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修学旅行《トリップ・ワン》
修学旅行・Ⅲ
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「着いた......ね。ここで良いのか」
サイトの情報と照らし合わせ、ここが目的の旅館だと再確認する。比叡山の麓にあるその旅館は、一見寂れたながらも何処か過去の崇高な和風建築を彷彿とさせる佇まいである。
ガララ、と扉を開けると、既に50代辺りの女将さんが出迎えてくれていた。そして、
「予約を入れられた鷹宮様でございますね?ウチ、当旅館の女将の小百合と申します」
京言葉混じりで話しかけてきた。
......おぉ、初めて聞いた。これが京言葉か。
「今日はお客はんもおらんからな。特別に1番ええ部屋に案内してあげんで。あぁ、もちろん値段は変えませんわ」
「それはどうも、ご親切に」
うん?と京言葉が理解出来ず小首を傾げている二人に説明すると、「お客さんがいないから特別に1番良い部屋に案内してあげる。値段は変えることはしないから安心して」だそうだ。親切やねぇ、このおばちゃん。
そして案内された先は、『金閣の間』という10畳ほどの部屋。その名の通り壁には金閣寺を模した掛け軸や、桜を彩った反物などが飾られている。確かに1番良い部屋、だな。高級感溢れる場所だ。
「じゃあ、ゆっくり休んでて下さいませ。夕食の時間になったらお呼びします。......あぁ、そうや。それまでにお風呂に入ったら如何どすか?お客はんもおらんから貸切状態どすよ」
「そうですか。それなら入ってきますかねぇ」
「服は籠に入れておいてください。ウチで洗濯するさかいに。その代わり、浴衣を用意しておきますからそちらを着ててくれます?」
「分かりました、ありがとうございます」
小百合さんはそう言うとお辞儀して襖を閉め、夕食の準備とやらに行ってしまった。......さて、俺もお風呂に入るかね。
「じゃあ、俺はお風呂に入るけど......2人とも、ついでに来るかい?」
「それはつまり、混浴......と?」
「雫、考え方が根本的に違うからね。別だよ、別。流石に男女は別れてるでしょう」
「志津二様......フラグが立った、よ?」
立ててないから安心してくれ。それに俺はフラグクラッシャー1級(仮)を持っているのだ。今の俺にフラグなど効かない―
と思っていた時期が俺にもありました。見事なまでに混浴でしたよ、えぇ。何で分けないの?普通分けるじゃん?
などとグチグチ文句を垂れつつ、俺はタオルを腰に巻いて露天風呂へと入る。本当はダメだけど非常用にね。
あ、雫と彩は置いてきました。いくら無感情の無表情っ子とはいえ、混浴なんてしたら俺の身体が持たないもん。何処とは言わないけどさ。
ちゃぽん......という音を立て、水面が揺れる。いや、お湯だから湯面か。
源泉かけ流しというここの湯の効能は、『万病療養』だそうだ。ワースゴイナー。
まぁ、入るに越した事はない。何とか、っていう古来より続く人間の身体を何やかんやする作用が温泉にはあるって言うからね。
自分でも訳の分からない理論を脳内展開しつつ、岩に背中を預けて空を仰ぎみる。そこには満月が照らし出されており、何時かの『異戦雪原の切り札』を思わせた。あの雷痛かったんだよなぁ......。死ぬかと思った。いや、そこまでの力はなかったんだけど。
ふぅ......と一息つき、俺は心を無にする。これは脳波が変わっているが故の瞑想だ。何も考えず、唯々自身を傍観する。
―ガララッ......。
と余計な雑音が入ってきても、耳を傾けない。自己にだけに、意識を向ける。......ん?誰か入って―
―ちゃぷっ......。
いや、たぶん掃除係さんとかだろう。気にしなくてもいいか。瞑想に戻ろう、そうしよう。
......じゃない!掃除係が湯に入るか!?じゃあ他の客だと仮定して、男はセーフ。女はアウトだ。よし、薄ら目を開けて、ヤバいナニかが見えたら即座に出よう。そうしよう。
そう決意し、そーっと眼を開けば―あれ、誰もいない。目だけで視線を彷徨わせるが、本当に誰もいない。まぁ、良かった。安楽を邪魔されないで。
そう安堵して瞑想に戻った、刹那―
「志津二さん」
と左隣から声がかかる。
―まさかとは思うが、来た、のか......?あの2 人。 アレほど釘を刺しておいたというのに。
その証拠に、怯えつつ左を見れば―ほらいたよ。肩までお湯に浸かっている蒼髪ボブの無表情っ子。
「......いつから俺の隣にいたんだよ」
「数秒前からですが」
「そう。......入ってもいいから、頼みとしてタオルだけは巻いてくれ」
「分かりました」
と言って立ち上がろうとする雫を、俺は慌てて制する。いやナニがって、色々危ないから。
「あー、アレだ。俺が先に出るから、雫は後に出な。分かった?」
という俺の必死の声掛けにも、この子は何も反応しない。......シカトか。ならこっちも勝手に出させてもらうぞ。
と思って浴場から出ようと立ち上がったのだが―
「無駄、だよ......?」
今度は右隣から声が。彩ですね、分かります。
そしてこの、『無駄』発言。これは恐らく、
「『開かずの小部屋』を張ったな?解除して欲しいんだが」
と、俺は上り口にある『見えない壁』をコンコンとノックした。となると、ここら辺一帯が、『開かずの小部屋』に囲まれている。内外部からの出入りは不可能、と。
「どうするんだよ、これ......。俺にのぼせろって言うの?」
その問いに、2人揃ってふるふる、と。じゃあ何なの?って話なんだけど。
だが2人は、何も言わずに湯に浸かってるだけ。お前たちこそのぼせるんじゃないか?
「はぁ......」
と小さくため息をつき、俺は仕方なく湯に浸かって瞑想を再度始める事にした。両隣に女がいたら気が散るだろうが、ここを逃げ延びるにはそうするしかない。
そうだ、素数を数えよう。2、3、5、7、11、13、17、19......。ダメだね、集中出来ない。もういいや、諦めよう。唯々湯に浸かるだけにしよう。そして2人が出たら、俺も出る。そうしよう。
―と、粘りに粘って20分。途中で身体を洗ったり何なりしたが、断然湯に浸かっている時間の方が大きい。......やっべぇ、そろそろのぼせるな。火照った顔で左右を見ると、こちらも若干火照った感じの2人。 ......ホントに何がしたいんだよ。
恨めしげに唯一の出入り口を見るが、『開かずの小部屋』のせいで出ようにも出られない。そもそもここから出られない。やむ無し、と強行突破を試みたその時―
「3人とも、夕食の準備が出来ましたよー。そろそろ上がってはどうどすかぁ?......あれ、おらん。おかしいねぇ。何処に行ったのかしら」
入り口の扉を開けて、女将の小百合さんが露天風呂全体へと響く声でそう呼びかけてきた。
しかし『開かずの小部屋』の影響でこちらが見えず、俺たちがいないと勘違いしてしまったらしい。
「彩、そう言う事だ。解除してくれるかな?」
「............はい」
「よし、いい子いい子」
奮闘30分。ようやくこの湯地獄から脱出出来る。その嬉しさと恨めしさも少量込めつつ、彩の頭を軽く撫でてやった。目を細めて喉をゴロゴロ鳴らす辺り、お前はネコか。
俺が先に出て、2人は後から出てくれ―と今度こそ釘を刺し、俺は高速で浴衣に着替える。そのまま『金閣の間』に戻れば、用意されているのは見事なまでの和食。和食のオンパレード。
「......うん?」
見れば、用意されていた皿の下に何か紙切れが挟まっていた。それに気が付いた俺は、辺りを確認してピラっと開く。
その内容は簡潔に。『頑張ってーな。By.小百合』。......小百合さん、何を頑張れと。
「......志津二さん、どうしましたか?」
「いや、何でもないよ。食べようか、冷めたら美味しくなくなるし」
気付いたら背後に2人の人間が立っているというホラー映画的な現象を経験しつつも、俺はそれに平静を装って返す。まぁ、見られても大丈夫なんだが―誤解を招かれても困るからね。
「「「いただきます」」」
袂を翻して手を合わせ、挨拶を。挨拶とは人と人を繋ぐ架け橋であり、かつ(ry
......前振りはいい。今はこの懐石料理を楽しむか。メニューは至って一般的なモノで、お吸い物や煮物、と和食和食したモノだった。でも美味しいから良し。
「......おいし」
誰にともなく小さく呟いた彩は、そのまま驚くべき速さで数多の懐石料理を平らげていった。
その光景には俺も雫もビックリで、思わず箸が止まってしまったほどだ。
「まさか、彩が大食いだったとはなぁ......」
だってさ、あの懐石料理一人分ってjcが完食出来るような量じゃないぞ?雫でさえお腹いっぱい、って顔してるんだから。
「......彩ちゃん、食べる?」
「いい、の?......ありがと」
自分では食べきれない量を彩に譲り、満足気な顔で座椅子に寄りかかった雫。流石にいっぱい食べたろう。満足かな?
