25 / 32
喫茶店で
しおりを挟む
休日、翔と朝から出かけた。
母は昨日の夜から仲の良い人たちと温泉旅行に行っており、翔が少し前に引いたくじで空港の中を回るツアーを当ててその日が今日だから。
ツアーにはまだ時間があるので、朝ご飯として近くのパン屋に寄った。
「翔、何にする?お昼出るまで何も食べられないから。」
「あのパンにする。チョコレートのやつ。たまごパンもおいしそう!」
「じゃ、二つ買おう。俺はクルミとサンドイッチにしよう。」
そこそこお客がいてゆっくり回っている余裕はないけど、一方通行なので歩くのに窮屈ではなく、悩まない翔の性格もあってさっさと会計した。
そして、イートインスペースに移動したところで声がかかった。
「浅野さん?」
「え?」
急に名前を呼ばれて瑞穂は振り向くと、先日会った優希の母が座っていた。よく見ると、晴哉と優希もいてちょうど食べ始めたところのようだった。
「おはようございます。」
「おはようございます。朝早くに知り合いと会うなんて初めてです。」
「俺もです。Syo!Stop here!(翔!そこで待って!)」
翔がどこかに行こうとしたので声をかけるとエヘッと笑った。年齢が上がるにつれて一人行動したがるようになり、心配が増えた。急に大きな声を出したせいで相手を驚かせてしまい、瑞穂は平謝りをしながら翔と彼らから離れた。
「翔、食べていいよ。」
「ありがとう!」
瑞穂は彼の分を彼の前に用意すると彼はすぐに手を伸ばして食べ始めた。甘いパンを先に食べるのは食べたいものを先に食べるのが彼の性格だからだ。
「浅野さんの息子さんですか?」
「はい、そうです。翔といいます。」
いつの間にか隣の席に移動していた晴哉たちはすでに食べ終わり飲み物だけを持ってきた。こんな状況になることを望んでいないのだが、優希の母が率先して話しかけてくるので相手にしないわけにもいかなかった。彼女は翔の方をじっと見ていて、晴哉の子だと気づかれないか瑞穂は気が気でなかった。
「可愛いですね!浅野さんによく似ていますね。」
「よく言われます。母にも言われました。」
「奥さんは今日はいないんですか?」
「奥さんは亡くなっていますから。」
瑞穂が言うと優希の母は目を下げて謝った。
「すみません。」
「いえいえ、構いません。この子が生まれてからは二人ですから、あまり思い出すこともないんです。」
「そうですか。翔君の髪や目の色は奥さんからなんですか?」
「そうですね。」
色のことまで聞いてくる優希の母に緊張が走ったが、時折、彼女の視線が晴哉の方を向いて、その度に彼女が笑ったような気がした。だから、瑞穂の危惧だったかと思い、このまま何事もなく翔が食べ終わるのを願いながらも瑞穂はパンを食べた。
仲が良さそうな家族が隣にいても、翔は何事もなく、瑞穂にニコニコしながら小さい口でパンを食べていた。その様子がとても可愛く瑞穂まで笑顔になってしまう。翔がもう一人の親のことを聞いて来たことは一度もなかったが、内心、どう思っているのか、我慢していないか、時折瑞穂は心配になった。
「ごちそうさま。」
「お腹いっぱいになった?」
「うん!おひるまではおなかすかないよ!」
翔は膨らんだお腹をさすってみせた。
「じゃ、行こうか。今から行くとちょうどいい。」
瑞穂は立ち上がって晴哉たちに軽く会釈した。
「それじゃ、俺たちはこれで。」
「今日何かあるんですか?」
優希の母がここでも食いついてきた。
「これから少し遠出なので。」
「そうなんですか?どちらまで行かれるんですか?」
「理子!!」
さすがに鬱陶しいと思っていたら、晴哉が彼女を窘めた。それに反省したのかは知らないが黙ってしまい、その間に瑞穂と翔はパン屋を出た。
最近、よく会う組み合わせに瑞穂は嫌な予感がしてならなかった。
母は昨日の夜から仲の良い人たちと温泉旅行に行っており、翔が少し前に引いたくじで空港の中を回るツアーを当ててその日が今日だから。
ツアーにはまだ時間があるので、朝ご飯として近くのパン屋に寄った。
「翔、何にする?お昼出るまで何も食べられないから。」
「あのパンにする。チョコレートのやつ。たまごパンもおいしそう!」
「じゃ、二つ買おう。俺はクルミとサンドイッチにしよう。」
そこそこお客がいてゆっくり回っている余裕はないけど、一方通行なので歩くのに窮屈ではなく、悩まない翔の性格もあってさっさと会計した。
そして、イートインスペースに移動したところで声がかかった。
「浅野さん?」
「え?」
急に名前を呼ばれて瑞穂は振り向くと、先日会った優希の母が座っていた。よく見ると、晴哉と優希もいてちょうど食べ始めたところのようだった。
「おはようございます。」
「おはようございます。朝早くに知り合いと会うなんて初めてです。」
「俺もです。Syo!Stop here!(翔!そこで待って!)」
翔がどこかに行こうとしたので声をかけるとエヘッと笑った。年齢が上がるにつれて一人行動したがるようになり、心配が増えた。急に大きな声を出したせいで相手を驚かせてしまい、瑞穂は平謝りをしながら翔と彼らから離れた。
「翔、食べていいよ。」
「ありがとう!」
瑞穂は彼の分を彼の前に用意すると彼はすぐに手を伸ばして食べ始めた。甘いパンを先に食べるのは食べたいものを先に食べるのが彼の性格だからだ。
「浅野さんの息子さんですか?」
「はい、そうです。翔といいます。」
いつの間にか隣の席に移動していた晴哉たちはすでに食べ終わり飲み物だけを持ってきた。こんな状況になることを望んでいないのだが、優希の母が率先して話しかけてくるので相手にしないわけにもいかなかった。彼女は翔の方をじっと見ていて、晴哉の子だと気づかれないか瑞穂は気が気でなかった。
「可愛いですね!浅野さんによく似ていますね。」
「よく言われます。母にも言われました。」
「奥さんは今日はいないんですか?」
「奥さんは亡くなっていますから。」
瑞穂が言うと優希の母は目を下げて謝った。
「すみません。」
「いえいえ、構いません。この子が生まれてからは二人ですから、あまり思い出すこともないんです。」
「そうですか。翔君の髪や目の色は奥さんからなんですか?」
「そうですね。」
色のことまで聞いてくる優希の母に緊張が走ったが、時折、彼女の視線が晴哉の方を向いて、その度に彼女が笑ったような気がした。だから、瑞穂の危惧だったかと思い、このまま何事もなく翔が食べ終わるのを願いながらも瑞穂はパンを食べた。
仲が良さそうな家族が隣にいても、翔は何事もなく、瑞穂にニコニコしながら小さい口でパンを食べていた。その様子がとても可愛く瑞穂まで笑顔になってしまう。翔がもう一人の親のことを聞いて来たことは一度もなかったが、内心、どう思っているのか、我慢していないか、時折瑞穂は心配になった。
「ごちそうさま。」
「お腹いっぱいになった?」
「うん!おひるまではおなかすかないよ!」
翔は膨らんだお腹をさすってみせた。
「じゃ、行こうか。今から行くとちょうどいい。」
瑞穂は立ち上がって晴哉たちに軽く会釈した。
「それじゃ、俺たちはこれで。」
「今日何かあるんですか?」
優希の母がここでも食いついてきた。
「これから少し遠出なので。」
「そうなんですか?どちらまで行かれるんですか?」
「理子!!」
さすがに鬱陶しいと思っていたら、晴哉が彼女を窘めた。それに反省したのかは知らないが黙ってしまい、その間に瑞穂と翔はパン屋を出た。
最近、よく会う組み合わせに瑞穂は嫌な予感がしてならなかった。
37
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説

無自覚な
ネオン
BL
小さい頃に母が再婚した相手には連れ子がいた。
1つ上の義兄と1つ下の義弟、どちらも幼いながらに
イケメンで運動もでき勉強もできる完璧な義兄弟だった。
それに比べて僕は周りの同級生や1つ下の義弟よりも小さくて
いじめられやすく、母に教えられた料理や裁縫以外
何をやっても平凡だった。
そんな僕も花の高校2年生、1年生の頃と変わらず平和に過ごしてる
それに比べて義兄弟達は学校で知らない人はいない
そんな存在にまで上り積めていた。
こんな僕でも優しくしてくれる義兄と
僕のことを嫌ってる義弟。
でも最近みんなの様子が変で困ってます
無自覚美少年主人公が義兄弟や周りに愛される話です。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。
※(3/14)ストック更新終わりました!幕間を挟みます。また本筋練り終わりましたら再開します。待っててくださいね♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。

BLドラマの主演同士で写真を上げたら匂わせ判定されたけど、断じて俺たちは付き合ってない!
京香
BL
ダンサー×子役上がり俳優
初めてBLドラマに出演することになり張り切っている上渡梨央。ダブル主演の初演技挑戦な三吉修斗とも仲良くなりたいけど、何やら冷たい対応。
そんな中、主演同士で撮った写真や三吉の自宅でのオフショットが匂わせだとファンの間で持ち切りに。
さらに梨央が幼い頃に会った少女だという相馬も現れて──。
しゅうりおがトレンドに上がる平和な世界のハッピー現代BLです。

ホストの彼氏ってどうなんですかね?
はな
BL
南美晴人には彼氏がいる。彼は『人気No.1ホステス ハジメ』である。
迎えに行った時に見たのは店から出てきて愛想良く女の子に笑いかけているのは俺の彼氏だったーーー
攻め 浅見肇
受け 南美晴人
ホストクラブについて間違っているところもあるかもしれないので、指摘してもらえたらありがたいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる