257 / 846
日常
第二百五十一話 たらこうどん
しおりを挟む
いつもより遅めに目を覚ましたような気がする。
外はすでに明るい。というか、俺の部屋、こんなに光が差し込むような窓あったっけ。そういやここどこだっけ、ああ、じいちゃんとばあちゃんの家か。
「ふぁ……ふ」
上体を起こして伸びをする。いい天気だ。真冬はさすがに裏の部屋じゃ寝られないけど、今頃だとちょっとストーブつければ十分寝心地のいい場所になる。
「おはよう」
身支度を済ませ布団をたたんだら居間に向かう。じいちゃんとばあちゃんはすでに朝食を済ませていたらしく、机の上には俺の分の朝食だけが準備されていた。
「おお、おはよう」
「おはよう、春都。眠れた?」
「うん」
朝飯は昨日のみそ汁の残りと炊き立てのご飯、焼いた鮭に卵焼き、たくあん炒め。
豪華だ。
「いただきます」
「はーい、どうぞ」
ばあちゃんがお茶をくんでくれた。温かい緑茶だ。
一日経ったみそ汁は香ばしさが増すようだ。豆腐にもしっかり味が染みてほろほろしている。わかめ、増えたなあ。
鮭の塩気もいい感じだ。カリッと表面が焼けつつも中はふっくらとしている。これがご飯に合わないわけがない。皮もマヨネーズをつけて食べる。何気にうまい。魚の香りが強いので苦手な人は苦手だろうけど、俺は好きだな。
卵焼きはほのかに甘い。プルッと食感にカステラにも似た香り。
「今日はいつごろ帰るの?」
「んー、昼前かな。明日の準備もしないと」
「そっか、明日学校だもんね」
たくあん炒めは言わずもがな、その香ばしさがたまらない。
「またいつでも来るといい」
と、じいちゃんが作業着に着替えて言った。
「なにも持ってこなくていいからな」
にやりと笑って表へと向かったじいちゃんは、なんかすごく、かっこよかった。
帰り際に持たされた二つのタッパーには、高菜炒めとたくあん炒めがそれぞれたんまりと入っていた。
「食べ過ぎないのよ。おなか壊すから」
と、ばあちゃんには再三念を押された。
「昼はこれだけでいいかなー」
ご飯は炊いてないから冷凍をどうにかしよう。
そう考えを巡らせながら冷蔵庫を開けタッパーをしまう。と、何か中途半端というか、冷蔵庫の中でやけに目に付く存在を見つけた。
「うどんだ」
あー、そうだった。一玉余ってたんだったか。
消費期限が近くて目に付くところに出してたんだった。いつまでだったっけ……
「今日か」
使っとかないとなあ。もったいない。
そういやなんか他にも中途半端に残ってたのがあったような気がする。なんだっけ。
扉を開けっぱなしにしていた冷蔵庫が鳴りだしたのでいったん、うどんを戻して閉める。ピーッピーッという規則正しい音が途中でぶった切られるようにして止まった。
棚を探してみる。いつもこういう隙間に使いきりサイズのパスタソースとか、お茶漬けとか、お吸い物の袋が残ってんだ。こないだはふりかけがあったんだっけ。
「やっぱり」
見つけたのはたらこスパゲティのソースだ。刻みのりも一緒である。
スパゲティソースにうどん。さて、どうするか。まあソースは今日が消費期限ってわけじゃないけど、思い立った時に使っとかないとまた忘れてしまうし。
ソースと刻みのりはいったん調理台に置いておく。
まだ昼には早いのでとりあえずテレビでも見るか。今の時間なら、週末のイベントとかが特集されてる地元のワイドショーがあっているはずだ。
実際に行くわけじゃないけど、ああいうの見るだけで楽しい。
『さて、今週もイベントが盛りだくさんです!』
いつも見るアナウンサーがそう言うと、画面が切り替わる。人がごった返す室内。光があふれるおしゃれな空間で、ぱっと見ではそこが調理施設だとは気づかなかった。
『今月は、週ごとに違う有名料理家をお迎えして、お料理教室が開かれています! 今日の先生は……』
へえ、そんなことやってんだなあ。有名店に負けない味、残り物活用法……ふうん。
『見てください、これ! 一見すると冷製パスタですが、この麺、実は白滝なんです!』
白滝を麺の代わりにするのはコンビニでもよく見る。パスタのつもりで買って、ちょっとしょんぼりした記憶が。まあ、うまかったけど。
『他にもいろいろなレシピがありまして、そのどれもが、そういえば自分ではやったことがないな、というもの……』
自分では作ったことがない。確かに、店ではよく見るけどうちじゃ……っていう料理はあるよな。
あ、そうだ。いいこと思いついた。
うどん麺は普通にゆでる。袋に張り付いた麺もちゃんと茹でたいものである。
今日は出汁を用意しない。その代わりに使うのがたらこスパゲティのソース。お店じゃよく見るたらこうどん。それを家で作ってみようと思ったのだ。
