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《番外編 新しい常務がやって来た!!》
1.広報室広報誌係 広岡広史の場合 ⑥
しおりを挟むというわけで、とうとう榊常務へのインタビューの日が来た。
「――すみません。今日は、こんな感じでインタビューさせていただきます」
事前にある程度の説明はしておいたが、改めて秘書の神原さんにこの日のスケジュールを説明する。
それにしても、本社から来たというこの秘書。やっぱり雰囲気が全然違う。
ひじょーに、きっちりしっかり(ぴりぴり)している。
うちの役員と秘書の、叔父と姪みたいな、なぁなぁな感じゃない。
「――承知いたしました。やはり質問事項は……」
「すみません。広報室の方針で、質問は事前にお知らせしないことになっているんです。自然な反応を知りたいというかなんというか……」
本当に、何から何までふざけていると思うよ、俺も。
「そうですか。でも、くれぐれも失礼な質問はなさらないようお願い致します」
「は、はぁ……」
まあ、”失礼”ではないだろうが。
どれもこれも、答えるのに苦労はするだろうな。
「では、常務室にご案内いたします」
「はい!」
俺の後ろに控えていた三井が、張り切った声をあげる。
「では、本日はよろしくお願いいたします」
その後ろにいる、室長と係長も気持ち悪いほどの微笑みを湛えていた。
『常務室』というプレートが貼られた扉を、秘書の神原さんが開ける。
「――常務、広報室の方がお見えになりました」
「わかった」
初めて聞く榊常務の声。
その声だけで緊張感が走る。
「本日は、お忙しいところお時間取っていただきましてありがとうございます」
真っ先に広報室長が挨拶をした。
一回り以上年が離れているだろう相手に、恭しく頭を下げる。
「いえ。今日は、よろしくお願いします」
立ち上がったその姿を、俺は初めて目にした。
この人が、榊常務――。
本当に俺と三つ違いかよ。
もっと上に見える。
確かに――放つオーラは圧倒的だな。
俺と同じ男なのかと思うと、我ながら苦笑するしかない。
「きゃふっ」
俺の背後から、不気味な呻き声が漏れ聞こえる。
三井だ。漏れ出てしまった声に自分で驚いたみたいで、慌てて口元を手で覆っていた。でも、その目はもう、きらきらと感動に満ち溢れたものになっている。
こいつ、そんなんで仕事になるのかよ……。
俺はこっそり溜息を吐く。
「では、今日、お世話になります社員を紹介いたします」
係長が俺に目配せをした。
「は、はい。本日、常務にお話をうかがわせていただく、広報室広報誌係の広岡です。よろしくお願いします」
「よろしく」
一歩、榊常務に近付く。そうしたら、実際の身長差だけでなく、その雰囲気にも威圧感を感じた。
なんだ、この人。
生まれながらにやんごとなき人たちって、みんなこんな雰囲気なのか?
「わ、私は、本日撮影を担当します、三井、三井えみりと申します。よろしくお願いしますっ」
飛び出してくるように三井が俺の前に立ち、声を張り上げた。
心なしかその声は震えている。
その姿を見て、あることに気付く。
いつもより、服装に気合いが入っていないか――?
それに、髪形もいつもはストレートなのにくるくるしているし。
「よろしく」
「は、はいっっっ」
ただ、”よろしく”と視線を合わせられただけで、金縛りにあったみたいにピンとして。
もう、ここまで来ると見ていて面白くさえなって来る。
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