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2年目の夏の章

閑話 その頃のとあるモンスター

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―――――エルモアの家では、タキが酒を飲んで酔っ払っていた。

「ひっく、召喚主殿すっかりこれをわしゅれているのじゃよ~、我を忘れているのじゃよ~~~」
「大丈夫かな……いや、ダメだなこれは」

 着物が崩れまくって、ろれつが回っていないほど酔っぱらっている滝に対して、エルモアは額を抑えた。



 事の起こりは数時間前、帝国にそろそろルースたちが到着した頃合いである。

 召喚魔法でタキを利用して宿題の輸送の話があったのだが、どうやら忘れられているか、まだついていないらしいと判断し、タキは暇であった。


 そこで、何か適当に飲み食いをしようとしたところ…‥‥すっころび、夜の方にでも取っておこうと思って手に持っていた酒をタキが頭からかぶってしまったのだ。

 しかも、よりによって魔族のドワーフと呼ばれる者たちや、鬼と呼ばれる者たちでさえも酔っぱらってしまうと言われるものだった。


 本来であれば、タキにとっては強すぎる酒であるので、適切に飲むためにはかなり水で薄めて飲むのである。

 それを原液そのままで摂取したので、タキは現在とんでもない酔っ払いと化していたのであった。

…‥‥帰宅したエルモアが見たときには、ぐだぐだっとしているタキの姿であり、変な酒癖でも出されると困るので気絶させようとしたが、どれもこれもよけられ、疲れたのであった。


「ひっぅっくくうぅぅ…‥なぜ召喚主殿はまじゃ我をよんでくれないのじゃあぁぁぁ‥‥」
「泣き上戸になったな」

 酒を抱え、涙を流すタキに呆れたような声で呟きながら観察するエルモア。

 気絶させるのはあきらめ、この際酒による醜態記録でも取ろうと考えたのである。


「我が、我こそが召喚主殿を一番にかんがえてこぉぉぉぉん」
「‥‥‥待てよ?」

 と、泣き叫ぶタキを見ながら、ふとエルモアはあることを思いついた。

 酒に酔って感情のままに話しているようだが、今ならどんな質問でも答えそうだと思ったのである。


 酒を飲んでグダグダしている今こそチャンスであり、普段聞けないような事を吐かせようと、考え付いたのであった。


「なぁタキよ」
「のじゃっつ?」
「生徒の・・・・・ルース、お前の召喚主に執着しているようだけど、なんでそこまで執着しているんだ?」

 国滅ぼしのモンスターであり、権力者などの勧誘には答えず、邪魔すれば徹底的に潰していたタキ。

 そんな彼女は現在、ルースによって召喚される立場となっているのだが、やけにおとなしく従っているなと、エルモアは少し疑問を抱いていたのだ。

「んー、それは簡単じゃ。我が召喚主殿に惚れたからじゃ!」

 泣き上戸から一転し、笑い上戸へタキが切り替わった。

 そして、その答えにエルモアは目を丸くした。

(……はっきりし過ぎじゃないかな?)

 まさかこうも堂々と答えるとは思っていなかったのである。


 そんな驚愕がありつつも、タキは酒の勢いで話し始めた。

「そうじゃなぁ、我は元々孤独で生きておったが、強さゆえに、そんなに対等にできる相手はおらんかったのじゃよ」
「火竜とかいるのにか?」
「あやつとかは喧嘩相手で、対等とはいえスッキリはせん。それに、我を見る者はだれも力のみとかで、まったく我自身を見る様な輩はいなかったのじゃよ~。まぁ、エルモア、お主の場合は孤独と言う部分で似ておったから友人じゃったがな」

 だがしかし、そんなときに転機が訪れたのだと、タキは話す。

「召喚魔法をうけ、我はよばれてその地に出たのじゃ。当時、怖い怖い恐怖の小娘も傍に追ったが、それを気にせずに、今の召喚主殿は我をもふもふっとしたのじゃよ。力に関しては見ずに、モフモフを求めて、その手腕で天国を見たのじゃ・・・・・」

 それからも数度召喚されて、そのたびに移動手段だったり、怪物退治をやむを得ず共にすることなどもあった。

「じゃがしかし、召喚主殿は何度召喚しても、我の力ではなく、我自身を見ていると感じたのじゃよ。国滅ぼしのモンスターと知っても、態度は特に変わらず、モフモフを求めてゆえに我を触る。けれども、きちんと我自身を見ているその目は、我を惚れさせるのには十分じゃった」

 満足げに尻尾を振って、タキはグイッと追加の酒を飲んだ。

「それに、召喚主殿といると我は楽しいのじゃよ!それに心も暖かくなるし、これぞ運命であり。我の女としての部分が、この召喚主殿を伴侶としてもいいと告げるのじゃよ!ゆえに、我は召喚主殿に呼び出され、求められたいとおもうのじゃへぇよぉぉぉ……」

 腕を突き上げた後、タキは急に脱力し、そのまま倒れた。

……酒に潰れたようで、ようやく寝たようである。


 
 すやすやと眠るタキに毛布をかけつつ、エルモアは納得した。

 なぜタキが、たった一人の人間に対してこれほどまでに使役され、従うのか理解できたのである。

「‥‥‥なるほど、興味深いというか、面白いな」

 にやりと笑いつつ、エルモアはその記録をしっかりとっておくのであった。




 翌日、酒を飲んで何をやらかしたのかばっちり覚えていたタキは、エルモアにその記録をルースに見せないように懇願するのであった。

「やめてほしいのじゃ!!それを見せられたら我確実に悶絶死なのじゃよ!!」
「どうしようかなー?酒を勝手に飲んで、暴れて、寝て、の同居人にはなー」
「なんか根に持っておるのかのぅ!?」
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