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日常
第十七話 ハンバーグ
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平日の昼間って、こんなにも静かなのか。
振替休日の月曜日。ゴールデンウィークなどとは違い、俺たちの高校だけが休みなので周囲は当然のごとく平日として動いている。
変な感じだ。こう、ほんとに休んでいいのかなという気になる。
「う~ん……」
じっとしているのもなんだし、散歩にでも行こうか。
「よっしゃ、うめず。散歩いくぞ」
さっきまで日向ぼっこをしていたうめずだが、途端に元気になって尻尾をぶん回し始めた。ちぎれるんじゃないか。
「落ち着け」
リードをつけて外に出ればもうそわそわして、じりじりと階段の方に移動している。カギ閉めてるからちょっと待ってくれ。
「じゃあ行くかー」
「わうっ!」
日陰は涼しいが、日の当たるところに出ると汗ばむほどの季節になった。制服ももう夏服になったし、夏が来るなあ。
「よっしゃ、うめず。今日はちょっと遠くまで行ってみるか?」
せっかく時間もあるし、うめずもノリノリだし、ついでに買い物もするか。
いつもの散歩コースは通学路を避けたところだ。近くに小学校があって、その裏がひとけがないのでそこを通って、大きな川に面した、車の往来が多い道を歩いて帰ってくる。
今日はちょっと通学路に差し掛かるが、いつもと違う道を行こうと思う。
学校から少し離れたところにアーケードがある。ちょっと暗いし道の舗装もところどころ剥がれているが、昔っからあるらしい店が静かに並んでいて、俺は好きだ。
「新しい店も入ってるみたいだなー」
ずっと空き店舗の張り紙が貼られていたところに、この町には不釣り合いなほどのおしゃれな店ができていた。筆記体で書かれたその店の名前は読めない。ただ、入り口に立てかけてある黒板には見知った横文字が並んでいた。
「パスタ、ピザ、サラダ……レストランみたいだな」
正確に言えば、昼はレストラン、夜はバーというような店だった。
カラフルなイラストも描かれている中、持ち帰りメニューがあった。
「持ち帰りもできるんだって。ハンバーグか……いいな」
たまには買って帰るかと思っていると、うめずが一声吠えて黒板に近寄りスンスンと鼻を鳴らした。
「どうしたうめず。それは食べ物じゃ……」
うめずの鼻の先、ハンバーグのイラストの横にはそのかわいらしさとは不釣り合い(に俺には思える)な数字が並んでいた。
「うっわ、これ無理だ」
俺はそそくさとそこから離れる。ナイスだ、うめず。
「おしゃれな店は高いなー」
「わうっ」
「でもハンバーグ食いたいなあ」
がっつり食べたいし、やっぱ手作りが一番だよな。どうせなら目玉焼きものせてみるか。野菜も食べたいし、米も食いたい。
「どんぶりにするか」
全部のっけて食おう。
「じゃ、買い物行くぞー」
「わんっ」
買うものはひき肉と、レタスと……玉ねぎはうちにあったかな。トマトも食べたい。ソースは市販の……いや、醤油でなんか作るか。あ、豆乳買っとこう。
「待たせたなあ」
うめずは外でおとなしく待っていた。通りすがった店員が二回ぐらい振り返ってみていったけど、犬、好きなのか。そういや犬派と猫派ってどっちが多いんだろうか。
「ま、いいや。帰るぞ」
ハイテンションだったうめずも散歩終盤にもなるとおとなしくなる。特に今日は慣れない道を通ったからちょっと疲れただろう。帰り着いて水分補給をすると、所定の位置で丸まった。
さて、俺は飯の準備だ。
先に生食する野菜から準備しておこう。レタスは洗って食べやすい大きさにちぎり、トマトもくし形に切っておく。
ハンバーグのタネに混ぜる玉ねぎはみじん切りにする。ソースの分にもすりおろさなければならないのだが、これがまた目にくる。換気扇つけても暖簾に腕押し、糠に釘だ。
