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日常
第百八話 ドライカレー
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学校に行くまでまだ時間はある。のんびりするかと思いソファに座った途端、スマホの通知が鳴った。
「あー……」
スマホの画面には咲良からのメッセージが映し出されていた。
『まだ家?』
「は? なんだあいつ……」
そもそも学校にいたら返信できねえし。
「家にいるけど、何? ……っと。うわ、もう返信きた」
『迎えに行く!』
「えー……」
なんでわざわざ遠回りするんだよ。ま、ただの気まぐれだろうけど。
たぶん俺が断っても来るだろうからここは素直に待っている方がよさそうだ。
『あと十分ぐらいで着くぜー』
メッセージとともに送られてきた調子のいいスタンプに思わず苦笑する。
「じゃ、うめず。行ってくるな」
『わふっ!』
下で待っておくとしよう。
「ちょっと冷えるなあ……」
やっぱカーディガン羽織ってきて正解だった。
生徒からの強い要望で、今年からカーディガンの着用がオッケーになったのだ。でもパーカーはだめらしい。その辺の違いがなんともよく分からないが、まあ、温度調節しやすくなったのでいい。
紺色のカーディガンは父さんのおさがりだ。ちょっとでかいけどポケットついてるから便利だ。
「今日の晩飯何にしようかな~……」
エントランスの前で待つ間考えるのは冷蔵庫の中身。
野菜をそろそろ使い切っとかないと悪くなりそうだ。なんか野菜たっぷりの献立にしよう。がっつり飯が食えるのがいいなあ。
「確かカレー粉が残って……ん?」
明らかに咲良ではない人影がこちらにやってくる。でもなんかどっかで見たことがあるような……?
「あれ、一条君?」
「田中さん」
ラフな格好をしていたのですぐ分からなかった。田中さんだ。
「どうしてここに?」
「うち、ここなんですよ」
「そうなんだ。それは知らなかった」
「田中さんこそどうしたんです?」
それは……、と田中さんが説明しようとしたところでエントランスの扉が開いた。
「おーっす、幸輔。待った?」
やってきたのは、金髪と茶髪が入り混じった、田中さんより少し背が低い男の人だった。まあ俺よりは高いけど。
「いや、今来たとこ」
田中さんは俺の方を向き直ると、その人を指さして言った。
「こいつ迎えに来た」
「あれ? 幸輔の友達?」
「バイト先の常連さんだよ」
その人も俺の方を向き、ニパッと笑った。この髪の毛の状態、確か、プリン頭っていうんだっけ。
「ああ、君が一条君! どうも~、山下晃です」
「あ、どうも……」
俺の名前を知っているのは田中さんと話をしているからか。いや、どうして俺の話してんの。
田中さんとは同い年とのことらしいが、なんか、幼く見えるな。
「前に言ってたろ、うめずって子と走らせてもらってるって」
「あー! こないだ話してたワンちゃんね! 君が飼い主か~」
「はい」
なるほど、うめず経由ってわけね。
同じマンションに住んでいるとはいえ、まあ、会わないものだな。そりゃ当たり前か。
「その制服、一夜高校か。じゃあ、俺たちの後輩だ」
一夜高校は確かに俺の通う高校の名前だ。
「部活は何か入ってる?」
「いや、なんも」
「そっかー、それもいいよね」
そうこうしているうちに咲良がきた。今日は咲良もカーディガンを着てきていた。小豆色を選ぶあたり、攻めてんなあと思う。
「あ、友達が来たみたいだね。じゃあ俺らはこの辺で。またね~」
「またな、一条君」
二人が立ち去った後、咲良が俺のもとにやってきた。
「さっきのは?」
「えーっと……」
いざ説明するとなると難しいな。
「いつも行ってるスーパーでバイトしてて、うめずが逃げ出した時に確保してくれた人と、その友達」
「なるほど……?」
「ま、俺たちの先輩だ」
「えー、そうなん?」
まあそれで納得する奴ではない。学校に向かう間、俺は散々詳しく説明をさせられたのだった。
そんでもって今日の晩飯はカレーにすることにした。しかもドライカレー。
食堂に行ったらめっちゃいい匂いがしたのでそう決めた。
フードプロセッサーに玉ねぎ、にんじん、ピーマンをいれて細かくする。相変わらずこの作業は楽しい。
フライパンに油をひき、ひき肉を炒める。ある程度炒めたらカレー粉を入れてなじませる。こうすることでカレーの香りが立つのだとか。そして細かく刻んだ野菜を入れ、トマトソースを投入する。そして、とんかつソースとケチャップ、ニンニクとショウガ。塩コショウで味を調えたら完成だ。
これはトッピングなしで食べよう。
「いただきます」
汁気があまりないカレーもいい。
ひき肉は豚ひき肉。カレーの香りがぶわっときた後、肉のうま味がじんわりと舌に広がる。野菜の甘味もおいしい。
トマトの風味もカレーに負けない。
爽やかさとスパイシーさで、次々と口に運んでしまう。
それにしてもほんと、カレー粉っていい匂いがするよな。それに何となく落ち着く。やっぱいろんなスパイスが混ざってるからかな。
