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日常
第三十七話 ピザ
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「よーっす、春都。来たぞ~」
日曜日。大量のお菓子が詰め込まれたビニール袋を抱えて、咲良がやってきた。
「……まだ十時だぞ」
「そうだな!」
「まだ昼じゃねえ」
「十時は実質昼だろ?」
まあ、こいつとの約束が予定通りいくわけがない。
早々に俺はあきらめて、咲良を家にあげる。するとうめずがトコトコやってきて咲良を見上げた。
「お~うめず。久しぶり、元気にしてるかあ」
「わふっ」
「そーかそーか」
うめずを思いっきり撫で繰り回す咲良に、俺はふと思ったことを聞いてみる。
「そういや昼飯は?」
「あ」
咲良は俺を見上げると、にっこりと笑う。
「考えてなかった」
こいつ。
いつもながらこの無計画さには驚かされる。よくまあ、高校受験を乗り越えられたものだ。
「まー、うちになんかあるか……」
「なんか作ってくれるのか?」
「さあな」
まあ、まだ昼飯には早いので、後で考えよう。
咲良は居間に来るや否やソファを遠慮なく陣取る。
「おいこら。一人で占領してんじゃねえ」
「えー」
「そこはうめずの指定席だ」
「あ、そっち?」
咲良がずるっとソファから滑り降りると、入れ替わりにうめずがソファに丸くなって座った。
「なあなあ、ゲームどこ?」
「ちょっと待ってろ」
俺は部屋からゲーム機を持ってくる。
テレビにつなげば、陽気な音楽とともにカラフルな画面が現れた。咲良がそれを見て「そうそう、これこれ~」とのんきに笑う。
「コンピューター入れるか?」
「いや、二人対戦がいい」
「りょーかい」
俺はその通りに設定をすると、咲良にコントローラーを渡す。
このゲームは昔からやり慣れている。俺が生まれる前からあるタイトルで、これはそのリメイク版といったところだ。ゲーム内容はいたって単純なパズルゲーム。やり慣れているとはいえ、めちゃくちゃうまいというほどではない。まあ、それなりの対戦ができる程度には慣れている、と、思う。
いつも使っているキャラクターを選ぶ。こいつは魔法使いらしい。見た目と声が結構気に入っている。
咲良もキャラクターを選んだところで、ゲーム開始だ。
「簡単にくたばんじゃねーぞ、春都」
「はっ、そっちこそ少しは楽しませろよ、咲良」
かくして、仁義なき戦いの火ぶたは切って落とされたのだ。
十二時を知らせるサイレンで、現実に引き戻される。
「あ、そろそろ飯にするか」
まだプレイ途中だったが昼飯の準備をするべく、俺は早いとこ勝負をつけることにした。
「えっ、ちょ、なにそれ。あーやめろ」
「昼飯の準備があるんだよ」
咲良が何やらうるさいが、ここは決めさせてもらう。
まもなくして画面には俺のキャラクターの勝利演出が現れ、咲良のキャラクターの上に『LOSE…』という文字がにじみだす。
「っかー! また負けたー!」
咲良は大げさに体をのけぞらせる。そんな咲良をうめずが不思議そうに見つめていた。
「ほれ、負けた奴は昼飯の準備手伝え」
「お前強すぎ。何なの」
コントローラーを置き、二人そろって立ち上がる。
「で、昼飯ってなんだ?」
「これだ、これ」
俺は冷凍室から大きく平たい袋を取り出す。そのパッケージにはでかでかと『マルゲリータ』の文字が印刷されている。
「あ、ピザだ。しかもそのメーカーのやつ俺よく食うわ。でも、ちょっとチーズが少ないんだよな」
「俺がそのことを知らないとでも?」
「お?」
さらに俺は冷蔵庫から三つほど袋を取り出した。ヨーロッパのどこかしらの国旗を模したパッケージの袋と、スーパーの精肉コーナーではおなじみの茶色い袋。
「チーズと、ウインナーか!」
「そうだ」
これをピザの上にトッピングすれば、チーズ少なめ問題は解決だ。
「じゃ、チーズ増し増しのソーセージてんこ盛りにしようぜ!」
さっきまでの負けテンションはどこへやら。すっかりアゲアゲ状態になった咲良にチーズの袋を渡す。
「のせられるだけのせようぜ」
「ウインナーはどうするよ」
「え、そのままじゃねえの?」
