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日常
第百八十一話 回転寿司
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レールバスから乗り換えて、電車で数駅。目的地は十分ほど歩いたところにある。
ずいぶん古い弁当の店やシャッターが閉ざされてしまっている写真館、あか抜けたカフェにマンション、色褪せた一軒家、となんとも不思議な風景だ。
「風強ぇ~」
今日の主役である咲良は、寒さにほほを赤く染めながら笑った。
「早く室内に入りたい……」
そうつぶやくのは朝比奈だ。無事に来ることができたらしい。なんでも、治樹もついてくると駄々をこねたらしいが、それは全力で阻止したのだとか。
「あ、あれかな? 見えてきた」
百瀬が指さす先を見れば、広大な駐車場を要する大型商業施設があった。
「結構早く着いたけど、開いてんのかな?」
「確か開店時間、九時じゃなかったか?」
今何時~? と咲良に聞かれ、スマホで確認する。
「九時三分」
「お、ばっちり。まずどこ行く?」
咲良の問いには揃って「今日の主役が決めろ」と答える。
「じゃあ、本屋行こうぜ。結構でかいし、文房具もあるらしいから」
店の敷地に入ったところ、ふと、咲良が足を止めた。
「どうした、咲良」
「寿司屋がある!」
咲良が見つめる先には、確かに回転寿司のチェーン店の店舗があった。開店時間はまだ先だが、ちらりと見える店内では従業員の人たちが仕事をしているようだった。
「昼飯、ここにしようぜ」
そう言って咲良は笑った。
「いいのか。こっちにもいい店あるかもしれねえぞ」
「やー、なんかせっかく誕生日だし、寿司食いてえ。それにさ、この寿司屋、うちの町じゃ滅多に見かけねえだろ?」
「それもそうだな」
一足先に中に入っていた朝比奈と百瀬にそれを話すと、快くオッケーした。
一階の大半を占めるスーパーを通り過ぎ、年末年始の準備に華やぐ広場を横目に行けば、ずいぶん大きな本屋が現れた。CDやDVDなんかも売っているようだ。
「すげえ、見たことないような本も売ってるわ」
咲良は、本や雑誌のコーナーを見るのもそこそこに文房具コーナーに行ってしまった。
確かに、品ぞろえはなかなかのようだ。雑誌の種類も幅広く、話題の書籍はこれでもかと山積みになっていて、ほしい本は自分で検索できるようになっている。在庫がないときは取り寄せも頼めるのだとか。
「お、カフェもある」
「ほんとだー、いいね」
文房具コーナーの近くには都会の象徴ともいえるコーヒー店があった。コーヒー豆のいい香りが漂っている。
「で、この後アウトレット行くんだったか?」
展示されている万年筆の造形と金額に気をとられていたら朝比奈がそう聞いてきた。
「あー、そうそう」
電車で向かう途中、アウトレットモールの話をしたところ、三人ともいたく興味を示しクレープの店もあると何の気なしに付け加えたところ「じゃあ誕生日プレゼントはそれで」と咲良が言ったのだった。
「バス?」
「うん、バス」
「なあなあ、俺、ゲーセン行きたい」
何やら雑誌を買ってきたらしい百瀬がマイペースに言った。
「咲良に聞け」
そう言った時、会計を済ませて咲良がやってきた。
「井上ー、ゲーセン~」
「あれ? 今日は行きたいとこ俺が決めていいんじゃなかったか?」
「井上も行きたいっしょ?」
まあそうだけど、と咲良は笑った。
「じゃー行くかあ」
「おー」
二階にあるゲームセンターに行ったものの、めぼしい景品はなかった。時間もいい感じだったので昼飯を食うことにした。
そこそこに客が入っていたが何とか待ち時間なしで座ることができた。
「回転ずしとか久しぶりだ」
レール側に座る咲良は「これで注文すんのか?」とテーブルに固定されているタブレットを見て聞いてきた。
「そうみたいだな」
「最近はファミレスもタブレット注文なんでしょ?」
咲良の向かいに座る百瀬が慣れた手つきでタブレットを操作する。それを興味深そうにのぞき込むのは百瀬の隣に座る朝比奈だ。
「何頼むー?」
「えっとなー」
咲良を優先しつつ、自分たちの注文もねじ込む。
一段落したところでレールに視線をやる。ここから取ることが減ったよなあ。ちょっと前までは注文するっつったら炙りとかジュースとか、レールに回ってないものだけって感じだったし。
