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異戦雪原
~異戦雪原、決戦―前編~
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「攻勢異能者が400......か」
部下から告げられたその言葉に、俺も―職員らも皆、息を呑んだ。部屋中に不安が募る中、俺は1つの指示を出す。
「......引き続き精査の方を任せた。俺は部屋に居るから、何かあったら随時連絡して。結衣さんに彩、お嬢様。行くよ」
「長、何をされるつもりで?」
「上層部がすべき事は限られる。指揮、交渉。そして―」
―作戦立案会議、だ。
*
「......妙だなー」
「何が?」
場所は打って変わって長の部屋。そこに俺とお嬢様。そしてリサと、彩に結衣さんも集めて―作戦会議という名の話し合い。
「彩乃ちゃん、異戦雪原の性質って覚えてるかしら?」
「っとー。『武闘派』でしょ?志津二が見てた書類に書いてあった」
そう。組織的な活動は同じとしても、鷹宮と異戦雪原とでは大きな違いがある。それが『武闘派』か否かだ。
「例えば、美雪率いる第4戦科部隊。あれは鷹宮で言えば『処理班』に当たるんだ」
異戦雪原は組む隊の7割が攻勢異能者で構成されていて、さらに攻撃においては秀でた才能を有している。つまり、
「ウチの処理班1000人を相手にしても、異戦雪原の戦科部隊400人には―負ける可能性が大いにある。こちらが圧倒的人数有利とは言え、あちらは武を担う戦科部隊だからね」
それにしても、と別に思考を切り替える。それはどうやったらあんな不確かな情報1つでここまでの人員を動員出来るのか、だ。アイツらはバカなのかと。
......誰が流したかも分からない不確か過ぎる情報。そして、美雪たちは―それが存在すると思っている。交渉の時のあの自信満々な態度からも、それは明らかだ。正直言って疑問は尽きないが、美雪が行動を起こしている以上。今はそれに対応するのが賢明か。
「あれだけ自信満々に宣戦布告してきたんだから、『武闘派の異能者を揃えました。これなら負けません。まる』で終わるような事じゃないだろう」
「そうね。罠を仕掛けるだけの頭があるんだから、正攻法で負ける可能性くらい考えてるでしょ。それに切り札とかありそうだし」
はぁー......と頭を抱える俺と結衣さん。
そこにメイドカチューシャを整えながらのリサが、
「あの、ご主人様。鷹宮なら空爆とか火器類の使用は可能なのでは?」
まだ鷹宮の詳しい規制は分かっていないため、これどうかなぁ?的な顔で聞いてきた。ごめん、それは無理だ。
「それはダメだってさ。民間の苦情や政府とかから怒られるから―って書類に書いてあったもん」
「逆に怒られなければ良いんですか......!?」
まぁ、空爆というのも切り札にはなるだろうね。やらないけど。っていうか、戦闘機どこにしまってあったっけ......。山をくり抜いた中だっけ。
建物内部でガン待ちしようものならこちらが地形的に有利だが―そもそも敵を中に入れる事が間違いか。
「数は劣るが、戦闘力は向こうが上......。そして何か切り札がありそうで怖い、って事ですか。詰んでません?」
「......いや、本当の意味では詰んでない、かな」
あと一手。切り札に対応出来る切り札が必要なんだよねー。あちらがどれほどなレベルなのかが推定出来ないと、それもしようがないし。
「......あ」
小さく呟く声の方向に頭を上がれば、そこにはソファーに座っている和服のロリ。さっきから黙っていたが、まさか―
「長。作戦、出来た......よ」
「「「「......え?」」」」
―そのまさかだった。
「よし、言ってみて。検討するから」
「......分かった」
そう言って彩が語り出した作戦は、異戦雪原を欺くのにとても効果的なモノであり―実に、切り札とも言えるモノだった。
*
『―長。隠蔽班、配置完了です』
「ご苦労さま。それじゃ、作戦通りに頼むよ」
ヘッドセットから聞こえる声に軽く返事を返しつつ、俺は後ろへと振り返る。そこに見えるは鷹宮『処理班』の黒服たち。