目のひりひりとした痛みをこらえながら、ひき肉をボウルに移す。そこに刻んだ玉ねぎと卵、パン粉、そして豆乳を注ぎ入れる。牛乳の方が一般的かもしれないが、うちは豆乳を使う。味付けは塩コショウ。
あとは成形だ。ハンバーグ作りではおなじみの空気抜きは、初めこそおっかなびっくりやっていたものだが、今となっては無心である。そうそう、真ん中をちゃんとへこませないとな。
油をひいたフライパンにハンバーグをのせ、火をつける。はじめは強火だが焦げてしまうので途中からは弱火にして中まで火を通す。あとでレンチンはするけど。
焼いた後のフライパンには肉汁があるので、そこでソースを作る。といっても醤油と酒と、玉ねぎだけのものなのだが。まあ、ジャポネソース、的なものだろうか。
どんぶりにご飯を盛りつけ、レタス、トマト、そしてメインのハンバーグをのせ、その上にさらに目玉焼きをのせて、ソースをかけたら完成だ。
「なんかこれ、見たことあるな……」
あ、ロコモコ丼だ。どこだっけ、ハワイの料理? でも思いっきり醤油のソースだし、ハワイ感ないし、なんちゃってロコモコ丼、てとこだろう。
「まあいいや。いただきます」
まずは卵を割らずに一口。
うん、かたすぎずやわすぎず、うまいことできたみたいだ。ほんのりにじみ出る肉汁がおいしい。醤油のソースは、玉ねぎの甘味が加わって肉とよく合う。レタスのシャキシャキがうれしい。
トマトでさっぱりしたところに、満を持して目玉焼きだ。
半熟に焼けた黄身がトローッと黄金色の川をどんぶりの上に作り出す。ソースと合わせて肉とご飯も一緒に一口。
さっきと比べてまったりする口当たりだ。玉ねぎの甘さで、ただでさえ丸くなった醤油味がさらにとげがなくなった。これはこれでおいしいな。
やっぱ手作りしてよかった。自分好みの味にできるのは手作りならではだからな。
にしてもあのハンバーグは高かったな……その分いい肉とか使ってんのかな。ハーブとか、ソースも違うんだろうなあ。同じ値段でこのハンバーグがいくつできることやら。
さて、まだいくつか残ってるし、おかわりしようか。明日の朝はどうやって食べよう。楽しみだ。
「ごちそうさまでした」
振替休日の月曜日。ゴールデンウィークなどとは違い、俺たちの高校だけが休みなので周囲は当然のごとく平日として動いている。
変な感じだ。こう、ほんとに休んでいいのかなという気になる。
「う~ん……」
じっとしているのもなんだし、散歩にでも行こうか。
「よっしゃ、うめず。散歩いくぞ」
さっきまで日向ぼっこをしていたうめずだが、途端に元気になって尻尾をぶん回し始めた。ちぎれるんじゃないか。
「落ち着け」
リードをつけて外に出ればもうそわそわして、じりじりと階段の方に移動している。カギ閉めてるからちょっと待ってくれ。
「じゃあ行くかー」
「わうっ!」
日陰は涼しいが、日の当たるところに出ると汗ばむほどの季節になった。制服ももう夏服になったし、夏が来るなあ。
「よっしゃ、うめず。今日はちょっと遠くまで行ってみるか?」
せっかく時間もあるし、うめずもノリノリだし、ついでに買い物もするか。
いつもの散歩コースは通学路を避けたところだ。近くに小学校があって、その裏がひとけがないのでそこを通って、大きな川に面した、車の往来が多い道を歩いて帰ってくる。
今日はちょっと通学路に差し掛かるが、いつもと違う道を行こうと思う。
学校から少し離れたところにアーケードがある。ちょっと暗いし道の舗装もところどころ剥がれているが、昔っからあるらしい店が静かに並んでいて、俺は好きだ。
「新しい店も入ってるみたいだなー」
ずっと空き店舗の張り紙が貼られていたところに、この町には不釣り合いなほどのおしゃれな店ができていた。筆記体で書かれたその店の名前は読めない。ただ、入り口に立てかけてある黒板には見知った横文字が並んでいた。
「パスタ、ピザ、サラダ……レストランみたいだな」
正確に言えば、昼はレストラン、夜はバーというような店だった。
カラフルなイラストも描かれている中、持ち帰りメニューがあった。
「持ち帰りもできるんだって。ハンバーグか……いいな」
たまには買って帰るかと思っていると、うめずが一声吠えて黒板に近寄りスンスンと鼻を鳴らした。
「どうしたうめず。それは食べ物じゃ……」
うめずの鼻の先、ハンバーグのイラストの横にはそのかわいらしさとは不釣り合い(に俺には思える)な数字が並んでいた。
「うっわ、これ無理だ」
俺はそそくさとそこから離れる。ナイスだ、うめず。
「おしゃれな店は高いなー」
「わうっ」
「でもハンバーグ食いたいなあ」
がっつり食べたいし、やっぱ手作りが一番だよな。どうせなら目玉焼きものせてみるか。野菜も食べたいし、米も食いたい。
「どんぶりにするか」
全部のっけて食おう。
「じゃ、買い物行くぞー」
「わんっ」
買うものはひき肉と、レタスと……玉ねぎはうちにあったかな。トマトも食べたい。ソースは市販の……いや、醤油でなんか作るか。あ、豆乳買っとこう。
「待たせたなあ」
うめずは外でおとなしく待っていた。通りすがった店員が二回ぐらい振り返ってみていったけど、犬、好きなのか。そういや犬派と猫派ってどっちが多いんだろうか。
「ま、いいや。帰るぞ」
ハイテンションだったうめずも散歩終盤にもなるとおとなしくなる。特に今日は慣れない道を通ったからちょっと疲れただろう。帰り着いて水分補給をすると、所定の位置で丸まった。
さて、俺は飯の準備だ。
先に生食する野菜から準備しておこう。レタスは洗って食べやすい大きさにちぎり、トマトもくし形に切っておく。
ハンバーグのタネに混ぜる玉ねぎはみじん切りにする。ソースの分にもすりおろさなければならないのだが、これがまた目にくる。換気扇つけても暖簾に腕押し、糠に釘だ。
目のひりひりとした痛みをこらえながら、ひき肉をボウルに移す。そこに刻んだ玉ねぎと卵、パン粉、そして豆乳を注ぎ入れる。牛乳の方が一般的かもしれないが、うちは豆乳を使う。味付けは塩コショウ。
あとは成形だ。ハンバーグ作りではおなじみの空気抜きは、初めこそおっかなびっくりやっていたものだが、今となっては無心である。そうそう、真ん中をちゃんとへこませないとな。
油をひいたフライパンにハンバーグをのせ、火をつける。はじめは強火だが焦げてしまうので途中からは弱火にして中まで火を通す。あとでレンチンはするけど。
焼いた後のフライパンには肉汁があるので、そこでソースを作る。といっても醤油と酒と、玉ねぎだけのものなのだが。まあ、ジャポネソース、的なものだろうか。
どんぶりにご飯を盛りつけ、レタス、トマト、そしてメインのハンバーグをのせ、その上にさらに目玉焼きをのせて、ソースをかけたら完成だ。
「なんかこれ、見たことあるな……」
あ、ロコモコ丼だ。どこだっけ、ハワイの料理? でも思いっきり醤油のソースだし、ハワイ感ないし、なんちゃってロコモコ丼、てとこだろう。
「まあいいや。いただきます」
まずは卵を割らずに一口。
うん、かたすぎずやわすぎず、うまいことできたみたいだ。ほんのりにじみ出る肉汁がおいしい。醤油のソースは、玉ねぎの甘味が加わって肉とよく合う。レタスのシャキシャキがうれしい。
トマトでさっぱりしたところに、満を持して目玉焼きだ。
半熟に焼けた黄身がトローッと黄金色の川をどんぶりの上に作り出す。ソースと合わせて肉とご飯も一緒に一口。
さっきと比べてまったりする口当たりだ。玉ねぎの甘さで、ただでさえ丸くなった醤油味がさらにとげがなくなった。これはこれでおいしいな。
やっぱ手作りしてよかった。自分好みの味にできるのは手作りならではだからな。
にしてもあのハンバーグは高かったな……その分いい肉とか使ってんのかな。ハーブとか、ソースも違うんだろうなあ。同じ値段でこのハンバーグがいくつできることやら。
さて、まだいくつか残ってるし、おかわりしようか。明日の朝はどうやって食べよう。楽しみだ。
「ごちそうさまでした」
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