「切ろうぜ?」
あーだこうだと言いながら結局できあがったのは、チーズは本来の量の数倍、薄切りと丸ごとのウインナーが混在したカロリー激高であろうピザだった。
「すっげー豪華」
「これ、オーブンに入るのか……?」
具材が零れ落ちないように何とかオーブンに入れる。焼き時間はパッケージ通りでいいのだろうか。まあ、焼きたりなさそうなら後で追加すればいいか。
「せっかくだし、映画見ながら食おうぜ」
ポップコーンも買ってきたぜ、と咲良は楽しそうに笑う。
あ、そういえばカレー味のポップコーン作ってねえわ。まあ、買ってきたって言ってるし、またの機会にしよう。
「何借りてきたんだ?」
「最初はな、洋画でも借りてこようかなーと思ってたんだけどさ。結局邦画にしたんよね。時代劇」
「時代劇?」
「なんか面白そうなの見つけたんだよな。時代劇らしからぬタイトルっつーか……」
一体どんなの借りてきたんだ。
テーブルやらお菓子やらの準備をしていたら、チン、と小気味よい音がした。香ばしい香りが漂う。
よし、ちゃんと焼けたみたいだ。
「じゃ、食うか」
「いただきます」
ピザを切り分ける前にDVDを再生する。予告編を聞きながら、チーズをこぼさないように気を付けて口に運ぶ。
ここまで大量のチーズを口に含んだことはないかもしれない、というほどに口の中いっぱいにトローッともっちりとした食感が広がる。チーズの塩気が若干のトマトの味と相まっておいしい。
ウインナーも丸ごとのやつは肉汁がはじける。
「すげー、うんまっ」
感嘆の声を漏らす咲良の横で俺も同意の意を示すために頷く。コーラを流し込めば、最高にジャンクな味でたまらない。
薄く切ったウインナーはカリッと焼けている。この食感が大好きだ。
「予告長いな」
「でも映画見てるって感じするよなー」
予告の間に半分以上食べきってしまった。
少し冷めたチーズは歯ごたえがあってまたいい。味も少し濃くなった気がする。
なかなかのボリュームだったが、本編が始まって盛り上がりが来る前に食べきってしまった。まあ、ポップコーンもあるので問題なしだ。
久々のピザ、うまかったな。……今度は一人の時にもやってみたいな。
「ごちそうさまでした」
日曜日。大量のお菓子が詰め込まれたビニール袋を抱えて、咲良がやってきた。
「……まだ十時だぞ」
「そうだな!」
「まだ昼じゃねえ」
「十時は実質昼だろ?」
まあ、こいつとの約束が予定通りいくわけがない。
早々に俺はあきらめて、咲良を家にあげる。するとうめずがトコトコやってきて咲良を見上げた。
「お~うめず。久しぶり、元気にしてるかあ」
「わふっ」
「そーかそーか」
うめずを思いっきり撫で繰り回す咲良に、俺はふと思ったことを聞いてみる。
「そういや昼飯は?」
「あ」
咲良は俺を見上げると、にっこりと笑う。
「考えてなかった」
こいつ。
いつもながらこの無計画さには驚かされる。よくまあ、高校受験を乗り越えられたものだ。
「まー、うちになんかあるか……」
「なんか作ってくれるのか?」
「さあな」
まあ、まだ昼飯には早いので、後で考えよう。
咲良は居間に来るや否やソファを遠慮なく陣取る。
「おいこら。一人で占領してんじゃねえ」
「えー」
「そこはうめずの指定席だ」
「あ、そっち?」
咲良がずるっとソファから滑り降りると、入れ替わりにうめずがソファに丸くなって座った。
「なあなあ、ゲームどこ?」
「ちょっと待ってろ」
俺は部屋からゲーム機を持ってくる。
テレビにつなげば、陽気な音楽とともにカラフルな画面が現れた。咲良がそれを見て「そうそう、これこれ~」とのんきに笑う。
「コンピューター入れるか?」
「いや、二人対戦がいい」
「りょーかい」
俺はその通りに設定をすると、咲良にコントローラーを渡す。
このゲームは昔からやり慣れている。俺が生まれる前からあるタイトルで、これはそのリメイク版といったところだ。ゲーム内容はいたって単純なパズルゲーム。やり慣れているとはいえ、めちゃくちゃうまいというほどではない。まあ、それなりの対戦ができる程度には慣れている、と、思う。
いつも使っているキャラクターを選ぶ。こいつは魔法使いらしい。見た目と声が結構気に入っている。