その後彩が完食するまで待ち、それを見計らったかのようなタイミングで小百合さんがお膳を下ろしてくれた。......うーん、ヒマになるなぁ。テレビはあるんだけれど、イマイチ面白味がないからねぇ。
「あ、そうだ」
独りごちた俺に、2人が視線を向けてくる。だが俺はそれを無視して、予め制服から出しておいたガバメントと細長のジュラルミンケースに入れておいたドラグノフを卓上に並べた。そして、装備科から借りておいた工具を取り出す。
何をするのか察したらしい雫も、自身のM24と私物らしい工具セットを持ってきて畳に並べた。
ヒマだから銃の整備でもしよう、って事だ。彩だけは本当にヒマになるけどね。
「こっちは見ての通りだ。彩は好きなテレビでも見てて構わないよ」
こくり、と頷いた彩は俺に言われた通りテレビをつけ、チャンネルを回していく。そして決定したらしい番組は、『DAS○島』だった。
......そう言えば、このメンバーの誰かさんが何時だったか騒動起こしたなぁ。何だっけ、忘れたけど。
その誰かを思い出しつつ、ガバメントのマガジンを抜き、スライドを抜いてスライドストップも抜き取る。部品無くしたら大騒ぎだからなー、気を付けないと。
そうこうしてガバメントの簡易整備が終わり、次はドラグノフの整備だ。これだけで20分かかってるんだが。もはやヒマつぶしってレベルじゃないな。
......さて、ドラグノフはレバーをズラして何やかんやしてハンドガードを抜いて。インナーバレルとかも抜いて色々して―
はい、終わった。全ての整備終了!2つにかけた時間は大体1時間強かな。雫はとっくに終わってたけどね。
さて、俺もYouTubeでも見るかな......と窓際に置いてあったスマホに手を伸ばしかけた、その時―
―ヒュッ......パリンッ、パリン......バシュッ!!
何かが飛来し、辺りは闇に包まれる。
今のは恐らく、狙撃。俺たちは狙撃されたのだ。何者か、に。この暗闇ならマズルフラッシュで大体の位置は確認出来ないのか、と思ったが、どうやらフラッシュハイダーを付けてるらしいな。全く分からなかった。
たった1発の銃弾でこちらの視界を塞ぎ、さらには情報通信手段をも塞ぐとは。大したものだ。
「お客はん、大丈夫ですか!?」
「こっちは大丈夫です。が、こちらを動かないでください。たった今、狙撃されました」
窓が割れる音を聞いて、慌てて駆けてきた小百合さんとその他職員。一般人の無事を最優先とするには、その場に待機させる事が必要だ。
再度撃ってこないって事は位置バレしないように既に移動したか、或いは―
「とにかく、雫。移動するよ。彩は『開かずの小部屋』でここを守ってて」
とだけ言い残して、俺は雫と共に旅館裏の林を目指して駆けていった。
誰による襲撃なのか、何故襲撃される必要があるのか―それを脳内で模索しながら。
~Prease to the next time!
