一条春都の料理帖

藤里 侑

文字の大きさ
上 下
224 / 855
日常

第二百二十一話 巻いたサンドイッチ

しおりを挟む
 今日から三日間テストかあ。早く帰れるのはいいけど気ぃ張っとかなきゃいけないのは面倒だなあ。

 というわけでちょっとした楽しみを作っておくことにする。

 用意するのはサンドイッチ用のパンにイチゴ、バナナ、生クリーム。クリームはすでにホイップされていて、絞るだけでいいやつだ。

 イチゴは昨日のうちに準備しておいた。へたを取って洗い、しっかり水気を拭いている。

 アルミホイルの上にパンを一枚置き、その上にクリームを絞る。そしてイチゴを三つのせたらさらに絞って、もう一枚パンを重ねたら……

「よ……っと」

 うまく成形しながら丸める。よし、いい感じだ。

 次はバナナ。同じ要領で作っていくが、バナナは切り分けない。だって丸々一本入ってた方がなんかワクワクするし、食べ応えもある。

 クリームを絞るのは楽しい。工作をしている感覚に似ているだろうか。

 だからといってまめにお菓子を作ることはないのだが。

「よし、いい感じ」

 太巻きかってぐらいごっつくなった。ずっしりと重みもあるし、これはいい。

 余ったイチゴと生クリームと一緒に冷蔵庫に入れておく。

 さあ、頑張るとしますか。



 テストのときは時間の割り振りがいつもと違う。休憩時間が十分ほど長いのだ。

 その時間は基本、みんな勉強している。教室内に教科書を持って行ってはいけないので廊下はぎゅうぎゅうだ。

 俺はテスト前に教科書をめくらない。なんか下手に見るとその部分だけ印象に残ってさっきまで覚えてたことを忘れちゃうんだよな。だから教室の、自分の席でぼーっとするのが常である。

 で、それをいいことに絡んでくる奴がいるわけで。

「春都ぉ」

 情けなく教室に入ってきたのは咲良だ。

「よく入ってきたな」

「えー? だってそういうルールないじゃん?」

「それはそうだが」

 なんとなく雰囲気で入ってはいけないような気がするのは、俺だけだろうか。まあ、こいつに雰囲気とか関係ないか。

「そんなことよりさあ、どうしよう、春都」

「何がだ」

「テスト、やばい」

「やばいのか」

 それはいつものことじゃないか、とは言わない。ここでそんなこと言ったらますます面倒なことになるだけだ。

「だってさ!」

 人の少ない教室では声がよく響く。咲良はぐっとこぶしを握り締めた。

「絶対出すって言ってたところがあったからさ、そこはしっかり勉強してたわけ! でも、その配点低いじゃん!」

「いや……」

 そこ以外も勉強するのがテスト勉強ではないのかと思ったが、言わない。理由は以下略。

「しかも次は英語だろー? もうやだよぉ、今回リスニングもやるんだろ~。リスニング嫌いなんだよ、眠くなるんだよ、あれは子守歌だろ~」

「テスト中に寝るなよ」

「寝るよ~。だって解けるところ限られてるし、諦めたら寝るしかないじゃん!」

「諦めるなよ……」

 こいつはまったく、クラスは違うというのに手のかかるやつだ。

「お前、やればできるんじゃなかったのか?」

「時と場合による」

 そう言って頭を抱える咲良だが、次の瞬間にはパッと顔を輝かせた。

「あ、でも国語は自信ある!」

「……そうか」

「というわけで春都、勝負だ!」

 唐突に何を言い出すのかと思ったが、これが咲良だったと思いなおす。

「なぜだ」

「そっちの方がやる気出る!」

「だったら他の教科も勝負するか」

 そう提案してみれば、咲良は屈託のない笑顔で言ったものだ。

「えー? 勝ち目のない勝負は面白くないだろー?」

 こいつはネガティブなんだかポジティブなんだか分からん奴だな。

「それに、数学は範囲が違うし、英語も今回は違うだろ? 化学にいたっては俺ら基礎じゃないし、物理は春都たち無いじゃん」

 それはそうだが。

「そこまでまともなこと言うぐらいなら勉強しとけ」

「えー、それとこれとは別じゃない?」

「別じゃない」

 十分前の予鈴が鳴り、廊下にいたやつらが次々と教室に戻ってくる。咲良はそれを見て「じゃ、そういうわけで!」と帰って行った。

 何だよ、マジで勝負するつもりか。

 別に勝ち負けにこだわるわけじゃないけど、あいつに負けるのはなんだか癪だ。国語は最終日、最後の時間だっけ。

 ちくしょう、負けてたまるか。



 いい点数を取るためにも休息は大事だ。

「いただきます」

 昼食は昨日ばあちゃんが作り置きしてくれていたスコッチエッグとたくあん炒め。今日のスコッチエッグはしっかり中まで火が通っている。これはこれでうまいんだ。

 しっかりとした噛み応えの黄身もまた味わいがあるというものだ。肉のうま味も凝縮されているようで、サクサク感はあまりないが、ソースもしっかりなじんでうまい。

 たくあん炒めも安定しておいしい。コリコリとした食感としょっぱさ、ゴマの香ばしさ。ご飯が進んでしょうがない。

 そして今日はさらに楽しみが。

 まずは……バナナの方から食うか。

 でかい。どっからかぶりつけばいいだろうか。パンの方からちょっとずつ、クリーム、バナナに至る。

 甘い。クリームもだが、バナナ自体も熟れている。トロトロで、クリームとよくなじんでおいしい。パンにちょっと塩気があるのでより引き立つのだろう。

 さて、次はイチゴだ。

 こっちはみずみずしく、爽やかにはじけるような酸味が心地いい。クリームとイチゴってなんでこんなに合うんだろうか。プチプチとした食感も楽しい。お、酸味だけじゃなく、ちゃんと甘い。

 余っていたイチゴも食べる。このまま食ったら爽やかでいいが、クリームを絞ればちょっとしたパフェのようにもなる。

 で、後のせイチゴとクリーム。食いづらいが、うまい。

 やっぱテストみたいに、集中的に頭使った時は甘いものが染みる。

 明日もなんか準備しとこうかな。



「ごちそうさまでした」

しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜

野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」   「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」 この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。 半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。 別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。 そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。 学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー ⭐︎毎日朝7時に最新話を投稿します。 ⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。 ※表紙絵、挿絵はAI作成です。 ※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...