334 / 855
日常
第三百二十一話 鶏のすき焼き
しおりを挟む
飯を食い終わって一段落し
朝比奈の着ぐるみの注文番号を伝えると父さんは『三毛猫かあ、いいね』と笑った。
『届け先を聞いてなかったね』
「ああ、学校の方でよろしく」
石上先生が事務室で受け取ってくれると言っていた。何でも、俺たちが試着する様子を見たいのだとか。
『ああ、それとね。父さんたち、今週末には帰ってくるから』
「そうなんだ。分かった。何か食べたいものとかある?」
『そうだなあ……』
少しワクワクしたように呟いて、しばらく考え込んだ後父さんは言った。
『母さんと話してみるよ』
「了解」
それから、一言二言話して通話を切る。
するとすぐにスマホが震えた。母さんだ。
「はい、もしもし」
『もしもし~、元気?』
「まあ、ぼちぼち。母さんは?」
『元気よ~』
それぞれの近況報告をすると、やはり母さんは、着ぐるみのことが気になったらしい。最近は電話の度にそのことを聞かれる。
『お父さんから聞いたよ。春都、クマなんだって?』
「あー、うん。クマ」
『絶対見に来るからね!』
「え、いや、そんな気合い入れんでも……」
この勢いじゃ、絶対来るだろうなあ。まあ別にいいけど。
「それよりさ、週末帰ってくるんでしょ。何食べたい?」
『えー? 餃子』
「餃子」
父さんと違って即答だな。
「分かった。準備しとく」
『ま、お父さんにも聞くよ』
「父さんもおんなじこと言ってた」
『あら、そう?』
父さんに聞くと言うけれど、たぶん、餃子に決まるんだろうなあ。
準備しとこ。
「聞いたよー、着ぐるみ着るんだって?」
廊下でそう声をかけてきたのは百瀬だ。にやにやと笑い、ロッカーにもたれかかってこちらをのぞき込んでいる。
「なんか意外~、一条もそんなの着るんだ~」
「お前も着るか。今なら間に合うぞ」
「俺はいいや。見る専で」
へえ~、そっかあ~、と百瀬はぶつぶつ言っている。
こいつのことだから乗ってくるかとも思ったが、そうでもないのか。よく分からんやつだ。
「今年は出さないのか、ポップ」
「出すよー。絶賛製作中~」
と、百瀬はピースサインを向ける。
前回のやつのクオリティもなかなかだったからなあ。今度もちょっと楽しみだ。
「一条は? 出さないの?」
「俺はいいよ。準備だけで手いっぱいだ」
「もったいないなあ」
何がもったいないのだろうか。気になったが百瀬は着ぐるみの方が気になるらしく、話題を変えた。
「まあ、準備が忙しいなら仕方ないよね。着ぐるみ着るならさ、バク転とかする?」
「着ぐるみ着てなくてもできねーよ」
そんな、野球チームのマスコットキャラじゃねえんだから。
百瀬は「そっかあ」と言うと、自分の教室の方に視線を向けた。
「あ、やべ。次移動だ。そんじゃね、一条」
「おー」
「楽しみにしてるからねー」
この様子だと、噂はあっという間に広まりそうだ。
俺がクマだってことは、黙っといた方がいいだろうなあ。まあ、でも、ばれるか。
「観月に言うのどうしよう……」
あいつの学校の文化祭のこと聞くついでに、こっちのにも誘ってみようかなあ、と思っていたが、あまり大ごとになるのは面倒だ。
ちょっと考えよう。
なんか作るのしんどいけど、がっつり食いたい、という時に作る料理がある。
鶏のすき焼き。これを卵と絡めてご飯にのっけるだけで十分な飯になるのだ。何なら翌日の朝ごはんにすらなる。
鶏肉はもも肉を使う。野菜は白菜でもいいが、今日は大量にある玉ねぎで。それと豆腐。
玉ねぎはかき揚げにするより少し厚めに切る。豆腐は味がちゃんと染みるようなぐらいに。
まずは鶏を焼く。こんがり焼き目がついたら、砂糖、醤油、酒で味付け。ある程度火が通ったら、玉ねぎと豆腐を入れて煮る。
フライパン一つで作れるっていうのもいい。
最後に溶いた卵を回し入れ、好みの火の通り具合になったらご飯にのせる。今日はふわふわ、しっかり火が通った感じにした。
「いただきます」
まずは鶏肉から。
しっかり焦げ目をつけたから香ばしい。プリプリの身にはしっかり甘辛い味が染みていて、卵のふわふわとよく合う。卵は卵でしっかり味と汁を吸ってジューシーだ。
玉ねぎの甘味と食感がたまらない。
シャキシャキしているようで、ほくほくともしている。すっかり茶色く染まっていて、玉ねぎそのものの汁気と、甘辛い汁が合わさってなんともいえない香りである。
豆腐はつるんと口当たりがいい。表面は確かに茶色く染まっているが、箸を入れると真っ白だ。すっかり甘辛い味になっている、というわけではなく豆腐の味もよく分かりつつ、他の具材とのバランスもいい。
ご飯はつゆだくで、親子丼より濃い目の味である。
明日の分は残ってないが、うまかった。また作ろう。
「ごちそうさまでした」
朝比奈の着ぐるみの注文番号を伝えると父さんは『三毛猫かあ、いいね』と笑った。
『届け先を聞いてなかったね』
「ああ、学校の方でよろしく」
石上先生が事務室で受け取ってくれると言っていた。何でも、俺たちが試着する様子を見たいのだとか。
『ああ、それとね。父さんたち、今週末には帰ってくるから』
「そうなんだ。分かった。何か食べたいものとかある?」
『そうだなあ……』
少しワクワクしたように呟いて、しばらく考え込んだ後父さんは言った。
『母さんと話してみるよ』
「了解」
それから、一言二言話して通話を切る。
するとすぐにスマホが震えた。母さんだ。
「はい、もしもし」
『もしもし~、元気?』
「まあ、ぼちぼち。母さんは?」
『元気よ~』
それぞれの近況報告をすると、やはり母さんは、着ぐるみのことが気になったらしい。最近は電話の度にそのことを聞かれる。
『お父さんから聞いたよ。春都、クマなんだって?』
「あー、うん。クマ」
『絶対見に来るからね!』
「え、いや、そんな気合い入れんでも……」
この勢いじゃ、絶対来るだろうなあ。まあ別にいいけど。
「それよりさ、週末帰ってくるんでしょ。何食べたい?」
『えー? 餃子』
「餃子」
父さんと違って即答だな。
「分かった。準備しとく」
『ま、お父さんにも聞くよ』
「父さんもおんなじこと言ってた」
『あら、そう?』
父さんに聞くと言うけれど、たぶん、餃子に決まるんだろうなあ。
準備しとこ。
「聞いたよー、着ぐるみ着るんだって?」
廊下でそう声をかけてきたのは百瀬だ。にやにやと笑い、ロッカーにもたれかかってこちらをのぞき込んでいる。
「なんか意外~、一条もそんなの着るんだ~」
「お前も着るか。今なら間に合うぞ」
「俺はいいや。見る専で」
へえ~、そっかあ~、と百瀬はぶつぶつ言っている。
こいつのことだから乗ってくるかとも思ったが、そうでもないのか。よく分からんやつだ。
「今年は出さないのか、ポップ」
「出すよー。絶賛製作中~」
と、百瀬はピースサインを向ける。
前回のやつのクオリティもなかなかだったからなあ。今度もちょっと楽しみだ。
「一条は? 出さないの?」
「俺はいいよ。準備だけで手いっぱいだ」
「もったいないなあ」
何がもったいないのだろうか。気になったが百瀬は着ぐるみの方が気になるらしく、話題を変えた。
「まあ、準備が忙しいなら仕方ないよね。着ぐるみ着るならさ、バク転とかする?」
「着ぐるみ着てなくてもできねーよ」
そんな、野球チームのマスコットキャラじゃねえんだから。
百瀬は「そっかあ」と言うと、自分の教室の方に視線を向けた。
「あ、やべ。次移動だ。そんじゃね、一条」
「おー」
「楽しみにしてるからねー」
この様子だと、噂はあっという間に広まりそうだ。
俺がクマだってことは、黙っといた方がいいだろうなあ。まあ、でも、ばれるか。
「観月に言うのどうしよう……」
あいつの学校の文化祭のこと聞くついでに、こっちのにも誘ってみようかなあ、と思っていたが、あまり大ごとになるのは面倒だ。
ちょっと考えよう。
なんか作るのしんどいけど、がっつり食いたい、という時に作る料理がある。
鶏のすき焼き。これを卵と絡めてご飯にのっけるだけで十分な飯になるのだ。何なら翌日の朝ごはんにすらなる。
鶏肉はもも肉を使う。野菜は白菜でもいいが、今日は大量にある玉ねぎで。それと豆腐。
玉ねぎはかき揚げにするより少し厚めに切る。豆腐は味がちゃんと染みるようなぐらいに。
まずは鶏を焼く。こんがり焼き目がついたら、砂糖、醤油、酒で味付け。ある程度火が通ったら、玉ねぎと豆腐を入れて煮る。
フライパン一つで作れるっていうのもいい。
最後に溶いた卵を回し入れ、好みの火の通り具合になったらご飯にのせる。今日はふわふわ、しっかり火が通った感じにした。
「いただきます」
まずは鶏肉から。
しっかり焦げ目をつけたから香ばしい。プリプリの身にはしっかり甘辛い味が染みていて、卵のふわふわとよく合う。卵は卵でしっかり味と汁を吸ってジューシーだ。
玉ねぎの甘味と食感がたまらない。
シャキシャキしているようで、ほくほくともしている。すっかり茶色く染まっていて、玉ねぎそのものの汁気と、甘辛い汁が合わさってなんともいえない香りである。
豆腐はつるんと口当たりがいい。表面は確かに茶色く染まっているが、箸を入れると真っ白だ。すっかり甘辛い味になっている、というわけではなく豆腐の味もよく分かりつつ、他の具材とのバランスもいい。
ご飯はつゆだくで、親子丼より濃い目の味である。
明日の分は残ってないが、うまかった。また作ろう。
「ごちそうさまでした」
23
お気に入りに追加
253
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜
野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」
「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」
この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。
半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。
別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。
そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。
学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー
⭐︎毎日朝7時に最新話を投稿します。
⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。
※表紙絵、挿絵はAI作成です。
※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。


だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる