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日常
第五十三話 焼き飯
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今日はとても天気がいい。洗濯物がよく乾きそうだ。ベランダで揺れる白いシャツが日光を反射してまぶしい。
そうだ。こないだ買った漫画でも読もうかな。
「おー、結構立派だな」
特装版だったので、キーホルダーが一緒になっていた。こういうのって正直壊れやすかったり、いまいちだったりすんのかなーと思っていたけど、結構いい。通学用のカバンにつけようかな。いや、リュックサックの方がいいか。
ソファに横になって表紙を開く。まだ少しかたい開き具合とインクのにおい。あー、いいなぁ、新刊。
半分ぐらい読んだところでスマホが鳴った。
「ん?」
見れば、俺と咲良、朝比奈と百瀬のグループチャットにメッセージが来ている。咲良だったら内容によってはスルーしてやろうかと思ったが、メッセージの送り主は朝比奈だった。
「なんだ、珍しい」
朝比奈が自分からメッセージを送ってくることはまずない。たいてい会話の始まりは咲良か百瀬だ。
メッセージはとても端的なものだった。
『明後日、暇な奴はいるか?』
「明後日……?」
何かあるのだろうか、と考えていると続けてメッセージが送られてきた。
『甥っ子の世話の手伝いをしてほしい』
なるほど、そういうことか。
確か甥っ子が帰ってきていて、すごく手を焼いているといっていたな。そんなに大変なのか。
別にやることもないし、行ってもいいかなと思っていると咲良がいち早く返信してきた。
『俺は大丈夫だぞ!』
まったく、このフットワークの軽さはいったい何なんだ。
「俺も今のところ予定はない……と。お、百瀬」
『その日は弟も妹も友達と遊びに行くし、暇してま~す』
おぉ、全員暇。それはそれでどうなんだという気もしないこともない。
しばらく待っていると、朝比奈から連絡が来た。
『ありがとう。俺は迎えに行けないと思うから、優太に道案内をしてほしいが、いいか?』
百瀬が、了解の意を示すスタンプで答える。
『じゃ、俺がバス停にいるから、一条と井上はバスで来てね~』
と、バス停の名前が送られてくる。
『俺と春都は現地集合だな』
『そうだな』
『甥っ子ってどんな子?』
咲良の問いに、朝比奈はすぐに答えた。
『元気の塊』
その一言で、朝比奈の苦労が分かる気がした。
「……小学生の相手ってどうすればいいんだ?」
そういえば何も考えずに返信したのだが、ちびの世話なんてしたことないぞ、俺。いとこの中でも一番年下だし、というかそもそも親戚づきあいも滅多にないようなものだからなあ。
やっぱり体力勝負なのはなんとなくわかる。そう考えると俺は足手まといになる可能性が高い。というか、絶対、子どもの無限の体力には敵わない。高校の近くに保育園もあって、教室からちらっと見えるのだが、それだけでもわかる。子どもは体力お化けだ。
まぁいいや。悩んでもしゃーなし。
「続き読も」
とりあえず今は漫画でも読むことにしよう。
夕暮れ時の空は好きだ。
日によっては真っ赤な太陽が空をまぶしく染め上げ、それはもう不穏な色になることもあるのだが、今日はずいぶん穏やかな空だった。
ピンク色のようなオレンジ色のような空には、薄い雲がたゆたっている。下の方……という表現は正しいのだろうか、空の足元にはまだ青が残っていて、着物の生地のようにも見えた。確かばあちゃんがこんな色の着物持ってたなぁ……。
さぁ、と音を立てて風が吹き、洗濯物を取り込んでいた俺の頬を撫ぜる。熱気をはらんではいるが、とても心地いい。
「……ん、ひぐらし」
カナカナカナ……と特徴的な鳴き声が、遠くから聞こえてくる。夏の終わりの声だ。名も知らぬ虫の鳴き声も、着実に秋が近づいていることを告げている。
残暑はきっと厳しいだろうになぁ。
洗濯物は昼の日差しの熱を残したままで、温かい。畳んでいたらなんか眠くなってくる。
「さて、晩飯何にしよう」
これといって食べたいものは思いつかないが、腹が減った。
「あ」
そういえばご飯が残っていた。冷ご飯、どうしよう。
大体は冷凍しておくが、もうすでに冷凍庫にはかなりの量の冷凍ご飯がある。……それもどうにかしないとだなあ。
まあ、お茶漬けなり、おにぎりなり、どうとでもできるが……。
あ、そういえば、あれがあったな。
冷凍庫を開ける。そこには明るい色で構成されたパッケージがあった。冷凍餃子。これこれ、これがあったんだ。
それじゃ、冷ご飯は焼き飯にしよう。餃子っつったら、焼き飯でしょ。
熱したフライパンに油をひき、溶き卵を入れる。そこに冷ご飯を投入して、炒める。今日は焼き飯の素を使おう。炒めた卵とご飯にそれを入れ、なじませたら一口味見。
「ん~」
醤油と、白だし、ちょっと追加。
うん、いい感じになった。最後にねぎを散らして完成だ。
餃子は簡単。油をひかなくていいやつなので、並べて焼いたらオッケー。皿に移すのがちょっと難しい。
「いただきます」
レンゲ……はないので、スプーンで食べる。
パラパラではないが、おいしい。しっとりしたおうち焼き飯は好きだ。チャーハンの素はちょっとしょっぱい。醤油のような、塩のような、はたまたそのどれでもないような味。おいしい。卵の丸い味がバランスよく味を調えてくれる。白だしを入れたので、うま味がある。
餃子もパリッパリだ。ニンニクの風味がよく、ポン酢の酸味が肉に染みておいしい。
焼き飯も一緒に口に含めば、より中華らしくなる。焼き飯に肉っ気がないので、餃子のタネが加わるとうま味が増す。
白飯もいいけど、餃子に焼き飯、これもなかなかに好きな組み合わせだ。
餃子は確か、ショウガ増し増しのものもあったはずだ。今度買ってきてみよう。中華スープも作って、焼き飯には焼き豚入れようかなあ。
「ごちそうさまでした」
そうだ。こないだ買った漫画でも読もうかな。
「おー、結構立派だな」
特装版だったので、キーホルダーが一緒になっていた。こういうのって正直壊れやすかったり、いまいちだったりすんのかなーと思っていたけど、結構いい。通学用のカバンにつけようかな。いや、リュックサックの方がいいか。
ソファに横になって表紙を開く。まだ少しかたい開き具合とインクのにおい。あー、いいなぁ、新刊。
半分ぐらい読んだところでスマホが鳴った。
「ん?」
見れば、俺と咲良、朝比奈と百瀬のグループチャットにメッセージが来ている。咲良だったら内容によってはスルーしてやろうかと思ったが、メッセージの送り主は朝比奈だった。
「なんだ、珍しい」
朝比奈が自分からメッセージを送ってくることはまずない。たいてい会話の始まりは咲良か百瀬だ。
メッセージはとても端的なものだった。
『明後日、暇な奴はいるか?』
「明後日……?」
何かあるのだろうか、と考えていると続けてメッセージが送られてきた。
『甥っ子の世話の手伝いをしてほしい』
なるほど、そういうことか。
確か甥っ子が帰ってきていて、すごく手を焼いているといっていたな。そんなに大変なのか。
別にやることもないし、行ってもいいかなと思っていると咲良がいち早く返信してきた。
『俺は大丈夫だぞ!』
まったく、このフットワークの軽さはいったい何なんだ。
「俺も今のところ予定はない……と。お、百瀬」
『その日は弟も妹も友達と遊びに行くし、暇してま~す』
おぉ、全員暇。それはそれでどうなんだという気もしないこともない。
しばらく待っていると、朝比奈から連絡が来た。
『ありがとう。俺は迎えに行けないと思うから、優太に道案内をしてほしいが、いいか?』
百瀬が、了解の意を示すスタンプで答える。
