上 下
5 / 5

驚愕の事実 Ⅱ

しおりを挟む
「──本来、《幻想戯曲》のキャラや武具を召喚するのには、対象である本を全て読み終える事が大前提なのよ。その能力や見た目等も鮮明に想像してから具現化させるモノなの。この系統の魔導書は」

「といっても、出来ちゃったモノは出来ちゃったんだからさ……仕方ないだろう。それに何の説明もなく召喚しろと言ったアイリスにも非はあるんじゃないか?」

「…………あ、破廉恥な貴方が嘘を言っているという可能性も──」


自分の一連の行動を包み隠さず話したにも関わらず、アイリスは未だ目の前で起こっている事象を受け入れられていないらしい。挙句、俺が嘘を吹聴しているとか言い出したのだ。
  それは幾らなんでも酷いだろう。思春期の男子に対する冒涜ではないのか。

そう胸中で反発しつつ、隣に座っている赤ずきんちゃんことメイジーを一瞥する。
 ……やはりあの時と変わらずのロングブロンドの髪と瞳。彼女の武器と思しき紅い刺又はもう持っておらず、誰がどう見ようとフードコートを羽織った少女にしか見えない。
 つまり、戦闘時に見られた獰猛さは感じられないという事だ。


「…………?」


俺の視線に気が付いたか、メイジーはこちらに顔を向けてくる。頭上には疑問符が浮かんでいるようで、小動物のような動作で小首を傾げた。
 ────愛らしい。
 そう思いながらも、口には出さない。アイリスに何を言われるか分かったもんじゃないからな。

メイジーには首を横に振って『何でもない』という意を示し、次いで顎に手を当てて考える仕草をしているアイリスを見る。
 しかしアイリスはそういった類いに敏感なのか、すぐさま顔を上げてこちらを睨み付けてきた。
 そして「よいしょっ」と姿勢を正すと、その瞳で真っ直ぐと俺とメイジーを見据える。

また数瞬だけ考える仕草を見せたが、どうやら彼女の中で答えは導き出せたらしく、


「蒼月。……手の平を見せてくれるかしら?」

「……手の平?」

「うん」


言われるがままに手の平を差し出す。
 すると彼女は自身の手を俺の手と重ね、呪文の様なことばを諳んじた。
 ──刹那。
ボウっと発された淡白い光と共に、手の平サイズほどの魔法陣が双方の間に展開される。
 アイリスはそこから何かを感じ取っているらしく、瞳を閉じて精神を集中させていた。

メイジーも不思議そうにこちらを覗き込んでくるが、果たして何の調べなのだろうか。


「……まさか──いや、そんな事は…………」

「……どうした?」


僅かながら眼を見開き、動揺したように呟くアイリス。先程の魔法陣から何を読み取ったのかは知る由もないが、彼女にとって結果がであったのは明らかであろう。
 ──重い雰囲気に耐えきれず、俺は問う。


「……なぁ、アイリス。どうしたんだ?」


俺の問いを聴き留めると、彼女は一拍置いてから答えた。


「さっきの魔法陣は、対象の魔力量──『氣』とも言うんだけれどね。それを調べる術式なの。……人間には生まれ持った『氣』があるんだけれど、それの所有値によって契約できる《幻想戯曲》のランクが変わるのよ」


──そんな《幻想戯曲》のランクは五段階らしい。曰く、下からD、C、B、A、S、だと。
 そして、とアイリスは付け加え、饒舌に語っていく。


「貴方の『氣』の量が、少しばかりアレでね……。端的に言うと、わ。数値化しただけでも、Sランクの《幻想戯曲》と契約できるほどの『氣』の量を貴方は持っているのよ」

「……俺が、か?」

「えぇ、間違いないわね。『氣』の量が無尽蔵な人は極稀にいるんだけれど、どうやら貴方はその部類に入っているみたい」

「みたい、って…………」


更に、とアイリスは言い、俺とメイジーを交互に指す。


「貴方の『氣』の量がSランクの《幻想戯曲》と契約できるレベルなら──その子も、それ相応の強さはあるわよ。恐らく《幻想司書》である私の眼から見ても、Sランクレベルね」

「メイジーも、か?」

「えぇ、そうね」


アイリスはそう言うと、口の端を僅かに上げた。まるで、思わぬ掘り出し物を見付けたかのように。
 …………いや、そうとしても。


「この《幻想戯曲》はアイリスが落としたモノだろ? なら所有権は《幻想司書》であるアイリスにあるんじゃないか?」

「それは既に無効化されたわ。《幻想戯曲》の契約者が判明した時点で、所有権は私から貴方に移行している。本来なら正規の方法で契約破棄させるのだけれど、それが出来ないんじゃ手も足も出ないの。だから──」


とアイリスは立ち上がり、満面の笑みで俺たちを指さして告げる。


「──解決策が出るまで、貴方たちには同棲してもらうわ!」


~to be continued.


しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

campanella
2022.03.15 campanella

すごく面白いです。私の小説も是非お読みください。お気に入り登録しました。

解除

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

ヒューストン家の惨劇とその後の顛末

よもぎ
恋愛
照れ隠しで婚約者を罵倒しまくるクソ野郎が実際結婚までいった、その後のお話。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。