384 / 843
日常
第三百六十八話 梅しそ巻き
しおりを挟む
昼休み、弁当箱を開けた咲良が「あっ」とうれしそうな顔をした。
「どうした」
「オクラ巻きが入ってんなーと思って。トマトもある」
「ああ、季節だもんな」
肉で野菜を巻いたやつって、なんかテンション上がるよなあ。肉だけ、野菜だけ、ってのもいいけど、野菜と肉が一緒になったらもっと嬉しい。
「俺さぁ、小さい頃はオクラもトマトも苦手だったんだよねー」
と、咲良はオクラのベーコン巻きを食べた。
「そうなん」
「そー。この青さとねばねばがどうしてもなー。でも、今は大好物」
咲良は、今度はプチトマトの豚肉巻きを口に含んだ。
「トマトは中身がだめだった」
「そういう理由でトマト嫌いなやつ、多いよな」
「こんなにうまいのに、なんで嫌いだったんだろうなあ」
そういう食べ物って少なくない。特に癖のある食べ物は、小さい頃は嫌いでもちょっと成長すると何でもなく食べられるようになる、ってことが多い気がする。まあ、ずっと苦手なものも当然あるんだろうけど。
「春都はそーいう食べ物、ある?」
「俺は……」
ふと考える。今じゃ、好きの濃淡こそあれど、嫌いな食べ物というのはないなあ。でも、小さいころ苦手だったものといえば……
「生しそと納豆」
「癖強いもんな、両方とも」
咲良は納得したように頷いた。
今日の俺の弁当のご飯は、しそおにぎりだ。梅干しと漬けていたもので、紫のような赤のような色がきれいだ。噛みしめるほどに程よい酸味としその香りが立つ。
「漬けたのとか、揚げたのとかはまだよかったけど、あの寿司とかに入ってるやつがどうもなあ」
「あー、そういうのあるよなー。同じ苦手な食い物でも、これならいける、っていう調理法」
「納豆はただの食わず嫌いだったけどな」
キムチとかと混ぜるとうまい。高菜や、マヨネーズもいいんだ。揚げに入れて焼くのもいいし、オクラとか魚とかと混ぜるのもおいしいよな。
「食わず嫌いな。俺、チーズがそうだった。見た目がなんかだめだったんだよな~」
こないだピザ食った時、チーズ増し増しだったよな、こいつ。咲良は最後のオクラ巻きを大事そうに食べて言った。
「ほら、修学旅行とかで行った『森の家』にさ、チーズの専門店あるじゃん? そこ行ったときにうまい食い方知ってさあ。クリームチーズにわさび醤油、かつお節かけて」
「そんなんうまいに決まってる」
「な? 二階のレストランじゃカマンベールチーズ食ったし、モッツァレラチーズもうまかったし」
弁当を片付けて、当然のように図書館に向かう。
その道中、咲良は話を続ける。
「そん時に食わず嫌いってもったいねえなあ、って思ったんだよ。だから、気になったもんは食うようにしてる」
「そこら辺の草とか食うなよ」
「食わねえよ。俺を何だと思ってる」
「腹減ったら食いそう」
「それを言うなら春都もだろぉ」
咲良は笑って言う。なんでだよ、俺も食わねえよ。
まあでも、体に害がない範囲でなら、なんでも食ってみるのはありかもしれない。アレルギーとかなければな。だからって道端の草とかは食わねえけど。
「苦手だった食べ物?」
「食わず嫌いとか」
図書館も暇そうだったので、漆原先生に聞いてみる。先生は律儀に考えて答えてくれた。
「梅干しだな。なんかだめだった」
「あー、梅干し」
それも風味が独特だからな。先生は笑って言った。
「白米とも合うが、酒飲むようになって余計においしいと思うようになったな。焼酎と合うんだ」
「酒は分かんないですね」
「酒を飲めるようになったら、うまいと思えるものが増えるぞぉ」
はー、と先生は背もたれに身を預けて長いため息をついた。
「毎日飲んでんすか」
咲良が聞けば、先生は実に残念そうに首を横に振った。
「週末だけさ。まあ、たまに平日にも飲むけどな。本格的に飲むのは、週末だ」
「へー、そうなんすね」
「次の日がゆっくりあるときじゃないと、飲んだ気がしないんだ。ま、忙しかろうが飲むときは飲むがな」
と、先生は豪快に笑ったのだった。
肉で野菜を巻いたものはワクワクするが、それがぐるぐる巻きだとまた違った心躍る感じがある。
しそとたたいた梅肉を豚肉で巻いて、衣をつけて揚げたしそ巻きカツ。その断面はいい景色だ。
「いただきます」
普通のとんかつと同じようにソースをかけ、すりごまをかけて食う。
一口目は普通のカツっぽい。衣の香ばしさと豚肉のうま味。しかし噛むと、梅肉の口当たりと酸味が突然現れる。一瞬、うっと口がすぼみ、唾液があふれ出す。
「これ巻くの、お父さんも手伝ってくれたのよ」
母さんが付け合わせのキャベツを食べながら言う。キャベツにはいつものドレッシングをかけているが、なんだかとんかつ屋さんのキャベツを食べているような気分である。
「あ、そうなんだ」