「お、来た来た」
新幹線を模した装置にのって、頼んだもののいくつかが来た。すべて取ってテーブルのボタンを押せば自動的に帰っていく。
「じゃ、いただきます」
まず俺が頼んだのはイカだ。なんか今日はさっぱりしたのから食いたかった。
少しとろみのある甘い醤油をつけて食べる。もちもちとした噛み応えで淡白な味に濃い目の味の醤油がよく合う。
「なに、井上。カルビ?」
咲良は肉系の寿司を頼んでいるようだった。
「うまいんだよ、こういうの」
次はつぶ貝。サクサクしたような、コリコリしたような食感が好きだ。淡白なネタは、ワサビの辛みが引き立つ。
「ゲソのからあげ来たぞ」
「おー」
イカゲソのからあげは四人でシェアする。結構ごろっとして食べ応えがありそうだ。濃い目の衣はカリカリで、レモンの酸味がよく合う。ゴリッと食感のゲソは噛めば噛むほどうま味が出てくる。
次はちょっとこってり系でサーモンの炙り。トロッとしたサーモン自体の甘みと醤油の甘味のバランスがいい。
「あ、これうまい。えび」
「えび? 炙りじゃん。そういうのあるんだ」
「一貫だけのとかあるんだな」
「そういうのって高いだろ?」
でも食べてみたいという気持ちもある。今日はちょっとやめとくけど。
あぶってないサーモンも風味がいい。甘エビは久しぶりに食べる。定番のマグロは安定のおいしさだし、エンガワは脂がのっていておいしい。
「寿司ってさあ、食う前はいくらでも食えるーって思うけど、ちゃんと腹いっぱいになるよな~」
そう言いながら咲良はサーモンを口に含んだ。
「焼肉もそうだよね」
百瀬はデザートメニューで頼んだらしいケーキを食べていた。ベリーのタルト、うまそうだ。
「お前、あとでクレープ食うんじゃなかったか」
と、朝比奈はアサリのみそ汁をすすりながら百瀬に聞く。
「これは別腹」
「そういうやつだったな、お前は」
悩みに悩んだが、最後に茶碗蒸しを頼もう。
ほぐしたかにの身はうま味たっぷりで、出汁もおいしい。プルンとした口当たりに薫り高い海鮮の風味が寿司屋の茶碗蒸しって感じがする。
さて、この後クレープか。
入るかな。いや、余裕で入るな。
「ごちそうさまでした」
ずいぶん古い弁当の店やシャッターが閉ざされてしまっている写真館、あか抜けたカフェにマンション、色褪せた一軒家、となんとも不思議な風景だ。
「風強ぇ~」
今日の主役である咲良は、寒さにほほを赤く染めながら笑った。
「早く室内に入りたい……」
そうつぶやくのは朝比奈だ。無事に来ることができたらしい。なんでも、治樹もついてくると駄々をこねたらしいが、それは全力で阻止したのだとか。
「あ、あれかな? 見えてきた」
百瀬が指さす先を見れば、広大な駐車場を要する大型商業施設があった。
「結構早く着いたけど、開いてんのかな?」
「確か開店時間、九時じゃなかったか?」
今何時~? と咲良に聞かれ、スマホで確認する。
「九時三分」
「お、ばっちり。まずどこ行く?」
咲良の問いには揃って「今日の主役が決めろ」と答える。
「じゃあ、本屋行こうぜ。結構でかいし、文房具もあるらしいから」
店の敷地に入ったところ、ふと、咲良が足を止めた。
「どうした、咲良」
「寿司屋がある!」
咲良が見つめる先には、確かに回転寿司のチェーン店の店舗があった。開店時間はまだ先だが、ちらりと見える店内では従業員の人たちが仕事をしているようだった。
「昼飯、ここにしようぜ」
そう言って咲良は笑った。
「いいのか。こっちにもいい店あるかもしれねえぞ」
「やー、なんかせっかく誕生日だし、寿司食いてえ。それにさ、この寿司屋、うちの町じゃ滅多に見かけねえだろ?」
「それもそうだな」
一足先に中に入っていた朝比奈と百瀬にそれを話すと、快くオッケーした。
一階の大半を占めるスーパーを通り過ぎ、年末年始の準備に華やぐ広場を横目に行けば、ずいぶん大きな本屋が現れた。CDやDVDなんかも売っているようだ。
「すげえ、見たことないような本も売ってるわ」
咲良は、本や雑誌のコーナーを見るのもそこそこに文房具コーナーに行ってしまった。
確かに、品ぞろえはなかなかのようだ。雑誌の種類も幅広く、話題の書籍はこれでもかと山積みになっていて、ほしい本は自分で検索できるようになっている。在庫がないときは取り寄せも頼めるのだとか。