さっきテレビで紹介されたわけでもないし、作り方を知っているわけでもないし、何より食ったことないし。お店で見かけるのも明太クリーム、とかの方が多いし。
でも、うまいと思う。たぶん。
茹でたうどんは器に盛り、あとはたらこスパゲティを作るときのやり方と同じ。ソースを入れて混ぜたら、刻みのりをかけて完成だ。
うまいとは思う。あ、でも塩気足りるかな。とりあえず食ってみるか。これだけじゃ足りないし、ご飯も用意しとこう。
「いただきます」
しっかりソースを絡めてすする。
お、これはいける。たらこソースの塩気は程よく、むしろあっさりしていておいしい。海苔の風味もよく、もちもちのうどんの食感もいい。
なるほど、これはスパゲティでなくてもいけるな。
スパゲティとして食うよりも口当たりがまろやかで、出汁で食うよりも軽く食える。お昼ご飯としてちょうどいい感じだ。ご飯と一緒に食うのもありだな。今日は当然、高菜炒めとたくあん炒めもお供として控えている。
でもちょっと味変もしてみたい。
やっぱここは……マヨネーズだろうか。明太マヨは間違いないと個人的には思っている。
しっかり混ぜて、一口。……ああ、いいな、これ。マヨネーズのうま味が合わさってよりうまくなった。今度は最初から入れてもいいかもしれない。お湯に塩入れて麺を茹でてない分、塩気のある調味料が合うんだな。クリーミーだな、うまい。
今度作るときは茹でた野菜とかも入れてみようかな。ブロッコリーとか合うだろう。
なんとなくお店でも頼むのにしり込みしてたメニューだったけど、いつか機会があったら頼んでみるのもいいかもしれない。プロの味、食ってみたい。
でもまあ、今度からこのソース買うときは、うどんも一緒に買うようになるだろうなあ。
「ごちそうさまでした」
外はすでに明るい。というか、俺の部屋、こんなに光が差し込むような窓あったっけ。そういやここどこだっけ、ああ、じいちゃんとばあちゃんの家か。
「ふぁ……ふ」
上体を起こして伸びをする。いい天気だ。真冬はさすがに裏の部屋じゃ寝られないけど、今頃だとちょっとストーブつければ十分寝心地のいい場所になる。
「おはよう」
身支度を済ませ布団をたたんだら居間に向かう。じいちゃんとばあちゃんはすでに朝食を済ませていたらしく、机の上には俺の分の朝食だけが準備されていた。
「おお、おはよう」
「おはよう、春都。眠れた?」
「うん」
朝飯は昨日のみそ汁の残りと炊き立てのご飯、焼いた鮭に卵焼き、たくあん炒め。
豪華だ。
「いただきます」
「はーい、どうぞ」
ばあちゃんがお茶をくんでくれた。温かい緑茶だ。
一日経ったみそ汁は香ばしさが増すようだ。豆腐にもしっかり味が染みてほろほろしている。わかめ、増えたなあ。
鮭の塩気もいい感じだ。カリッと表面が焼けつつも中はふっくらとしている。これがご飯に合わないわけがない。皮もマヨネーズをつけて食べる。何気にうまい。魚の香りが強いので苦手な人は苦手だろうけど、俺は好きだな。
卵焼きはほのかに甘い。プルッと食感にカステラにも似た香り。
「今日はいつごろ帰るの?」
「んー、昼前かな。明日の準備もしないと」
「そっか、明日学校だもんね」
たくあん炒めは言わずもがな、その香ばしさがたまらない。
「またいつでも来るといい」
と、じいちゃんが作業着に着替えて言った。
「なにも持ってこなくていいからな」
にやりと笑って表へと向かったじいちゃんは、なんかすごく、かっこよかった。
帰り際に持たされた二つのタッパーには、高菜炒めとたくあん炒めがそれぞれたんまりと入っていた。
「食べ過ぎないのよ。おなか壊すから」
と、ばあちゃんには再三念を押された。
「昼はこれだけでいいかなー」
ご飯は炊いてないから冷凍をどうにかしよう。
そう考えを巡らせながら冷蔵庫を開けタッパーをしまう。と、何か中途半端というか、冷蔵庫の中でやけに目に付く存在を見つけた。
「うどんだ」
あー、そうだった。一玉余ってたんだったか。
消費期限が近くて目に付くところに出してたんだった。いつまでだったっけ……
「今日か」
使っとかないとなあ。もったいない。
そういやなんか他にも中途半端に残ってたのがあったような気がする。なんだっけ。
扉を開けっぱなしにしていた冷蔵庫が鳴りだしたのでいったん、うどんを戻して閉める。ピーッピーッという規則正しい音が途中でぶった切られるようにして止まった。
棚を探してみる。いつもこういう隙間に使いきりサイズのパスタソースとか、お茶漬けとか、お吸い物の袋が残ってんだ。こないだはふりかけがあったんだっけ。
「やっぱり」
見つけたのはたらこスパゲティのソースだ。刻みのりも一緒である。
