220 / 855
日常
第二百十八話 アジフライ
しおりを挟む
テスト前は朝がゆっくりだ。
ほくほくとした心持でソファにのんびりと座っていたらスマホが鳴った。
「母さんか」
通話ではなくメッセージだ。
『夕方楽しみにしてて!』
……どういうことだ。
とりあえず首を傾げたキャラクターのスタンプを送れば、少しして電話がかかってきた。母さんはメッセージを送るより電話の方が楽らしい。
「もしもーし」
『あら、まだ家?』
「んー。テスト前」
『なるほどね』
しかしこれならあのメッセージの真意がわかるというものだ。
「どういうこと?」
『ああ、実はね』
母さんは楽しげに笑った。
『いいものを送ってるの。今日の夕方には着くだろうから、楽しみにしてて』
「ああ、そういうこと。ありがとう」
『なに? 何だと思った?』
「いや……」
何だと思った、っていうか、なにも思いつかなかったというか。何をしでかすつもりだろうかとは思ったけど。
『まあ、夜ご飯にでも食べて』
「ということは食品か」
『内容はお楽しみ~』
そこを詳しく聞き出そうとしたが、そうこうしているうちに登校時間になった。
仕方ない。今日の夕方には明らかになることだ。楽しみにしておこう。
「なんかさー……」
昼休み。今日は勇樹も一緒に飯を食っていたのだが、咲良が俺の方を見て言った。
「春都、なんかいいことでもあった?」
「なんでだ?」
昼飯は食堂が作っている弁当だ。数量限定で内容は日替わりである。基本はご飯の上にどんとおかずがのっているもので、今日はキャベツとチキンカツだった。
「なんかそわそわしてるなーと思って」
「え、そうなんだ」
そう言って少し驚くのは勇樹だ。
「いつも通りに見える」
「いつも通りだぞ」
「えー? 絶対違うって」
食堂のチキンカツはなんと揚げたてで、サクサクと香ばしく、ソースも染みておいしい。付け合わせのキュウリの漬物はほんのりしそっぽい風味がする。ご飯に温められているのが弁当らしいなあ。
「なんか楽しいことがあったか、楽しいことがあるか!」
自信満々に言い、咲良はカツをほおばった。
「ま、たいてい飯関連だけどな」
その自信ありげな言い方に腹が立つが、あながち間違ってもいないので何も言い返せない。
実際、楽しみなのだからしょうがない。でも俺そんな顔に出てるかなあ。
「俺は分かんなかった」
勇樹は弁当を早々に食べ終わり、別に買っていたパンの袋を開けていた。
「咲良は分かりやすいけど」
「えー? 何だよそれー」
咲良はケタケタと笑った。
「俺そんな分かりやすい?」
「表情筋の可動域が広いと思う」
「それは分かる」
というか、俺の隣にいたら誰でも表情豊かに見えるものだと思うんだが。あ、でも朝比奈は似たり寄ったりだろうか。それは朝比奈に失礼か。
「俺、ポーカーフェイスじゃない? クールキャラっていうかさ」
そう決め顔をして咲良は言うが、なんか滑稽に見えて思わず笑ってしまった。
「笑うなよー」
「お前もうちょっと本気出せよ……できるだろ?」
「さっきの結構渾身の決め顔だったんだけど?」
本気で訳が分からないという顔をする咲良がさらにおかしくて、午後からの授業、たまに思い出して笑いをこらえるのに必死だった。
荷物は、帰り着いてから三十分ほどして届いた。
「これは……」
箱の中身は冷凍のアジフライだった。おお、このまま揚げればいいってことか。一袋にいくつも入っているんだな……って五袋も来てるし。しばらくアジフライには困らないなあ。
「ん?」
何か一緒に入っている。紙?
『来週には帰って来るよ!』
この筆跡は母さんのものだ。
そっか、来週帰ってくるのか。案外遅かったなあ。そうだ、何食いたいか聞いとかないと。どっか外食とか行くかな。
頬が緩むのを感じて、ぐにぐにともんで戻す。
さて、飯だ。
アジフライに添えるのはキャベツ。千切りにしてたっぷりと。
アジフライは衣がついていてそのまま揚げられるから、油をフライパンで温めて……
「うわ、でか」
思った倍はでかい。これは食べ応えがあるなあ。こりゃ二切れでいい。
こんがりきれいに揚がったら、皿に盛って完成だ。醤油とタルタルソースを準備しよう。
「いただきます」
しかも身が分厚い。ずっしりと箸から伝わる重さにわくわくする。
まずは醤油で。サクッと香ばしい衣、ふんわりとした身、かと思えばしっかりとした食感の部分もある。臭みもないし、魚のうま味があふれ出てくるようだ。
醤油の味がそのうま味を引き立てる。ここまでアジをしっかり楽しめるアジフライは初めてかもしれない。
キャベツはドレッシングでさっぱり。酸味が強めのドレッシングは揚げ物の時にいい。
タルタルソースをかけると一気にジャンクな感じになる。シャキッと玉ねぎにまろやかなマヨネーズ。やっぱフライとタルタルソースって合うなあ。
そしてこの組み合わせはご飯が進むんだ。
二枚目で幸せな満腹感を感じるころ、ふと手元に置いていた手紙に視線を落とす。
『来週には帰ってくるよ!』
たった一文、簡潔な言葉だけど俺の表情筋を緩めるには十分だ。
緩みすぎには、気を付けたいがな。
「ごちそうさまでした」
ほくほくとした心持でソファにのんびりと座っていたらスマホが鳴った。
「母さんか」
通話ではなくメッセージだ。
『夕方楽しみにしてて!』
……どういうことだ。
とりあえず首を傾げたキャラクターのスタンプを送れば、少しして電話がかかってきた。母さんはメッセージを送るより電話の方が楽らしい。
「もしもーし」
『あら、まだ家?』
「んー。テスト前」
『なるほどね』
しかしこれならあのメッセージの真意がわかるというものだ。
「どういうこと?」
『ああ、実はね』
母さんは楽しげに笑った。
『いいものを送ってるの。今日の夕方には着くだろうから、楽しみにしてて』
「ああ、そういうこと。ありがとう」
『なに? 何だと思った?』
