯がなあ」
「昼飯?」
事情を説明すると、咲良は「そっかあ……」とつぶやき、自分もスマホを取り出した。
「あ、それならさ、今からモール行かね? フードコートでなんか食おうよ」
「プレジャスじゃなくて?」
「せっかく時間あるしさ、行こうぜ」
咲良に急かされるようにバス停へ向かう。アスファルトの照り返しがまぶしく、太陽を直接見ていないというのに目がくらみそうだった。
ま、たまにはこういうのもありか。
思いのほか、ショッピングモールは空いていた。夏休みとはいえ平日の昼間だもんなあ。
しかしフードコートはかなり混んでいて、座る場所がなかった。
「どっか店見て回ろうぜ」
「そうだな」
まずはフードコート近くにあるアニメショップへ。新刊がずらりと並び、特装版とか、ショップ限定の特典付きとか、心惹かれるポップが掲げられている。
「グッズとか買わねーの?」
咲良は自分が好きなアニメのキーホルダーを手に取りながら言った。アクリルキーホルダーで、アニメに出てくるロゴが描かれている。
「結局使わねーもん。缶バッジとかどこにつけようって悩んで、結局、しまい込むし」
「でもさ、買うってだけでワクワクするじゃん? そんなもんだよ、娯楽を買いに来てるって感じ」
「そういう考え方もあるか……」
結局何も買わずに店を出て、外に並ぶガチャポンを見ることにした。
ここに並ぶのは、百円でできるようなものではない。最低二百円は必要だ。両替機があるのは親切だよな。
「あっ、これこれ! 探してたんだよね~」
咲良が見つけたのは、アニメキャラのラバーストラップのガチャポンだった。迷うことなく三百円を投入し、回す。
「推し出るといいな~。オレンジ出てきたら高確率で推しなんだが……」
「オレンジなあ」
ちらっと中身を見るが、オレンジ率は少ない。出てくるだろうか。
「おっ、出てきた」
「オレンジじゃん」
「お、お、これは……」
力任せにカプセルを開け、咲良は中身を取り出した。と、咲良の表情がみるみる明るくなっていく。
「出た!」
「よかったなあ」
なんかこうやって盛り上がってるやつ見ると、自分もやりたくなってくる。うーん、でもどれしようかなあ。特に好きなアニメやゲームのやつはないし……お、これ、いいな。ミニチュアフードのキーホルダーが景品のガチャポン。
一回三百円か……一回だけ、やってみよう。夏にぴったりな食べ物、飲み物のミニチュアが出て来るらしい。
「なんかこれ、回すの楽しくてやってるところあるよな」
「分かる~」
咲良は相槌を打ちながら、さっそくキーホルダーを鞄につけていた。
出てきた出てきた。これは……メロンソーダか。へえー、氷とかもきれいだ。何より、透き通った緑色がいい。水とかジュースとか、液体を固体で表した感じ、好きなんだよなあ。クリームソーダではなく、メロンソーダってのがいい。
これはいいものが当たったな。
メロンソーダをアップルちゃんの隣につけ、いくつか店を見て回ってからフードコートに戻った。その頃にはもう人は少なくなっていて、席は選び放題だった。
「食うもん決めた?」
「おう」
ハンバーガー店一つとっても、うちの町にはない店もある。それにしよう。
野菜たっぷりのハンバーガーに、ポテトとオニオンリングのセット。飲み物はいつもであればオレンジだが……今日はメロンソーダにしよう。
「咲良、お前は決めたのか」
「たこ焼き、期間限定のやつあったからそれにした~」
窓際の、二人掛けの席を陣取る。
「いただきます」
この店のハンバーガー、久しぶりだなあ。ふわふわのバンズはほんのり甘めで、レタスにトマト、玉ねぎと野菜がたっぷりだ。ソースはタルタルっぽいけど、酸味は少なく、野菜のみずみずしさにぴったりな味である。
肉も結構厚くてジューシーで、食べ応えがある。スパイスは控えめ、肉のうま味を味わえながら、たっぷり野菜とソースで食べやすい。
「あっつい、このたこ焼き。中身が」
「あー、それ、揚げたこみたいだもんな」
「でもさー、この店のたこ焼き、紅しょうがの味がしっかりしててうまいんだぜ」
それは分かる。紅しょうがの味がしっかりしたたこ焼きは、うまい。しかしそれ、明太マヨだろう。結構たっぷりかかってるけど、紅しょうがの味、分かるのだろうか。かき消されていないのか気になるところだ。
さて、次はこれ。ポテト。サクッと揚がっているが、ふわふわ、ほくほくっとした食感も楽しめる。イモのねっちりした舌触りもうまい。塩は控えめで、イモの味がよく分かる。
オニオンリングは食べるのにコツがいる。油断すると中身だけ出ていってしまうんだ。でも、それはそれでうまい。衣だけでも十分うま味があるんだ。でもやっぱ一緒に食うのがいい。シャキトロッとした玉ねぎと香ばしい衣のバランスが最高だ。
メロンソーダ。強めの炭酸が、ハンバーガーによく合う。
「この後どうする~?」
咲良がハフハフ言いながらたこ焼きをほおばり、聞く。
「俺、行きたい店あるんだけど」
「行っていいぞ」
「おう。そこさ、珍しいお菓子とか売ってるらしいぜ」
「行こう」
食後のおやつにいいかもな。
「ごちそうさまでした」
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