咲良もキャラクターを選んだところで、ゲーム開始だ。
「簡単にくたばんじゃねーぞ、春都」
「はっ、そっちこそ少しは楽しませろよ、咲良」
かくして、仁義なき戦いの火ぶたは切って落とされたのだ。
十二時を知らせるサイレンで、現実に引き戻される。
「あ、そろそろ飯にするか」
まだプレイ途中だったが昼飯の準備をするべく、俺は早いとこ勝負をつけることにした。
「えっ、ちょ、なにそれ。あーやめろ」
「昼飯の準備があるんだよ」
咲良が何やらうるさいが、ここは決めさせてもらう。
まもなくして画面には俺のキャラクターの勝利演出が現れ、咲良のキャラクターの上に『LOSE…』という文字がにじみだす。
「っかー! また負けたー!」
咲良は大げさに体をのけぞらせる。そんな咲良をうめずが不思議そうに見つめていた。
「ほれ、負けた奴は昼飯の準備手伝え」
「お前強すぎ。何なの」
コントローラーを置き、二人そろって立ち上がる。
「で、昼飯ってなんだ?」
「これだ、これ」
俺は冷凍室から大きく平たい袋を取り出す。そのパッケージにはでかでかと『マルゲリータ』の文字が印刷されている。
「あ、ピザだ。しかもそのメーカーのやつ俺よく食うわ。でも、ちょっとチーズが少ないんだよな」
「俺がそのことを知らないとでも?」
「お?」
さらに俺は冷蔵庫から三つほど袋を取り出した。ヨーロッパのどこかしらの国旗を模したパッケージの袋と、スーパーの精肉コーナーではおなじみの茶色い袋。
「チーズと、ウインナーか!」
「そうだ」
これをピザの上にトッピングすれば、チーズ少なめ問題は解決だ。
「じゃ、チーズ増し増しのソーセージてんこ盛りにしようぜ!」
さっきまでの負けテンションはどこへやら。すっかりアゲアゲ状態になった咲良にチーズの袋を渡す。
「のせられるだけのせようぜ」
「ウインナーはどうするよ」
「え、そのままじゃねえの?」
「切ろうぜ?」
あーだこうだと言いながら結局できあがったのは、チーズは本来の量の数倍、薄切りと丸ごとのウインナーが混在したカロリー激高であろうピザだった。
「すっげー豪華」
「これ、オーブンに入るのか……?」
具材が零れ落ちないように何とかオーブンに入れる。焼き時間はパッケージ通りでいいのだろうか。まあ、焼きたりなさそうなら後で追加すればいいか。
「せっかくだし、映画見ながら食おうぜ」
ポップコーンも買ってきたぜ、と咲良は楽しそうに笑う。
あ、そういえばカレー味のポップコーン作ってねえわ。まあ、買ってきたって言ってるし、またの機会にしよう。
「何借りてきたんだ?」
「最初はな、洋画でも借りてこようかなーと思ってたんだけどさ。結局邦画にしたんよね。時代劇」
「時代劇?」
「なんか面白そうなの見つけたんだよな。時代劇らしからぬタイトルっつーか……」
一体どんなの借りてきたんだ。
テーブルやらお菓子やらの準備をしていたら、チン、と小気味よい音がした。香ばしい香りが漂う。
よし、ちゃんと焼けたみたいだ。
「じゃ、食うか」
「いただきます」
ピザを切り分ける前にDVDを再生する。予告編を聞きながら、チーズをこぼさないように気を付けて口に運ぶ。
ここまで大量のチーズを口に含んだことはないかもしれない、というほどに口の中いっぱいにトローッともっちりとした食感が広がる。チーズの塩気が若干のトマトの味と相まっておいしい。
ウインナーも丸ごとのやつは肉汁がはじける。
「すげー、うんまっ」
感嘆の声を漏らす咲良の横で俺も同意の意を示すために頷く。コーラを流し込めば、最高にジャンクな味でたまらない。
薄く切ったウインナーはカリッと焼けている。この食感が大好きだ。
「予告長いな」
「でも映画見てるって感じするよなー」
予告の間に半分以上食べきってしまった。
少し冷めたチーズは歯ごたえがあってまたいい。味も少し濃くなった気がする。
なかなかのボリュームだったが、本編が始まって盛り上がりが来る前に食べきってしまった。まあ、ポップコーンもあるので問題なしだ。
久々のピザ、うまかったな。……今度は一人の時にもやってみたいな。
「ごちそうさまでした」
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