「さて、諸君。最後の確認といこうか」
淡い月明かりに照らされた、本部から僅かばかり離れた―とある廃校のグラウンド。その広大な敷地には、校舎はもちろん。古びた倉庫なども少なからず点在している。
彼らの視線が向かう先―その対象である俺は、確認の前に忠告をしておく。
「分かってると思うけど。まずね......俺を戦力扱いしない事。今回は指揮官という立場故、だから」
「「「それは保証しかねます!!!」」」
「良い返事だねー、アンタら。全員解雇するよ?」
「「「申し訳ございません!!!」」」
いやー、我がクラスばりの団結力。
冗談を交えつつ話す彼らだが、この『長』という存在は......表に出ない、秘された存在であるという事を分かってる―ハズだ。うん。大丈夫。
本来なら居なくても可笑しくないとされる、長。それが表舞台に立つとは、ね。我ながら危ない橋を渡ってるよ。
―お嬢様の時は仕方なく。交渉の時は伊勢美雪に指名されたから。そして今回は、彼女の意志に報いるため。数限りない不安はあるが......。
「そんなもの、後にはどうとでもなる」
と、隣に居るお嬢様に聞こえないように呟いた。
「今回も、隠蔽班が後方支援をしてくれてる。だから前線にいる我々は―攻撃あるのみ。全滅させるか、主犯の伊勢美雪を拘束すれば良し!」
「「「御意!!!」」」
よしよし、と言いたいところだが。大きな問題が1つあるんだよなぁ。
「結衣さんらの協力を得て、異戦雪原側の異能はほぼほぼ発覚した。だが、詳細が分からない異能者が1人だけいたんだ」
大半の異能者の詳細が分かれば、こちらもそれに対応した異能者を集められる。だからこそ情報収集を急かせたのだし、持っている情報の総てを総動員させた。だが、それでも不明な点はあったんだよね。
それこそが、
「今回の一連の騒動の主犯、伊勢美雪だ」
恐らく切り札と言うのは、美雪自身。それも美雪が有している異能だろう。
「だが、諸君は相手が1人だとしても。それが要警戒に価するモノだとは分かっているハズだよ?」
稀有な異能というのは、本家筋......所謂、万能と呼ばれる異能ばかりでなく。ただの異能者にも当てはまるのだ。多様な局面に対応出来る、奇跡の力―それが本来の意味での、異能だ。だから焔を起こす、水を出すなんてものはその一面に過ぎない。
「それを用いて、異戦雪原も必死の抵抗をしてくるだろう。だから我々も、それに対抗する。渾身の力で、だ」
でも、と彼らを見据えて俺は続ける。
「何より自己と仲間の命を第一としろ。誰一人欠ける事のないように!」
「「「我々『鷹宮』一同、仰せのままに!!!」」」
叫ぶ彼らの言をしかと聞き止めてから、俺は1つの命を下す。
「よし、作戦決行だ!」
それを聞くと共に、今まで整然と並んでいた処理班の面々が動き出した。
―直後。
「......さぁ。お話はお終いかしら?」
その一言で、俺たちの動きは止められた。止められてしまった。
「随分とベタな登場の仕方だねぇ、伊勢美雪」
こちらに降り掛かってくるその声に、俺は微笑で返した。
動き出そうとしていた処理班の背後にある1つの倉庫。その屋根に見えるはあの時と変わらない服装を身にまとい、茶髪で小柄......そして怠そうな雰囲気を醸し出している、伊勢美雪だった。そんな彼女は足元の処理班を睥睨し、口元を僅かに歪める。
彼女の登場を合図としていたのか、グラウンド周辺―路地や建物の陰から飛び出してきた異戦雪原、その戦科部隊。彼らは銃すら持っていないものの、それは軍人を彷彿とさせる佇まいだった。闇に溶け込むための迷彩柄のコート。ガタイの良い体格。まさに武を担う戦科部隊と言って良いだろう。
そんな異戦雪原に囲まれているという中々に洒落にならないこの状況。鷹宮には緊張感漂う中、俺は微笑でこう問いかけた。
「美雪、考え直すつもりは無いか?今なら移動費くらい出してあげるが」
「別に構わないわ。アタシたちは、目的を果たすだけ」
―なるほど。引くつもりはさらさらない、と。それなら我々の意は1つ。異戦雪原に......付き合ってやろうか。
「......行け」
「......行きなさい」
~Prease to the next time!