サイトの情報と照らし合わせ、ここが目的の旅館だと再確認する。比叡山の麓にあるその旅館は、一見寂れたながらも何処か過去の崇高な和風建築を彷彿とさせる佇まいである。
ガララ、と扉を開けると、既に50代辺りの女将さんが出迎えてくれていた。そして、
「予約を入れられた鷹宮様でございますね?ウチ、当旅館の女将の小百合と申します」
京言葉混じりで話しかけてきた。
......おぉ、初めて聞いた。これが京言葉か。
「今日はお客はんもおらんからな。特別に1番ええ部屋に案内してあげんで。あぁ、もちろん値段は変えませんわ」
「それはどうも、ご親切に」
うん?と京言葉が理解出来ず小首を傾げている二人に説明すると、「お客さんがいないから特別に1番良い部屋に案内してあげる。値段は変えることはしないから安心して」だそうだ。親切やねぇ、このおばちゃん。
そして案内された先は、『金閣の間』という10畳ほどの部屋。その名の通り壁には金閣寺を模した掛け軸や、桜を彩った反物などが飾られている。確かに1番良い部屋、だな。高級感溢れる場所だ。
「じゃあ、ゆっくり休んでて下さいませ。夕食の時間になったらお呼びします。......あぁ、そうや。それまでにお風呂に入ったら如何どすか?お客はんもおらんから貸切状態どすよ」
「そうですか。それなら入ってきますかねぇ」
「服は籠に入れておいてください。ウチで洗濯するさかいに。その代わり、浴衣を用意しておきますからそちらを着ててくれます?」
「分かりました、ありがとうございます」
小百合さんはそう言うとお辞儀して襖を閉め、夕食の準備とやらに行ってしまった。......さて、俺もお風呂に入るかね。
「じゃあ、俺はお風呂に入るけど......2人とも、ついでに来るかい?」
「それはつまり、混浴......と?」
「雫、考え方が根本的に違うからね。別だよ、別。流石に男女は別れてるでしょう」
「志津二様......フラグが立った、よ?」
立ててないから安心してくれ。それに俺はフラグクラッシャー1級(仮)を持っているのだ。今の俺にフラグなど効かない―
と思っていた時期が俺にもありました。見事なまでに混浴でしたよ、えぇ。何で分けないの?普通分けるじゃん?
などとグチグチ文句を垂れつつ、俺はタオルを腰に巻いて露天風呂へと入る。本当はダメだけど非常用にね。
あ、雫と彩は置いてきました。いくら無感情の無表情っ子とはいえ、混浴なんてしたら俺の身体が持たないもん。何処とは言わないけどさ。
ちゃぽん......という音を立て、水面が揺れる。いや、お湯だから湯面か。
源泉かけ流しというここの湯の効能は、『万病療養』だそうだ。ワースゴイナー。
まぁ、入るに越した事はない。何とか、っていう古来より続く人間の身体を何やかんやする作用が温泉にはあるって言うからね。
自分でも訳の分からない理論を脳内展開しつつ、岩に背中を預けて空を仰ぎみる。そこには満月が照らし出されており、何時かの『異戦雪原の切り札』を思わせた。あの雷痛かったんだよなぁ......。死ぬかと思った。いや、そこまでの力はなかったんだけど。
ふぅ......と一息つき、俺は心を無にする。これは脳波が変わっているが故の瞑想だ。何も考えず、唯々自身を傍観する。
―ガララッ......。
と余計な雑音が入ってきても、耳を傾けない。自己にだけに、意識を向ける。......ん?誰か入って―
―ちゃぷっ......。
いや、たぶん掃除係さんとかだろう。気にしなくてもいいか。瞑想に戻ろう、そうしよう。
......じゃない!掃除係が湯に入るか!?じゃあ他の客だと仮定して、男はセーフ。女はアウトだ。よし、薄ら目を開けて、ヤバいナニかが見えたら即座に出よう。そうしよう。
そう決意し、そーっと眼を開けば―あれ、誰もいない。目だけで視線を彷徨わせるが、本当に誰もいない。まぁ、良かった。安楽を邪魔されないで。
そう安堵して瞑想に戻った、刹那―
「志津二さん」
と左隣から声がかかる。
―まさかとは思うが、来た、のか......?あの2 人。 アレほど釘を刺しておいたというのに。
その証拠に、怯えつつ左を見れば―ほらいたよ。肩までお湯に浸かっている蒼髪ボブの無表情っ子。
「......いつから俺の隣にいたんだよ」
「数秒前からですが」
「そう。......入ってもいいから、頼みとしてタオルだけは巻いてくれ」
「分かりました」
と言って立ち上がろうとする雫を、俺は慌てて制する。いやナニがって、色々危ないから。
「あー、アレだ。俺が先に出るから、雫は後に出な。分かった?」
という俺の必死の声掛けにも、この子は何も反応しない。......シカトか。ならこっちも勝手に出させてもらうぞ。
と思って浴場から出ようと立ち上がったのだが―
「無駄、だよ......?」
今度は右隣から声が。彩ですね、分かります。
そしてこの、『無駄』発言。これは恐らく、
「『開かずの小部屋』を張ったな?解除して欲しいんだが」
と、俺は上り口にある『見えない壁』をコンコンとノックした。となると、ここら辺一帯が、『開かずの小部屋』に囲まれている。内外部からの出入りは不可能、と。
「どうするんだよ、これ......。俺にのぼせろって言うの?」
その問いに、2人揃ってふるふる、と。じゃあ何なの?って話なんだけど。
だが2人は、何も言わずに湯に浸かってるだけ。お前たちこそのぼせるんじゃないか?
「はぁ......」
と小さくため息をつき、俺は仕方なく湯に浸かって瞑想を再度始める事にした。両隣に女がいたら気が散るだろうが、ここを逃げ延びるにはそうするしかない。
そうだ、素数を数えよう。2、3、5、7、11、13、17、19......。ダメだね、集中出来ない。もういいや、諦めよう。唯々湯に浸かるだけにしよう。そして2人が出たら、俺も出る。そうしよう。
―と、粘りに粘って20分。途中で身体を洗ったり何なりしたが、断然湯に浸かっている時間の方が大きい。......やっべぇ、そろそろのぼせるな。火照った顔で左右を見ると、こちらも若干火照った感じの2人。 ......ホントに何がしたいんだよ。
恨めしげに唯一の出入り口を見るが、『開かずの小部屋』のせいで出ようにも出られない。そもそもここから出られない。やむ無し、と強行突破を試みたその時―
「3人とも、夕食の準備が出来ましたよー。そろそろ上がってはどうどすかぁ?......あれ、おらん。おかしいねぇ。何処に行ったのかしら」
入り口の扉を開けて、女将の小百合さんが露天風呂全体へと響く声でそう呼びかけてきた。
しかし『開かずの小部屋』の影響でこちらが見えず、俺たちがいないと勘違いしてしまったらしい。
「彩、そう言う事だ。解除してくれるかな?」
「............はい」
「よし、いい子いい子」
奮闘30分。ようやくこの湯地獄から脱出出来る。その嬉しさと恨めしさも少量込めつつ、彩の頭を軽く撫でてやった。目を細めて喉をゴロゴロ鳴らす辺り、お前はネコか。
俺が先に出て、2人は後から出てくれ―と今度こそ釘を刺し、俺は高速で浴衣に着替える。そのまま『金閣の間』に戻れば、用意されているのは見事なまでの和食。和食のオンパレード。
「......うん?」
見れば、用意されていた皿の下に何か紙切れが挟まっていた。それに気が付いた俺は、辺りを確認してピラっと開く。
その内容は簡潔に。『頑張ってーな。By.小百合』。......小百合さん、何を頑張れと。
「......志津二さん、どうしましたか?」
「いや、何でもないよ。食べようか、冷めたら美味しくなくなるし」
気付いたら背後に2人の人間が立っているというホラー映画的な現象を経験しつつも、俺はそれに平静を装って返す。まぁ、見られても大丈夫なんだが―誤解を招かれても困るからね。
「「「いただきます」」」
袂を翻して手を合わせ、挨拶を。挨拶とは人と人を繋ぐ架け橋であり、かつ(ry
......前振りはいい。今はこの懐石料理を楽しむか。メニューは至って一般的なモノで、お吸い物や煮物、と和食和食したモノだった。でも美味しいから良し。
「......おいし」
誰にともなく小さく呟いた彩は、そのまま驚くべき速さで数多の懐石料理を平らげていった。
その光景には俺も雫もビックリで、思わず箸が止まってしまったほどだ。
「まさか、彩が大食いだったとはなぁ......」
だってさ、あの懐石料理一人分ってjcが完食出来るような量じゃないぞ?雫でさえお腹いっぱい、って顔してるんだから。
「......彩ちゃん、食べる?」
「いい、の?......ありがと」
自分では食べきれない量を彩に譲り、満足気な顔で座椅子に寄りかかった雫。流石にいっぱい食べたろう。満足かな?
その後彩が完食するまで待ち、それを見計らったかのようなタイミングで小百合さんがお膳を下ろしてくれた。......うーん、ヒマになるなぁ。テレビはあるんだけれど、イマイチ面白味がないからねぇ。
「あ、そうだ」
独りごちた俺に、2人が視線を向けてくる。だが俺はそれを無視して、予め制服から出しておいたガバメントと細長のジュラルミンケースに入れておいたドラグノフを卓上に並べた。そして、装備科から借りておいた工具を取り出す。
何をするのか察したらしい雫も、自身のM24と私物らしい工具セットを持ってきて畳に並べた。
ヒマだから銃の整備でもしよう、って事だ。彩だけは本当にヒマになるけどね。
「こっちは見ての通りだ。彩は好きなテレビでも見てて構わないよ」
こくり、と頷いた彩は俺に言われた通りテレビをつけ、チャンネルを回していく。そして決定したらしい番組は、『DAS○島』だった。
......そう言えば、このメンバーの誰かさんが何時だったか騒動起こしたなぁ。何だっけ、忘れたけど。
その誰かを思い出しつつ、ガバメントのマガジンを抜き、スライドを抜いてスライドストップも抜き取る。部品無くしたら大騒ぎだからなー、気を付けないと。
そうこうしてガバメントの簡易整備が終わり、次はドラグノフの整備だ。これだけで20分かかってるんだが。もはやヒマつぶしってレベルじゃないな。
......さて、ドラグノフはレバーをズラして何やかんやしてハンドガードを抜いて。インナーバレルとかも抜いて色々して―
はい、終わった。全ての整備終了!2つにかけた時間は大体1時間強かな。雫はとっくに終わってたけどね。
さて、俺もYouTubeでも見るかな......と窓際に置いてあったスマホに手を伸ばしかけた、その時―
―ヒュッ......パリンッ、パリン......バシュッ!!
何かが飛来し、辺りは闇に包まれる。
今のは恐らく、狙撃。俺たちは狙撃されたのだ。何者か、に。この暗闇ならマズルフラッシュで大体の位置は確認出来ないのか、と思ったが、どうやらフラッシュハイダーを付けてるらしいな。全く分からなかった。
たった1発の銃弾でこちらの視界を塞ぎ、さらには情報通信手段をも塞ぐとは。大したものだ。
「お客はん、大丈夫ですか!?」
「こっちは大丈夫です。が、こちらを動かないでください。たった今、狙撃されました」
窓が割れる音を聞いて、慌てて駆けてきた小百合さんとその他職員。一般人の無事を最優先とするには、その場に待機させる事が必要だ。
再度撃ってこないって事は位置バレしないように既に移動したか、或いは―
「とにかく、雫。移動するよ。彩は『開かずの小部屋』でここを守ってて」
とだけ言い残して、俺は雫と共に旅館裏の林を目指して駆けていった。
誰による襲撃なのか、何故襲撃される必要があるのか―それを脳内で模索しながら。
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