361 / 846
日常
第三百四十七話 オムライス弁当
しおりを挟む
「卵がない」
それに気づいたのは、朝のことだった。
朝飯と弁当の準備をしようと冷蔵庫を開けば、卵が一つしかないではないか。まいったな、これじゃあ卵焼きが作れない。
目玉焼きを折り曲げたやつにするかな。あれはあれでうまい。
しかしなんか今日はそれじゃないのが食べたいんだよな。うーん、どうしようか。
「……あ、鶏肉あったかな」
うん、買い置きしておいた、細切れの鶏肉があった。だったら、あれが作れるな。オムライス。
チキンライスは多めに作って、朝飯にしよう。
玉ねぎとピーマンを細かく刻む。料理を始めた頃、みじん切りは結構苦戦した記憶があるなあ。今は何とか、同じくらいの細かさに刻むことができるようになった。玉ねぎのみじん切りだけは、どうしても苦手だが。
フライパンに油をひき、鶏肉から炒めていく。ある程度火が通ったら、玉ねぎ、ピーマンを入れ、ケチャップも一緒に投入する。
しっかり炒めて酸味を飛ばしたら、ご飯を入れてよくなじませるように炒める。
塩こしょうで味を調え、一口味見。うん、いいな。
朝食べる分は皿に盛る。弁当箱に白米以外のご飯が入るのは、なんだか特別な気がするので、つい力が入ってしまう。
卵は塩こしょうで味付けをし、薄く焼く。
「よ……っと」
お、うまく焼けた。
チキンライスにそっとかぶせ、端を丁寧に押し込む。きれいに包めたら完成だ。添え物はプチトマトでいいだろう。ソースはケチャップで。
さて、朝飯には、余った玉ねぎで作ったコンソメスープも一緒に。
「いただきます」
甘めの味付けは、塩こしょうで引き締まる。
ご飯の食感は少し柔らかい。鶏肉のうま味が染み出して、なんだか豪華な気分だ。肉そのものもやわらかくてうまい。ピーマンの苦みと玉ねぎのほのかな甘みがいいアクセントになっている。
コンソメスープも即席ながら、なかなかいい出来だ。
薄切りの玉ねぎの食感がわずかに残り、コクのある味わいがほっとする。スプーンにまとわりついていたケチャップが少しスープの表面に広がるのも、またいい。
卵、買って帰るの忘れないようにしないとなあ。
どうやったら忘れないだろうか。
「ごちそうさまでした」
一応メモを書いてはきたが、そのメモの存在を忘れる可能性もある。
昼休み、咲良を待ちながら廊下でメモを見ていたら、目の前で立ち止まる影が一つ。
「何それ」
朝比奈だ。どうやら体育の授業があったらしく、体操服姿である。
「あー、これ? 買い物リスト。帰りに買ってかないとなあ、と思って」
「なるほど。大変だな」
「でもさ、このメモの存在を忘れそうでどうしようかなと思ってる」
「分かる。買い物行く前に、買い忘れがないように書いたメモを家に忘れる、ってことはよくある」
朝比奈は少し考えると「そういえば」と自分の手の甲を見せてきた。
「優太はここに書いてた」
「なるほどなあ。確かにそれは、忘れる確率下がるよな」
「でも、そのリストを見る限り、ずいぶんあるみたいだから現実的じゃないか」
そうなのだ。卵だけでなく、買わなければいけないものがいくつもあるのだ。全部書いてはきりがない。
「じゃあもう、忘れない、ってのが一番手っ取り早いな」
「だなー」
「お待たせー……って、なになに? 二人して何の話してんの~」
そこにやってきたのは咲良だ。
咲良に先ほどまでの話をすると「なるほどな」と笑った。
「それにさ、手に書いてっと怒る先生もいるじゃん。うちのクラスで怒られてるやついたもん。みっともないって」
「それは、いやだな」
まあ別に、忘れたところで支障……あるにはあるけど、思い出した時に買いに行けばいいし。
「じゃ、一緒に買いに行くか!」
「は?」
「俺が覚えてるからさ。放課後、迎えに来るよ」
あっけらかんとした咲良の提案に思わず黙ってしまうと、咲良はそれを了承と受け取ったらしい。
「大丈夫だって。そんな楽しいこと、俺が忘れるはずないからさ!」
「いや、そういうわけではなく……」
「解決したといっていいのか、これは」
朝比奈のその問いには、ただうなり返す事しかできなかった。
まあいい。とりあえず腹ごしらえだ。
「あ、なんか今日の春都の弁当、色合いがかわいい」
「オムライスだ」
「うまそうだなあ」
おにぎりにするという手もあったが、それはまた今度だ。
「いただきます」
ケチャップが蓋に押しつぶされていい感じに広がっている。
少し冷めたチキンライスにスプーンを入れる。しっかりした感触がスプーンから伝わってくる。すくい上げて、一口。
ごろっとした鶏肉は冷めると存在感が増す。噛み応えもあって、うま味の染み出し方が温かい時とはまた違っていい。
ピーマンのほろ苦さは控えめで、玉ねぎの食感が面白い。
チキンライスそのものの酸味はないが、ソースとしてかけたケチャップがほのかにすっぱい。しかし、それがいい。卵の風味と相まって、オムライスらしいというものだ。
「でさ、今日は何買いに行くわけ?」
カツカレーのカツをほおばりながら、咲良が聞いてくる。
「卵とか、いろいろ」
「割らないように気を付けないとな」
一度、買い物袋の中が大惨事になったことがある。あれ以来、慎重になったものだ。
プチトマトのさわやかな味で口をすっきりさせ、再びオムライス。そういや今日、トマト率高いな。
オムライス弁当って、あんましないけど、うまいなあ。
また作ろう。卵がたっぷりあるときにも。ソースはちょっと、いろいろ工夫のしようがありそうだなあ。
「ごちそうさまでした」
それに気づいたのは、朝のことだった。
朝飯と弁当の準備をしようと冷蔵庫を開けば、卵が一つしかないではないか。まいったな、これじゃあ卵焼きが作れない。
目玉焼きを折り曲げたやつにするかな。あれはあれでうまい。
しかしなんか今日はそれじゃないのが食べたいんだよな。うーん、どうしようか。
「……あ、鶏肉あったかな」
うん、買い置きしておいた、細切れの鶏肉があった。だったら、あれが作れるな。オムライス。
チキンライスは多めに作って、朝飯にしよう。
玉ねぎとピーマンを細かく刻む。料理を始めた頃、みじん切りは結構苦戦した記憶があるなあ。今は何とか、同じくらいの細かさに刻むことができるようになった。玉ねぎのみじん切りだけは、どうしても苦手だが。
フライパンに油をひき、鶏肉から炒めていく。ある程度火が通ったら、玉ねぎ、ピーマンを入れ、ケチャップも一緒に投入する。
しっかり炒めて酸味を飛ばしたら、ご飯を入れてよくなじませるように炒める。
塩こしょうで味を調え、一口味見。うん、いいな。
朝食べる分は皿に盛る。弁当箱に白米以外のご飯が入るのは、なんだか特別な気がするので、つい力が入ってしまう。
卵は塩こしょうで味付けをし、薄く焼く。
「よ……っと」
お、うまく焼けた。
チキンライスにそっとかぶせ、端を丁寧に押し込む。きれいに包めたら完成だ。添え物はプチトマトでいいだろう。ソースはケチャップで。
さて、朝飯には、余った玉ねぎで作ったコンソメスープも一緒に。
「いただきます」
甘めの味付けは、塩こしょうで引き締まる。
ご飯の食感は少し柔らかい。鶏肉のうま味が染み出して、なんだか豪華な気分だ。肉そのものもやわらかくてうまい。ピーマンの苦みと玉ねぎのほのかな甘みがいいアクセントになっている。
コンソメスープも即席ながら、なかなかいい出来だ。
薄切りの玉ねぎの食感がわずかに残り、コクのある味わいがほっとする。スプーンにまとわりついていたケチャップが少しスープの表面に広がるのも、またいい。
卵、買って帰るの忘れないようにしないとなあ。
どうやったら忘れないだろうか。
「ごちそうさまでした」
一応メモを書いてはきたが、そのメモの存在を忘れる可能性もある。