スパゲティソースにうどん。さて、どうするか。まあソースは今日が消費期限ってわけじゃないけど、思い立った時に使っとかないとまた忘れてしまうし。
ソースと刻みのりはいったん調理台に置いておく。
まだ昼には早いのでとりあえずテレビでも見るか。今の時間なら、週末のイベントとかが特集されてる地元のワイドショーがあっているはずだ。
実際に行くわけじゃないけど、ああいうの見るだけで楽しい。
『さて、今週もイベントが盛りだくさんです!』
いつも見るアナウンサーがそう言うと、画面が切り替わる。人がごった返す室内。光があふれるおしゃれな空間で、ぱっと見ではそこが調理施設だとは気づかなかった。
『今月は、週ごとに違う有名料理家をお迎えして、お料理教室が開かれています! 今日の先生は……』
へえ、そんなことやってんだなあ。有名店に負けない味、残り物活用法……ふうん。
『見てください、これ! 一見すると冷製パスタですが、この麺、実は白滝なんです!』
白滝を麺の代わりにするのはコンビニでもよく見る。パスタのつもりで買って、ちょっとしょんぼりした記憶が。まあ、うまかったけど。
『他にもいろいろなレシピがありまして、そのどれもが、そういえば自分ではやったことがないな、というもの……』
自分では作ったことがない。確かに、店ではよく見るけどうちじゃ……っていう料理はあるよな。
あ、そうだ。いいこと思いついた。
うどん麺は普通にゆでる。袋に張り付いた麺もちゃんと茹でたいものである。
今日は出汁を用意しない。その代わりに使うのがたらこスパゲティのソース。お店じゃよく見るたらこうどん。それを家で作ってみようと思ったのだ。
さっきテレビで紹介されたわけでもないし、作り方を知っているわけでもないし、何より食ったことないし。お店で見かけるのも明太クリーム、とかの方が多いし。
でも、うまいと思う。たぶん。
茹でたうどんは器に盛り、あとはたらこスパゲティを作るときのやり方と同じ。ソースを入れて混ぜたら、刻みのりをかけて完成だ。
うまいとは思う。あ、でも塩気足りるかな。とりあえず食ってみるか。これだけじゃ足りないし、ご飯も用意しとこう。
「いただきます」
しっかりソースを絡めてすする。
お、これはいける。たらこソースの塩気は程よく、むしろあっさりしていておいしい。海苔の風味もよく、もちもちのうどんの食感もいい。
なるほど、これはスパゲティでなくてもいけるな。
スパゲティとして食うよりも口当たりがまろやかで、出汁で食うよりも軽く食える。お昼ご飯としてちょうどいい感じだ。ご飯と一緒に食うのもありだな。今日は当然、高菜炒めとたくあん炒めもお供として控えている。
でもちょっと味変もしてみたい。
やっぱここは……マヨネーズだろうか。明太マヨは間違いないと個人的には思っている。
しっかり混ぜて、一口。……ああ、いいな、これ。マヨネーズのうま味が合わさってよりうまくなった。今度は最初から入れてもいいかもしれない。お湯に塩入れて麺を茹でてない分、塩気のある調味料が合うんだな。クリーミーだな、うまい。
今度作るときは茹でた野菜とかも入れてみようかな。ブロッコリーとか合うだろう。
なんとなくお店でも頼むのにしり込みしてたメニューだったけど、いつか機会があったら頼んでみるのもいいかもしれない。プロの味、食ってみたい。
でもまあ、今度からこのソース買うときは、うどんも一緒に買うようになるだろうなあ。
「ごちそうさまでした」
12
お気に入りに追加
252
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
蛍地獄奇譚
玉楼二千佳
ライト文芸
地獄の門番が何者かに襲われ、妖怪達が人間界に解き放たれた。閻魔大王は、我が次男蛍を人間界に下界させ、蛍は三吉をお供に調査を開始する。蛍は絢詩野学園の生徒として、潜伏する。そこで、人間の少女なずなと出逢う。
蛍となずな。決して出逢うことのなかった二人が出逢った時、運命の歯車は動き始める…。
*表紙のイラストは鯛飯好様から頂きました。
著作権は鯛飯好様にあります。無断転載厳禁
お父様、ざまあの時間です
佐崎咲
恋愛
義母と義姉に虐げられてきた私、ユミリア=ミストーク。
父は義母と義姉の所業を知っていながら放置。
ねえ。どう考えても不貞を働いたお父様が一番悪くない?
義母と義姉は置いといて、とにかくお父様、おまえだ!
私が幼い頃からあたためてきた『ざまあ』、今こそ発動してやんよ!
※無断転載・複写はお断りいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる