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《紫苑》
鷹宮清光
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日も暮れてきた。辺りは朱色の光に覆われながらも、未だ賑わいは消え失せていない。
そんな中、俺たちは神社の縁側に座りながら、縁日で買った土産物を食べていた。彩乃はリンゴ飴。俺は唐揚げである。
「これ食ったらそろそろ帰るか?」
「そうね。そろそろ暗くなってきたし」
確かに彩乃の言う通りだ。夏で日が伸びてきたとはいえ、7時に差し掛かっている。視界が暗くなるのも時間の問題だ。
明日も休みだが、早めに帰るに越したことはないだろう。
「……あ」
彩乃の呟きと同時、何かが床に落ちた音がした。
金属音がしたから、恐らくは銃やマガジンの類か。
そう思いながら、背を丸めて巾着に何かを拾い入れている彩乃を一瞥する。
仕舞っていたのは、俺の予想通り、銃のマガジン。
ただ1つ予想外だったのは、ばら撒かれるようにして散乱していた、いくつかの小物品。
「お前、化粧品なんて持ってたのか。……しかもシャネルじゃん。お嬢様だな」
「ただの化粧品じゃないわよ。オーダーメイド」
自慢げにグロスをサッと唇に塗った彩乃は手早にそれを仕舞うと、最後の落し物──ページが開いた手帳──を拾い上げた。
そのページには、皺だらけのモノクロ写真がクリップで留めてある。
……若い男だ。軍服姿を見る限り、軍人らしい。
彩乃は俺の目をチラリと見た後に、その人物を食い入るように見つめた。
そして、それを巾着に仕舞ってから、
「……この人ね、私の曾祖父様。3代前の《鷹宮》の《長》なんだけど、それと同時に陸軍中将でもあったの。ただ、戦時中に忽然と姿を消しちゃったみたいで、未だに見つかってない。時期的にも、亡くなってるだろうけど」
「……そう、なのか」
突然のカミングアウトに、俺はどう返すべきか分からないまま、曖昧な返事をしてしまう。
しかし彩乃はそんなことすら気にせず、リンゴ飴を1口かじってから続けた。
「聞いた話によると、格闘技の達人らしかったの。世界中の流派を一纏めにしたような感じで、例えば──イギリスのバリツと銃剣道を融合させたのとか。他にもいっぱいあるっぽいんだけど、流石に真似出来ないわね」
「流派の融合って……マジか」
「銃の扱いにも長けてたらしいし。何より《鷹宮》の《長》だから、異能に関しても神武以来の天才って評されてる」
「バリツと銃の達人とか、シャーロック・ホームズみたいだな」
思ったことをそのまま言った俺に、彩乃は僅かに目を見開いてから、
「そう、ね。第2のシャーロック・ホームズみたい」
何ともとれぬ表情で呟いた。
しばらくの沈黙の後、彼女はゆっくりと立ち上がって、
「帰ろっか」
朱色に染まっていた。
~to be continued.
そんな中、俺たちは神社の縁側に座りながら、縁日で買った土産物を食べていた。彩乃はリンゴ飴。俺は唐揚げである。
「これ食ったらそろそろ帰るか?」
「そうね。そろそろ暗くなってきたし」
確かに彩乃の言う通りだ。夏で日が伸びてきたとはいえ、7時に差し掛かっている。視界が暗くなるのも時間の問題だ。
明日も休みだが、早めに帰るに越したことはないだろう。
「……あ」
彩乃の呟きと同時、何かが床に落ちた音がした。
金属音がしたから、恐らくは銃やマガジンの類か。
そう思いながら、背を丸めて巾着に何かを拾い入れている彩乃を一瞥する。
仕舞っていたのは、俺の予想通り、銃のマガジン。
ただ1つ予想外だったのは、ばら撒かれるようにして散乱していた、いくつかの小物品。
「お前、化粧品なんて持ってたのか。……しかもシャネルじゃん。お嬢様だな」
「ただの化粧品じゃないわよ。オーダーメイド」
自慢げにグロスをサッと唇に塗った彩乃は手早にそれを仕舞うと、最後の落し物──ページが開いた手帳──を拾い上げた。
そのページには、皺だらけのモノクロ写真がクリップで留めてある。
……若い男だ。軍服姿を見る限り、軍人らしい。
彩乃は俺の目をチラリと見た後に、その人物を食い入るように見つめた。
そして、それを巾着に仕舞ってから、
「……この人ね、私の曾祖父様。3代前の《鷹宮》の《長》なんだけど、それと同時に陸軍中将でもあったの。ただ、戦時中に忽然と姿を消しちゃったみたいで、未だに見つかってない。時期的にも、亡くなってるだろうけど」
「……そう、なのか」
突然のカミングアウトに、俺はどう返すべきか分からないまま、曖昧な返事をしてしまう。
しかし彩乃はそんなことすら気にせず、リンゴ飴を1口かじってから続けた。
「聞いた話によると、格闘技の達人らしかったの。世界中の流派を一纏めにしたような感じで、例えば──イギリスのバリツと銃剣道を融合させたのとか。他にもいっぱいあるっぽいんだけど、流石に真似出来ないわね」
「流派の融合って……マジか」
「銃の扱いにも長けてたらしいし。何より《鷹宮》の《長》だから、異能に関しても神武以来の天才って評されてる」
「バリツと銃の達人とか、シャーロック・ホームズみたいだな」
思ったことをそのまま言った俺に、彩乃は僅かに目を見開いてから、
「そう、ね。第2のシャーロック・ホームズみたい」
何ともとれぬ表情で呟いた。
しばらくの沈黙の後、彼女はゆっくりと立ち上がって、
「帰ろっか」
朱色に染まっていた。
~to be continued.
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