一条春都の料理帖

藤里 侑

文字の大きさ
上 下
344 / 843
日常

番外編 朝比奈貴志のつまみ食い②

しおりを挟む
 休日である。

 課題は終わらせ、予習も完璧。手元にはお菓子、飲み物、スマホに漫画にゲーム。ティッシュとアルコールシートもある。DVDのディスクを入れ替えるときだけは立ち上がらないといけないが、そのほかは手を伸ばせば届くところにある。

「それと……」

 今日は目を酷使する予定なのでコンタクトではなく眼鏡をかける。黒縁の眼鏡は、小学生の頃と中学の最初の方以来、学校にかけて行ったことはない。

 さてまずはアニメだ。もう何度見たか分からない作品を見る。これ、やっぱ初期の頃がいいんだよなあ。

 座椅子に座って再生ボタンを押す。

 そういえば一条も初期がいいっつってたなあ。お互い、語るより一人で楽しむ方が好きなタイプだからあんま話さないけど、共通の話題を持っているというのはなんか楽しい。言葉が通じるって感じ。

「さて、どれから食べようかな」

 まずはスナック菓子からいくか。うすしおのポテト。なんだかんだいって、これとコーラがあるとワクワクする。

「いただきまーす」

 濃い塩気、甘くシュワシュワしたコーラ。いいね、休みっぽい。

 井上はこのアニメ、あんま知らないんだったか。というか自分らが小学生の頃に放送されてたアニメだからなあ。いまだに好きってやつの方が少ないのかな。まあ、自分が楽しけりゃいいんだけど。

 でも結構深いぞ、このアニメ。今になってやっとわかるようになった展開とか言葉とかあるし。

 ……あ、ポテチなくなった。早いなあ。最近量減った?

 まあいいや。次はポップコーン。バター醤油味がジャンクな感じでうまい。

「あー。この声優さん、出てたっけ」

 今じゃ知らない人はいない……は、言い過ぎか。でも、アニメを見ない人でも知っているような声優さんが脇役で出ている。もう十年近く前だから年齢的に、駆け出しの頃って感じかなあ。

 昔のアニメを見る楽しみって、こういうところもある。新たな発見があるとでもいいますか。

 優太はアニメ、見ないわけじゃないけど偏ってんだよな。興味ないもんは素直に「興味ない!」って言いきるし、見ないし、というか少しも見向きしないし。

 でも絵は描いてくれるんだよな。

 何度も見ているのでセリフ完璧に覚えてる。展開もタイミングもばっちりだ。なので、ゲーム片手に見る、というのも乙なものでして。

「うーん」

 ゲームカセットを収納しているケースを見ながら、時々テレビに視線を戻しながら、今日やるゲームを考える。この瞬間、生きてるって感じがする。

 最近買った、前やってたゲームのリメイク版でもやるか。それこそこのアニメがやってた頃出てたやつのリメイクだ。RPGで、結構な思い出がある。

 モンスターを捕まえて育成しながらクリアしていくゲームなわけだけど、小さい頃は育成の仕方も何も知らなくて、初期に捕まえたモンスターとか好きなやつとかばっかりが強くなって、勝てなくて詰んだ、ってなったな。

 今じゃある程度分かってきたし、楽しみ方も変わったもんだ。

 どうやったらワンパンで倒せっかなとか、効率的なレベル上げとか、あとはどれだけ早くクリアできるかなとか。もちろんストーリーも楽しいんだけど、効率も考えるようになったよなあ。

 ゲームをするときはできるだけ手を汚したくない。ので、お菓子もそういうのにシフトする。

 飴とかいいよな。一回口に入れたらしばらく考えなくていい。ガムも悪くないけど、あれ、吐き出さなきゃいけないし、味無くなるとちょっとな。

 飴はぶどうが好きだな。いかにも香料使ってます、みたいな。

「ん~……やっぱタイプ相性が……」

 分厚い攻略本をめくりながらやるのが楽しい。

 攻略サイトもたまには見るけど、やっぱ攻略本とゲームはセットだろうよ。高いけど。

「あ、アニメ終わった」

 入れ替えるか。あー、でもその前にトイレ済ませとこう。



「あ、貴志」

 自室に帰る途中、お茶も飲みたくなったので台所から麦茶のペットボトルをもらっていこうとしたら、そこにいた姉に呼び止められた。

「何」

「暇? ちょっと味見してほしいんだけど」

「……なにこれ」

 姉の手元には茶色やらベージュやらの何かがあった。皿に盛りつけられているところを見るあたり、食いもんらしい。

「クッキーよ、クッキー」

「クッキー……?」

 少なくとも俺の知っているクッキーの形ではない。こう、規則正しい丸や四角、あるいは星型とか、そういうふうに形容できるものじゃなくて、なんていうんだろう。

「アメーバ型?」

「誰がアメーバ型のクッキーなんて作るのよ」

「でも姉さん、昔、ミジンコ型のクッキーとか作ってなかった?」

「それは……生物部の出し物だったから」

 その時に見たクッキーはなんというか、子どもが見たら逃げ出しそうな、魔除けにすらなりそうな感じだったけど。

「花よ、可憐な花」

「かれんなはな」

 まあ、そう見ようと思えば見えなくもないか。

 姉さんは、はつらつと笑うと「部屋で食べて」と言ってクッキーをのせた皿を差し出してきた。

「作り過ぎちゃったのよ」

 見れば調理台には、おびただしい数のアメーバ……もとい、花が咲き誇っていたのだった。



「いただきます」

 新しいディスクに入れ替え、さっそくクッキーを食べてみる。

 味はいつも悪くないんだよなあ。ココアのクッキーはほろ苦く、プレーンはバター控えめでうまい。

「姉さん、立体物苦手なんだよなあ……」

 平面になるとそれはもう寸分の狂いもない図形やスケッチ、グラフを披露してくれるのだが、立体物になるとどうもいけないらしい。だから設計図と完成品の差が激しくて、毎回びっくりする。

 これ、ジャムかな。花びらにしたかったのか、あるいは花の真ん中を描きたかったのか。真偽不明だが、イチゴジャムを選んだのはいけない。なんかこう、やばい感じがする。

 でもこの甘酸っぱさとクッキーのほのかな甘みがちょうどいい。ああ、なんか脳が混乱する。

 ……これ、あいつらに見せたらなんていうだろう。

 一条は言葉を選びつつもはっきり感想を言ってしまいそうだし、井上は笑って、でも、食ってみたいって言いそうだし、優太は「どうして……?」と言いながらも姉のことを知っているので呆れて笑うだろう。

 実物を持っていけそうか、あとで姉さんに聞いてみよう。

 ついでにラッピングしてもらおうかな。独創的な色使いのラッピング、なんだか癖になるんだよなあ。



「ごちそうさまでした」

しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

Husband's secret (夫の秘密)

設樂理沙
ライト文芸
果たして・・ 秘密などあったのだろうか! 夫のカノジョ / 垣谷 美雨 さま(著) を読んで  Another Storyを考えてみました。 むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ  10秒~30秒?  何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。 ❦ イラストはAI生成画像 自作

【本編完結】繚乱ロンド

由宇ノ木
ライト文芸
番外編更新日 12/25日 *『とわずがたり~思い出を辿れば~1 』 本編は完結。番外編を不定期で更新。 11/11,11/15,11/19 *『夫の疑問、妻の確信1~3』  10/12 *『いつもあなたの幸せを。』 9/14 *『伝統行事』 8/24 *『ひとりがたり~人生を振り返る~』 お盆期間限定番外編 8月11日~8月16日まで *『日常のひとこま』は公開終了しました。 7月31日   *『恋心』・・・本編の171、180、188話にチラッと出てきた京司朗の自室に礼夏が現れたときの話です。 6/18 *『ある時代の出来事』 6/8   *女の子は『かわいい』を見せびらかしたい。全1頁。 *光と影 全1頁。 -本編大まかなあらすじ- *青木みふゆは23歳。両親も妹も失ってしまったみふゆは一人暮らしで、花屋の堀内花壇の支店と本店に勤めている。花の仕事は好きで楽しいが、本店勤務時は事務を任されている二つ年上の林香苗に妬まれ嫌がらせを受けている。嫌がらせは徐々に増え、辟易しているみふゆは転職も思案中。 林香苗は堀内花壇社長の愛人でありながら、店のお得意様の、裏社会組織も持つといわれる惣領家の当主・惣領貴之がみふゆを気に入ってかわいがっているのを妬んでいるのだ。 そして、惣領貴之の懐刀とされる若頭・仙道京司朗も海外から帰国。みふゆが貴之に取り入ろうとしているのではないかと、京司朗から疑いをかけられる。 みふゆは自分の微妙な立場に悩みつつも、惣領貴之との親交を深め養女となるが、ある日予知をきっかけに高熱を出し年齢を退行させてゆくことになる。みふゆの心は子供に戻っていってしまう。 令和5年11/11更新内容(最終回) *199. (2) *200. ロンド~踊る命~ -17- (1)~(6) *エピローグ ロンド~廻る命~ 本編最終回です。200話の一部を199.(2)にしたため、199.(2)から最終話シリーズになりました。  ※この物語はフィクションです。実在する団体・企業・人物とはなんら関係ありません。架空の町が舞台です。 現在の関連作品 『邪眼の娘』更新 令和6年1/7 『月光に咲く花』(ショートショート) 以上2作品はみふゆの母親・水無瀬礼夏(青木礼夏)の物語。 『恋人はメリーさん』(主人公は京司朗の後輩・東雲結) 『繚乱ロンド』の元になった2作品 『花物語』に入っている『カサブランカ・ダディ(全五話)』『花冠はタンポポで(ショートショート)』

処理中です...