「結構大変なんだなあ」
父さんはのんびりと言ってカツを一口食べた。
しそはどこにあるんだろう、と思うが、噛みしめていくとその香りは現れる。
梅の香りとはまた違う、独特の風味。苦手かな? と思いそうではあるが、味わっていくと、苦手じゃなくなるんだ。
豚の味わいとがっつりとした衣の感じが、梅としそでうまいことあっさりしてパクパク食べてしまう。苦手というより、むしろ好きだ。
それに、揚げるとしそは香りが少々控えめになる。これで食えるようになったんだよな、しそ。でも、確かに香る。それがいい。ご飯も進むってもんだ。
大好物になった、とまではいかないけど、こうやってうまいと思えるものが増えるのは、うれしいことだよな。
「ごちそうさまでした」
「どうした」
「オクラ巻きが入ってんなーと思って。トマトもある」
「ああ、季節だもんな」
肉で野菜を巻いたやつって、なんかテンション上がるよなあ。肉だけ、野菜だけ、ってのもいいけど、野菜と肉が一緒になったらもっと嬉しい。
「俺さぁ、小さい頃はオクラもトマトも苦手だったんだよねー」
と、咲良はオクラのベーコン巻きを食べた。
「そうなん」
「そー。この青さとねばねばがどうしてもなー。でも、今は大好物」
咲良は、今度はプチトマトの豚肉巻きを口に含んだ。
「トマトは中身がだめだった」
「そういう理由でトマト嫌いなやつ、多いよな」
「こんなにうまいのに、なんで嫌いだったんだろうなあ」
そういう食べ物って少なくない。特に癖のある食べ物は、小さい頃は嫌いでもちょっと成長すると何でもなく食べられるようになる、ってことが多い気がする。まあ、ずっと苦手なものも当然あるんだろうけど。
「春都はそーいう食べ物、ある?」
「俺は……」
ふと考える。今じゃ、好きの濃淡こそあれど、嫌いな食べ物というのはないなあ。でも、小さいころ苦手だったものといえば……
「生しそと納豆」
「癖強いもんな、両方とも」
咲良は納得したように頷いた。
今日の俺の弁当のご飯は、しそおにぎりだ。梅干しと漬けていたもので、紫のような赤のような色がきれいだ。噛みしめるほどに程よい酸味としその香りが立つ。
「漬けたのとか、揚げたのとかはまだよかったけど、あの寿司とかに入ってるやつがどうもなあ」
「あー、そういうのあるよなー。同じ苦手な食い物でも、これならいける、っていう調理法」
「納豆はただの食わず嫌いだったけどな」
キムチとかと混ぜるとうまい。高菜や、マヨネーズもいいんだ。揚げに入れて焼くのもいいし、オクラとか魚とかと混ぜるのもおいしいよな。
「食わず嫌いな。俺、チーズがそうだった。見た目がなんかだめだったんだよな~」
こないだピザ食った時、チーズ増し増しだったよな、こいつ。咲良は最後のオクラ巻きを大事そうに食べて言った。
「ほら、修学旅行とかで行った『森の家』にさ、チーズの専門店あるじゃん? そこ行ったときにうまい食い方知ってさあ。クリームチーズにわさび醤油、かつお節かけて」
「そんなんうまいに決まってる」
「な? 二階のレストランじゃカマンベールチーズ食ったし、モッツァレラチーズもうまかったし」
弁当を片付けて、当然のように図書館に向かう。
その道中、咲良は話を続ける。
「そん時に食わず嫌いってもったいねえなあ、って思ったんだよ。だから、気になったもんは食うようにしてる」
「そこら辺の草とか食うなよ」
「食わねえよ。俺を何だと思ってる」
「腹減ったら食いそう」
「それを言うなら春都もだろぉ」
咲良は笑って言う。なんでだよ、俺も食わねえよ。
まあでも、体に害がない範囲でなら、なんでも食ってみるのはありかもしれない。アレルギーとかなければな。だからって道端の草とかは食わねえけど。
「苦手だった食べ物?」
「食わず嫌いとか」
図書館も暇そうだったので、漆原先生に聞いてみる。先生は律儀に考えて答えてくれた。
「梅干しだな。なんかだめだった」
「あー、梅干し」
それも風味が独特だからな。先生は笑って言った。
「白米とも合うが、酒飲むようになって余計においしいと思うようになったな。焼酎と合うんだ」
「酒は分かんないですね」
「酒を飲めるようになったら、うまいと思えるものが増えるぞぉ」
はー、と先生は背もたれに身を預けて長いため息をついた。
「毎日飲んでんすか」
咲良が聞けば、先生は実に残念そうに首を横に振った。
「週末だけさ。まあ、たまに平日にも飲むけどな。本格的に飲むのは、週末だ」
「へー、そうなんすね」
「次の日がゆっくりあるときじゃないと、飲んだ気がしないんだ。ま、忙しかろうが飲むときは飲むがな」
と、先生は豪快に笑ったのだった。
肉で野菜を巻いたものはワクワクするが、それがぐるぐる巻きだとまた違った心躍る感じがある。
しそとたたいた梅肉を豚肉で巻いて、衣をつけて揚げたしそ巻きカツ。その断面はいい景色だ。
「いただきます」
普通のとんかつと同じようにソースをかけ、すりごまをかけて食う。
一口目は普通のカツっぽい。衣の香ばしさと豚肉のうま味。しかし噛むと、梅肉の口当たりと酸味が突然現れる。一瞬、うっと口がすぼみ、唾液があふれ出す。
「これ巻くの、お父さんも手伝ってくれたのよ」
母さんが付け合わせのキャベツを食べながら言う。キャベツにはいつものドレッシングをかけているが、なんだかとんかつ屋さんのキャベツを食べているような気分である。
「あ、そうなんだ」
「結構大変なんだなあ」
父さんはのんびりと言ってカツを一口食べた。
しそはどこにあるんだろう、と思うが、噛みしめていくとその香りは現れる。
梅の香りとはまた違う、独特の風味。苦手かな? と思いそうではあるが、味わっていくと、苦手じゃなくなるんだ。
豚の味わいとがっつりとした衣の感じが、梅としそでうまいことあっさりしてパクパク食べてしまう。苦手というより、むしろ好きだ。
それに、揚げるとしそは香りが少々控えめになる。これで食えるようになったんだよな、しそ。でも、確かに香る。それがいい。ご飯も進むってもんだ。
大好物になった、とまではいかないけど、こうやってうまいと思えるものが増えるのは、うれしいことだよな。
「ごちそうさまでした」
23
お気に入りに追加
252
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
Husband's secret (夫の秘密)
設樂理沙
ライト文芸
果たして・・
秘密などあったのだろうか!
夫のカノジョ / 垣谷 美雨 さま(著) を読んで
Another Storyを考えてみました。
むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ
10秒~30秒?
何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。
❦ イラストはAI生成画像 自作
【本編完結】繚乱ロンド
由宇ノ木
ライト文芸
番外編更新日 12/25日
*『とわずがたり~思い出を辿れば~1 』
本編は完結。番外編を不定期で更新。
11/11,11/15,11/19
*『夫の疑問、妻の確信1~3』
10/12
*『いつもあなたの幸せを。』
9/14
*『伝統行事』
8/24
*『ひとりがたり~人生を振り返る~』
お盆期間限定番外編 8月11日~8月16日まで
*『日常のひとこま』は公開終了しました。
7月31日
*『恋心』・・・本編の171、180、188話にチラッと出てきた京司朗の自室に礼夏が現れたときの話です。
6/18
*『ある時代の出来事』
6/8
*女の子は『かわいい』を見せびらかしたい。全1頁。
*光と影 全1頁。
-本編大まかなあらすじ-
*青木みふゆは23歳。両親も妹も失ってしまったみふゆは一人暮らしで、花屋の堀内花壇の支店と本店に勤めている。花の仕事は好きで楽しいが、本店勤務時は事務を任されている二つ年上の林香苗に妬まれ嫌がらせを受けている。嫌がらせは徐々に増え、辟易しているみふゆは転職も思案中。
林香苗は堀内花壇社長の愛人でありながら、店のお得意様の、裏社会組織も持つといわれる惣領家の当主・惣領貴之がみふゆを気に入ってかわいがっているのを妬んでいるのだ。
そして、惣領貴之の懐刀とされる若頭・仙道京司朗も海外から帰国。みふゆが貴之に取り入ろうとしているのではないかと、京司朗から疑いをかけられる。
みふゆは自分の微妙な立場に悩みつつも、惣領貴之との親交を深め養女となるが、ある日予知をきっかけに高熱を出し年齢を退行させてゆくことになる。みふゆの心は子供に戻っていってしまう。
令和5年11/11更新内容(最終回)
*199. (2)
*200. ロンド~踊る命~ -17- (1)~(6)
*エピローグ ロンド~廻る命~
本編最終回です。200話の一部を199.(2)にしたため、199.(2)から最終話シリーズになりました。
※この物語はフィクションです。実在する団体・企業・人物とはなんら関係ありません。架空の町が舞台です。
現在の関連作品
『邪眼の娘』更新 令和6年1/7
『月光に咲く花』(ショートショート)
以上2作品はみふゆの母親・水無瀬礼夏(青木礼夏)の物語。
『恋人はメリーさん』(主人公は京司朗の後輩・東雲結)
『繚乱ロンド』の元になった2作品
『花物語』に入っている『カサブランカ・ダディ(全五話)』『花冠はタンポポで(ショートショート)』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる