一条春都の料理帖

藤里 侑

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日常

第九十五話 豚骨ラーメン

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 休日の朝。目が覚めた時に居間からテレビの音が聞こえてきたので、昨晩消し忘れたのかと一瞬よぎったが、すぐに思い出す。そういや父さんと母さん、帰ってきてたんだった。

 今回の休みは結構長いらしい。

「う~……」

「わふっ」

 一足先に起きていたうめずがズシッと体重をかけてくる。

「ぐえ。うめず、重い」

「わうっ! あうぅ」

「分かった。起きる、起きるから」

 今日は学校じゃないから、別にゆっくりでいいのだが……。父さんと母さんが帰ってきてるからテンションが上がってんだろうなあ。

「着替えるから待ってろ」

 朝晩は冷え込むが、それでもやっぱり日差しがあるので昼間は暑い。シャツの上からなんか羽織るぐらいがちょうどいいだろう。制服も温度調節できれば苦労しないんだがなあ。

 うめずに押されるようにしながら自室を出る。

「おはよー」

「あら、早いね。おはよう」

 父さんと母さんは並んでソファに座り、テレビを見ていた。母さんは俺の方を向くと、面白そうに笑った。

「うめずに起こされた?」

「ん……」

「わふ!」

 一仕事終えた、と言わんばかりにひと声吠えると、うめずは父さんと母さんの間に滑り込んだ。

「あ、ラーメンだ。最近食べてないなあ」

 テレビを見て父さんが呟く。

 画面を見れば、この間やっていた特集が再放送されているようであった。へえ、再放送とかあるんだ。

 ラーメンかあ。インスタントでは最近、それこそこの特集見た日に食ったけど、店のやつも食いてえなあ。

 そんなことを考えながら洗面所に向かう。冷たい水が少々身に染みる季節になったものだ。冬場になると凍ったように冷たいんだよなあ。で、温まるのに時間がかかる。

 こう、夏の暑さを冬にとっておいたり、逆に冬の寒さを夏にとっておいたりできないもんかねえ。

 居間に戻ると、母さんが朝ごはんの準備を始めていた。

「朝はお茶漬けでもいい?」

「いいよー」

 休みの日の朝ごはんは、できるだけサクッと済ませたい。そのためにお茶漬けや漬物なんかを買ってきているのだ。

「お昼はどうしようか」

「ラーメン食べに行く?」

 父さんの提案に、当然俺も母さんも賛成した。

「いいねー、行こうか。お昼ちょっと前に行けば人もそんなに多くないでしょ」

「じゃ、そうしよっか」

 やった、ラッキー。昼飯、ラーメンに決定だ。

 トッピングしようかなあ、替え玉は絶対だし……。久しぶりだし、思いっきり楽しむとしよう。



 ラーメン屋までは車で行く。父さんが運転して、俺が助手席、母さんが後部座席に乗る。ずいぶん前に買い替えた軽自動車にはナビがついていて、テレビも見られるしラジオも聞ける。初めて見たときは「DVDが見られる!」と感動したものだ。

「好きな番組にしていいよ~」

「あ、じゃあDVD入れる」

「どうぞどうぞ」

 はじめはおっかなびっくりやっていた操作も、今では慣れたものだ。

「何入れたの?」

 後部座席から母さんが聞いてくる。

「アニメ」

「スポーツもの?」

「うん」

 このアニメ、試合のシーンもいいけど飯のとこが俺は好き。めっちゃうまそうなんだよ。見てると腹減ってくるから、飯の前に見るのがいい。

 なんか食欲わかないなーってときに見ても効果抜群だな。



 店に着いた時にはもう車はいっぱいだった。

 列もでき始めていて、すんなり席に座ることはできなかったが、まあ少し待てばすぐに順番が回ってくるぐらいだ。

 飛び交う威勢のいい声、麺を茹でる熱気、スープの香り、賑やかな店内。うん、ラーメン屋に来たなって感じだ。

「何にする?」

「んー……」

 トッピングにきくらげや煮卵をのせてもいいなあ。でもシンプルにネギとチャーシューだけってのもいい。セットメニューもある。餃子か、ホルモンか……へえ、チャーハンもできたんだ。前来た時はなかったな。

 待つ間に見ることができるメニューを三人でのぞき込んでいればあという間に時間は過ぎるものだ。

「お待たせしました。三名様、どうぞ」

 案内されたのはカウンター席。俺は父さんと母さんの間に座る。

「ご注文お決まりでしょうか」

「えーっと……」

 俺は結局、ホルモンとご飯のセットにした。

 このセットを頼むと、先にご飯とホルモンが来るのだ。

「いただきます」

 ホルモンはしっかり茹でられていて、甘い特製たれとネギがかかっている。歯ごたえがあっておいしい。これはここでしか食えない味だ。ほんのり温かい。

 ご飯にはたくあんの細切りをのせる。甘めのたくあんがご飯に合うんだ。

「春都、餃子いる?」

「いる」

 父さんは餃子のセットを頼んだらしい。小ぶりな餃子はカリッと焼けていて、肉汁があふれ出してやけどしそうだ。

「あ、これおいしい。ちょっと食べてみて」

「ん、もらう」

 母さんが別に単品で注文したチャーシュー。きくらげの上にのっていて、甘辛いたれがかかっている。あー、きくらげの食感がいい。チャーシューのうま味もよく分かるし、おいしいな、これ。

「お待たせしました」

 おっ、来た来た。

 ネギとチャーシューという潔いトッピングの豚骨ラーメン。まずはスープを一口。

 うん、臭みはない、うま味のあるスープだ。バリカタの細麺をすする。うん、おいしい。これこれって感じのラーメンだ。

 ラーメン食ってる途中のご飯もまたいい。スープに入れるのとはまた違って、お店で食べてるなーって気になる。たくあんとご飯の甘さがより際立つというものだ。ホルモンもまた違った味わいで楽しめるのでいい。

 チャーシューは油っ気がないので、汁に浸して食うのが好きだ。ちょっとほぐしてみるのもいい。麺と、豚骨スープを吸ったチャーシューを一緒に食ったら最高だ。

 この店には特製の調味料があって、注文の時に量を選択できる。俺は普通の量にした。これ、結局のところ正体は何なんだろう。赤い、味噌みたいな? チャーシューの上にのせられてくるので、いいタイミングで溶かす。少しピリッとしてまた違ったうま味のスープが味わえるのだ。

 当然替え玉もする。麺のかたさはバリカタで、スープに入れる前に替え玉のたれなるものをかける。これがまたおいしくてなあ。スープに入れる前につい麺を食べちゃうんだよ。スープにつかっていない麺は風味がよく分かる。

 でもやっぱ入れるよな。はじめに食べた麺よりもかために感じる。でもそれがいい。こう、ほぐしながら食べるのが替え玉の醍醐味って感じがする。

 食べ終わったら紅ショウガをレンゲにとる。インスタントで食う時はあんまりこだわらないけど、店で食う時は麺を食い終わってから食うんだよなあ。

 口の中がさっぱりするし、スープのうま味も一緒に楽しめるのでいい。

 っはー、ラーメンって、食い終わったら「食った食った」って気分になるんだよなあ。すごく満足度の高い飯の一つだな。

 やっぱお店で食うラーメン、うまいなあ。



「ごちそうさまでした」

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