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両家の顔合わせ

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 夕方、大学に迎えまで迎えに来た晴哉に連れてこられたのはイタリアンレストランだった。瑞穂は行ったことがなかったが、晴哉は慣れたように出迎えられたウェイターに対応して案内されたのは個室だった。

「母さん!!」

 そこに居たのは母であり、彼女はニコニコしながら手を振っていた。瑞穂の大声のせいで注目を集めてしまい、居心地悪くなって口を手で押さえ小さく謝罪した。晴哉はウィンクして小さく笑い瑞穂の肩を抱いて引き寄せた。

「驚いただろう?相変わらず予想通りの反応をするな、お前は。でも、今は席に着こうか。訳は今から話すからな。」

 彼に案内されるまま席に着くと瑞穂の視界も広がってそこに居たのは尚哉とその隣には見たことがない男二人だった。二人を見てすぐにどちらがαでΩかわかり、αとわかる端正な顔立ちをした男性は晴哉によく似ており、確実に晴哉の軽い雰囲気は遺伝だった。尚哉も同じなのだが、目元はΩであり人の方だった。そんなに如実にわかったのは瑞穂自身がΩになったからだろう。以前はαもΩも他の人とは違うと思うだけであり、どっちの性かなど彼にはわからなかった。それなのに、こんなに嗅覚だけでなく五感で感じるようになってよかったかは瑞穂にはわからない。

「瑞穂、おばさん、紹介するよ、こっちは俺の両親だ。その隣に座っているのは弟の尚哉。瑞穂は何回か会っているよな?父さん、母さん、こちらは俺の番である浅野瑞穂とその母だ。」
「突然連絡してきたものだから驚いてしまいまして。えっと、瑞穂君と呼んでもいいかな。」

 晴哉の父親は晴哉と似た雰囲気だったけれど話し方は軽い雰囲気そのままの晴哉と違って丁寧だった。そんなことは失礼かもしれないが、瑞穂としては初対面の印象からは晴哉の時よりも好印象だった。瑞穂が頷くと晴哉の父はニコッと笑った。

「では、瑞穂君、今さらだけど晴哉でよかったんですか?」
「え?えっと、それは一体どういう。」
「ちょっと、父さん!瑞穂を混乱させないでくれないか?」
「そうですよ、幸哉さん。やっと、晴哉がこんなに可愛い子を連れてきたんですよ。そんなことを言ったら逃げてしまうかもしれないじゃないですか。」
「え~、それは困るな。でも、そうなったら、それは晴哉の脇が甘いってことだよ。私のせいじゃないと思う。」
「それはそうかもね。」
「全く尚哉君まで。」

 遠月家の漫才が始まった。そして、やっぱり晴哉の父は晴哉と同じように軽い口調だった。賑やかな遠月家の家族に瑞穂は母と見合わせて笑った。

「突然だけど、俺たちはすでに番になったから結婚する。父さんたちはそのつもりで。お義母さんが了承してくれれば、今後は瑞穂と一緒に住みたいと思います。」

 母は困ったように頬に手を当てた。それに、晴哉は不安そうに眉尻を下げ、瑞穂の手をテーブルの下で握った。

「私もみーくんの為にそうしてあげたいんだけど、それには賛同できません。だって、みーくんは家事が何もできないんだもの!」
「母さん、部屋はきれいにしているよ!」
「あれはみーくんが部屋を全然散らかさないから、そう見えているだけよ。」
「え?そうなの?」

 自分の部屋をきれいだと思いこんでいた分、母の言葉は瑞穂に衝撃を与えた。会話の中、外部から強い視線を感じると晴哉を含めた遠月家の人がまじまじと見ていた。

「お義母さん、家事は俺が得意だから心配ありません。それに、そういうのは時間があるほど慣れていきますから。」
「いや、晴哉さんは料理不得意だろう。俺のことは言えないと思う。」
「瑞穂、それこそここで言わなくていいだろ。」
「確かに、みーくんの言う通りだな。」
「そうですね。晴哉君は一人暮らしが長くても料理だけは上達しませんでした。」
「未だにうどんを茹でたら液状になるし。意外とみーくんの方が上手だったりして。」

 いつの間にか”みーくん”が遠月家の面々に浸透していて瑞穂は止めることができなかった。オロオロしていると、頭を撫でられて瑞穂は晴哉を見た。

「料理は置いておくとして、心配しなくていいですよ。俺たちは俺たちのペースでやっていきますから。」

 母に向かって晴哉は言った。その顔に絆されたのか、ほんのり頬を赤くした母は頷いた。
 こうして、同棲が決まり、瑞穂は初めて赤の他人との生活を始めることになった。

「突然決めて悪いな。嫌だったか?」
「別に。」

 家まで送ってくれた晴哉が家の前に止めた車内できり出した。瑞穂はそんな不安そうな顔をするなら事前に言ってくれれば良かったのに、と思ってしまった。

「本当に嫌じゃないよ。ただ、晴哉さんは真面目だなって思っただけ。ほら、αとΩでもちゃんと結婚するか分からないだろう。テレビでよくやっているし。」
「そうだな。αと言ってもいろんな奴がいるからな。」
「運命の番の嵯峨家が特別だと俺は思っていたんだ。」
「確かにあいつらのことは俺もそうだと思っている。でもな、」

 晴哉は瑞穂の手を握った。

「意外と簡単なことだとも思ってる。」
「簡単、かな。でも、俺は晴哉さんと理人たちのような家族になれたらと思っている。」
「俺もだ。俺が願うのはお前が今までのように俺のところにいてくれたことだからな。」

 晴哉は瑞穂に軽く口付けた。

「父さんたちには結婚は後回しみたいに言ったけど、俺はお前と一緒に住んでから結婚したと思っているからな。」

 瑞穂は彼の言っていることを自分の中でかみ砕きゆっくりと頷いた。それから、もう一度だけキスをして沸き上がる甘い感情を抱きながら晴哉と別れた。この夜は当然のことながら、瑞穂は眠れなくなりベッドの上でゴロゴロと願えりをうちつつ時間が過ぎるのを待った。
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