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第一部

誓い【side:創介】 2

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 そして、二年の月日が流れた。



 見合いを反故にしたことの懲罰人事として、あれからずっと役職にはついていない。二年という時間と、それくらいのことをしなければ、宮川家に示しがつかない。

 俺にとって昇任は重要なことじゃない。大切なことは一つ。父と約束した利益を上げることだけだった。

 この二年、出来ることはすべてやった。誰よりも泥臭く駆けずり回り、昼も夜も、立場も何も忘れてがむしゃらに働いた。やっと、ここまで来た。

この契約が決まれば、父と交わした条件を達成できる――。

インドでの、大型複合施設とそれに付随するすべてに関わる大事業だ。このプロジェクトのチーフとして責任を負っていた。
 契約の交渉も大詰めを迎え、ほぼこちらの理想の形で契約を締結することが出来た。その瞬間、張り詰めたものが一気に身体から抜けていくようで、足元がぐらつきそうになった。この二年、どれほどまでに気を張って生きていたのか。それを思い知る。

今頃、恐怖を感じるなんて――。

自分自身に苦笑する。この二年、自分が父に放った言葉の困難さを深く考えたらきっとやっていられなかった。ただ目の前だけを見てやって来た。条件を果たした今になって、どれだけぎりぎりのところでやっていたのか実感する。
 でも、今、こうして自分が立っていられるのは、雪野がいるからだ。あの優しい微笑みを目に浮かべて、表情までもが緩んで行く。


 帰国の前に、父に契約の報告をした。電話越しに言われた言葉は、『本当にやるとはな』だった。それが父なりのねぎらいの言葉なのだろうか。そう思って苦笑していると、受話器の向こうで父が息を吐くのに気付く。

(――式の日取りを、倉内と相談して決めろ)
「……え?」

その言葉に反応できないでいるうちに、既にその電話は切られていた。

それはつまり、雪野との結婚を許す――ということか。

その言葉の重みが、じわじわと俺の中で広がって行く。条件を達成したところで、約束を守る義理は父にはない。許しを得られない覚悟もしていた。その時は、雪野を選ぶ。そう決めてもいた。
 それでも。そんな結婚のしかたよりは、皆に許されて結婚する方が雪野にとってもいいに決まっている。父が許したのだという事実が、心の底から俺を安堵させ喜びで満たした。

早く、雪野に会いたい――。

このプロジェクトのせいで、二か月も雪野に会っていない。今回はかなりの長期出張になっていた。せめて声だけでもと電話をかけても、声を聞いたら聞いたでより会いたくなるのだからどうしようもない。

やっと、雪野を傍における。いつでもあの顔を見られる――。

一緒に眠りにつき、共に目覚める。そんな日が来ることをずっと夢見てここまでやって来た。

 思えば雪野が十八歳の時からの付き合いだ。五年――長かったようで短いような気もする。

 今では、雪野も立派な社会人で。社会に出てから、雪野は見違えるように綺麗になっていった。内面から出る美しさが、表面にも滲み出て。大人の表情を時おり見せる。ひとたび微笑むだけで、密かに目を奪われていた。そんな雪野を見ていたら、いつもどこか心に焦りがあった。雪野の生きている世界で、雪野に惚れる男もいるだろう。いつも忙しくしている俺なんかよりずっと長い時間を共に過ごしている、見ず知らずの男たちに勝手に嫉妬して。どうして一番近くにいるのが自分じゃないのかと、誰に向けることもできない怒りを感じたりもした。

でも、ようやく、俺の元に来てもらえる。俺のものに――。

そのことを報告しなければならない相手がいる。それは、理人だ。

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