昼休み、咲良を待ちながら廊下でメモを見ていたら、目の前で立ち止まる影が一つ。
「何それ」
朝比奈だ。どうやら体育の授業があったらしく、体操服姿である。
「あー、これ? 買い物リスト。帰りに買ってかないとなあ、と思って」
「なるほど。大変だな」
「でもさ、このメモの存在を忘れそうでどうしようかなと思ってる」
「分かる。買い物行く前に、買い忘れがないように書いたメモを家に忘れる、ってことはよくある」
朝比奈は少し考えると「そういえば」と自分の手の甲を見せてきた。
「優太はここに書いてた」
「なるほどなあ。確かにそれは、忘れる確率下がるよな」
「でも、そのリストを見る限り、ずいぶんあるみたいだから現実的じゃないか」
そうなのだ。卵だけでなく、買わなければいけないものがいくつもあるのだ。全部書いてはきりがない。
「じゃあもう、忘れない、ってのが一番手っ取り早いな」
「だなー」
「お待たせー……って、なになに? 二人して何の話してんの~」
そこにやってきたのは咲良だ。
咲良に先ほどまでの話をすると「なるほどな」と笑った。
「それにさ、手に書いてっと怒る先生もいるじゃん。うちのクラスで怒られてるやついたもん。みっともないって」
「それは、いやだな」
まあ別に、忘れたところで支障……あるにはあるけど、思い出した時に買いに行けばいいし。
「じゃ、一緒に買いに行くか!」
「は?」
「俺が覚えてるからさ。放課後、迎えに来るよ」
あっけらかんとした咲良の提案に思わず黙ってしまうと、咲良はそれを了承と受け取ったらしい。
「大丈夫だって。そんな楽しいこと、俺が忘れるはずないからさ!」
「いや、そういうわけではなく……」
「解決したといっていいのか、これは」
朝比奈のその問いには、ただうなり返す事しかできなかった。
まあいい。とりあえず腹ごしらえだ。
「あ、なんか今日の春都の弁当、色合いがかわいい」
「オムライスだ」
「うまそうだなあ」
おにぎりにするという手もあったが、それはまた今度だ。
「いただきます」
ケチャップが蓋に押しつぶされていい感じに広がっている。
少し冷めたチキンライスにスプーンを入れる。しっかりした感触がスプーンから伝わってくる。すくい上げて、一口。
ごろっとした鶏肉は冷めると存在感が増す。噛み応えもあって、うま味の染み出し方が温かい時とはまた違っていい。
ピーマンのほろ苦さは控えめで、玉ねぎの食感が面白い。
チキンライスそのものの酸味はないが、ソースとしてかけたケチャップがほのかにすっぱい。しかし、それがいい。卵の風味と相まって、オムライスらしいというものだ。
「でさ、今日は何買いに行くわけ?」
カツカレーのカツをほおばりながら、咲良が聞いてくる。
「卵とか、いろいろ」
「割らないように気を付けないとな」
一度、買い物袋の中が大惨事になったことがある。あれ以来、慎重になったものだ。
プチトマトのさわやかな味で口をすっきりさせ、再びオムライス。そういや今日、トマト率高いな。
オムライス弁当って、あんましないけど、うまいなあ。
また作ろう。卵がたっぷりあるときにも。ソースはちょっと、いろいろ工夫のしようがありそうだなあ。
「ごちそうさまでした」
23
お気に入りに追加
252
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
お父様、ざまあの時間です
佐崎咲
恋愛
義母と義姉に虐げられてきた私、ユミリア=ミストーク。
父は義母と義姉の所業を知っていながら放置。
ねえ。どう考えても不貞を働いたお父様が一番悪くない?
義母と義姉は置いといて、とにかくお父様、おまえだ!
私が幼い頃からあたためてきた『ざまあ』、今こそ発動してやんよ!
※無断転載・複写はお断りいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる