SSB

PrimoFiume

文字の大きさ
上 下
7 / 9

Linda’

しおりを挟む
 アレックスは、見覚えのある部屋の中で目を覚ました。
「ここは、……」ベッドから起き上がり、目の前の光景に思わず繋ぐ言葉を見失った。
 見間違うはずなどなかった。そこは、先の大地震で倒壊したはずの建物、リンダのアパートメント、もっと言えばリンダの部屋だ。
 不意に、頭に鈍い痛みを感じたアレックスは、反射的に手を当てるとそこには包帯が巻かれていた。混沌とした頭の中をアレックスは必死に整理して、現状を理解しようと記憶の糸を辿り思考を働かせる。ここにくる前は、ザ・バックスにいた。そこで余震が起きて、地割れに吸い込まれた、そして、……。
 記憶の糸はそこで切れた。アレックスは自分はそこで死んだのかもしれないと思った。だが、すぐに思い直す。幽霊という状態がどんなものかは分からないが、体に変化があるようには思えない。これまでとなんら変わらない。ベッドサイドに置かれたコップを持つことも、それを満たす水を飲むこともできたし、今も感じる痛みは生きている証明と思えた。アレックスは部屋の中を見渡した。見慣れた部屋ではあるが、どこか違和感がある。注意深く見ていると、いくつかの点に気づいた。時計の色が違う、鏡の位置が違う、花瓶の柄が違う。

「ガチャ」ノブが音を立て、玄関のドアが開いた。そして部屋に入ってきたのは、……

「リンダ! そんなまさか! 生きていたのか! 一体これは?」アレックスは驚きのあまり声を上げる。
「どうしたの? 幽霊でも見たような顔して?」そんなアレックスをよそにリンダは微笑みを浮かべながら、買い物袋を胸の前に両手で抱えたままキッチンへと向かう。
「お腹すいてるでしょ? 何か作るわ」
 アレックスには依然目の前の光景に理解が追いつかない。生気に溢れたリンダが目の前にいる、ただ言えることはこれが夢だと言うならこのまま醒めないでほしいということだけだった。
「痛」アレックスのこめかみに再び痛みが走る。
「アレックス、まだ無理しちゃダメよ。横になってて。大丈夫、私はどこにも行かないから」そう言って笑みを見せたリンダは鼻歌交じりに調理にかかる。
 その姿、立ち振る舞いはまさにリンダそのものではある。だとするとあの時の遺体は何だったのだろうとアレックスは考えを巡らすが答えは出ない。
「お待たせ、さぁ食べましょう」リンダがパスタをテーブルに置きアレックスを呼ぶ。
 アレックスは勧められるままに席に着くと、すぐさまリンダに問いかける。
「一体どういうことなんだ、説明してくれリンダ!」
「慌てないで、まずは食べましょ。二人で食事なんて久しぶりじゃない?」リンダはワインのボトルを手に取りグラスに注いだ。
 アレックスは無造作にフォークでトマトソースのかかったパスタを口に運ぶ。それは間違いなくリンダの味だった。
「もういいだろ、リンダ? そろそろ教えてくれ!」
「アレックス、落ち着いて。いいわ、ゆっくり話しましょ。でも、そうねぇどこから話したらいいかしら」そう言ってリンダは傍に置いてあったカバンからタバコの箱を取り出して一本取り出すと口に咥えた。
「タバコ? いつから?」
「あ、ごめんなさい、吸ってなかったかしら? でもこれだけ吸わせて」
 リンダは慣れた手つきでタバコに火をつけると、天井を見上げて煙を吐き出した。
「そうね、まずは、Law of attraction(引き寄せの法則かしら)」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

番太と浪人のヲカシ話

井田いづ
歴史・時代
木戸番の小太郎と浪人者の昌良は暇人である。二人があれやこれやと暇つぶしに精を出すだけの平和な日常系短編集。 (レーティングは「本屋」のお題向け、念のため程度) ※決まった「お題」に沿って777文字で各話完結しています。 ※カクヨムに掲載したものです。 ※字数カウント調整のため、一部修正しております。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

身体交換

廣瀬純一
SF
男と女の身体を交換する話

日本国転生

北乃大空
SF
 女神ガイアは神族と呼ばれる宇宙管理者であり、地球を含む太陽系を管理して人類の歴史を見守ってきた。  或る日、ガイアは地球上の人類未来についてのシミュレーションを実施し、その結果は22世紀まで確実に人類が滅亡するシナリオで、何度実施しても滅亡する確率は99.999%であった。  ガイアは人類滅亡シミュレーション結果を中央管理局に提出、事態を重くみた中央管理局はガイアに人類滅亡の回避指令を出した。  その指令内容は地球人類の歴史改変で、現代地球とは別のパラレルワールド上に存在するもう一つの地球に干渉して歴史改変するものであった。  ガイアが取った歴史改変方法は、国家丸ごと転移するもので転移する国家は何と現代日本であり、その転移先は太平洋戦争開戦1年前の日本で、そこに国土ごと上書きするというものであった。  その転移先で日本が世界各国と開戦し、そこで起こる様々な出来事を超人的な能力を持つ女神と天使達の手助けで日本が覇権国家になり、人類滅亡を回避させて行くのであった。

悪魔サマエルが蘇る時…

ゆきもと けい
SF
ひ弱でずっとイジメられている主人公。又今日もいじめられている。必死に助けを求めた時、本人も知らない能力が明らかになった。そして彼の本性は…彼が最後に望んだ事とは…

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...