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1章 転生早々、やらかしも

1-9 それだけ時間あれば、噂は走り抜けていく

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SIDEバルス王国:国王バルスング

「…ふむ、妖精の噂か」
「ええ、そうですわあなた。なんでも、辺境のアルモストタウンでは今、妖精の冒険者の話がでているそうですわ」

 アルモストタウンが属している国、バルス王国。
 その王国の王都にそびえたつ城内で、国王バルスングは正妃のドルアと共に夕食をとっている中、妃がある話題を出した。

 それは、この国の辺境の地にて、妖精が目撃されたどころか、冒険者として活動しているという話。
 おとぎ話の住人のような、もう長いこと人の前に姿を荒らさすことがなかった妖精は、とっくの昔に絶滅したか、あるいは先人の作り上げた空想の生き物かと思われていたのだが、どうやら実在したらしい。
 辺境の地にいるがゆえにその話が伝わるまでは時間がかかったが、それでも人の口に戸は立てられぬというように話はどんどん広まっており、この王都内でも、城内でも噂が出てくるようになっていた。


「長い間、人の姿に現れなかった妖精が、今になって出てくるとは…真偽が気になるところだが、ここまで届くとなれば本当にいるのだろうな」
「ええ、そのようなのよねぇ。なんでも小さな少年のような姿で、綺麗な羽を持ってて、ほのかに光ったり強く光ったりと、輝いているそうなのよ」

 それでいて妖精魔法という人間が扱う魔法とは理が違うようなものも使いつつ、その知能も人並みにあるようで、よく人と交わって楽しんでいるらしい。
 それはまるで、妖精は祭り好きで人の前に姿を見せていた時はよく一緒に遊んでいたとほとんどのおとぎ話にあるような光景に近いようだ。

「ねぇ、あなた。それで一つお願いがあるのだけれども…一緒に見にいかないかしら?子供たちも今は学園で学んでいるから、ちょっとだけ夫婦水入らずで楽しみたいわ」
「辺境の地へ、妖精を見るためにか…悪くはないな。だが、仕事はまだあるから…そうだな、一週間後に、魔馬を使って、辺境視察の名目で日帰り旅行の一環で向かうか」

 普通に王都から辺境まで向かうと、そこそこの時間がかかってしまうし、王族という立場上、長期的に出かけるのも厳しいものがある。
 そこで、ものすごく早く移動できる手段を有しており、活用することにしたのである。

…私的利用は批判を浴びそうだが、この国王夫妻は仲睦まじい姿や、悪政をしいておらず、そこそこ善政を行っているので、ちょっとしたお出かけになるのであれば国民も多少は目をつぶる。

 まぁ、その代償というべきか大問題児がいたりするのだが…それはそれで、どうにかなるようにしたいと動いており、その心労を思ってくれる人は多いだろう。


 とにもかくにも、ちょっとした日帰り旅行を計画するためにも、仕事をできるだけ貯めないように終わらせられるものを明日から勢いよく成し遂げようと国王は決意する。
 その光景にその場にいたほかの城内の者たちは、自分たちの使える主がたまにはゆっくりと骨休めができるように、協力して手助けしようと思っていた。


「ところであなた、子供たちは学園にいるといっても、留守中にやらかされないか不安なところもあるわよね」
「そこは問題ない様に、大臣たちや影の者たちと話し合い、どうにかしておくとしよう。どうせならば、子供たちの情操教育かあるいは強者という噂もあるから伸びすぎた鼻をへし折るために連れて行きたかったが…無理強いはできないか」
「でも、たしかあの子だったら興味が引かれて、私たちよりも早く動きそうよねぇ。そう考えると…」

「ご報告します!!陛下!!」
「おや、どうしたのだね、ナナンナナ大臣」

 ふと、国王夫妻が子供たちの中である子供が行動に移しそうだなと思っていると、突然大臣の一人が室内へ飛び込んできた。

「たった今、話に上がっていたようですが、その方がたった今、王城内の魔馬に乗って逃走いたしました!!どうやら陛下たちが耳にするよりも早く、聞かれていたようです!!」
「ほぅ…ふーむ、予想をしやすいが、こうも予想通り過ぎると素直なのも困りものだと思うな」
「あらあらまぁ、あの子が?ふふふふ、まだまともなほうだけど、こういう興味が引かれるところに対して行動をすぐに起こしちゃうのは、昔の私そっくりねぇ」


 ナナンナナ大臣の言葉に対して、話題に上ろうとしていた子供のことだったので、あまりにも早い予想の的中に思わず苦笑してしまう国王夫妻。
 問題児は何人かいるが、それでもその子供は多少まともな方とはいえ…こうも素早く行動に移すとは、自分たちの子ながらも素早い身のこなし様に感嘆の思いも抱いてしまう。

「昔のか…行動の早さは確かにそっくりかもしれぬな。婚約破棄をやらかしそうになった瞬間に、魅了の魔法を解くためとはいえ全力でぶん殴った思い切りの良さを思い出したよ…おおぅ、今でも震えが止まらん」
「ふふふふ…」

 まぁ、あの子はあの子で性根としてはまともな方なので、そこまでひどくやることもないだろう。
 それでも一応、勝手に行動を起こされると問題になる可能性もある。

 だが、王族の立場上すぐに行動に移すのは難しいため、先に自分たちの手のものである影の者たちを向かわせて、何かをしでかされないように、自分たちが向かえるようになるまで見張らせることにするのであった。


「あの時の殴りですか…あれは、我々も覚えております。おぞましき悪女にたぶらかされそうになったのを、王妃様は全力で…ううう、あの時のボディブローの傷が…」
「自分はアイアンクローでひびが入った記憶が…」
「…昔の話はやめておくとしよう」

「あらあら、そうだったかしらねぇ」

…過去を思い出した大臣と国王の震えに対して、王妃はにこやかにほほ笑みながらそう口にするのであった。
 仲良き国王夫妻だが、家庭内ヒエラルキーで見れば、いや、城内での立場で見れ、、実は頂点に立っていることを、当時のことを覚えている者たちしか知らない話だったりする…
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