部下から告げられたその言葉に、俺も―職員らも皆、息を呑んだ。部屋中に不安が募る中、俺は1つの指示を出す。
「......引き続き精査の方を任せた。俺は部屋に居るから、何かあったら随時連絡して。結衣さんに彩、お嬢様。行くよ」
「長、何をされるつもりで?」
「上層部がすべき事は限られる。指揮、交渉。そして―」
―作戦立案会議、だ。
*
「......妙だなー」
「何が?」
場所は打って変わって長の部屋。そこに俺とお嬢様。そしてリサと、彩に結衣さんも集めて―作戦会議という名の話し合い。
「彩乃ちゃん、異戦雪原の性質って覚えてるかしら?」
「っとー。『武闘派』でしょ?志津二が見てた書類に書いてあった」
そう。組織的な活動は同じとしても、鷹宮と異戦雪原とでは大きな違いがある。それが『武闘派』か否かだ。
「例えば、美雪率いる第4戦科部隊。あれは鷹宮で言えば『処理班』に当たるんだ」
異戦雪原は組む隊の7割が攻勢異能者で構成されていて、さらに攻撃においては秀でた才能を有している。つまり、
「ウチの処理班1000人を相手にしても、異戦雪原の戦科部隊400人には―負ける可能性が大いにある。こちらが圧倒的人数有利とは言え、あちらは武を担う戦科部隊だからね」
それにしても、と別に思考を切り替える。それはどうやったらあんな不確かな情報1つでここまでの人員を動員出来るのか、だ。アイツらはバカなのかと。
......誰が流したかも分からない不確か過ぎる情報。そして、美雪たちは―それが存在すると思っている。交渉の時のあの自信満々な態度からも、それは明らかだ。正直言って疑問は尽きないが、美雪が行動を起こしている以上。今はそれに対応するのが賢明か。
「あれだけ自信満々に宣戦布告してきたんだから、『武闘派の異能者を揃えました。これなら負けません。まる』で終わるような事じゃないだろう」
「そうね。罠を仕掛けるだけの頭があるんだから、正攻法で負ける可能性くらい考えてるでしょ。それに切り札とかありそうだし」
はぁー......と頭を抱える俺と結衣さん。
そこにメイドカチューシャを整えながらのリサが、
「あの、ご主人様。鷹宮なら空爆とか火器類の使用は可能なのでは?」
まだ鷹宮の詳しい規制は分かっていないため、これどうかなぁ?的な顔で聞いてきた。ごめん、それは無理だ。
「それはダメだってさ。民間の苦情や政府とかから怒られるから―って書類に書いてあったもん」
「逆に怒られなければ良いんですか......!?」
まぁ、空爆というのも切り札にはなるだろうね。やらないけど。っていうか、戦闘機どこにしまってあったっけ......。山をくり抜いた中だっけ。
建物内部でガン待ちしようものならこちらが地形的に有利だが―そもそも敵を中に入れる事が間違いか。
「数は劣るが、戦闘力は向こうが上......。そして何か切り札がありそうで怖い、って事ですか。詰んでません?」
「......いや、本当の意味では詰んでない、かな」
あと一手。切り札に対応出来る切り札が必要なんだよねー。あちらがどれほどなレベルなのかが推定出来ないと、それもしようがないし。
「......あ」
小さく呟く声の方向に頭を上がれば、そこにはソファーに座っている和服のロリ。さっきから黙っていたが、まさか―
「長。作戦、出来た......よ」
「「「「......え?」」」」
―そのまさかだった。
「よし、言ってみて。検討するから」
「......分かった」
そう言って彩が語り出した作戦は、異戦雪原を欺くのにとても効果的なモノであり―実に、切り札とも言えるモノだった。
*
『―長。隠蔽班、配置完了です』
「ご苦労さま。それじゃ、作戦通りに頼むよ」
ヘッドセットから聞こえる声に軽く返事を返しつつ、俺は後ろへと振り返る。そこに見えるは鷹宮『処理班』の黒服たち。
「さて、諸君。最後の確認といこうか」
淡い月明かりに照らされた、本部から僅かばかり離れた―とある廃校のグラウンド。その広大な敷地には、校舎はもちろん。古びた倉庫なども少なからず点在している。
彼らの視線が向かう先―その対象である俺は、確認の前に忠告をしておく。
「分かってると思うけど。まずね......俺を戦力扱いしない事。今回は指揮官という立場故、だから」
「「「それは保証しかねます!!!」」」
「良い返事だねー、アンタら。全員解雇するよ?」
「「「申し訳ございません!!!」」」
いやー、我がクラスばりの団結力。
冗談を交えつつ話す彼らだが、この『長』という存在は......表に出ない、秘された存在であるという事を分かってる―ハズだ。うん。大丈夫。
本来なら居なくても可笑しくないとされる、長。それが表舞台に立つとは、ね。我ながら危ない橋を渡ってるよ。
―お嬢様の時は仕方なく。交渉の時は伊勢美雪に指名されたから。そして今回は、彼女の意志に報いるため。数限りない不安はあるが......。
「そんなもの、後にはどうとでもなる」
と、隣に居るお嬢様に聞こえないように呟いた。
「今回も、隠蔽班が後方支援をしてくれてる。だから前線にいる我々は―攻撃あるのみ。全滅させるか、主犯の伊勢美雪を拘束すれば良し!」
「「「御意!!!」」」
よしよし、と言いたいところだが。大きな問題が1つあるんだよなぁ。
「結衣さんらの協力を得て、異戦雪原側の異能はほぼほぼ発覚した。だが、詳細が分からない異能者が1人だけいたんだ」
大半の異能者の詳細が分かれば、こちらもそれに対応した異能者を集められる。だからこそ情報収集を急かせたのだし、持っている情報の総てを総動員させた。だが、それでも不明な点はあったんだよね。
それこそが、
「今回の一連の騒動の主犯、伊勢美雪だ」
恐らく切り札と言うのは、美雪自身。それも美雪が有している異能だろう。
「だが、諸君は相手が1人だとしても。それが要警戒に価するモノだとは分かっているハズだよ?」
稀有な異能というのは、本家筋......所謂、万能と呼ばれる異能ばかりでなく。ただの異能者にも当てはまるのだ。多様な局面に対応出来る、奇跡の力―それが本来の意味での、異能だ。だから焔を起こす、水を出すなんてものはその一面に過ぎない。
「それを用いて、異戦雪原も必死の抵抗をしてくるだろう。だから我々も、それに対抗する。渾身の力で、だ」
でも、と彼らを見据えて俺は続ける。
「何より自己と仲間の命を第一としろ。誰一人欠ける事のないように!」
「「「我々『鷹宮』一同、仰せのままに!!!」」」
叫ぶ彼らの言をしかと聞き止めてから、俺は1つの命を下す。
「よし、作戦決行だ!」
それを聞くと共に、今まで整然と並んでいた処理班の面々が動き出した。
―直後。
「......さぁ。お話はお終いかしら?」
その一言で、俺たちの動きは止められた。止められてしまった。
「随分とベタな登場の仕方だねぇ、伊勢美雪」
こちらに降り掛かってくるその声に、俺は微笑で返した。
動き出そうとしていた処理班の背後にある1つの倉庫。その屋根に見えるはあの時と変わらない服装を身にまとい、茶髪で小柄......そして怠そうな雰囲気を醸し出している、伊勢美雪だった。そんな彼女は足元の処理班を睥睨し、口元を僅かに歪める。
彼女の登場を合図としていたのか、グラウンド周辺―路地や建物の陰から飛び出してきた異戦雪原、その戦科部隊。彼らは銃すら持っていないものの、それは軍人を彷彿とさせる佇まいだった。闇に溶け込むための迷彩柄のコート。ガタイの良い体格。まさに武を担う戦科部隊と言って良いだろう。
そんな異戦雪原に囲まれているという中々に洒落にならないこの状況。鷹宮には緊張感漂う中、俺は微笑でこう問いかけた。
「美雪、考え直すつもりは無いか?今なら移動費くらい出してあげるが」
「別に構わないわ。アタシたちは、目的を果たすだけ」
―なるほど。引くつもりはさらさらない、と。それなら我々の意は1つ。異戦雪原に......付き合ってやろうか。
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