『じゃ、俺がバス停にいるから、一条と井上はバスで来てね~』
と、バス停の名前が送られてくる。
『俺と春都は現地集合だな』
『そうだな』
『甥っ子ってどんな子?』
咲良の問いに、朝比奈はすぐに答えた。
『元気の塊』
その一言で、朝比奈の苦労が分かる気がした。
「……小学生の相手ってどうすればいいんだ?」
そういえば何も考えずに返信したのだが、ちびの世話なんてしたことないぞ、俺。いとこの中でも一番年下だし、というかそもそも親戚づきあいも滅多にないようなものだからなあ。
やっぱり体力勝負なのはなんとなくわかる。そう考えると俺は足手まといになる可能性が高い。というか、絶対、子どもの無限の体力には敵わない。高校の近くに保育園もあって、教室からちらっと見えるのだが、それだけでもわかる。子どもは体力お化けだ。
まぁいいや。悩んでもしゃーなし。
「続き読も」
とりあえず今は漫画でも読むことにしよう。
夕暮れ時の空は好きだ。
日によっては真っ赤な太陽が空をまぶしく染め上げ、それはもう不穏な色になることもあるのだが、今日はずいぶん穏やかな空だった。
ピンク色のようなオレンジ色のような空には、薄い雲がたゆたっている。下の方……という表現は正しいのだろうか、空の足元にはまだ青が残っていて、着物の生地のようにも見えた。確かばあちゃんがこんな色の着物持ってたなぁ……。
さぁ、と音を立てて風が吹き、洗濯物を取り込んでいた俺の頬を撫ぜる。熱気をはらんではいるが、とても心地いい。
「……ん、ひぐらし」
カナカナカナ……と特徴的な鳴き声が、遠くから聞こえてくる。夏の終わりの声だ。名も知らぬ虫の鳴き声も、着実に秋が近づいていることを告げている。
残暑はきっと厳しいだろうになぁ。
洗濯物は昼の日差しの熱を残したままで、温かい。畳んでいたらなんか眠くなってくる。
「さて、晩飯何にしよう」
これといって食べたいものは思いつかないが、腹が減った。
「あ」
そういえばご飯が残っていた。冷ご飯、どうしよう。
大体は冷凍しておくが、もうすでに冷凍庫にはかなりの量の冷凍ご飯がある。……それもどうにかしないとだなあ。
まあ、お茶漬けなり、おにぎりなり、どうとでもできるが……。
あ、そういえば、あれがあったな。
冷凍庫を開ける。そこには明るい色で構成されたパッケージがあった。冷凍餃子。これこれ、これがあったんだ。
それじゃ、冷ご飯は焼き飯にしよう。餃子っつったら、焼き飯でしょ。
熱したフライパンに油をひき、溶き卵を入れる。そこに冷ご飯を投入して、炒める。今日は焼き飯の素を使おう。炒めた卵とご飯にそれを入れ、なじませたら一口味見。
「ん~」
醤油と、白だし、ちょっと追加。
うん、いい感じになった。最後にねぎを散らして完成だ。
餃子は簡単。油をひかなくていいやつなので、並べて焼いたらオッケー。皿に移すのがちょっと難しい。
「いただきます」
レンゲ……はないので、スプーンで食べる。
パラパラではないが、おいしい。しっとりしたおうち焼き飯は好きだ。チャーハンの素はちょっとしょっぱい。醤油のような、塩のような、はたまたそのどれでもないような味。おいしい。卵の丸い味がバランスよく味を調えてくれる。白だしを入れたので、うま味がある。
餃子もパリッパリだ。ニンニクの風味がよく、ポン酢の酸味が肉に染みておいしい。
焼き飯も一緒に口に含めば、より中華らしくなる。焼き飯に肉っ気がないので、餃子のタネが加わるとうま味が増す。
白飯もいいけど、餃子に焼き飯、これもなかなかに好きな組み合わせだ。
餃子は確か、ショウガ増し増しのものもあったはずだ。今度買ってきてみよう。中華スープも作って、焼き飯には焼き豚入れようかなあ。
「ごちそうさまでした」
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