そうだ。今度はカレーパンでも作ってみるか。ナンで食ってもうまいだろうなあ。
「ごちそうさまでした」
「あー……」
スマホの画面には咲良からのメッセージが映し出されていた。
『まだ家?』
「は? なんだあいつ……」
そもそも学校にいたら返信できねえし。
「家にいるけど、何? ……っと。うわ、もう返信きた」
『迎えに行く!』
「えー……」
なんでわざわざ遠回りするんだよ。ま、ただの気まぐれだろうけど。
たぶん俺が断っても来るだろうからここは素直に待っている方がよさそうだ。
『あと十分ぐらいで着くぜー』
メッセージとともに送られてきた調子のいいスタンプに思わず苦笑する。
「じゃ、うめず。行ってくるな」
『わふっ!』
下で待っておくとしよう。
「ちょっと冷えるなあ……」
やっぱカーディガン羽織ってきて正解だった。
生徒からの強い要望で、今年からカーディガンの着用がオッケーになったのだ。でもパーカーはだめらしい。その辺の違いがなんともよく分からないが、まあ、温度調節しやすくなったのでいい。
紺色のカーディガンは父さんのおさがりだ。ちょっとでかいけどポケットついてるから便利だ。
「今日の晩飯何にしようかな~……」
エントランスの前で待つ間考えるのは冷蔵庫の中身。
野菜をそろそろ使い切っとかないと悪くなりそうだ。なんか野菜たっぷりの献立にしよう。がっつり飯が食えるのがいいなあ。
「確かカレー粉が残って……ん?」
明らかに咲良ではない人影がこちらにやってくる。でもなんかどっかで見たことがあるような……?
「あれ、一条君?」
「田中さん」
ラフな格好をしていたのですぐ分からなかった。田中さんだ。
「どうしてここに?」
「うち、ここなんですよ」
「そうなんだ。それは知らなかった」
「田中さんこそどうしたんです?」
それは……、と田中さんが説明しようとしたところでエントランスの扉が開いた。
「おーっす、幸輔。待った?」
やってきたのは、金髪と茶髪が入り混じった、田中さんより少し背が低い男の人だった。まあ俺よりは高いけど。
「いや、今来たとこ」
田中さんは俺の方を向き直ると、その人を指さして言った。
「こいつ迎えに来た」
「あれ? 幸輔の友達?」
「バイト先の常連さんだよ」
その人も俺の方を向き、ニパッと笑った。この髪の毛の状態、確か、プリン頭っていうんだっけ。
「ああ、君が一条君! どうも~、山下晃です」
「あ、どうも……」
俺の名前を知っているのは田中さんと話をしているからか。いや、どうして俺の話してんの。
田中さんとは同い年とのことらしいが、なんか、幼く見えるな。
「前に言ってたろ、うめずって子と走らせてもらってるって」
「あー! こないだ話してたワンちゃんね! 君が飼い主か~」
「はい」
なるほど、うめず経由ってわけね。
同じマンションに住んでいるとはいえ、まあ、会わないものだな。そりゃ当たり前か。
「その制服、一夜高校か。じゃあ、俺たちの後輩だ」
一夜高校は確かに俺の通う高校の名前だ。
「部活は何か入ってる?」
「いや、なんも」
「そっかー、それもいいよね」
そうこうしているうちに咲良がきた。今日は咲良もカーディガンを着てきていた。小豆色を選ぶあたり、攻めてんなあと思う。
「あ、友達が来たみたいだね。じゃあ俺らはこの辺で。またね~」
「またな、一条君」
二人が立ち去った後、咲良が俺のもとにやってきた。
「さっきのは?」
「えーっと……」
いざ説明するとなると難しいな。
「いつも行ってるスーパーでバイトしてて、うめずが逃げ出した時に確保してくれた人と、その友達」
「なるほど……?」
「ま、俺たちの先輩だ」
「えー、そうなん?」
まあそれで納得する奴ではない。学校に向かう間、俺は散々詳しく説明をさせられたのだった。
そんでもって今日の晩飯はカレーにすることにした。しかもドライカレー。
食堂に行ったらめっちゃいい匂いがしたのでそう決めた。
フードプロセッサーに玉ねぎ、にんじん、ピーマンをいれて細かくする。相変わらずこの作業は楽しい。
フライパンに油をひき、ひき肉を炒める。ある程度炒めたらカレー粉を入れてなじませる。こうすることでカレーの香りが立つのだとか。そして細かく刻んだ野菜を入れ、トマトソースを投入する。そして、とんかつソースとケチャップ、ニンニクとショウガ。塩コショウで味を調えたら完成だ。
これはトッピングなしで食べよう。
「いただきます」
汁気があまりないカレーもいい。
ひき肉は豚ひき肉。カレーの香りがぶわっときた後、肉のうま味がじんわりと舌に広がる。野菜の甘味もおいしい。
トマトの風味もカレーに負けない。
爽やかさとスパイシーさで、次々と口に運んでしまう。
それにしてもほんと、カレー粉っていい匂いがするよな。それに何となく落ち着く。やっぱいろんなスパイスが混ざってるからかな。
そうだ。今度はカレーパンでも作ってみるか。ナンで食ってもうまいだろうなあ。
「ごちそうさまでした」
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