「お、カフェもある」
「ほんとだー、いいね」
文房具コーナーの近くには都会の象徴ともいえるコーヒー店があった。コーヒー豆のいい香りが漂っている。
「で、この後アウトレット行くんだったか?」
展示されている万年筆の造形と金額に気をとられていたら朝比奈がそう聞いてきた。
「あー、そうそう」
電車で向かう途中、アウトレットモールの話をしたところ、三人ともいたく興味を示しクレープの店もあると何の気なしに付け加えたところ「じゃあ誕生日プレゼントはそれで」と咲良が言ったのだった。
「バス?」
「うん、バス」
「なあなあ、俺、ゲーセン行きたい」
何やら雑誌を買ってきたらしい百瀬がマイペースに言った。
「咲良に聞け」
そう言った時、会計を済ませて咲良がやってきた。
「井上ー、ゲーセン~」
「あれ? 今日は行きたいとこ俺が決めていいんじゃなかったか?」
「井上も行きたいっしょ?」
まあそうだけど、と咲良は笑った。
「じゃー行くかあ」
「おー」
二階にあるゲームセンターに行ったものの、めぼしい景品はなかった。時間もいい感じだったので昼飯を食うことにした。
そこそこに客が入っていたが何とか待ち時間なしで座ることができた。
「回転ずしとか久しぶりだ」
レール側に座る咲良は「これで注文すんのか?」とテーブルに固定されているタブレットを見て聞いてきた。
「そうみたいだな」
「最近はファミレスもタブレット注文なんでしょ?」
咲良の向かいに座る百瀬が慣れた手つきでタブレットを操作する。それを興味深そうにのぞき込むのは百瀬の隣に座る朝比奈だ。
「何頼むー?」
「えっとなー」
咲良を優先しつつ、自分たちの注文もねじ込む。
一段落したところでレールに視線をやる。ここから取ることが減ったよなあ。ちょっと前までは注文するっつったら炙りとかジュースとか、レールに回ってないものだけって感じだったし。
「お、来た来た」
新幹線を模した装置にのって、頼んだもののいくつかが来た。すべて取ってテーブルのボタンを押せば自動的に帰っていく。
「じゃ、いただきます」
まず俺が頼んだのはイカだ。なんか今日はさっぱりしたのから食いたかった。
少しとろみのある甘い醤油をつけて食べる。もちもちとした噛み応えで淡白な味に濃い目の味の醤油がよく合う。
「なに、井上。カルビ?」
咲良は肉系の寿司を頼んでいるようだった。
「うまいんだよ、こういうの」
次はつぶ貝。サクサクしたような、コリコリしたような食感が好きだ。淡白なネタは、ワサビの辛みが引き立つ。
「ゲソのからあげ来たぞ」
「おー」
イカゲソのからあげは四人でシェアする。結構ごろっとして食べ応えがありそうだ。濃い目の衣はカリカリで、レモンの酸味がよく合う。ゴリッと食感のゲソは噛めば噛むほどうま味が出てくる。
次はちょっとこってり系でサーモンの炙り。トロッとしたサーモン自体の甘みと醤油の甘味のバランスがいい。
「あ、これうまい。えび」
「えび? 炙りじゃん。そういうのあるんだ」
「一貫だけのとかあるんだな」
「そういうのって高いだろ?」
でも食べてみたいという気持ちもある。今日はちょっとやめとくけど。
あぶってないサーモンも風味がいい。甘エビは久しぶりに食べる。定番のマグロは安定のおいしさだし、エンガワは脂がのっていておいしい。
「寿司ってさあ、食う前はいくらでも食えるーって思うけど、ちゃんと腹いっぱいになるよな~」
そう言いながら咲良はサーモンを口に含んだ。
「焼肉もそうだよね」
百瀬はデザートメニューで頼んだらしいケーキを食べていた。ベリーのタルト、うまそうだ。
「お前、あとでクレープ食うんじゃなかったか」
と、朝比奈はアサリのみそ汁をすすりながら百瀬に聞く。
「これは別腹」
「そういうやつだったな、お前は」
悩みに悩んだが、最後に茶碗蒸しを頼もう。
ほぐしたかにの身はうま味たっぷりで、出汁もおいしい。プルンとした口当たりに薫り高い海鮮の風味が寿司屋の茶碗蒸しって感じがする。
さて、この後クレープか。
入るかな。いや、余裕で入るな。
「ごちそうさまでした」
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