「いや……」
何だと思った、っていうか、なにも思いつかなかったというか。何をしでかすつもりだろうかとは思ったけど。
『まあ、夜ご飯にでも食べて』
「ということは食品か」
『内容はお楽しみ~』
そこを詳しく聞き出そうとしたが、そうこうしているうちに登校時間になった。
仕方ない。今日の夕方には明らかになることだ。楽しみにしておこう。
「なんかさー……」
昼休み。今日は勇樹も一緒に飯を食っていたのだが、咲良が俺の方を見て言った。
「春都、なんかいいことでもあった?」
「なんでだ?」
昼飯は食堂が作っている弁当だ。数量限定で内容は日替わりである。基本はご飯の上にどんとおかずがのっているもので、今日はキャベツとチキンカツだった。
「なんかそわそわしてるなーと思って」
「え、そうなんだ」
そう言って少し驚くのは勇樹だ。
「いつも通りに見える」
「いつも通りだぞ」
「えー? 絶対違うって」
食堂のチキンカツはなんと揚げたてで、サクサクと香ばしく、ソースも染みておいしい。付け合わせのキュウリの漬物はほんのりしそっぽい風味がする。ご飯に温められているのが弁当らしいなあ。
「なんか楽しいことがあったか、楽しいことがあるか!」
自信満々に言い、咲良はカツをほおばった。
「ま、たいてい飯関連だけどな」
その自信ありげな言い方に腹が立つが、あながち間違ってもいないので何も言い返せない。
実際、楽しみなのだからしょうがない。でも俺そんな顔に出てるかなあ。
「俺は分かんなかった」
勇樹は弁当を早々に食べ終わり、別に買っていたパンの袋を開けていた。
「咲良は分かりやすいけど」
「えー? 何だよそれー」
咲良はケタケタと笑った。
「俺そんな分かりやすい?」
「表情筋の可動域が広いと思う」
「それは分かる」
というか、俺の隣にいたら誰でも表情豊かに見えるものだと思うんだが。あ、でも朝比奈は似たり寄ったりだろうか。それは朝比奈に失礼か。
「俺、ポーカーフェイスじゃない? クールキャラっていうかさ」
そう決め顔をして咲良は言うが、なんか滑稽に見えて思わず笑ってしまった。
「笑うなよー」
「お前もうちょっと本気出せよ……できるだろ?」
「さっきの結構渾身の決め顔だったんだけど?」
本気で訳が分からないという顔をする咲良がさらにおかしくて、午後からの授業、たまに思い出して笑いをこらえるのに必死だった。
荷物は、帰り着いてから三十分ほどして届いた。
「これは……」
箱の中身は冷凍のアジフライだった。おお、このまま揚げればいいってことか。一袋にいくつも入っているんだな……って五袋も来てるし。しばらくアジフライには困らないなあ。
「ん?」
何か一緒に入っている。紙?
『来週には帰って来るよ!』
この筆跡は母さんのものだ。
そっか、来週帰ってくるのか。案外遅かったなあ。そうだ、何食いたいか聞いとかないと。どっか外食とか行くかな。
頬が緩むのを感じて、ぐにぐにともんで戻す。
さて、飯だ。
アジフライに添えるのはキャベツ。千切りにしてたっぷりと。
アジフライは衣がついていてそのまま揚げられるから、油をフライパンで温めて……
「うわ、でか」
思った倍はでかい。これは食べ応えがあるなあ。こりゃ二切れでいい。
こんがりきれいに揚がったら、皿に盛って完成だ。醤油とタルタルソースを準備しよう。
「いただきます」
しかも身が分厚い。ずっしりと箸から伝わる重さにわくわくする。
まずは醤油で。サクッと香ばしい衣、ふんわりとした身、かと思えばしっかりとした食感の部分もある。臭みもないし、魚のうま味があふれ出てくるようだ。
醤油の味がそのうま味を引き立てる。ここまでアジをしっかり楽しめるアジフライは初めてかもしれない。
キャベツはドレッシングでさっぱり。酸味が強めのドレッシングは揚げ物の時にいい。
タルタルソースをかけると一気にジャンクな感じになる。シャキッと玉ねぎにまろやかなマヨネーズ。やっぱフライとタルタルソースって合うなあ。
そしてこの組み合わせはご飯が進むんだ。
二枚目で幸せな満腹感を感じるころ、ふと手元に置いていた手紙に視線を落とす。
『来週には帰ってくるよ!』
たった一文、簡潔な言葉だけど俺の表情筋を緩めるには十分だ。
緩みすぎには、気を付けたいがな。
「ごちそうさまでした」
13
お気に入りに追加
253
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜
野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」
「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」
この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。
半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。
別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。
そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。
学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー
⭐︎毎日朝7時に最新話を投稿します。
⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。
※表紙絵、挿絵はAI作成です。
※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。


だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる