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二つの異能者組織
状況確認《プロローグ》Ⅱ
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「──かかって来い。久世颯」
そう言い終えると同時、俺は自身の足元に空いた穴を飛んで避ける。
その隙を見計らって、久世はこちら側へと目にも止まらぬ速さで駆けてきた。月光に煌めいて反射する短刀の刀身は、直ぐにでも俺の身体を斬り避けるだろう。
しかし、そうはさせないという俺の反発心によって、逆袈裟に振り上げられたナイフと短刀との刀身が交わり、火花が散る。
そして、次の瞬間にはもう、ナイフは俺の手から消え去っているだろう。だからその直前、俺は手を伸ばす。
「彩乃っ!」
「はいっ!」
その叫びに呼応して、俺の手には武器が握られた。
そして思い返すのは、リビングで練った彩乃考案の作戦概要である。
「……男の異能は『消失』で、志津二の異能は『魔弾の射手』。後者は物があることを前提にしてるから、前者によって消されちゃうと意味が無いのかぁ……」
詰んでない? と気だるげに呟いた彩乃。しかし次の瞬間、頭上に電球が現れるかという勢いで立ち上がり、対抗策を思案している俺へと、こう言った。
「ならさ、消される前に創り出せば良いんだよ! 消されたら私の《万物創造》で供給して、ってさ!」
──消されるのは諦めて、彩乃が俺に武器を供給し続ける。
言わば、それは一種の物量作戦。消されたら創り、また消されたら創り出し、と。
僅か一瞬だが、その瞬間を見逃さずに俺の手の平へと供給する。言うのは簡単だが、極々高い集中力が要されるのだ。彩乃には。
そのことを告げてみせれば、彼女は小さく微笑んで、
「大丈夫よ、私を信じなさい。あんたが私を信じなければ、私もあんたを信じられないよ?」
《万物創造》によって創られ、俺の手に握られた武器は、返す刀で久世へと襲い掛かる。
一瞬だけ困惑の表情を見せた久世だが、直後には武器を消し、足場を消しながら反撃をしてくる。
そしてまた、俺の手には武器が握られた。
僅かなタイムラグが、命取り。互いが互いを信頼していないと成し得ない業。
しかし、もし一瞬でも武装が外れようものなら──その時点で、負けが確定する。
無論、それまでは──
「……粘るしかない、か」
対象である俺を狙い、拘束しようにも、この状況では至難の業。ましてや彩乃を人質にとろうなど、甚だしい。させはしない。
二十、四十、と、累乗数的に消され、創り、のサイクルを繰り返してきている。最早何回目か分からなくなった、機械的にも思える腕を振る動作。
時々短刀の切っ先が頬や服を掠めるが、どれも直前で防いだり回避したりで、致命傷には至っていない。
そして、気が付いたのだが──創る、攻撃する、消される、のサイクルが……何時しか、創る、攻撃する、防がれる、消される、へと変わってきている。
それは俺たちが力で押している証。優勢だという、証左。
……そう安堵した、その時。
「──消えろ」
俺の手に武器が創造されたタイミングを見計らったかのように、「消えろ」とそれを指差しで指定して『消失』を発動した久世颯。
刹那、俺の手からは武器の持ち手の感触が消え去り──しかし、腕はその運動を止めることが出来ずに、虚空を振りかぶる。
──斬られる。
そう悟った俺は、飛び込み前転の要領で腕を潜らせる。しかし、数瞬だけ動きが遅れた髪の毛が、刀身に斬り裂かれてヒラリと宙を舞った。
直ぐに起き上がらないと、斬られる──! そう思い、片膝を立てた瞬間。
久世はその動きに合わせるように、俺のふくらはぎ目掛けて腕を曲げて叩き込んでくる。
バキリ、と枯葉が割れるような嫌な音を立てて、俺の骨は容易く折れてしまう。
肉体的苦痛を負った俺は、適切な状況判断が出来なくなりつつあるも、せめてもと回転受け身をとって久世との距離を離した。
しかし、それは久世からすれば、逃してはならない千載一遇の好機。俺が立ち上がるまでの時間を使って、確実に俺を仕留めてくる。
勿論、その瞬間を逃す久世ではない。俺の読み通り、彼は短刀を逆袈裟の軌道で振りかぶってきた。
このままじゃ、俺は負けるだろう。……もっとも──
「それは俺一人だけ、という話なんだが」
「…………?」
誰にともなく呟く俺を見て、久世は僅かに顔を顰めつつも、迷うことなく俺を斬りつけてきた。紅い鮮血が咲き乱れる。痛みが脳を支配する。
……あぁ、それで正しいんだよ。そう胸中で呟いた、直後。
──ドクン。
脈打つ、心臓の鼓動一つ。それを以て、俺の中にある何かが目覚めてしまった。
そして、自分が変わってしまっているのだと、改めて理解する。
「……彩乃」
「……なぁに?」
「──頼むぞ」
敢えて彼女の方を向かずに言い、しかし、何が起こるのかは分かりながら、俺と距離をとっている久世を注視する。
直後、淡い光の粒子が俺を包み込むように舞っていく。極微小であるから、余程注視しないと見えないだろう。
そして、あれほどあった痛みがだんだんと引いていった。傷口も塞がり、血も止まっている。折れた骨も元通りだと、触らずとも分かる。
これが、彩乃による回復術。話には聞いていたが、これほどの効力とは。
「……貴様。何故、立っていられる。確実に骨を砕き、斬り裂いたハズだが」
「……さぁ、どうしてだろうなぁ?」
彼の口調から、困惑の表情が滲み出ている。それもそのハズだ。骨を砕き、腹部を斬り裂き。致命傷である一撃を与えたハズなのに、俺は平然と立っていられる。
それを噯には見せず、俺は余裕の笑みで答えた。
……あぁ、変わっているな。あの状態に。だからこそ、この時点で俺の勝ちは確定してしまったのだが。
──武器を使う以上は、手に持たなければならない。消せば、再度それは俺の手に供給される。久世が狙ったのはまさにそこであり、『消失』によってタイムラグを発生させたのだ。
そして事実、それは成功した。見受けられるのは、所々に穴の空いた、刀であった残骸。彩乃により幾らでも創り出せるとはいえ、タネがバレたのなら、攻撃手段は無いに等しい。
「……気付くの、早すぎだろうに」
そう呟きつつ、数十メートルと距離をとっている久世を、更に注意深く観察する。
双方に疲労の色は滲み出ているが、あちらは武器が健在。対するこちらは武器の創造は可能だが、ネタを見破られて手も足も出ない状況下。
……まぁ、こちらが不利というのは──
「大きな読み間違えだな」
「──お待たせしました」
闇夜に響く、凛とした少女の声。そして、地面に何かを落としたような音。
それを確認してから、俺は静かに立ち上がる。
「……桔梗、結衣さん。ハッキリ言って、遅いぞ」
「それが手助けしてもらった人間に言うことかしら? 仙藤志津二」
「いやなに、感謝してるよ。ただ、もう少しだけ早ければ良かったなぁ、っていう話さ」
相も変わらず和風姿の桔梗と、黒スーツに身を包んだ鷹宮結衣さん。
俺に文句を言いながらも、何故か顔がニヤケている彼女が蹴り飛ばしたのは、一つの麻袋。かなりの大きさがあり、大人一人ならすっぽりと収まってしまいそうだ。
二人は久世を注視しながらこちらへと近寄ってくると、漸く見えたらしい紅い鮮血を一瞥して顔を顰めた。
しかし桔梗だけは俺の策略が分かっているのか、耳打ちで結衣さんに告げる。
それを理解した上で、
「……《仙藤》反体制派の人間、全て確保しました。主犯も、ここにいらっしゃいますよ」
桔梗が袋の口を開けた。そして出てきたのは、予想通りというか何というか──一人の、男だった。
縦よりも横に太っているその男。見た感じだと、初老に差し掛かっているようにも思える。
久世はソイツを見るやいやな、初めて舌打ちをし、苛立たしげに呟いた。
「……そうか。《長》にこの件が露見しても事態一つ変わらなかったのは、そういうことか」
「そういうことだ。反体制派という集団は、《仙藤》と《鷹宮》による共同で。お前という個人は、俺が引き受けたってこと。……まぁ、そのせいで増援には、少しばかり時間が掛かりそうだがな」
俺がそう言い終えると同時、今まで口を閉じていた小太りの男が、久世へと叫び出す。
「……いいから、その少年を捕獲しろ! この際、殺しても構わん!」
「……志津二。どういうことよ?」
「さぁ、ね。俺にも分からない」
不思議げに聞いてくる彩乃に、俺は首を竦めるだけ。だが、それはここにいる誰もが思っているであろうことだし、俺はその目的を知っておかなければならない。
「その本家筋の少年さえ殺せば、まだ儂らにも目はある!!」
「──五月蝿い」
叫び散らす小太りの男に耐え切れなくなったか、手にしていた朱鞘から日本刀を抜き、男の首筋に突き付けた桔梗。澄んだ紅い瞳は、この時だけは恐怖を増幅させる。
……この子は、冷酷だ。素直な反面、仕事のためなら容赦なく人を殺めようともする。
そんな桔梗に向けて、俺は一つだけ忠告をしておいた。
「……勢い余って、殺さないようにな」
「……分かってる」
こくり、と頷いた桔梗は、首筋に日本刀を突き付けたまま、小太りの男へと問う。
「この状況、分かるでしょう? あなたが契約破棄をすれば、これ以上の事態は起こらないんだけど」
「断る! そこの本家筋さえ、殺せば──」
何を以て──
そう思いながら、俺は口を開く。今から聞くのは、俺の純粋な疑問であり、考えても考えても分からなかった、謎。
「……おい、そこのジジイ」
「……何だ」
「何を以て──本家筋に拘る? 俺を殺して、お前に……何の利益があるという?」
俺のその問いに男は嘲るように笑い、
「《長》が本家筋より選出されるのは、万能が如く異能故!」
「……ふむ」
「だから本家筋を絶やせば、次に強い者が次代の《長》となる! 儂や、孫のような、な!」
──嗚呼、成程。そういう理屈か。
どうやらコイツは、とんだ勘違いをしているらしいな。
「《長》が本家筋しか選出されないのは、その異能の強さ故」
「そうだ!」
「だから本家筋を絶やせば、次に強い者が次代の《長》となる」
「そうだ!」
成程、成程。よーく理解した。
この発言は実に理論的であり、論理的であり、且つ──
──実に浅はかな、考えだ!
「ふっ……あはははははっ!!」
思わず、哄笑する。コイツは、実に面白い考えをしている。
突如笑い出した俺は、どう思われているだろうか。恐怖で気が狂ったと思われただろうか。それとも、それとも──。
……まぁ、今、それはいい。俺はこの場にいる、怪訝そうな顔をしている彼等彼女等を、目で制した。
──ならば、教えてあげよう。
「何故、《長》が本家筋からしか選ばれないのか!」
そして、
「《長》が万能と呼ばれる所以を、な!」
──さぁ、状況確認はお終いだ。改めて、始めよう。
「彩乃、好きなだけ落とせ!!」
~to be continued.
そう言い終えると同時、俺は自身の足元に空いた穴を飛んで避ける。
その隙を見計らって、久世はこちら側へと目にも止まらぬ速さで駆けてきた。月光に煌めいて反射する短刀の刀身は、直ぐにでも俺の身体を斬り避けるだろう。
しかし、そうはさせないという俺の反発心によって、逆袈裟に振り上げられたナイフと短刀との刀身が交わり、火花が散る。
そして、次の瞬間にはもう、ナイフは俺の手から消え去っているだろう。だからその直前、俺は手を伸ばす。
「彩乃っ!」
「はいっ!」
その叫びに呼応して、俺の手には武器が握られた。
そして思い返すのは、リビングで練った彩乃考案の作戦概要である。
「……男の異能は『消失』で、志津二の異能は『魔弾の射手』。後者は物があることを前提にしてるから、前者によって消されちゃうと意味が無いのかぁ……」
詰んでない? と気だるげに呟いた彩乃。しかし次の瞬間、頭上に電球が現れるかという勢いで立ち上がり、対抗策を思案している俺へと、こう言った。
「ならさ、消される前に創り出せば良いんだよ! 消されたら私の《万物創造》で供給して、ってさ!」
──消されるのは諦めて、彩乃が俺に武器を供給し続ける。
言わば、それは一種の物量作戦。消されたら創り、また消されたら創り出し、と。
僅か一瞬だが、その瞬間を見逃さずに俺の手の平へと供給する。言うのは簡単だが、極々高い集中力が要されるのだ。彩乃には。
そのことを告げてみせれば、彼女は小さく微笑んで、
「大丈夫よ、私を信じなさい。あんたが私を信じなければ、私もあんたを信じられないよ?」
《万物創造》によって創られ、俺の手に握られた武器は、返す刀で久世へと襲い掛かる。
一瞬だけ困惑の表情を見せた久世だが、直後には武器を消し、足場を消しながら反撃をしてくる。
そしてまた、俺の手には武器が握られた。
僅かなタイムラグが、命取り。互いが互いを信頼していないと成し得ない業。
しかし、もし一瞬でも武装が外れようものなら──その時点で、負けが確定する。
無論、それまでは──
「……粘るしかない、か」
対象である俺を狙い、拘束しようにも、この状況では至難の業。ましてや彩乃を人質にとろうなど、甚だしい。させはしない。
二十、四十、と、累乗数的に消され、創り、のサイクルを繰り返してきている。最早何回目か分からなくなった、機械的にも思える腕を振る動作。
時々短刀の切っ先が頬や服を掠めるが、どれも直前で防いだり回避したりで、致命傷には至っていない。
そして、気が付いたのだが──創る、攻撃する、消される、のサイクルが……何時しか、創る、攻撃する、防がれる、消される、へと変わってきている。
それは俺たちが力で押している証。優勢だという、証左。
……そう安堵した、その時。
「──消えろ」
俺の手に武器が創造されたタイミングを見計らったかのように、「消えろ」とそれを指差しで指定して『消失』を発動した久世颯。
刹那、俺の手からは武器の持ち手の感触が消え去り──しかし、腕はその運動を止めることが出来ずに、虚空を振りかぶる。
──斬られる。
そう悟った俺は、飛び込み前転の要領で腕を潜らせる。しかし、数瞬だけ動きが遅れた髪の毛が、刀身に斬り裂かれてヒラリと宙を舞った。
直ぐに起き上がらないと、斬られる──! そう思い、片膝を立てた瞬間。
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バキリ、と枯葉が割れるような嫌な音を立てて、俺の骨は容易く折れてしまう。
肉体的苦痛を負った俺は、適切な状況判断が出来なくなりつつあるも、せめてもと回転受け身をとって久世との距離を離した。
しかし、それは久世からすれば、逃してはならない千載一遇の好機。俺が立ち上がるまでの時間を使って、確実に俺を仕留めてくる。
勿論、その瞬間を逃す久世ではない。俺の読み通り、彼は短刀を逆袈裟の軌道で振りかぶってきた。
このままじゃ、俺は負けるだろう。……もっとも──
「それは俺一人だけ、という話なんだが」
「…………?」
誰にともなく呟く俺を見て、久世は僅かに顔を顰めつつも、迷うことなく俺を斬りつけてきた。紅い鮮血が咲き乱れる。痛みが脳を支配する。
……あぁ、それで正しいんだよ。そう胸中で呟いた、直後。
──ドクン。
脈打つ、心臓の鼓動一つ。それを以て、俺の中にある何かが目覚めてしまった。
そして、自分が変わってしまっているのだと、改めて理解する。
「……彩乃」
「……なぁに?」
「──頼むぞ」
敢えて彼女の方を向かずに言い、しかし、何が起こるのかは分かりながら、俺と距離をとっている久世を注視する。
直後、淡い光の粒子が俺を包み込むように舞っていく。極微小であるから、余程注視しないと見えないだろう。
そして、あれほどあった痛みがだんだんと引いていった。傷口も塞がり、血も止まっている。折れた骨も元通りだと、触らずとも分かる。
これが、彩乃による回復術。話には聞いていたが、これほどの効力とは。
「……貴様。何故、立っていられる。確実に骨を砕き、斬り裂いたハズだが」
「……さぁ、どうしてだろうなぁ?」
彼の口調から、困惑の表情が滲み出ている。それもそのハズだ。骨を砕き、腹部を斬り裂き。致命傷である一撃を与えたハズなのに、俺は平然と立っていられる。
それを噯には見せず、俺は余裕の笑みで答えた。
……あぁ、変わっているな。あの状態に。だからこそ、この時点で俺の勝ちは確定してしまったのだが。
──武器を使う以上は、手に持たなければならない。消せば、再度それは俺の手に供給される。久世が狙ったのはまさにそこであり、『消失』によってタイムラグを発生させたのだ。
そして事実、それは成功した。見受けられるのは、所々に穴の空いた、刀であった残骸。彩乃により幾らでも創り出せるとはいえ、タネがバレたのなら、攻撃手段は無いに等しい。
「……気付くの、早すぎだろうに」
そう呟きつつ、数十メートルと距離をとっている久世を、更に注意深く観察する。
双方に疲労の色は滲み出ているが、あちらは武器が健在。対するこちらは武器の創造は可能だが、ネタを見破られて手も足も出ない状況下。
……まぁ、こちらが不利というのは──
「大きな読み間違えだな」
「──お待たせしました」
闇夜に響く、凛とした少女の声。そして、地面に何かを落としたような音。
それを確認してから、俺は静かに立ち上がる。
「……桔梗、結衣さん。ハッキリ言って、遅いぞ」
「それが手助けしてもらった人間に言うことかしら? 仙藤志津二」
「いやなに、感謝してるよ。ただ、もう少しだけ早ければ良かったなぁ、っていう話さ」
相も変わらず和風姿の桔梗と、黒スーツに身を包んだ鷹宮結衣さん。
俺に文句を言いながらも、何故か顔がニヤケている彼女が蹴り飛ばしたのは、一つの麻袋。かなりの大きさがあり、大人一人ならすっぽりと収まってしまいそうだ。
二人は久世を注視しながらこちらへと近寄ってくると、漸く見えたらしい紅い鮮血を一瞥して顔を顰めた。
しかし桔梗だけは俺の策略が分かっているのか、耳打ちで結衣さんに告げる。
それを理解した上で、
「……《仙藤》反体制派の人間、全て確保しました。主犯も、ここにいらっしゃいますよ」
桔梗が袋の口を開けた。そして出てきたのは、予想通りというか何というか──一人の、男だった。
縦よりも横に太っているその男。見た感じだと、初老に差し掛かっているようにも思える。
久世はソイツを見るやいやな、初めて舌打ちをし、苛立たしげに呟いた。
「……そうか。《長》にこの件が露見しても事態一つ変わらなかったのは、そういうことか」
「そういうことだ。反体制派という集団は、《仙藤》と《鷹宮》による共同で。お前という個人は、俺が引き受けたってこと。……まぁ、そのせいで増援には、少しばかり時間が掛かりそうだがな」
俺がそう言い終えると同時、今まで口を閉じていた小太りの男が、久世へと叫び出す。
「……いいから、その少年を捕獲しろ! この際、殺しても構わん!」
「……志津二。どういうことよ?」
「さぁ、ね。俺にも分からない」
不思議げに聞いてくる彩乃に、俺は首を竦めるだけ。だが、それはここにいる誰もが思っているであろうことだし、俺はその目的を知っておかなければならない。
「その本家筋の少年さえ殺せば、まだ儂らにも目はある!!」
「──五月蝿い」
叫び散らす小太りの男に耐え切れなくなったか、手にしていた朱鞘から日本刀を抜き、男の首筋に突き付けた桔梗。澄んだ紅い瞳は、この時だけは恐怖を増幅させる。
……この子は、冷酷だ。素直な反面、仕事のためなら容赦なく人を殺めようともする。
そんな桔梗に向けて、俺は一つだけ忠告をしておいた。
「……勢い余って、殺さないようにな」
「……分かってる」
こくり、と頷いた桔梗は、首筋に日本刀を突き付けたまま、小太りの男へと問う。
「この状況、分かるでしょう? あなたが契約破棄をすれば、これ以上の事態は起こらないんだけど」
「断る! そこの本家筋さえ、殺せば──」
何を以て──
そう思いながら、俺は口を開く。今から聞くのは、俺の純粋な疑問であり、考えても考えても分からなかった、謎。
「……おい、そこのジジイ」
「……何だ」
「何を以て──本家筋に拘る? 俺を殺して、お前に……何の利益があるという?」
俺のその問いに男は嘲るように笑い、
「《長》が本家筋より選出されるのは、万能が如く異能故!」
「……ふむ」
「だから本家筋を絶やせば、次に強い者が次代の《長》となる! 儂や、孫のような、な!」
──嗚呼、成程。そういう理屈か。
どうやらコイツは、とんだ勘違いをしているらしいな。
「《長》が本家筋しか選出されないのは、その異能の強さ故」
「そうだ!」
「だから本家筋を絶やせば、次に強い者が次代の《長》となる」
「そうだ!」
成程、成程。よーく理解した。
この発言は実に理論的であり、論理的であり、且つ──
──実に浅はかな、考えだ!
「ふっ……あはははははっ!!」
思わず、哄笑する。コイツは、実に面白い考えをしている。
突如笑い出した俺は、どう思われているだろうか。恐怖で気が狂ったと思われただろうか。それとも、それとも──。
……まぁ、今、それはいい。俺はこの場にいる、怪訝そうな顔をしている彼等彼女等を、目で制した。
──ならば、教えてあげよう。
「何故、《長》が本家筋からしか選ばれないのか!」
そして、
「《長》が万能と呼ばれる所以を、な!」
──さぁ、状況確認はお終いだ。改めて、始めよう。
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